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SFC 弁慶外伝 沙の章

SFCのマイナーRPGをやってみた感想文です。

この作品は単一の評価が難しいです。

RPGとしてのストーリーはSFCの中では最高クラスだと思います。ストーリーの長さも、私がプレイしたSFCのRPGの中で一番長尺でした。この前プレイしたドラクエ2の3倍くらい、わりと長尺なヘラクレスの栄光3と比べても倍近く話が長いように思えます。しかし、これだけ長い話でも1280年前後のほんの僅かな期間の出来事の話をゲーム進行の時間経過ごとにきちんと纏められているし、日本国内は勿論、元(中国)、モンゴル、高麗(朝鮮半島)などの各町の人々一人ひとりに各地域性や世情を長文で話す台詞があり、このゲームを作るのに一体どれくらいの情報収集をしたのだろうかと感心出来るレベルです。FC天地を喰らう2などとは比べものにならない、後半などホントに歴史物の韓国ドラマを観ているかのような、没入感が半端ない素晴らしい出来のストーリーでした。

大まかなストーリーは以下のようになります。

1274年の蒙古襲来(元寇)を神風によって退けてから数年後、鎌倉幕府8代執権 北条時宗の時代。時を同じくしてモンゴル帝国の皇帝フビライ・カンは、日本侵略の際に突如吹き荒れた神風は日本の神道者達による呪術だったんじゃないかと考えるようになっていた。以来、フビライは呪術の力を妄信するようになり、自国内からも支配下にあった元(中国)からも呪術師を集め、その中でも最も強力な呪術師4人を四界将として自分の側近に置くようになっていた。そのようにして呪術でも日本を圧倒できる状態を形成した上で、二度目の日本を襲撃を計画していた。(かなり捻じ曲がったストーリーですが、実際に元寇は二度ありましたし、モンゴル帝国内で実際にどのような策略があったのか不明なため全部が全部フィクションとは言い切れない雰囲気を大真面目に演出しきっているのが面白い)

さらに、襲撃を完璧にするため、フビライは四界将の一人『呪塊』を事前に日本国内に潜入させ、日本を内部から弱らせてから襲撃の機を図ります。

呪塊は日本に潜入すると、得意の呪術を使い日本に妖怪や魔物を大量に沸き立たせ、日本国内を混乱させ始めます。突如大量に現れた魑魅魍魎によって日本国内はパニック状態に陥った事で時の執権 北条時宗は全国の神社仏閣の法力者に妖怪討伐の令を出し、この時、土佐の寺院で修行をしていた主人公も、その寺の住職のお供で妖怪退治に出発するという場面がゲームのスタート地点となります。

ゲーム開始早々に最終クラスのボスと戦い、住職も仲間の修行僧達も消えてしまい、見ず知らずの新たな仲間が2人加わるなど急展開のオンパレードですが、こんな調子で超長尺ストーリーが最後まで続くので、多少の突飛さは大目に見てあげても良いかと思います。

全体のストーリーは2部構成で、日本編と中国大陸編とに分かれます。

まず日本編は呪塊の潜伏先に張られた結界を解くために必要な6本の水晶を求めて桜島から稚内まで日本各地を歩き回り、『実は死んでおらず、日本がピンチになった時まで眠り続けていた』という弁慶を目覚めさせて一緒に呪塊を倒すという物語。

日本編はクリスタルを集めて洞窟の封印を解いてラスボスを倒すという、ごく単純なRPGで、ハッキリ言って普通です。ボスもダンジョンもイベントも多く、つまらくはないけどとりわけ面白いと思う事も無い普通のRPGです。

