14. 喪失
あれから何処を探しても見つからないナタリィに彼らの機嫌が急降下したのは言うまでもなく、担任を締め上げていた。
「…魔石の気配が消えてる。ナタリィはどうした。」
「俺のもだよ。どうなってるの?」
「ひぃっ!」
「二人共怖がらせるだけじゃ意味ないよ。身体の一部を一つずつ切り落としていこう。」
「…テレンス怖っ。」
「そうだな。それがいい。」
「え!?アントニオもその意見に賛成するの!?」
「…どこかでナタリィが辛い思いをしているかもしれない。」
「ナタリィが…?え、お前俺のナタリィに手を出したの?だったらその身体引き裂いてやる。」
爪と犬歯が伸び、身体が巨大な魔獣の姿に変化しつつあるウルフラムを宥めるように首を振るテレンス。
それじゃあ聞きたいことが聞けないという意味らしい。
「どうする?話すか身体をなくすか二つに一つだ。」
「は、話します!話しますから…っ!」
彼は泣きながらそういうと事の経緯を全て話した。
ナタリィのためになるという条件の元踊った令嬢達のあれは、彼女を自分達から離すための口実であったこと。
学園長の息のかかった令嬢によってナタリィが邪魔者で自分達から離れなければならないと思い込ませるために仕組まれていたという。
それによって彼女の心に出来た影を使って魔石を壊す手筈になっていたらしい。
直ぐ様学園長の居る応接室へと向かうと満面の笑みを浮かべた彼が出迎えた。
「そろそろ来る頃かと思っていたよ。」
「…ナタリィを返せ。」
「それは出来ない相談だね。」
「相談なんかしてねぇよ。」
「…っ!」
いきなり襲いかかったウルフラムは首元に牙を這わせ、いつでも喰い殺してやるとその瞳孔を細くする。
静観しているように見えるアントニオとテレンスも黒い魔力を纏いその怒りの矛先を彼に向けていた。
「これは、全て…カーネリア…を守るため…。」
「…テレンス。これの記憶、取れる?」
「拷問魔法なら任せてよ。これでも王国騎士団長の息子だからね。」
にんまりと笑みを浮かべたテレンスが学園長に近付くとそれがどんなものか知っている彼は止めてくれと叫んでいるがここに居る彼らの一人として助けるものは居ない。
泡を吹いたまま倒れた彼を横目に本棚に何かを呟くと独りでに開いていく。
このまま喰ってしまおうと舌なめずりをしていたウルフラムだったが、二人が階段を降りていくのを見て焦ったように人型に戻ると後ろへ続いた。
大量の魔石に囲まれたそこは魔力量の多い彼らにとってあまり良い場所ではないようで顔色が悪くなっていくのが見える。
それでも歩みを止めないのはこの先にナタリィが居るからで、早足で進むと小さな牢屋が見えてきた。
「ナタリィ!」
その瞳を輝かせて牢屋に近付いたウルフラムだったが、そこにあったのはベッドと洗面台のみで。
彼女の姿はない。
牢屋の扉を力ずくで壊して中に入ると洗面台から血の匂い。
そしてベッドには彼女の残り香を感じる。
ここに居たのは間違いない。
「ここに居たはずなのに…。」
「彼の記憶はここに入れたところまでだった…。どういう事だろう。」
「…痕跡…。」
「アントニオ?」
「…俺達が来る前にここで魔力を使った奴が居る。」
「ここで!?他者の魔石に囲まれているのにどうやって…。」
「…どうやってなんてどうでもいい!俺のナタリィを今すぐ返せ!!カエセエエエエエエエ!!」
怒りに染まったウルフラムの身体は先程とは比べ物にならないほど大きくなっていくと彼女の残り香のあるベッドの布を咥えたまま地下を破壊しつくし地上に出ていった。
けたたましい咆哮とともに地面が揺れ、生徒達の悲鳴が聞こえてくる。
「アントニオ!これは一体…。」
「…父さん?何でここに…。」
「二人がナタリィちゃんにあげた魔石の気配が無くなったから嫌な予感がしてね。」
「…ナタリィが…居ない。ウルフラム…暴走した…。」
「恐れていたことが起きてしまったか…。アントニオ、自我を失ったら駄目だからね!ナタリィちゃんは大丈夫だから。」
「…本当に…?…ナタリィを…俺から奪う国なんて…全部壊して…壊して…壊し尽くしてやる。」
アントニオの瞳に闇が宿るとその膨大な魔力が一気に開放され空を暗く包み込んでいった。
彼らが凶暴だと言われている理由は知っていたとはいえこれは予想以上で、テレンスは身動き一つ取れずに居る。
「君、そこにいると危ないよ。早くナタリィちゃんを見つけないとカーネリアはもう…。」
ガルシアは荒れ果てていく地面を辺りを見ながら彼らの想い人を探すべく動き始めるのだった。




