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13. 噂と石化

舞踏会の翌日。

教室ではアントニオとウルフラムの話でもちきりで、相手の令嬢は婚約を申し出ていると噂が流れていた。


「…騒がしいな。」


「煩わしくて耳が痛いー。ナタリィ、ヨシヨシして!」


「彼女は担任と席を外したでしょ。」


「…ナタリィ居ないなら授業参加する意味ない。」


「すぐ戻ってくるから。」


「…ぶーぶー。」


「ウルフラムは本当に子供っぽいよね。」


「…同じクラスとはいえ歳下。」


「え!そうなの?」


「…身体だけでかい。」


そんな話をしていると二人を呼ぶ学園長の声が聞こえ、大きな溜め息を零しながら応接室へと向かえば、目の前に座る立派な髭を蓄えた初老の男性。

彼がここの学園長なのだが、アントニオは煩わしそうな表情を隠しもしない。

ウルフラムに至っては我関せずの態度で部屋の中央にあるソファーで寝そべっている。


「…もう少し嬉しそうに来れないか。」


「あんたの呼び出しは大抵煩わしい…。用件は?」


「噂で聞いているだろうが、公爵家と侯爵家から婚約者の話が出ている。」


「アントニオ、良かったじゃん。」


「…他人事じゃない。」


「俺にはナタリィが居るから関係ないもん。」


「君等が連れてきたあの少女のことかな?わかっているだろう?最高位の魔法使いは国の宝。その宝には相応しい相手がいる。」


「…仲を裂くつもりなら国潰すよ。」


「え、誰と誰の仲を裂くの?」


「ウルフラムは気にしなくていい。」


「あ、そう。じゃあ俺戻っていい?」


「それは困るよ。ここに二人を呼んでいるんだから。」


「は?俺は会わないよ。ナタリィに構ってもらおー。」


いきなり起き上がると教室に戻るべく歩き去ってしまい、アントニオも残像だけになっていく。

その姿に大きな溜め息を溢していると見計らったかのように担任に連れられたナタリィが入ってきた。


「ナタリィ・アロームを連れてきました。」


「ありがとう。下がって良いよ。」


「はい。失礼します。」


担任が扉を閉めると同時に静まり返った応接室。

何だか居心地が悪いと視線を床に向けている彼女を上から下まで眺めてみる。

二人にとってナタリィの何がそこまで惹きつけているのだろうか。

何処にでも居そうな平凡な容姿に少ない魔力。

周りの評価を聞いてみても特に突出してるわけでもない。


「…あの。」


「あぁ、すまない。最高位の魔法使いである二人は君の何処に魅力を感じているのかと思ってね。ここに来てもらったのは他でもない。彼らのことだ。」


「…アントニオとウルフラムですか?」


「テレンスの事もだね。彼らは婚約の証として魔石を渡しているようだが、まやかしに過ぎない。」


「どういう意味ですか。」


「まさか彼らのような優秀な存在と君のような凡人の婚約が許されると思っているのかな。幼少期の戯れ。舞踏会で見ただろう?彼らと踊る令嬢を。」


「…。」


「元々君はこの学園に入る価値のない存在。彼らが連れてきたとはいえ、ナタリィ自身が心の何処かで彼らを拠り所にしているのではないか。」


「…二人に魔石を返せば満足ですか。」


「いや、それは外せない呪いが掛けられているからね。私が壊してあげるよ。大丈夫。一瞬で終わるから。」


学園長のその言葉とともに魔石が爆ぜ、身体の一部が無くなったような感覚に襲われる。

その場に座り込んだ彼女を無理矢理立たせると本棚へと向かって歩き出した。

独りでに開いた扉の奥は地下へと続く通路で魔石が所狭しに敷き詰められている。

宙に浮いた炎を頼りに階段を進めば小さな牢屋が見え、雑に彼女を押し入れればガチャリと鍵がかけられていく。


「恨まないでくれよ。これは王命でね。国の宝を拐かす邪魔者は消えてもらうことになったんだ。ここは魔石によって隠されているからいくら最高位の魔法使いであっても君の気配を感じることさえ出来ない。だから助けを求めても無駄だよ。まあ、すぐに何も感じなくなるさ。」


歪な笑みを浮かべながらそういった彼は来た道を戻っていった。

地面に倒れ込むようにしていたナタリィは動くことなくただそのまま壁を眺めている。

どれくらいの時間が経ったのだろうか。

急激に襲われた吐き気に近くにあった洗面台へ行けば溢れる赤に意識が戻ったらしい。

トルシェの言っていた負担とはこれのことかと思い出しながら肩で呼吸を繰り返していた。

しばらくすると落ち着いてきたようで汚いベッドに腰掛けてみる。

凡人と婚約すると思っているのか、ね。

ヒロインでもない私が彼らとなんてありえないことだとわかっているが、心の拠り所にしているという言葉に否定できない自分が居た。

いつも守ってくれるアントニオ。

純粋無垢に慕ってくれるウルフラム。

そして恋い焦がれていた存在だと言うテレンス。

少しの間昔のように戻れた気がして、私自身楽しんでいたのは確かだ。

もしかしたら私でも良いのかと頭の何処かで勘違いし始めていたのかとしれない。

これは身を弁えきれなかった自分への罰だと理解すれば、抵抗する気も失せ、そのままベッドに横になっていく。

魔石を失くしたピアスとネックレスに触れると元よりそこには何もなかったかのように塵になって消えていった。


「…いっ……しょに…すご…せて、ほん…と…たの…しか…っ…たな…。」


ポロリと涙が溢れるのと同時に彼女の身体がみるみるうちに石化していくのだった。

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