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もう一人
「叶、帰ろーよ〜」
お母さんが、おもちゃをおねだりする子どものような声を出す。
慣れたけど、はっきり言って大の大人のこんな声を聞くのは、気持ちが悪い。
「・・・うん」
私は、もやもやした気持ちで、部屋に帰った。
「あの人だけだっけ?このアパートに、住んでるのは」
「いや、もう一人住んでたような・・・」
「あ。じゃあ、いかなきゃ」
「えぇ〜!!」
「お母さんは、部屋にいていいよ?」
「やった〜」
お母さんが、万歳をして喜ぶ。
「いってきます」
「いってらっしゃ〜〜い!!」
お母さんの、ご機嫌な声に見送られて、私は部屋を出た。
「・・・お母さんに何号室か聞くの忘れてたよ」
・・・でも、多分あの人に訊くと、無責任な答えが返ってくるのが目に見えていたので、冒険も兼ねて部屋を探した。