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12. 舞踏会と皇子

学園生活は意外にも順風満帆で、3人からの圧はあるとはいえ何事もなく日々を過ごしていた。

そんなある日。

学園主催の舞踏会が行われると担任から告げられる。

舞踏会…。

社交ダンスなんてパン屋の娘である私が出来るはずもなく、既に憂鬱だが3人は楽しげだ。

礼服に身を包み、髪も整えられている。

私も彼らに提示された中の一つであるグレーのドレスに身を包み、身支度は全て整っているものの気が重いと大きな溜め息を零した。


「本当は俺のを着てほしかった…。」


「それは俺だって同じだし!よりにもよってテレンスの選ぶなんてさ。」


文句を零す彼らへ勝ち誇った表情を見せるテレンスに喧嘩が勃発したのは言うまでもない。

確かにドレスはどれも可愛かったが、私には派手過ぎて着る勇気がなかったのだ。

そろそろ会場へ向かう時間かと気合を入れてから一歩踏み出せば、喧嘩していた彼らも歩き出した。

緊張した面持ちで会場へと辿り着くと、既に皆集まっていたようでアントニオとウルフラムを見るなり黄色い声が聞こえてくる。

最高位の魔法使いという名は伊達じゃないなどと考えながらどうやって壁の花に徹するか思案していると、女子の波に流され強制的にテラスまで追いやられた。

少し肌寒いが、ここに居れば誰も気づかないだろうとカーテンの影に隠れながら小さくため息。

二人ほどではないが、テレンスも人気があるようでダンスに誘われているようだ。

流れ始めた優雅な音楽とともに各々パートナーと共に踊り始め、キラキラとした世界が目の前に広がっている。

ゲームをしている時はヒロインとして当然のようにその中心に居たのに今は別世界だ。

暫く眺めていると3人の姿が見えた。

綺麗な女性達と優雅に踊る姿は絵になり、自分とは違う存在であることを証明しているようで少しだけチクリと胸が痛む。


「やはりお二人は素敵ですわね。」


「アントニオ様とウルフラム様ですか?」


「ええ。一緒に踊られているのは公爵令嬢のシエラ様と侯爵令嬢のアイシャ様ね。」


「お二人共本当にお綺麗ですから。あのような姿を見せられたら邪魔者は即刻居なくなるべきじゃないかしら。」


チラリとこちらに視線を向けられたところを見ると私に向けて話していたらしい。

邪魔者とは失礼な話だが、まぁ確かにそうかもしれないと納得した。

公爵令嬢のシエラに侯爵令嬢のアイシャといえば、ゲーム内でヒロインと親友になり、手助けをしてくれるとてもありがたい存在。

そんな二人なら彼女たちの言う通り、アントニオとウルフラムにお似合いだ。

そう思いながら視線を庭へと向けると彼女達はダンスに戻っていったようで声が遠ざかっていく。


「大丈夫ですか?」


「…?」


「一人で居られたのでもしかして体調でも悪いのかと…。」


「いえ、ダンスが苦手なだけですから。」


「そうでしたか。私はトルシェ・アンバードと申します。」


銀色の髪に真紅の瞳の青年に目を見開いた。

アンバード皇国の第二皇子であり、唯一攻略を諦めた存在。

このゲームをプレイする切っ掛けになった所謂推しメンというやつだ。

一見穏やかに見える彼にはどの選択肢を選んでみても、怖いくらいの冷たい表情で突き放されたのは未だ強く印象に残っている。


「私の事をご存知ですか?」


「い、いえ。私はナタリィ・アロームと申します。」


「ナタリィさん。良ければ少し散歩でも。私もあまりダンスは得意じゃありませんから。」


満面の笑みでそう促されるまま学園の庭へと出ると夜風が髪を揺らしていった。


「これを。少し肌寒いですから。」


さり気ない動作で上着を掛けられ、驚いたが厚意は素直に受け取ろうと感謝の意を伝えれば笑顔を返される。

ゲーム内での彼はこんなにも笑っていただろうか。

確かに穏やかではあるが、他人とは一線を引いて接しており、特に異性とは距離を置いていたはず。

だからこそ、バッドエンドになっても他を選ばれるという内容ではなく誰も選ばないという選択だった。


「…先程の件、何故反論されなかったのですか?」


「え?」


「すみません。聞き耳を立てるつもりは無かったのですが、ご令嬢の方々が失礼なことを言っていたのでつい…。」


「ふふ。失礼なことは何も言ってませんよ。私も承知している事実ですから。」


「…。」


「そんな悲しそうな顔しないで下さい。そもそも最高位の魔法使いと魔力の殆どない私が釣り合っているなんて思うわけ無いですよ。」


「ですが、その魔石は彼らのでしょう?」


「小さい頃に貰ったものです。外せない呪いの話をしていたので少し困っていますが…。」


「外せない呪い…。」


「これを何とかしないと私はずっと邪魔者でいることになりますからね。」


「方法はありますよ。」


「どんな?」


「貴女の手で魔石を破壊することです。」


「魔石を…?それは元の持ち主に影響が出たりしないのでしょうか?」


「いいえ、影響が出るとすれば貴女自身の身体かと。ですからこの方法はあまりオススメしません。」


「そう、なんですね。わかりました。知識として入れておきます。」


頷きながらそういうと頭上に感じる強い何か。

視線を向ければこちらを見下ろしながら怖い表情をするアントニオの姿が見えた。


「そろそろ退散したほうが良さそうですね。ではまた。」


上着を返す間もなく去っていった彼を見送ることしか出来ず、どうしようかと思案しているとポイッと噴水へ投げ捨てられる。

驚いていると憎悪の感情を剥き出しにしたウルフラムが口元から鋭い牙を見せ、唸り声を上げている。

こんな事したらダメだと声を掛けるつもりが、いつもの雰囲気と違うため言葉を飲み込んだ。


「グルルルルル。アントニオ、何で止めたっ!この場で喰い殺してやったのに。」


「…ナタリィが汚れる。」


「ッチ。」


「いや!そこじゃないでしょ!?あの人、他国の皇子様だから怪我なんてさせたら…。」


「ナタリィ。何であんな奴と一緒に居たの。」


「…ちょっと散歩してただけで…。」


「何か話してたよね?何の話?」


地面に降りてきたアントニオは目を細めたままこちらを伺ってきている。

魔石に掛けられた呪いの解き方を聞いたなんて話せすはずもなく、世間話をしていただけだと無理矢理納得させた。

実際は納得していなかったのだろうが、探し回っていたテレンスが合流したことで話題が変わったためそれ以上突っ込まれなかったのだ。

これから彼らのためにどう行動するべきか一度考え直す必要があるだろう。

そんなことを思いながら彼らのやり取りを眺めるのだった。

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