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4. ガルシア

目を覚ますといつもの天井で変な夢を見たと大きな欠伸を溢してから身体を起こし朝の準備を済ませる。


「お父さん。おはよう。」


「おはよう、ナタリィ。昨日はよく眠れたか?」


「うん!今日は配達しなくてよかったの?」


「昨日のことがあるから今日は臨時休業さ。アントニオが運んできてくれたけど、お城で何かあったのかな?」


「お城…え、あれ夢じゃなかったの!?」


「夢?」


「ううん、何でもない。アントニオにお礼しないと。」


朝食を済ませてから家を出ると金色の髪が一瞬視界に入った気がしたが、見なかったことにしよう。

隣りの魔石屋へ向かうべく歩き出したはずだったが、腕を掴まれ動きを遮られた。


「…何か御用ですか?」


「王子の僕を無視すると後が怖いぞ?」


「城下町に殿下お一人が来られるとは思ってもみなかったので見間違いかと。」


「お忍びってやつだな。で、そこに引っ付いているこれは何だ?」


指し示された足元にはいつの間にか引っ付いていたウルフラムの姿がある。

スカートをギュッと両手で握りながら今にも襲いかかりそうなほどの強い威嚇を彼に向けていた。


「ウルフラム、どうしたの?」


「君は獣まで飼っているのか。」


「獣?」


「オブシディアンの魔石は君の…。」


「そうだよ。ナタリィは僕のだ。」


「アントニオといい君といい、理解できないな。」


「理解してもらおうなんて思ってない。それより、お前何しに来た。ナタリィに興味ないなら近付くな。」


「ちょ、ウルフラム!一応あれ王子様だよ?」


「一応は余計だな。」


「知ってる。でも別に関係ないよ。僕、魔力量多いもん。」


不愉快そうな表情をしているが、ウルフラムの態度を咎めることがないということはそうなのだろう。

この世界は魔力量によって存在価値が決まり、そこに王家や爵位は関係ないのだ。

魔力量さえ高ければ平民が上になることもあり得る。

といってもそれは仮の話で乙女ゲーム内ではそんな描写はなかったと思うが、深いところには色々と設定があったのだろうか。


「だが、気に入らないな。君のような魔力量皆無の者がなぜアントニオや彼に敬語を使っていないのだ?」


「な、なんでだろう。」


「…俺が望まないから。」


「アントニオ?」


「…おはよう、ナタリィ。」


「あ、おはよう。」


「…こんなところに出向くなんて相当暇だな。」


「暇なわけ無いだろ。礼の件、まだしていないから仕方なく!」


「…それならわざわざ殿下が来る必要はない。帰れ。」


「そーだそーだ!帰れ帰れ!」


「っ僕は王子だぞ!もう少し敬意を…。」


「…ナタリィに手を出したの忘れたか。」


「ナタリィに何したの!?」


「ちょっと味見しただけだ。僕にされたのだから喜んで貰いたいく…。」


「お前許さないからな!」


急激に膨れ上がる力はウルフラムから溢れ出し、呼応するように左耳のピアスが小刻みに震えてるのを感じる。

地面が激しく揺れ、町中の人々が地震だと騒ぎ始めていた。


「アントニオ、これは一体。」


「…父さん、ウルフラムが怒ったみたい。」


「他人事みたいに言ってるけど、この地震はアントニオの魔力も混ざっているよ。」


「…知らない。」


ガルシアから視線を背け、彼女の近くへ行けば困ったような表情が見える。

どうすればよいのだろうと言いたげな表情をしながら視線を向ければ、彼は安心させるように笑みを浮かべた。


魔力制限(リミット)。」


その言葉と同時に地震が収まりウルフラムが纏っていた力も一瞬にして消えていってしまう。

ゲーム内での設定上、王子の魔力量は相当高かったはず。

ということはアントニオはもちろんウルフラムの魔力量も相当高いということになるはずだが、そんな彼らから一瞬にして魔力を奪うことができるガルシアとは一体…。


「皆、こんなところで魔法を使ってはいけないよ。試合なら学園の闘技場を使わないとね。」


「ナタリィ、どこ味見されたの?」


「え、味見?」


「…浄化魔法は使った。」


「浄化魔法って僕が汚いみたいじゃないか。」


「…汚い。」


「一回じゃ足りないよ!僕も浄化魔法かける!」


「君達は本当に失礼なやつだな!」


怒りを露わにしているフランシスと無視を決め込むアントニオ。

ウルフラムはスカートに顔を埋めたまま見向きもしていない。

そんな姿を見ていたら何だか可笑しくなってきた。

意外と彼らは仲良しなのかもしれないとそんなことを思いながらやり取りを眺めているとガルシアがこちらに近付いてくる。


「ナタリィちゃんはどう思う?」


「どうとは?」


「殿下は勿論、アントニオとウルフラムの魔力量はこの国でも上位の存在なんだ。今はまだ子供だけど…成長すれば国で1、2を争う程になるんじゃないかな。」


「そうですか。」


「興味ない?」


「殿下のことは確かに興味ないですけど。アントニオやウルフラムは魔力量がどうとか関係なく友達ですからね。そもそもそこが大事なら私みたいな魔力量の存在と一緒にいる意味ないですし。」


「もし二人がそう思うようになったら?」


「その時はきっぱりお別れします。魔力量=存在価値というのは理解していますから、致し方ないことかなと。」


「じゃあ逆に二人が離れたがらなくても離れなくてはいけなくなったらどうする?」


「すぐに離れます。」


「即答…か。」


「自分の存在価値は弁えているつもりですよ。」


「そうなったら怖いなぁ。今回みたいに止められないだろうし、どうなってしまうんだろうね。」


「意外と平気だと思います。これから先、学園でも色んな方々と出会うんですから。」


「…ナタリィちゃん、もう少し自覚しようか。」


例え話や煮え切らない言葉に何が言いたいのだろうと考えては見るが、まだ全てを話すつもりはないようで小さく溜め息をこぼすのだった。

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