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解説君

解説君と人工降雨

作者: 星野☆明美

解説君と人工降雨


横田正太郎博士の一人息子、(あきら)は深刻な顔でニュースを見ていた。

「豪雨災害のニュースですか?」

カタカタカタカタ……

キャタピラを鳴らしながら、ロボットの解説君がやってきた。

「どうしてこんな災害が起きるのかな?」

くるくるくる、ぴかぴかりん!

解説君の頭のアンテナが回り、両目が輝いた。

「気象関係のデータ収集完了」

「なんかわかった?」

「今回の集中豪雨は、停滞前線が長期間同じ地方に居座ったせいで起こりました」

「なんで停滞前線が長期間移動しなかったの?」

「停滞というとおり、なかなか移動しない性質の前線が居座ったのは、気圧配置が移動しなかったせいでもあります」

「気圧配置ってなんで決まるの?」

「はるか上空のジェット気流の流れなどの影響によります。昨今異常気象が起きているのは地球規模でジェット気流の流れに異常がみられるようになり、あちこちで豪雨災害や旱魃の被害がでています」

「旱魃?そっちへ雨雲を移動できないかな?」

「人工降雨はかなり研究が進んでいます。2021年1月、中華人民共和国で、人工降雨などの気象制御用のドローンが初飛行。ただし他国へ降るはずだった雨を減らすとして批判や抗議が起きています。」

「国際問題?」

「人工降雨を含む気候工学技術を国際機関などにより監督されるべきだとする『オックスフォード原則』が提唱されています」

ふうん、と暁は思った。

「旱魃や水不足への対策は研究が進んでいるのに、集中豪雨への対策は進んでないんだ……?」

「どこかの研究所の博士が『高気圧発生装置』を開発して試運転しようとして助手に阻止された、って話だ」

正太郎が暁の背後から近付いてきて、ソファに座っている暁の頭をぽん、と叩いた。

「それって、お父さん?」

「まさか」

正太郎は大げさな身振りで否定した。

「その博士は、小型装置で実験する工程をすっとばしていきなり本番やろうとしたらしい。俺はそんな怖いことしないよ」

「その『高気圧発生装置』って、何をする目的で作ったんだろ?」

「ザッツライト!」

正太郎は両手の親指と人差し指を立てて暁を指さした。

「停滞前線を移動させる目的!?」

「まあ、なんだな。あきらは今のところフラスコの実験でもやっていてもらうとして、研究は我々科学者連盟に任せてもらおうか」

「正太郎はこう言っていますが、フラスコの実験をしてみますか?あきら」

解説君が尋ねた。



「圧力と温度と湿度、それに雨の核になる物質が必要、と」

暁は大学ノートに実験の様子を模写しながら、僕はお父さんみたいにはならないぞ、って思ってたんだがなぁ、とぼんやり考えた。それから、解説君!以前はへんてこりんな嫌な奴だと思って毛嫌いしていたこともあったっけ……。

キンコン!

LINEの通知が届いた。

暁の彼女の江入杏からだった。

「横田君、元気?」

「元気」

「今なにしてるの?」

「フラスコに雨を降らす実験」

「またかわったことやってる」

「ほっとけ」

怒っているクマのスタンプを送る。

「にやけてますよ、あきら」

いつの間にか解説君が暁の横に立っていた。

「るせえ」

クッションを投げつける。

「……解説君。停滞前線の上空ではなにが起きてる?」

「暖かい空気と冷たい空気の勢力がほとんど等しい」

「均衡を崩せればなぁ……」

強力な風が吹いたらどうだろう?

「お父さんが言っていた博士の『高気圧発生装置』ってどんなのだったんだ?」

「なんでも、超巨大扇風機だったとかで、周りの地形を変えるくらい被害が出そうだったそうです」

解説君が抑揚のない声で言った。

発想は悪くないんだが、配慮が足りなかったわけだ。

「上空にドローンかなんか飛ばして、雨が降らないように上空の温度を上げるとかだめかな?」

「それだと積乱雲が発生するかもしれません。正太郎にきいてみては?」

「いや、もっとよく考えてからにするよ。またやりこまれちゃうから」

「そうですか」

「停滞前線になる前の温暖前線とか寒冷前線とかの段階でなんとかならないかなぁ」

キンコン!

また杏からLINEだ。

「今なにやってるの?」

「高気圧と低気圧のことで悩んでる」

「低気圧はやだな。頭痛がするのよ」

いや、それとこれとは、関係あるか?

「そうだ!圧力を変える装置を開発すればいいんだ。……でもどうやって?」

解説君に数式を出してもらったが、ちんぷんかんぷんだ。

「気圧は海面気圧、重力加速度、絶対温度、ボルツマン定数などで決定されます」

「ボルツマン?誰、それ?」

暁は突っ伏した。





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