第13話 癒しの力
二人を見る人々の目は明らかに変わった。
結局、最初にログがすすめた装備一式を二組銀貨30枚で購入し、そのまま身に付けている。
「単なる孤児から若い冒険者って所ですね」
人々からの視線をそう分析するラオフェン。
外套にすっぽりと身を包んでいるが、歩くたび、仕立ての良い服が見え隠れしている。
薫は小さな杖を手にして呟いた。
「魔法使いはやっぱり杖を使うものなんですか?」
「絶対ではありませんが、魔力の消費を抑えたり、魔法の質を高めたりできると聞きますよ」
「ラオフェンは持たないんですか?」
「俺のは生活魔法程度のものですからね」
と、ラオフェンは苦笑した。
自分が杖を振るい、呪文を唱える様を想像し、何かむず痒い気持ちになる薫。しかし「魔法使いは杖を使う」ことが常識であるなら、今後治療する際も杖を振るうほうが賢明だろうと思った。
ログの反応から見て、自分の治療の力が非凡であることは明らかだったから。
◇◇◇◇◇
ギルドに戻った二人を、ギルドマスターと受付リンベルトが迎えた。
どうやら登録は無事に完了したようだ。
リンベルトが二人分の金属板を持っている。
「こちらがレイ、こちらがラオフェン」
「ありがとうございます!」
薫が手にとってそれを見ると、そこには[闇夜の灯火][レイ][銅級]と刻まれていた。
仄かに温かく、そして軽い。
鉄とはまた違った質感の金属であった。
(あれ?)
何かに気付いた薫は、拾ったままにしてあった金属板を取り出した――怒ってギルドから飛び出していった、あの冒険者の登録章である。
「金属が違うだろう?」
と、ギルドマスターが話しかけてきた。
「比べると確かにそうですね」
「銅級用の登録章は価値の低い金属でできてるんだ。利点としては柔らかくて軽く、その場で簡単に加工できる」
対して、と、薫が持っていたもう一つの金属板を手に取った。
「銀級からは魔力が籠った〝魔鉄鉱〟ってシロモノで作られる。こっちは職人しか加工できないし即日で渡せないが、その分強くて硬い。売れば銀貨5枚くらいの価値はあるぞ」
そのまま金属板を机の上に置くマスター。
薫はへえぇと自分の登録章に目を落とす。
(これで正式にここの一員、だよね)
そして意を決したように、顔を上げた。
「私に皆さんを治させてください」
突然のことにマスターとリンベルトは唖然としているが、薫は構わず続けた。
「ここまで見て見ぬふりをしてごめんなさい。先に治療したら最初から贔屓されてしまいそうで、登録が終わってからと思っていました」
ギルドマスターが心配そうにラオフェンの方へ視線を送ると、ラオフェンはひと言「何も聞かず頷いてください」と言った。
それを聞いてリンベルトがまず頷いた。
「お願いできますか?」
優しい口調でそう尋ねてくるリンベルト。
彼にも黒いモヤがあった――胸の辺りだ。
薫は手をかざし、慌てて杖を取り直すと、改まった様子で杖を振るった。
まるで魔法使いのソレとはかけ離れている。
呪文はおろか、魔力の溜めすらない。
リンベルトは、祖父が姪を見るかのような、微笑ましい目線を送っていた――どこで知ったのか、彼女は登録のお返しに、皆の古傷を癒そうとしてくれているのだと分かったから。
魔族の剣が胸を貫いてからというもの、一命こそ取り留めたが、リンベルトは片方の肺機能を失い、長時間の運動が不可能となっている。
冒険者家業は半ば引退せざるを得なかったため、知識と経験を使い、受付業務という違う形でギルドに貢献していたのである。
その傷が――癒える。
「なんという……!」
大きく動揺したリンベルトを見て他の者達がざわついた。彼が動揺する姿など見たことがなかったからだ。
「治っている……すごい……」
それ以外の言葉がついて出なかった。
胸をさすり、刺し傷さえ無いことに気付く。
薫はそのまま狼狽えるギルドマスターへも治療を施した。
「まさか……」
彼の利き腕に再び力が宿ってゆく。
拳を握ったまま呆然と立ち尽くすマスター。
薫は料理長ブロンガスの足も癒し、怪我のため前線から退いた職員達を癒した。
各地でどよめきと歓喜の声が爆発する。
「治った、治ったぞ!!」「嘘よ、私の耳が……」「右目でも見える、見える!」
薫の癒しの力は機能を治すだけに留まらず、欠損した部位までも再生させていた。
光属性に癒しの魔法は存在するが、傷を塞ぎ、痛みを和らげる程度のものである――少なくとも欠損部位の再生など、最上級の治療薬でさえ不可能な奇跡である。
「うおおおお! レイイィィ」
「きゃ!」
闘牛の如く突進してきたブロンガスに担ぎ上げられた薫は、熱く語る彼の感謝の気持ちを、くすぐったそうに受け取った。
皆が薫の元へ駆け寄ってくる。
皆一様に涙を流し、感謝の言葉を述べた。
薫は精一杯の声で叫ぶように言った。
「これからは精一杯、ここの一員として頑張るのでよろしくお願いします」
もちろん、拒む者などいなかった。
「登録が完了したから……ってことだよな?」
全てを悟ったように言うマスター。
薫は苦笑を浮かべ小さく頷く。
「全く――」と、涙を拭いてマスターが笑う。
「こりゃあとんでもない逸材が二人も入ってきたな。かつての灯火を取り戻せるぞ!」
沸き立つ職員達。
この場にいた全員の持病及び怪我が、綺麗さっぱり回復していたのである。
それはギルドにとってこの上ない追い風だ。
少なくとも闇夜の灯火の主戦力だった、
金2級冒険者[竜人 キルヴァ]
金2級冒険者[暗殺者 リンベルト]
金3級冒険者[豪炎の斧 ブロンガス]
この三人の戦線復帰を意味していたからだ。
大歓声に包まれるギルド内。
薫はラオフェンへと振り返った。
「杖の使い方、合ってました?」
ラオフェンはそれに微笑みながら答えた。
「いえ、全く」
(ひどい!)




