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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

贖罪

作者: みとき

よく分からん。小説むずいですね。

先月本を読み始めて、自分も作ってみたくてつくりました。

10分もかからず読めると思うので、楽しんでください。

※年齢の指定を忘れてました。すみません<(_ _)>

登場人物のみさき、文義、貴樹。この3人は、19歳です。







贖罪


  

   

    

    

    [{協奏曲第五番「運命」}]

 〜世の中に起こる運命や偶然。それらはすべて、必然の連打にすぎない〜       

   -ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン-







 

 

 

 


 

 あの日、僕らは御呪いをかけ、かけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一章:「仕掛けと御呪い」


 蝉時雨が鬱陶しい真夏。こんな季節に外出するなんて馬鹿馬鹿しい。こんな炎天下の中でイベントを楽しめる人が不思議でしょうがない。

 俺は冷房のよく効いた和室に、友達の彼女と二人でいた。

 彼女は片木みさきという名前で、彼氏の荒木文義いわく行動力のある女性。出会いは逆ナンという稀な出会い方でその時の文義の浮き浮きぶりは印象的だった。その彼女が彼氏にドッキリをしたいと言うので二人だけで会う事になった。二人で会うとなると少し緊張するもんだなと貴樹は思った。だがそんな緊張も直ぐに吹き飛んだ。社交性のある彼女は緊張を解すのが上手いのだろう。文義はしあわせだなと思った。



「ねえ、貴樹くんどう?結構面白そうじゃない?」


 彼女は、その日に行う仕掛けを説明し、そして彼氏の友人である櫻井貴樹に協力を求めてきた。


「面白そうだね。俺も協力するよ。でも二ヶ月記念日の日で本当にいいの?」

 俺は記念日をそんな日にして本当にいいのか気になって聞いた。

「うん、別に気にする事ないんじゃない?むしろそっちの方がいい気もするよ」


 そこには、優柔不断にも思える答えがあったが、これはきっと優柔不断なんかじゃない。むしろ昔から考えてさえいるような感じがした。


「そうだ!この仕掛けの名前!

 名付けて心臓が止まるくらい驚いちゃうでしょうドッキリ!」


 みさきは幼稚な言葉を並べて、自信に満ちた表情で言ってきた。それが可笑しくて、つい笑ってしまった。

 彼女には周りの空気を変える力があるのだろう。良いようにも悪いようにも。

「ちょっと貴樹くん!今私の事馬鹿だなあって思ったでしょ!」


 ああ、自覚あるんだ。まあここは一応謝っておこう。

「ごめん」

 俺は一礼して詫びてみせた。


 そう言うと彼女は勢い付いたかの様に言ってきた

「本当に思ってたんだ!なんて薄情な人!」


 それを君が言うか。俺はそう言おうと思ったが、やり返しが怖くて言うのを止めた。

 俺らは紅茶を飲み一服をした。

 そう言えば中二の頃、同じクラスメイトのみさえって子もこの紅茶が好きだったな。俺は苦い思い出を紅茶で流し込んだ。俺はただの傍観者に過ぎない。


 それから計画を再確認し、頭に叩き込んだ。

「じゃあ、七月七日十九時に、文義くんをちゃんと誘導してね。忘れないでね。」

 忘れないでね、、、か。彼女は何かを見透かしてる様な感じがした。

「大丈夫。ちゃんとするよ」

 彼女は確認が取れると立ち上がり、玄関に向かった。

「そうだ、次は見てるだけじゃ駄目だよ?」

「うん、大丈夫」


 やっぱり彼女には力がある。

 文義はきっと、彼女のこうゆうところに惚れてしまったんだろう。






 第二章:「あの日」

 七月七日今日は彼らの記念日の日だ。

 俺は文義を誘導するべく、遊びに誘っていた。午後三時に最寄り駅集合にし、近くのお店で適当に時間を潰していた。たわいも無い会話をだらだらするだけだった。

 喫煙所から戻ってくると、文義が浮かない顔で尋ねてきた。

「なあ、貴樹。今日がなんの日だか、わかる?」


 文義は少し寂しそうに言った。寂しがるのも無理ない。恋人関係で記念日を忘れられてるなんて知ったら多分誰だって落ち込む。人によるが。

 まあ一ヶ月毎の記念日なんてほぼ意味ないだろけど。貴樹は心の中でそう呟いた。


「うん。わかるよ。記念日だろ?」


「そうだよ。貴樹でも知ってんのに、彼女が覚えてないってどうゆう有様だよ。」


 彼女がいるだけマシだろう。世の中にどれだけ彼女が欲しいと思ってる人がいると思ってんだ。まあ、そんな事、文義には考えられないだろうけど。


「お前って可哀想だな」


 貴樹は皮肉九割で文義に言った。

 もちろん、文義には伝わってないだろうが。俺は言えただけで充分だった。


 スマホを開くとみさきからメッセージが送られていた「もう準備終わったし、帰ってきて良いよ」計画より二十分早かったが、早く実行に移して欲しいのだろう。俺も文義の驚いた顔を見たいし、実行に移す事にした。

