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22. 所有者

あれから数時間後。

やっと彼らの動きが止まったが、掌の中に魔力を籠めた黒い球体を浮かべ、傷だらけの姿で膝を付いているフランシスに鋭い視線を向けていた。


「ナタリィのような底辺な存在には興味がないと仰いましたよね?ならどういうつもりで固有魔法を使ったのですか?」


「そ、それは…。」


「…おかしいと思ってたんだ。…魅惑の魔力特性を持つアレと一緒に居るのに魔石すら渡していない。」


「好きな相手程虐めたくなるという心理か。幼稚だな。」


「っ。」


「ナタリィは俺の!」


「…お前のじゃない。俺のだ。」


「それなら僕も!」


「お前はキスしてもらってないでしょ!」


「僕もしてもらったよ。もう一回してくれないかな。」


「いつの間に!?こいつ喰ったら絶対もう一回してもらうもん!」


「それなら俺が先だ。」


「は?お前はナタリィと関係ないじゃん!」


「…石化を治癒させてくれたことには感謝してるけど、ナタリィの事は諦めて。」


「無理な相談だな。君達が彼女を手放せなくなっているのと同様に俺も手放す気はない。」


「そう仰られますが、殿下はナタリィから興味ないと思われてたみたいですけど?」


「それはアプローチが足りていないからだろう。それくらいすぐに改善できるさ。」


「ナタリィのバカあああ。また厄介なの増やしちゃってさ。アントニオとテレンスだけでも鬱陶しいのに。」


「…それはこっちの台詞だ。でも、バイデントを持つ皇子の存在は本当に厄介…。」


「最高位の魔法使いの二人には言われたくないぞ。」


「はぁ、僕から見たら全員厄介だよ。」


テレンスのその言葉にフランシスへと向けられた視線が彼に集まった。

その目は人の事言えないだろうと言いたげだ。

内輪揉めが始まったことで少し回復したフランシスがゆっくり立ち上がると彼らの視線がすぐに集まっていく。


「…僕はただ、アントニオが無条件で心を開く唯一の存在が疎ましく思えただけで…恋愛感情など…。」


「なら今すぐ解除しろ!俺のナタリィにお前みたいなゴミの名前書かれてるとかすげえムカつくから。」


「…同感だな。…ケラウノスの固有魔法は強制解除が出来ない仕様だから余計に鬱陶しい…。」


「本当に早くしてくれませんか?そろそろナタリィと夕食の時間なんです。」


「もうそんな時間か。ガルシアさんが庭へ連れ出してくれたようだが、少し肌寒くなってきた頃だろう。早々に終わらせてくれ。」


「…。」


「なーに黙ってんの?ナタリィに恋愛感情はないんでしょ。迷う必要ないじゃん。」


その言葉に視線を地面に下ろしたままキツく握られる拳。

解除は簡単だ。

ただ一言呪文を呟くだけ。

それなのにどうしてもそれを呟くことが出来なかった。

自分と同じ最高位の魔法使いであるアントニオが溺愛する存在。

それがナタリィだ。

王子という立場は彼よりも幸せに暮らせるはずなのに、自分の周りに居るのは雇われた使用人とご機嫌を取る連中ばかりで。

広場で楽しげに遊ぶ二人の姿を見るたびに嫉妬心が膨れ上がっていった。

あの日もそうだ。

ケラウノスを落としたことになっているが、実際はナタリィが拾うことを前提にしたこと。

彼女を城に呼び寄せれば何か変わるかもしれない。

そう期待したのだが、彼女は何を提示しても冷たい態度ばかりでアントニオに向けた笑顔など一度も見せてはくれなかった。

だから嫌がらせのつもりでナタリィの腕を掴んだのだが、こちらに向けたその表情は彼に見せたことのないもので。

初めての優越感は劣等感ばかりを感じていた心にずっと居座ったまま成長してしまったのだ。

だから彼女に会う度、どうしてもその名残があって素直になれない。

本当はあの笑顔を見た時からずっと…。


「やっと答えが出たかな。」


「…父さん?」


「殿下は気付くまでに時間が掛かったね。陛下の口止めがいけなかったんだろうな。」


「…父上が?」


「うん。部屋でナタリィちゃんを見る度に上機嫌になっていたのは使用人の間で有名だったし、陛下の耳に入ったんだよ。でも、自ら気付かないと意味がないからって口止めしてた。」


「…気付かないままなら良かったのに…。」


「アントニオ、そういう事言わないの。陛下はナタリィちゃんが皆に好かれているのを理解していたから多夫一婦制を承認したんだよ。だから、ちゃんと分け合うことを覚えないと。そのうち皆の前から彼女自ら姿を消す日が来るかもしれないよ。」


崩れ落ちた壁から見えるナタリィに笑顔で手を振ると驚いた表情を見せていたが、同じように笑みを浮かべて振り返してきた。

今は当然のようにそこにいるが、幼い頃から大人な考えを持つ彼女はガルシアの言う通り、内に秘めたまま行動するタイプだ。

一度魔石を返されている二人は覚えがあったようで、視線をナタリィに向けたまま悲しそうな表情をしている。

トルシェやフランシスは厄介な相手だが、それよりも彼女が側にいてくれることが最重要事項だ。


「…休戦協定。」


「なにそれ?」


「…ナタリィが居なくなったら意味ないでしょ…。」


「当たり前じゃん!」


「…だから休戦協定。…俺達がこういう事する度にナタリィが辛い思いするなら…止めるべきだし。」


「そうだね。ナタリィを同じ配分で共有するなら僕に異論はないよ。」


「仕方ないな。ナタリィの幸せが一番だ。」


「…僕には…その資格がない。」


「殿下、本当に良いの?ここで引き下がればこの四人は君がナタリィを目にできないように徹底的に排除すると思うよ。」


「…父さん、流石にそんなことしない…。ただ、二度とナタリィに会わせないだけ。」


「それじゃ生ぬるいよ。資格がないとか思ってるなら此れ見よがしに感情を消し去る魔法薬を飲ませれば!」


「テレンスって意外と一番怖いよね…。」


「それで?どうするの。」


「…僕も異論はない。ナタリィとの関係はゆっくり改善していくつもりだ…。」


絞り出すようにそう言ったウルフラムの言葉と当時に青い光が浮かび上がり五人それぞれの身体に入っていく。

それを見届けたガルシアは満足そうに笑みを浮かべるのだった。

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