23. 共有と魔石
あれから壊れた城はアントニオによって瞬時に直され、今は何故か皆で食事をしている。
この5人が集まって和やかな雰囲気なるはずもなく、食事する音だけがやけに鳴り響いた。
「皆で食べる食事は美味しいね。」
ガルシアのその言葉に苦笑しながら食事を終えるとトルシェから無理はするなと部屋に促され、自室になっている客間に戻っていく。
といってもまだ眠気はないため、ソファーに腰掛け今までの出来事でも整理しようと考えていたが、動いたら触れそうなほど近い位置で静止している彼にその思考は遮られた。
「俺はキスしてもらってないんだが?」
「え?」
「してくれないのか。」
「トルシェ様は私をお嫌いでは…っ。」
嫌いという言葉に敏感に反応したトルシェは奪い取るように少し荒々しいキスをする。
まさか本気だったのかと驚きはしたものの、減るものではないし、それで機嫌が改善されるならと納得することにした。
「何故俺が嫌っていると思ったんだ?」
「それは…。」
彼の質問はもっとも過ぎて言葉に詰まってしまう。
トルシェが誰とも心を通わせるはずないと思っているのは、転生前にバッドエンドばかりを迎えていた記憶からだ。
しかし、そんな理由を話すわけにはいかない。
さてどうするか。
必死に思案していると笑い声が聞こえてきた。
「俺の態度が良くなかったからだろう?それを指摘されたくらいで怒ったりしないさ。俺も驚いているくらいだからな。」
「驚く?」
「こっちの俺は母上以外に見せたことがなかったんだ。何でだろうな。」
「…。」
「そうか…初めて手放したくないと思ったからか。いつもの姿だとナタリィを奪われるだけの存在だ。もう二度と、俺の手から何も奪わせたりしない。」
「トルシェ様…。」
彼のその言葉はきっと亡くなった母を思い出しているのだろう。
もしかしたら私と雰囲気が似ているのかもしれない。
そんな事を考えながら彼の様子を伺っていると今回の出来事についてガルシアに怒られたアントニオ、ウルフラム、フランシスがテレンスに励まされながら部屋に入ってきた。
彼らの視線はこちらに向けられるのと同時に鋭さを帯び、アントニオによって腕を惹かれるまま胸の中へと閉じ込められる。
「…ナタリィ、大丈夫…?アレに変なことされなかった…?」
「トルシェ様のこと?」
「…うん。」
「何もされてないよ。ガルシアさんとのお話はもう終わったの?」
「…小言聞いた。それより、これ…。」
「魔石?」
「…俺のトライデント。今度は誰にも外させない。ナタリィ自身にも…ね。」
瞳に闇を映す彼に少し怖くなって名を呼んでみると無表情のまま魔石の付いたネックレスを掛けられた。
幼い頃から付けていたそれは違和感なく治まっているが、アントニオは大丈夫だろうか。
暗く深い闇を纏っているようにしか見えない。
「僕のも付けてくれるよね。」
「俺のも付けるでしょ。」
左右の耳につけられたオブシディアンとサファイアの魔石に少し戸惑いながらも彼らも同じように闇を纏う姿に拒否することはできなかった。
ヤンデレなんて言葉があるが、そんなもの生温いと思ってしまうほど怖い雰囲気を纏っている。
「俺のは利き手に付けてもらうか。」
トルシェの言葉とともに右腕に現れたのは二叉の槍が付いたバンクルで、継目のないそれは外さないこと前提の小ささだ。
「…僕のも付けてくれるか…?」
「え?殿下はクレア様を…。」
「…フランシスだ。彼女に恋愛感情を抱いたことは一度もない。」
目を伏せてそう言うと、割れ物にでも触れるような手付きで左腕を取られ、ケラウノスの魔石の付いたバンクルが現れた。
これはどういうことだろうか。
ゲーム内でヒロインの恋愛対象となる彼は名前すら出演しない存在である私に魔石を渡すなんて想像もしなかった。
思い返してみても彼に優しくした記憶はなく、嫌われている自信はある。
それが何故だろう。
彼等と何かあったのか。
勢いをなくしたままのフランシスは何だか変な感じだ。
「…ふふ。」
「…ナタリィ?」
「ごめんなさい。しおらしいフランシス様なんて、何だか可笑しかったのでつい。」
「…失礼だな。僕も…反省くらいするさ。」
「何に対して反省しているんですか?」
「…君をもっと早くに手に入れておけば良かった。5番目というのが気に入らない。」
「そうですか?僕は何番目であっても問題ありませんよ。キスしてくれたときにナタリィは好きって言ってくれましたし、その気持ちさえあれば幸せです!」
「…テレンス。今なんて言った…?」
「気持ちさえあれば幸せだよ。」
「…違う。ナタリィが好きって言った…?」
「そうだよ。僕の目を見てはっきりと言ってくれたんだ。」
思い出したように頬を染める姿にアントニオの表情が一瞬にして色を無くし、暴走していた時のようなオーラを纏い始めた彼にこれはヤバイと脳内が警鐘を鳴している。
基本的に感情の起伏が少ないアントニオは感情が爆発すると逸脱した存在になるのは前回の出来事で理解済みだ。
あの時のようにキスするなんて大胆なことは出来ないが、この怒りの矛先がテレンスということはきっと好きという言葉を言ったことが気に入らないらしい。
そういえば、アントニオに直接好きなんて言葉を言ったことがあっただろうか。
「言ったことないかも?」
「…何?」
「幼い頃くらいだよね?アントニオのこと好きって言ってたの。」
「…そうかもね。」
「あの時から気持ちは変わってないけど、やっぱり言葉にしないと不安になるのかな。」
「…俺はナタリィが好き…好きすぎて…困ってるくらい。…ナタリィはどう…?」
「好きだよ。勿論いじけてるウルフラムも好き。」
「ナタリィ!!」
大きな身体のまま勢いよく抱きついてきたウルフラムによって床に倒れ込んだが、全く離すつもりのないアントニオがクッションの役目になったため痛みはない。
「…ウルフラム、鬱陶しい。…どけ。」
「だったらお前がナタリィを離せよ!」
「ほらほら、二人共。ナタリィが可哀相だよ。」
「然りげ無くナタリィの手を掴むな!」
「えーっと、アントニオもウルフラムも離れてくれると嬉しいんだけど。」
「…無理。暫く俺のここに居てよ。…ナタリィが居てくれるならテレンスの事許してもいい…。」
頭上に見えた小さなブラックホールに拒否権はないのだと悟ると二人が満足するまでこのままでいようと小さくため息を零すのだった。