中国大陸編は、残りの三界将とフビライ・カンを倒すため大陸に渡って広大なマップを進んでいくRPGとなりますが、こっちが面白い。中国大陸編は水域の移動手段が恐竜だったり、タイムトラベルをして卑弥呼に会ったり、多次元に神々の住む世界があったり、途中で出会った謎の少女が西王母の妹だったりと話が滅茶苦茶ではあるのですが、それらを史実と結び付ける事によって、今まで不明だった歴史の謎の部分が無理矢理ではあっても繋がり、確かに筋が通ってしまう話の面白さ。また、各地域の人たちの話の内容のリアリティが、この荒唐無稽な世界観をさも有り得るように繋いでいます。このストーリーを作った人って本当に歴史に詳しいと思いますし、歴史の空白部分に多次元宇宙論や、時間の概念を超越して卑弥呼が干渉していたなんて発想で空白を埋めて前後をきれいに繋ぐって、ホントに頭のいい人じゃなきゃ出来ない仕事だと思いました。ネタバレですが、ラスボスのフビライ・カンは実はいい人です。祖父であるチンギス・カンの名に恥じぬよう懸命に生き、それでも一度目の日本襲撃に失敗したことで呪術に頼るようになり、四界将などという悪の力に惑わされ、最後には死んだ四界将の魂が体に入り込んで体を乗っ取られた形で主人公達と戦いますが、主人公達に倒されると『これで良かったんだ、ありがとう』と言って崩れゆく魔導宮から逃げずに宮殿と共に闇に呑まれて消えて無くなります。

最後、フビライ・カンの命令によって既に出航していた当時世界最大の元寇艦隊は魔導宮の消滅によって生じた衝撃波によって大多数が沈没し、二度目の日本侵攻も神風によって失敗に終わったという下りで幕を閉じます。

時代物という事もあって、このゲームでは道中で出会った仲間がとにかくよく死にます。それぞれの死因も、一夜の宿に借りた家の者を守るため魔物に殺されたり、弱いくせに主人公達の盾になって無意味に殺されたり、主人公にかけられた呪術を解くために自分の命を差し出したりと全てにドラマがあり、全て重い内容です。仲間が容易く命を失ってしまうような時代の話とはいえ、逆にそれがリアルです。

全体としてとても長いストーリーのゲームなので全てのチュートリアルを書く事は出来ませんが、特に印象に残った部分だけを抜粋してネタバレを書いてみます。

先ずやはり、ゲーム開始早々に戦う羅観というボスが印象的でした。羅観は呪塊の同志でありライバルのような存在で、呪塊と一緒に日本に来ていた人物ですが、ただの敵という訳では無く、『自分の強さとこの国の行く末を量るため』だけに主人公を見出して戦いを挑みに来たというボスで、終盤のボス並み強いため戦う間だけ主人公のレベルを50まで上げてくれて、五分五分の力で戦う事になります。最初のボス戦で勝つか負けるか運次第になりますが、ここで羅観は主人公に敗れると姿を消し、最終盤で再登場して主人公を助けてくれる事になります。

次に印象的だったのは、主人公が最初にお供するはずだった才蔵という僧侶の死。これは日本編の中盤で『才蔵の最後を見た』という僧侶の回想で映されます。

次に最初から主人公の味方として登場してきた仲間が狂舞という呪塊の手下にあっさり殺されてしまうシーンが印象的でした。この殺されてしまう仲間は、小間使いというか小僧というか、チョロチョロと主人公達の周囲に付いて回るようなキャラで描かれており、主人公達が弁慶の眠る祠までやって来たときに後を追ってきた狂舞を一人で食い止めると言い出して狂舞にやられて無駄死にします。弁慶は全編通してNPCでグダグダだし、狂舞は主人公達が戦えば余裕で勝てる中ボス。その傍らで床に広がる血の海に倒れているこの仲間の絵はとても印象的でした。

