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3. 王子

あれから彼らの一触即発の雰囲気のまま流れる時間は長かったと思い出しながら大きな溜息を零した。

犬猿の仲とはあの二人のことを指すのだろう。

そんなことを考えながら左耳につけられたピアスに触れてみる。

子供がピアスなんてと少し躊躇してしまうが、この世界は生まれてすぐに開けられるのが仕来りのようだ。

それにしても何故魔石を渡すことにこだわるのだろうか。

両親にそのことについて聞いてみたが、はぐらかされるばかりで結局分からなかった。

町には魔石で出来たアクセサリーをたくさん付けている綺麗な女性も見かけるため、プレゼントとして渡すのが主流なのかもしれない。

それなら理解できる。

あれくらいの年頃の子供は大人の真似事をしたくなるものだ。

たまたまその対象が私になったということだろう。

自室から見える町の景色を眺めながら小さく欠伸を零したのと同時にガチャガチャと金属の擦れる音が聞こえ、騒がしくなっていく。

気になって窓から覗き込むと玄関の前に立つ王国騎士の列に何が起きているのだと視線を彷徨わせる。


「この絵の子供はお前達の娘だな。」


「…確かにそうですが、うちの娘に何か?王国騎士の方々に御迷惑をお掛けするような子供では決してありません。」


威圧感を放つ彼らを前に父の震える声が聞こえてきた。

この騒ぎの原因は私にあるらしい。

騎士の中には剣の鞘に手を当てる者もいるのが見え、すぐに階段を駆け下りていく。


「お父さん、お母さん!」


「ナタリィ、家にいなさい。」


「やはり君だ。」


兜を被っていることで顔の見えない一人がそう言うと前に進んできた。

怖いと思ってしまうのは仕方がないだろう。


「怖がらせてしまったね。私を覚えているだろうか?」


兜を取ると見覚えのある男性にあ、と思わず声が出てしまった。


「覚えててくれたね。君が届けてくれたあれは殿下が失くされた大切なものだったんだ。是非、お礼をと君を探していたんだよ。」


「お礼なんて…たまたま通りがかりに見つけただけですから必要ないです。」


「それでは私が困るんだ。殿下の命令は王命と同じ。君に拒否権は無いさ。」


そう言われるがまま連れられたのは町の遠くに見えていた大きな城で、キラキラと光り輝く室内と精巧な作りの調度品の数々に目を奪われる。

向けられる視線は身分不相応な存在が城を歩くことに不満を感じているからだとすぐに理解できるもので、私が歩いた後をわざとらしく掃除し始めた。

そこまで汚くないと文句が出そうになるが、こんなところで争いを起こすほど子供ではない。

そんなことよりこの国の王子といえば乙女ゲームに出てきたフランシスのことだろうか。

まさかこの目で見られるとは思っていなかったが、性格に難がある存在と認識していたため攻略対象とはいえあまり興味を持っていなかったりする。

だが、パン屋の娘である私が金輪際会うこともない相手に少し緊張しながら大きな扉の前に立った。

使用人の女性がノックをすると幼いながらも凛とした声で中へと促してくる。


「失礼いたします。フランシス殿下、ナタリィ様をお連れいたしました。」


扉が開かれると中央にふわふわとした金色の髪に青い瞳の少年が立ってるのが見え、あまりの綺麗さに顔に熱が集まるのを感じた。

とりあえず、ここに来る前に教えられたカーテシーなるものをして視線を逸らせば少し落ち着くことができる。

流石は攻略対象だ。

興味がなかったとはいえ、子供のくせにイケメン過ぎるだろうと心の中で文句を言いながら視線を元に戻す。


「君達は下がっていろ。」


「かしこまりました。」


直ぐに居なくなった使用人の女性に行かないでくれと言いたかったが、時すでに遅しで、無言のまま上から下まで視線を動かすその姿は正直居た堪れない。


「…あの。」


「あぁ、すまない。ここまで平凡な女性を見るのは初めてだったからな。君がケラウノスを見つけてくれたとか。」


「ケラウノス?あの金のネックレスのことですか?」


「あれは僕の魔石だ。」


「そうだったんですね。」


「なるほど、君には金のネックレスにしか思えないのか。魔力量もほぼ皆無ということだな。それなのになぜトライデントとオブシディアンの魔石を持っている?宝の持ち腐れだろう。」


確かにその通りだが、お礼をしたいと呼ばれたはずなのに初対面でこんな話をする彼に設定通りの性格だとため息がでる。

王子という雲の上の存在ゆえに不遜な態度を取るわけにも行かない為余計に厄介だ。


「これは人から貰ったもので…。」


「だろうな。」


「こんな話をするためにわざわざお城に呼ばれたのですか?」


「いや、礼をするためだ。何が欲しい?金か?領地か?宝石か?それとも着飾るドレスか?何でも言え。ケラウノスはそれを渡すほど価値のあるものだ。」


「家に帰りたいです。」


「これを届けたのは礼を期待していたのだろう。僕は王子だ。平民の良い行い無下にするわけには…。」


「さきほど殿下が言われたように私から見ればそれはただのネックレスです。ですからお礼なんて一切期待していませんよ。」


「…なら今考えろ。」


いきなり怖い表情に豹変した彼はこちらに歩み寄ってくると腕を掴まれ扉に押さえつけられた。

不遜な態度をしたつもりはないが、お礼を断っただけでそこまで怒ることか。

強く握られた腕が痛む。


「…っ離して下さい。」


「今の顔は微かに可愛げがあるな。」


何言ってんだ、こいつ。

まだ子供なのに実は変態なのか。

気持ち悪いものでも見るような目で見るとそれすらも楽しげにしており、ぺろりと自らの唇を舐める。


「キスでも期待しているのか?それを欲しているならしてやってもいいぞ。」


「…ナタリィから離れろ。」


「誰かと思ったらアントニオじゃないか。トライデントはやはり君の魔石か。これのどこがいいんだ?」


腕を掴まれたまま目の前に移動させられ、首筋にザラリとした感触。

フランシスに舐められたのだと理解するのに数秒掛かったが、それと同時に彼は吹き飛ばされていった。

王子にこんなことしていいのかとか、どうして王子と知り合いなのかとか聞きたいことはたくさんあったが、腕を引っ張られるまま胸の中に閉じ込められたため、言葉が引っ込んでしまう。

扉に叩きつけられたフランシスだが特に問題はないようで楽しげに笑みを浮かべながら起き上がり、その身体にはアントニオと同じように強い力を纏っている。

金色に輝くそれはケラウノスの魔石から流れているようだ。


「あははははは。僕は平凡な女性に興味ないよ。安心するといい。君の魔石が見えたから少し遊びたくなっただけだ。」


「…遊びたくなった、だ?」


「君が来ることを見越して人払いもしてある。僕が勝ったら彼女には…。」


「ストーーーップ!」


「何?」


「正直二人が今から何をしようとしてるかも理解できてないけど、私を帰してからにしてくれないかな。」


「…ん、帰ろう。」


「はあ?ふざけるなよ!僕は!」


遠くなっていく声に微睡んでいく意識。

眠気の波に抗うことなくそのまま意識を深く沈めていくのだった。

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