「なあ、文義。お前んち寄っていい?忘れ物あってさ。」


「ああ、いいよ。てか俺の家今日泊まる?みさきとも、約束ない様なもんだし」


 文義はあっさり了解した。しかも、泊まりまで出来るとは。久しぶりだから少し嬉しかった。まあ叶わないだろうけど。どうせドッキリの後、俺は一人で家に帰るんだ。俺はみさき応援十割りの気持ちで文義と彼の家に向かった。彼に情けなどいらない、派手にやってしまえみさき。非リアからの切ない願いだった。しかし切ない願いを叶えてくれる彼女はリア充という、、、なんと虚しいものか。

 貴樹は文義よりも落ち込む羽目になってしまった。


 トホトホと歩くうちに、文義の住むアパートに着いた。辺りは街灯が着き始め、あと少しすれば夜になりそうだった。

 以前大学生の一人暮らしの家は大抵ボロアパートなんだろうなと想像をしていたが、彼のアパートはそこそこ綺麗だった。


「文義鍵開けて」

「あいよ」

 文義は鍵を開け扉を開けた。だが少し開けたところで手が止まった。異変に気づいたのだ。


「なあ、変な臭いしない?」

 異臭だ。これは彼女の凝った細工の一つだ。

「いや、俺はなんも感じないけど」

 もちろんハッタリだ。とりあえず中に入らせない事にはことが進まない。


「気のせいか?そんな訳ないけど、、、まあいいか」

 やっぱりこいつは正真正銘のアホだな

 貴樹は心の中で呟いた。


「っ、、!?」

 扉を全開にすると腐敗した死体の様な臭いが、鼻を刺激した。

 思わず息を止めてしまうほど嫌な臭いがした。すると奥から七夕の時に流す童謡が流れていた。それがとても奇妙でタネを知っている貴樹さえもたじろいだ。彼女は本気なのだ。


「どうなってんだよっ!!」

 彼は怯えた犬の様に震えた声で吠えているかの様だった。とても滑稽だった。気づけば文義は尻餅をついて、青ざめていた。

 文義の五メートルくらい前にはポツンと中学生くらいの女子が廊下に立っていた。

 もちろん、みさきの姪っ子だ。

 姪っ子は七夕の衣装を着ている。だが頭から爪先まで彼女は血の色に染まっていた。フローリングの床までびっしりと。異臭、あり得ない光景、そして七夕の童謡が文義を恐怖の底まで突き落としたのだ。


