21 . フランシス
半刻ほど経った頃。
やっとウルフラムの機嫌が直ったようで扉から尻尾が出る程度にまで縮んでくれたようだが、まだ十分に大きい。
眠たげに目を細め、クンクンと甘えるように鳴きながら鼻先を押し付けてくる。
そんな彼を撫でていると天井から轟音が聞こえ、あまりの大きさに驚いて身体が飛び跳ねた。
何が起きているのだと視線を向ければ、ドスンという音と共に天井が落ち、同時に金色の髪と青い瞳が見える。
「フランシス殿下…?」
「君がこの国の皇子まで誑かしているというのは本当の話なのだな。 」
鋭い視線のままこちらに近づいてくる彼は強い魔力を纏っているのか。
歩みを進めるたびに周囲の全てが壊れていく。
最高位の魔法使いの三人目なだけあって首に掛けられたケラウノスの魔石が強く光を帯び、こちらへと襲い掛かるような勢いだ。
「それ、何方から伺ったんですか。」
「誰かなど、君に関係ないだろう。」
「変な勘違いされたままでは困ります。トルシェ様を誑かしたつもりはありませんし、トルシェ様も私に興味ないでしょうから。」
「ほう、自分が底辺な存在だという自覚はあるようだな。」
にやりと笑みを浮かべたフランシスに溜め息が出そうになったがその前に彼の周りに突き刺さった槍に遮られた。
槍先が二叉になっている特徴的なそれは彼の動きを遮っているようで、不愉快そうに顔が歪められる。
「僕の邪魔をするということはそれなりに覚悟があるということですよね。」
「それはこちらの台詞だ。城を壊した挙句、ナタリィに暴言を吐くのか。王子が聞いて呆れるな。」
「…っ。」
「シュトラゼルの令嬢から何を聞いたか知らないが、誑かそうとしているのは俺のほうだ。」
「そんなはず!」
「…殿下も何処かでわかってるんじゃないの。」
「俺もそう思う。昔、ナタリィを味見したことがあったよね。思い出しただけで喰い殺したくなるけど、なんでそんなことしたか考えたことある?」
「あれは、子供の悪戯で…。」
「味見!?ナタリィ、そんなことされたの!?どこ!?どこにされたの!?」
黙って見守るようにしていたテレンスは彼女に近付くと上から下まで視線を動かし、泣きそうな表情だ。
アントニオやウルフラムと違い、幼い頃を一緒に過ごしていない彼にとって昔のことであろうと我慢できないようで何かを呟くとナタリィの全身が光に包まれていく。
それと同時に左の首筋に浮かび上がった文字に四人が一瞬にして鬼のような形相に変わり、フランシスを睨みつけた。
一触即発の雰囲気にガルシアの溜め息が聞こえてくる。
「ナタリィちゃん、しばらくここから離れようか。」
彼はそう言うと、ウルフラムの抱擁を受けている彼女を移動魔法で瞬時に城の庭へと移動させた。
同時に聞こえてくる轟音に城が半壊し、焦って視線を彷徨わせているナタリィをガルシアが椅子に促す。
「心配しなくても大丈夫だよ。」
「でも…お城が壊れてますし。中に居る方々が巻き込まれるんじゃ…?」
「皆に防御壁を張ったから問題ない。お城は後で彼ら直させるさ。」
「それでよいのですか?」
「あれを見た四人を止めるなんて流石に無理だよ。それにバイデントには驚いた。」
「バイデント?」
「フランシス殿下の周りに刺さっていた槍の名前。トルシェ殿下はウルフラムとは違う意味で危険な存在だね。」
彼はそう言うと崩れ落ちていく壁を見ながら小さくため息を零すのだった。




