アルネス、精霊界を出る。
初めての作品ですが週2くらいのペースで書いていきます。
ここ精霊界では生きた年数に応じて強く、そして地位が高くなっていく。そんな精霊界の隅っこで暮らす1人の精霊がいた。
名をアルネス。見目麗しい女性だ。ただ勘違いしてはいけないのは彼女は精霊界でトップクラスの長生きをしたという事だ。ただ、彼女は地位にこだわることをせず、精霊界の中でも隅っこのほうに家を構え生活していた。
「はぁ…。数万年同じ生活を繰り返してきたけれど飽きるなぁ…。そろそろ精霊界を出て、旅に出るのもいいのかも?昔精霊界を出た時とどんなに変わってるんだろうかなー。」
そんな溜息をつきながら、久しぶりに外に出ようかと考えている。
「そうだ!久しぶりにあの子に会いに行こう!」
そう言い残し、家を出て、精霊界中央部に飛んでいく。
道中、まだ数年しか生きていないであろう妖精達が飛んでいる。ある妖精はほかの妖精と飛び回ったり花冠を作りお互いに頭に乗せている。
また、100年ほど生きたであろう精霊が妖精達に精霊界での知識を身につけさせていたりと、わりと人間界じみた様子が見受けられる。
「あ、アルネス様だ!」
「アルネスさまー!」
「アルネスおねえちゃーん!」
妖精達がこちらを見つけると笑顔で手を振る。
それに対して手を振り返すと向こうもまたさらに笑顔になる。
そんな妖精達を残し、中央部へと全速力で飛んでいく。
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中央部アルカティア
数千万の妖精、数百万の精霊が暮らす中央部では日々、働き者の精霊達がせかせかと働いていた。
「そういえば今日、精霊王の会議ではありませんでしたか?」
「そうよね。今頃、高位の精霊方は今後の事について考えていらっしゃるのでしょうねぇ。」
「私達はまだ若いですからねぇ。でも聞いた話だとそろそろ精霊城も改築するそうよ?」
「え!あそこ改築するんですか!?確か築1万年と聞いて居ましたが、でも初代精霊王とその配下達が建てたと聞いていましたが、補修などはなかったのですか!?」
「いえいえ、あそこは1度たりとも補修された事は無いそうですよ。」
そんな精霊達の井戸端会議が聞こえ、とても平和に過ごしている。
そんな会話の途中、精霊達はとても強い気配を感じる。ふと3人の精霊が振り向くと、そこには銀髪の長い髪にルビーのように赤く輝く目をした精霊が通り過ぎる。
「あら、あのような精霊って居たかしら。」
「いえ、中央部では見た事ないわねぇ。」
「少なくとも私たちよりは長生きしてそうよねぇ。」
3人の感想を置き去りにして、アルネスは中央部の精霊城へと向かう。
そんな精霊城内部では、会議の真っ最中であった。
現精霊王は3代目であり、とても顔の整った男性の精霊だ。
「そろそろ城の改築素材が整うとの連絡を受けたけれど、いつほどから始められそうかな?」
「それに関してはいつでも、と言ったところでしょうな。」
「いつでも、とは言うが、霊力を使うのだ。それに精霊界を象徴する精霊城の改築だ。低位の精霊達ではすぐガス欠になる。」
そう精霊界の重鎮達が話す中、今代の精霊王であるティスカーンは、皆にこう伝えることにした。
「我々が住まう城なのだ。我々が肩代わりすればいいだろう。そうすれば低位の子達も動きやすくなるというものだ。それに、もし足りないと言うのなら、あの方に頼み込めばもしかすると…。」
「あの方とは?いったい誰なのでしょう。」
「我々よりはるか長い時を生きる古代精霊ですよ。」
と、ティスカーンはその笑顔を重鎮達に見せる。
そこにドアをバン!と開け入ってきた1人の精霊。
「誰だ!今は会議中だぞ。」
「ここが精霊王の部屋と知ってドアを破壊したのか!」
その女精霊は一言だけ告げた。
「ねぇ、ティスカーン。私そろそろ人間界に旅に出ようと思うのだけど、出る前に何か手伝ってあげようか!」
意気揚々と精霊王を呼び捨てにした彼女を前に、重鎮達は怒りを彼女に向けようとした時、
「やめたまえ!君たち。彼女に対して怒りをぶつけるのはやめてくれ。」
「し、しかし…。」と口をこぼすもティスカーンの言葉の重みに気づき、彼女に対し謝罪をし、席に座る。
「それで、どうされましたか。アルネス様。突然旅に出ると言われましても…、我々はどう対応すれば良いのか分かりません。」
その言葉に重鎮達は頷き、アルネスと呼ばれた女精霊に対し、説明を求めた。するとアルネスはまたも。
「対応なんてしなくていいよ!私が旅に出るから何か非常時が無い限り、戻らないという事だけを伝えに来たよ!それに昔の人間界とどれくらい変わったか私知らないからねぇ…。ずっとこっちに居たし…。だからいいよねー。」
「分かりました。アルネス様の要望とあれば受け入れましょう。それで手伝ってもらえるということでよろしいでしょうか。」
「うん!いいよ!なんでも言って!あ、体を求めるのは!無しだから!」
「そんな大それた事は致しませんよ。単に精霊城の改築を行いたいので霊力を貸していただきたいと。」
その頼みを聞いたアルネスはうーんと考えながら、 「いいよ!どんくらい霊力必要?1億くらいあれば足りる?」
「そんなによろしいのですか!?」
「たかだか1億程度使うのに考え込む必要なんてないない!そ、れ、にー。久しぶりだな〜。改築かぁ…。昔ここを作った時以来だなぁ…。うんうん。ところで改築の設計図と素材はどう?」
「それなら用意は済んでおります。今から始められます?」
「よし!いまからしよう!みんな見ててねー。【古代精霊術】土地改変!」
その術ののち、城全体が白く光り、その数秒後、ひび割れなどが全てなくなり、少しずつ腐っていた木の部分が全て若々しい状態へと変化し、新たに空間が3つも建てられた。
そのさまを見た重鎮達は、
「こ、これはいったい。3ヶ月を予定しておりましたが、たった数秒で終わるとは…。」
「そんな馬鹿なことが…。」
「ええ、ありがとうございます。アルネス様。」
エッヘンと言いながら笑顔になっているアルネスは、そのまま精霊門へと飛び去っていった。
そう、呆然としている重鎮達とティスカーンを残して。
アルネスは勢いのまま精霊門を抜けたのだった。
「ティ、ティスカーン様。あの方はいったい誰なのでしょう。我々はあの方を見た事はありません。ティスカーン様は会った事はあるのでしょうか。」
「いえ、私もありません。ただ私の祖父から常々聞かされておりました。」
(白銀の髪にルビーのような赤い瞳をした精霊には絶対に敬語は忘れないようにするんだぞ。)
(どうして?)
(それはあの方は精霊界の創造者だからだ。今は隠居なされているが実力は本物だ。もしそのお方だと判断できる場合は絶対に敬語を忘れるでないぞ!ティスカーン。後は身なりもしっかり整えておけ。)
そんな昔話を重鎮達に聞かせ、納得してもらうことが出来た。
(アルネス様の旅路が良いものであることを願います。)