「ねえ、忘れないでね」

 姪っ子はそう言うと手紙をレンジの上に置いた。


 すると奥の方から見覚えのある彼女が姿を現した。

「ジャジャーン!!どう驚いたでしょ!ドッキリ大成功!文義くんは今日の日を一生忘れないでしょう!!ちなみに今日の日のことを私はずっと覚えていたよ」


 奥から心底楽しそうに元気溌溂な声でみさきが種明かしをしてきた。

 種明かしをしたし、俺の出番はもうないな。ドッキリは無事成功を迎えた。

 にしても、ここは賃貸だぞ?と思ったが口にはしなかった。貴樹は文義の安堵を確認するべく文義を注視した。

 すると何故だろう彼はまだ怯えている。するとだんだん怒りの形相に変わっていったのがわかった。


「いい加減にしろ!三人とも家から出てけ!!全然笑えないからな!」


 ドッキリって言ってるだろ。と言おうとしたがとてもそんな雰囲気ではなかった。彼は本気で怒っている。

 やっぱり賃貸だとまずかったかと思った。これじゃあ成功とは言えないな。


 しょんぼりしながら渋々三人は家を出ていった。


「いや成功し過ぎた!!二人ともありがとっ!!あれは正に平成を代表とする傑作だったよ!!」


 すこし離れた後みさきは爆笑しながら言った。今そんなことが言えるなんて正気の沙汰じゃ無い


「君には人の心が無いんだね」

 と俺は皮肉一割りで言った。


「そんなのいらないでしょ、仕掛けるときは邪魔になるだけだよ」


 平然と彼女はそう言った。

「まあ、そうだな」

 帰りは三人で七夕の童謡を歌いながら帰った。通行人には冷たい目で見られたがそんなのはどーでも良かった。

 俺たちは何度も何度も同じ歌を歌った。ただし一番だけ。それが心地よく、昔に戻ったかの様な既視感があった。






 第三章:「偶然」


 文義は三人がいなくなった家に入り掃除を始めた。

 ったく、あの三人派手にやりやがって。ここは一応、賃貸だぞ。

 ところで臭いはどこからだ?

 文義は辺りを見渡した。すると風呂場に灯りがついてるのに気がついた。

 風呂場に行くと浴槽に溜まっていた水が暗赤色に染まっていた。まるであの日のかのようだ。

 苦い思い出にふけていると、さっきの、言葉がもう一度頭の中で再生された。

「ねえ、忘れないでね」

 文義は鳥肌が立っているのに気がつき、頭を振って言葉を忘れようとした。だが、なかなか消えてくれない。

 ずっと頭の中でずっと反芻しているのだ。

 はあ、何でこんな目に。。

 すると急に耳鳴りがした。


「そう思ってるのはお前だけじゃないぞ」


 っ!!?なんだ今のは、、

 文義の頭の中で女の子がそう言ってきた。その直後激しい目眩がした。そして彼は全身から力が抜け尻餅をついた。意識が朦朧とするなか、文義を現実に連れ戻す何かがあった。

 それは浴槽の中から浮かび上がる、死体らしき物体と誰のか分からない夥しい量の髪の毛だった。


「っ!!どうなってんだ!!いくらなんでも度が過ぎてる。。」


 あの三人はどうかしてる。これがただのドッキリかよ?いやこーゆうのがドッキリって言うのか?もしそうなら、、と修羅場的状況でも文義はどうしようも無い阿呆だった。そして無責任の塊だった。だが同時にそれが彼の今の救いでもあった。


 文義はとりあえず家から出ようと立ち上がり、風呂場を出た。

 そして手紙の事を思い出し、

 手にするやいなや、彼は満喫に向かった。


「あんな酷い臭いがするんだ、仕方ない」



 第四章:「兆し」

 貴樹は浅い眠りから起きた。

 今日は、昨日の快晴とは裏腹に雨が降っていた。雨音が心地よく、高樹はその音を聞きながら目覚めの一服をした。

 スマホを見ると、文義から連絡が送られていた。

『今日、俺の用事に付き合ってくれ』

 用事の事はすぐにわかった。昨日文義は怒っていたが、、そう思ったがその答えも、すぐにわかった気がした、多分頭を冷やしたんだろう。

 俺らは十二時十五分に駅近のバス停への集合を約束した。


 貴樹は十二時十分にバス停へ着いた。

 文義もちょうど今来たみたいだった。


「おはよ」

 文義は昨日の事が無かったかのように、平然としていた。

「おはよ、もーすぐでバス来るね。」

「だね。」

 なんか、話しづらいな。貴樹はそう思っていた。

 少しばかり、沈黙がつづいた。暫く貴樹はぼーっとしていた。それを気づかせたのは、バスの停止音だった。

 文義は、手帳を見せると後ろから二列目の席に座った。貴樹は220円を支払い、文義の横に座った。


 それから、しばらくして貴樹は思い出したかのように、文義に言った。


「文義、俺が今から出す問題に答えて」

 文義は少し不思議そうな顔をしたが、

 いいよと言ってくれた。


「じゃあ、問題ね5929をX二乗の形にして。ただし±√xは無しでね。ちなみに、この問題に正解しなかった_____ね」

 文義はひどく動揺し、あの日のように青ざめた。しかしすぐしてから、目は澄んでいき、落ち着きを取り戻した。いや、いつも以上に落ち着いていた。


「櫻井くん。この問題誰が考えたの?少なくとも数学科ではないよね。中学生が考えた問題みたいだね。」


 誰が考えたかなんて、どーでもいいだろ。早く答えろよ。貴樹は心の中でそう呟いた。


「問題を誰が考えたかは、秘密。それより、答え出た?」

 貴樹がそう言うと、文義は微笑して頷いた。


「うん、出たよ。答えは±77。それと、秘密ってことは考えたのは君じゃないんだね。」


 っ、、、。貴樹は動揺した。答えが出たのにも驚いたが、あの少しの間で問題を作ったのが俺じゃないって気づいたのか?

