11. 魔石と婚約
初めて見るその笑顔に見惚れていると視界の端に映った影に視線を窓に向けたが、早速後悔した。
背中に黒いオーラを纏い、鬼のような表情を向ける二人。
大いに見覚えのあるその姿にため息を零すとナタリィも気付いたようで視線を動かす。
「アントニオにウルフラム?学園長の用事はもういいの?」
「うん。」
「どーでもいい内容だった。山で暴れてるゴブリン討伐とか俺じゃなくても余裕でしょ。それよりこれ、どういうこと?」
彼女の右耳に付いたピアスに軽く触れ、鋭い視線を向けたウルフラムと言葉を発してはいないが怖いほど魔力を纏っているアントニオにテレンスは身体を強張らせた。
「それは…。」
「テレンスから貰ったんだよ。何か問題?」
「…問題だろ。ウルフラムの魔石を受け取ったことだけでも許容するのに凄く時間が掛かった。」
「許容ってなんでそんなに魔石にこだわるの?魔石が大切なものだってことは理解してるけど…。」
「ナタリィは本当に理解してないんだ。それなのに君達は幼い頃に渡したんだよね?すごいな。」
「自分もわかってて渡したくせによく言うよ。呪いまで掛けるなんて本当に抜け目がないな。」
「3人で話した方がいいなら私、席外すけど。」
ピリピリした空気の漂う彼らに大きなため息を零したナタリィはそう言うとソファーから立ち上がろうとするが、それはアントニオによって遮られる。
「…ごめん、怒らないで。」
「怒ってないからそんな悲しそうな顔しないでよ。私が虐めてるみたい。」
「アントニオだけズルい!俺も構って!」
そう言ったウルフラムは勢いよくナタリィに走り寄ると腹部に手を絡め、顔を埋めてしまった。
一切驚かない彼女を見るとこの状況に慣れているのだろう。
「…意外と妬けるものだね。」
「?」
「なんでもないよ。僕から答えてもいいの?」
「…。」
「ナタリィ、ヨシヨシして。」
質問を無視する二人にため息を零しながらも、彼女の質問に答えて良いのだろうと判断して再度口を開いた。
「さっきの質問だけど、魔石はね。魔力を使うために必要なものってだけじゃないんだよ。術者と魔石との間に繋がりみたいなものがあるのは知ってるよね?それを誰かに渡す事で渡した相手に何かあったときすぐにわかる感知魔法が作動するんだ。」
「だからあの時…。やっぱり見間違いじゃなかったんだ。」
「あの時って?」
「配達の時、山賊に絡まれてね。巨大な火の玉に助けられたんだけど、それってアントニオのだったんだと思って。そうだよね?」
「…あぁ。」
「遅くなったけど、あの時は本当にありがとう!困っていたから助かったよ。」
「…もっと早ければ怪我させなかった。」
「怪我…!?そうだった。色々ありすぎてすっかり忘れてたけど治してくれたんだね。ありがとう。」
アントニオの瞳を見てそういえば、コクリと頷きながら抱きしめていた腕を強める。
「あまり見せつけないでくれないかな。僕だって…。」
「テレンス?」
「いや、話を戻すね。感知魔法以外にも透視魔法も備わっているから魔石を通して何をしているか見ることができるよ。」
「え!?じゃあアントニオとウルフラムに今までのこと全部筒抜けだったの!?」
「全部じゃないよー。見たい時に見れるってだけだもん。アントニオは常に見てたみたいだけど?」
「…常には語弊がある。毎日決まった時間に見ていただけだ。」
「なんか魔石持つの嫌になってきたんだけど…。」
「そんなこと言わないでよ!仕方ないじゃん。いきなり最高位の魔法使いだって崇められてナタリィと離れ離れにさせられたんだよ?今思い出しても腹立つ〜!」
「ウルフラム、落ち着いて。」
「…嫌がったとして外せない。」
「え?」
「…言っただろう。二度と外せないようにしたと。」
「あれ、本気だったの!?」
「…俺はいつでも本気だ。」
「そう、だった…。考えようによっては今まで何度も助けてもらったわけだし、悪いものでもないよね!」
「そうだよ。外せない仕様は婚約破棄ができないってだけでメリットの方が多いんだ。」
「ん?さらっと聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんだけど。」
「なにか気になることあった?」
「あるよ!婚約って何!?魔石にそんな大事な意味あるなんて知らなかった…。」
驚愕した表情でそういった彼女だったが、すぐに考え込むような表情に変わっていった。
確かにヒロインが攻略対象から魔石を受け取る描写はあったが、それは悪役令嬢の悪行から身を護れるようにと護身のために渡されたもの。
魔石=婚約なんて設定はなかったはずだ。
いや、もしかしたら裏設定に存在していたのかもしれない。
正規のルートばかりを攻略していたことを後悔しながらふと疑問を持つ。
「破棄できない婚約ってことは私とアントニオは将来婚姻するってこと…?」
「…そうだ。」
「俺とも婚姻するんだよ〜。18歳になるのが楽しみだなぁ。」
「え、待って!ウルフラムも…?」
「本当は俺だけが良かったんだけど、勝負がつかなかったから仕方なくね。納得はしてないよ。」
「…それはこっちの台詞だ。」
「厄介なのはお前だよ。テレンスだっけ?我関せずの態度取ってるけど、何様のつもり?」
「別に何様のつもりもないよ。僕はナタリィと一緒になれるなら何番目の夫でもいいと思ってるから。」
「何番目って何!?そもそも一夫一婦制でしょ?」
「…多夫一妻制に変えた。」
「え、変えたってどういう…?」
「なるほど。凶暴過ぎて手が付けられないというのはここから来ているんだね。」
「凶暴って、これ理解できないのは私だけ?」
「…法的にこの状況が問題ないってことだ。」
「そういうこと〜。」
「全然納得出来ないんだけど…。そもそも二人共この内容を理解して渡してたの?小さい頃だったし、考え直すいいチャンスだと…。」
「…俺の事、嫌いなのか…?」
「どうしよう…ナタリィに嫌われたら生きていけない…。」
「嫌ってるわけないよ。ただ、本当に私でいいのか気になっただけで…。最高位の魔法使いだったら引く手数多だろうし。」
「…ナタリィ以外はミジンコ程にしか見えない。」
「ミジンコは言い過ぎじゃないかな。女の子が可哀想だよ。」
「え!?ナタリィ以外に女の子なんて存在するの?」
「居るでしょ!ほら、教室で話しかけてきたリンネットさんとかとても可愛かったよ。」
「あれ、女の子なの?人としか認識してなかった。」
「ウルフラムってこんな子だったかな。純粋無垢だったのに。」
彼らの言動に戸惑いながらこれからどうすればいいのだと深いため息をこぼすのだった。