次は中国編で出会う事になる卑弥呼にまつわる話。

かつて対馬に邪馬台国を築いた卑弥呼は娘を中国大陸に送り、その娘が西王母となったが、やがて西王母は自身の出生の地を自国の物にしようと対馬併合を計画する。しかし、後漢の高官達は西王母の意を利用して対馬を併合ではなく武力侵略してしまう。その際、卑弥呼は佐渡に逃れ、その最強の呪術によって後漢の軍隊を呪い殺して日本への本土侵略を阻止した。以来、卑弥呼は娘である西王母も大陸の人々をも恨むようになり、西王母は自分が引き起こした過ちを悔やみ続けているという内容。ゲーム内では別次元で時間軸も無い霊境 崑崙という場所に行って西王母と会うことにもなり、仲間の一人 鳴沙 という記憶喪失の少女が実は西王母の妹だったというぶっ飛び展開にもなります。

大体、中国創造の女神とされている西王母が日本由来だったなんて仮説、今の時代に口にしたら国際問題になりかねないでしょう。邪馬台国が対馬にあったとか、卑弥呼は佐渡に落ち延びたとか、全てが今ではタブーな話だと思います。それをここまで堂々と言っちゃてるこのゲーム、面白いですよ。

さらに、中国編での各町の人々は基本的にモンゴル帝国のやり方にウンザリしているといった会話をして、少林寺や達磨、果ては兵馬俑まで動き出して結託してモンゴル帝国を打ち倒そうと決起して、最終的に源義経の遺言と弁慶という日本のスター達の手によってモンゴル帝国の皇帝フビライ・カンを打ち取って二度目の元寇を防いで日本は平和になりましたって、ストーリーが良く出来過ぎているだけにヤバいでしょう。中国当局がこのゲームの存在に気が付かない事を願いたいくらい。

このようにストーリーは最高に面白いのですが、システムのクオリティは、同じSFCの『RPGツクール2』で素人が作った物と全く同じレベルです。おそらく、RPGツクール2に没頭したことのある人にとっては、とにかくこのBGM、さらに作画を見ただけで頭痛や吐き気さえも覚えるんじゃないでしょうか。もうトラウマしか感じないものなのでやめておいた方がいいかと思います。まあ、それくらいRPGツクール2というゲームがトラウマ必須なヤバいゲームなだけですが、ただ、『RPGツクール2でここまで出来たら、そりゃ製品化されるだろうな』って誰もが納得出来るくらいこの弁慶外伝 沙の章は良く作り込まれているゲームです。素人が精神崩壊するくらい没頭しても到底出来ない『本業の人たちが作ればこれくらい出来るんだ』っていう『RPGツクール2の最上作例』みたいな作品です。

RPGツクール2から、この作品独自の追加要素というのも幾つかあります。例えば、主人公の名前入力の際にフォントをドットから作れる事によって実質使える文字、フォントが無限になっていたり、コンフィグで戦闘画面に主人公達を表示したりしなかったり選択出来るようになっていたり。しかし、こんな要素はRPGツクール2に没頭した人たちだけが『うわぁ、スゲー進化してる』って思うだけであって、RPGツクール2を知らない人たちにしてみれば『なんだコリャ?』な面倒でしかない仕様です。

このソフトは『その程度』の出来なのでチャプター画面を一見しただけならクソゲーにしか見えないかもしれません。作画の書き込みもシステムも操作性も本当に呆れるくらい二級品です。同じようなテイストのSFCソフトとして『鬼神降臨伝 ONI』の方が知名度は高いですが、グラフィックやシステム面はONIシリーズの圧勝といった感じで、鬼神降臨伝 ONI は基本的に歴史に忠実で時間の超越やSF要素は登場しない、弁慶外伝 沙の章 はSFファンタジー要素が強く、歴史の空白をフィクションで埋めて上手に繋げたストーリー、という根本的な大きな違いもあります。また、弁慶外伝はPCエンジンからのSFC移行シリーズなので一枚絵演出が多いのですが、SFCはドットが荒く一枚絵には向かないので、これはアピールポイントには成り得ていないクオリティに留まっています。

しかし、じっくりと時間をかけて良作ストーリーのRPGを楽しみたいと思うなら、この弁慶外伝 沙の章はお薦め出来るゲームだと思いました。

とにかくストーリーが面白いゲームだと思いました。

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