15. 城と暴走
目を覚ますと見たことのないほど豪華な作りの天蓋が映り何度か瞬きを繰り返してみるが変わることはないようだ。
とりあえず身体を起こそうと力を入れてみたが、枕に身体を預けるのが精一杯だった。
魔石を破壊した影響だろうかと意識を失う前のことを思い出しながら視線を彷徨わせていると遠くの扉が開き、見知った顔が現れる。
「目を覚ましたようですね。」
「…トルシェ様?ここは…?」
「アンバード城ですよ。」
「どうして…っ。」
「動かないで。まだ石化していた時の影響が残っていますから。」
「石化?」
「魔石を破壊した時の影響…忠告したつもりだったのですが。」
「…すみません。」
「いえ、これは貴女のせいではないです。私がもっと早くに気付くべきでした。」
「…それはどういう?」
「私の魔石はラブラドライトといって予知能力も備わっているのですよ。危険な出来事が起きる前兆があると教えてくれたりします。ただ、全てを見られるわけではないので結果、貴女を石化させてしまった…。」
「私は大丈夫です。石化も解いていただけたみたいですし、ありがとうございました。」
「確かに石化は解きましたが、全て元通りに戻るかどうか…。」
「それは戻らなかったときに考えます。」
「…。」
「トルシェ殿下!」
「どうしました?」
「カーネリアが壊滅状態に陥っているとの知らせが入りました!」
「…始まったみたいですね。」
「始まったとは?カーネリアに何か良くないことでも?」
「ナタリィちゃん!」
「ガルシアさん?どうしてここに…。」
「私が招いたんですよ。状況は?」
「良くないよ。次、魔力が開放されたらカーネリアは消える。」
「そんなに…。石化を解除したとはいえ、まだ移動は負担が…。」
「そうだよね。でも一刻も争うから…君の手を借りてもいいかな。」
「はい。」
何が起きているのか理解でいていないのは私だけのようで軽く手に触れられると景色が一瞬にして変わっていった。
何故トルシェにお姫様抱っこをされているのかとか気になる所はたくさんあるが、目の前に広がる惨状に驚く。
学園はほぼ形をなくし、カーネリアの方角から火の海が見える。
少し前まで豊かな土地の広がる国だったはずなのに何が起きているのだろう。
「ナタリィちゃん。二人を呼んであげてくれないかな。」
「二人って…?」
「あの黒い塊がアントニオで遠くに見える魔獣がウルフラムだよ。怖い?」
「怖くはないですけど…ここからで届きますか?」
「呟くだけでいいよ。二人は耳が良い。」
ガルシアにそう言われ半信半疑で小さく二人の名を呟いてみるが特に変わった様子はない。
やっぱりここからじゃ無理だと言いかけたが、視界に広がる赤茶と銀色の髪。
浮遊感とともに感じる熱い抱擁に彼の言う通りだったと納得する。
「…ナタリィ。」
「…会いたかった。」
「魔石…本当に破壊されてる。…もっと痛めつければ良かった…。」
「今からでも喰って来る?」
「い、いいよ!私も望んだことだし。」
「…望んだ…?…どういうこと…?…俺との婚約…嫌なの…?」
「そんなことないよね!?俺、ずっとナタリィのこと好きなのに…酷いよ!!」
「気持ちはとても嬉しいけど、私とじゃ…。」
「…そう…なら世界を壊してあげる。…ナタリィを否定する世界なんて…要らない…。」
「ナ、ナタリィちゃん!アントニオを止めて!」
「彼の作り出したブラックホールが世界を飲み込んでしまう…。」
「え、ブラックホールって…。」
空が渦を巻き、その勢いを強めるとあちらこちらで竜巻が発生しているのが見えた。
これは本格的にやばいと本能で感じるほどで、黙ったままのウルフラムも怖いがオリーブ色の瞳が黒く染まっているアントニオはそれを優に超えている。
彼の視界に入っているはずなのにその瞳に私は映っておらず、どうするべきかと考え、意を決して小さく吐息を零す。
彼の頬に手を添えそっと触れるだけのキスをするとガルシアとトルシェは目を見開いた。
それと同時に竜巻が消え、空が真っ青に晴れ渡っていく。
「…ナタリィ。」
「あ、あんまり見ないで。恥ずかしいから。」
「ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい!!俺だってナタリィにキスされたいもん!!してくれないなら…っ。」
そうなるだろうと予想していただけに焦ることもなく、そっとウルフラムにキスを落とせば満面の笑みが見える。
纏っていたはずの魔力も消え、何事もなかったかのように鼻歌を歌い始めた。
「…彼らを止められるのは彼女だけというのは本当だったのですね。」
「疑ってたのかい?」
「半信半疑でした。彼女から感じられる魔力は微弱ですし…。」
「どうやって二人を止めるかってところだよね。予想外ではあったけど、ナタリィらしい。」
「らしい、ですか?」
「彼女と話して感じないかな。少女のはずなのに何処か冷めていて全てを諦めているよう。昔ね、聞いたことがあるんだ。もし二人が離れたがらなくても離れなくてはいけなくなったらどうするってね。そしたら即答だった。すぐに離れますってさ。」
「…。」
「まだ6歳の子供だよ?普通なら躊躇するよね。一瞬自分が誰と話してるかわからなくなりそうだったな。」
ガルシアのその言葉に少し離れた位置に居る3人を見やれば、16歳とは思えない彼女の表情が見える。
それは幼い頃、自分を見守ってくれた亡き母のようで。
少し懐かしい気分になっていると彼女が突然こちらに向き、視線が絡み合うとふんわりと笑みを浮かべた。
「…っ。」
特別綺麗な女性と言うわけではないのに何故か胸の鼓動が速くなっていくのを感じる。
彼女の持つ大人の雰囲気は皇子として育ってきた自分にすらまだ纏えないもので、何がそうさせるのかと彼らのやり取りを眺めるのだった。




