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10. テレンス

あれからこの学園で割り当てられたナタリィの自室に向かう道中に聞こえてきた放送はアントニオとウルフラムを呼ぶ学園長のもので、煩わしそうに大きなため息を溢しながらも行かないという選択肢は出来ないのか。

部屋に居るように釘を刺され、名残惜しそうに出掛けていった。

扉の前まで見送ってからソファーに腰掛け、一息ついているとノックが聞こえてくる。

誰だろうと返事をして出迎えれば、闘技場で会ったテレンスが少し緊張した面持ちで立っていた。


「先程の件、もう一度謝罪しに…。」


「全く気にしてないので大丈夫ですよ!わざわざありがとうございます。」


「それなら敬語は止めない?これから同期になるのだから気軽に話してほしい。」


「うん、わかった。良かったら中へどうぞ。といっても今日来たばかりで何のおもてなしも出来ないけど…。」


「本当にいいの?」


「もちろん!テレンスさえ良ければぜひ。」


「ならお邪魔します。」


ソファーに促せば腰を下ろした彼だが、背筋を伸ばし凛とした姿はさすが王国騎士団長の子息といったところか。

闘技場では忘れていたが、公爵子息のセオドリックといえば、隠し攻略キャラだと本に書かれていた気がする。

といっても特殊なことをしないと出てこない設定らしく、見ることのないまま転生してしまったため、すぐに思い出せなかったのだ。


「ナタリィはあの二人とどこで出会ったの?とても仲が良さそうに見えたけど。」


「アントニオとウルフラムのこと?」


「うん。」


「同じ城下町で育った幼馴染になるのかな?アントニオは兄みたいな存在で、ウルフラムは弟みたいに思ってる。そういう関係で育ったからたまたま二人の魔石を貰えたっていうだけで特別なことは何も無いんだよ。」


「なるほど。彼らも不憫だね…。」


「?」


「こっちの話だよ。それより、城下町のどの辺りに住んでいたの?父上がカーネリアに行くたびにパンをお土産にしてくれてね。そこのお店にいつか行ってみたいと思っているんだ。」


「噴水広場の裏手にある麦のパン屋なら私の家だけど…。」


「本当に!?」


「うん。お店の手伝いもしていたから、テレンスのお父さんに会ったことあるのかもね。」


「オズワルドっていうんだけど、流石にパン屋さんで名乗ったりしないか。」


オズワルドという名で髭を生やしたダンディーな男性の姿を思い出した。

180を優に超える長身に筋骨隆々な身体付き。

見慣れない服装に隣国から来たのだろうと認識していたが、騎士団長だったのかと納得してしまう。

外見だけでなく、さりげない心遣いなど。

大人の魅力を十分に備え、低く優しい声色の彼は、元アラサーの心を掴んでいた。


「あの人がテレンスのお父さんだったんだ…。」


「思い出した?」


「うん。3ヶ月に一度のペースで来てくれていて、毎回お土産をくれるんだよ。お客様なのにね。」


「…あの女の子ってナタリィのことだったんだ。」


「どういうこと?」


「父上はいつもカーネリアから帰ると上機嫌でね。パン屋にいる女の子の話をするんだ。可愛くてとても魅力的な子だって。騎士団長として厳格な父上ばかりを見ていたから、こんな表情もするのかと驚いたくらいだよ。だから僕も彼女に会ってみたいって思っていたんだ。」


「可愛くて魅力的…オズワルドさんにそう思っていただけてたなんて。すごく嬉しい…。」


そう言いながら頬を赤く染める彼女の態度は面白くない。

最初はアントニオとウルフラムが慕う女性という意味で少し興味を持っただけだったが、騎士団員の皆から怖がられるあの父が鼻の下を伸ばしながら笑顔で話す女の子なら別だ。

幼ながらに何度も何度も彼女の事を聞くうちに想いを寄せるようになっていた。


「…僕の魔石も受け取ってくれないかな?」


「え?なんで急に?」


「仲良くなりたいからっていう理由じゃダメ?」


「ダメというか、魔石って大切なものだから会ったばかりの私が貰うのはちょっと…。」


「君にとってはそうかもしれないけど、僕にとっては幼い頃から父上が話していた存在だからね。初対面な気がしないんだ。だからいいでしょ。」


最終的には疑問形を使わなくなった彼はナタリィへ近づくと右耳に付いていたピアスを外し、魔石にキスを落としてから彼女の耳へとそっとつける。

青色に光り、少し熱を帯びているようだ。


「サファイアの魔石。危険から身を護るとされているからきっと役に立つよ。」


「本当にいいの?」


「これが僕の意志だからね。」


「ありがとう。」


少し戸惑った表情だったナタリィだったが、真剣な眼差しで伝えればふんわりと優しい笑みを浮かべるのだった。

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