美紗ちゃん
アパートの周りを見渡すと、駐車場やスーパーマーケット、コンビニが姿を見せた。
これなら、買物にも困らなさそうだ。
私は、アパートをぐるっと歩いて回る。
前に住んでいた華やかな都心とは違うけれど、この街はそれなりに居心地が良かった。
「え〜っと、ここかな・・・?」
私は、表札をみて呟いた。
『山西』と書かれている。
ピーンポーン
「はぁ〜い.今出ま〜す」と、奥から女性の弾んだ声が聞こえた。
扉から、顔をのぞかせたのは、茶髪のギャルの女性だった。多分二十歳くらいだろう。
「あれ〜?リッ君じゃないのかぁ。ざんね〜ん」
女性は、お母さんに似た甘い声で、ほおをプウッと膨らませた。
「で、なぁに?」
「あの、16号室に引っ越して来た緑川叶です。これからお世話になると思いますけどよろしくお願いしますっ」
「叶ちゃんは一人で住むの〜?」
「いえ、母と二人です」
「へぇ。ここよく泥棒来るから気をつけなよぉ??美紗もさぁ、女の子じゃん?だからぁ泥棒がよく入って来て大変だったのよ〜。まぁ、うちに入っても何も無いって分かってくれてぇ、もう来なくなったんだけどぉ」
私が名前を訊くと、別にどうでもいい事さえ教えてくれた。
女性の名前が、山西美紗都だということ。
二十一歳で、高校を中退して、今は飲み屋で働いている事。
趣味は、ネイルアートと買物だということ。
得意な事は、小さい頃やってたダンスだということ。
今悩んでいる事は、だんだん太ってきてお気に入りのジーパンがはけないという事。
彼氏がいて、その名前が井山莉希ということ。
その人が、とてもかっこいいという事。
そして、五年つきあっていてラブラブで、結婚を考えているということ。
そして私は、その女性を美紗ちゃんと呼ぶ事になった。
何故かは忘れたけど、まぁとにかく成り行きでということにしておこうか。