里歌
「ひ、被害者・・・?」
私が、おそるおそる訊く。
「そう。ほら、香奈恵ちゃんの座っている席はどうして空いてたと思う?」
「先生が・・・用意してくれたんでしょ・・・?」
「ちがう」
東尾健吾が、ゆっくり首を振る。
「もしかして・・・」
「その『もしかして』だよ。そこに被害者が一週間前、座っていたんだ。座っていた子、俺の彼女なんだ」
東尾健吾が、ふっと哀しそうな表情を見せる。
「・・・里歌っていってさ、強気で笑顔がカワイイ子だった。俺が、里歌の異変に気づいたのは彼女がノイローゼになるくらいに、追いつめられて弱って来たころだった。部屋に閉じこもってさ、出てこねぇからメールしたら、なんて書いてあったと思う?」
「・・・わからない」
「『助けて』それだけだった」
「・・・・・」
「俺、不安になって電話してさ、出てこいっつってんのに、でてこないんだ。だから、もうあきらめて電話越しで話した」
「なんて言ってた・・・?」
「『こわい』って。『ヴァンパイアに殺される、助けて』って。里歌の話によると、初めに『学校に住め』ってメールが来たそうなんだ。最初は悪戯かと思って消去してたけど、なんかがきっかけで、信じ始めたらしい」
「なんかって・・・・・?」
「それが俺にもわかんねぇんだよ。俺が訊いたら、里歌は答えてくれなかった。『話したくない』『思い出させないで』の一点張りで、何かにおびえてるみたいだった。俺があの時、里歌の部屋に無理矢理でも乗り込んでてたら、今ここに里歌はいたのかな・・・」