 高樹は、嫌な寒気を感じていた。


「まあ、いいや。頭使ったし眠たいから寝るね。着いたら起こして。」


 わがままにも思える彼の言葉。でもわがままなんかじゃ無い。

 貴樹は、煙草を吸いたい衝動を堪えて、窓外に目を向けた。靉靆あいたいな空が自分の心模様を表しているみたいだった。



『八王子霊園』

 文義は目の前の墓地に既視感は覚えた。

 俺、何でここに来たんだろ。でも、来なきゃいけない気がするのは確かだ。あの子の墓にお香を立てないと。


「貴樹、俺とある子のお墓の御参りしないといけないんだけど、その子のお墓の場所よく覚えてないんだ。それ探すのに、少し時間食うかも知んないけど、いい?」

 文義はすこし申し訳そうな顔をしていった。


「全然いいよ。俺どうせ今日暇だし」

「ごめんね。ありがとう」

 文義は謝罪と礼を言い。墓地に足を踏み入れた。貴樹も彼に付き添った。


 雨の日の墓地は不気味だった。土はぬかるみ、湿った空気が彼らを包んだ。

 彼らは目的の墓を探していると、見覚えのある女性を見つけた。しかもその女性の前には、探していた子の墓だったのだ。文義は、不審がった。


「何で、、、みさき、この子は君の知り合い?」

 文義は、動揺を出来る限り殺し、感情を抑えながらみさきに質問をした。


「んー誰だろう?あたし知らない人のお墓に御参りするの趣味にしてんだよねー。知らなかったけ?」


 みさきは、ふざけた態度で縁起の悪い事を淡々と言った。

 動揺と焦り、そして理解に苦しむみさきの言葉に文義の抑えていたどす黒いものが、あらわになった。


「お前、何ふざけた事言ってんの?

 昨日からずっとおかしいぞ、それに、」


「だから?」

 みさきは文義の言葉を遮るように言った。


「っ!?だからってなに?」

 握ってた拳に力が入った。


「そのまんまだよ。あのね文義くん。あたしの素敵な趣味に口出さないでもらえる?」

 みさきは当たり前のように言った。


 空いた口が塞がらないとはこの事か。

 文義は失望したかのように、俯いた。


「貴樹、ごめん。俺気分悪いから一人で帰るわ。」


 そう言って彼は踵を返した。

 彼の姿が見えなくなった頃、みさきは泣いていた。


「ごめんなさい、、っ、本当にごめんなさい」

 彼女は、ひくひくと泣きながら膝をついて言った。

 だが彼の居ないこの場では何の効力を持たない言葉だった。





 第五章:「贖罪」


 午前十一時、貴樹のスマホに電話がかかっていた。見覚えのない電話番号に貴樹は不審に思った。

 誰だろう?

 貴樹は不安を殺し電話に出た。

 すると、落ち着いたおじさんの声が聞こえた。


「もしもし、こちら八王子警察のものです。この電話は櫻井貴樹さんでお間違いないでしょうか?」


 警察?貴樹は疑問に思った。しかも自分の名前を呼ばれた事で少し緊張がはしった。


「はい、貴樹ですが。なにか?」


「昨日の事でお伺いしたい事があって電話させていただきました。今日何か予定はありますか?」

 電話の主は落ち着いていた。


 貴樹は特に用事も無かったので要求に応じた。

 そして貴樹は生まれて初めて警察署に行くことになった。



 さっき電話の主が今目の前にいる。

 名前は高田淳。刑事らしい。見た目は五十代くらいのおじさんで、やや貫禄のある人だった。


「櫻井さんは荒木文義さんをご存知ですよね?彼、昨日事故に遭って今病院に居るんですよね。それで、昨日彼といたあなたに昨日の事を詳細にお聞きしたくてこの場を設けました。どんな些細な事でも構いません、お話しください」


 貴樹は自分よりもうんと年上の人に下手に来られたのが初めての経験の為、不思議な感覚に陥った。


 そして貴樹は、目の前の刑事に昨日の事をある程度話した。


「そうですか。。。」

 刑事は少し困った顔でそう言った。

「あ、そうだ櫻井さんこの手紙ご存知ですか?」


 刑事は内容を写真で見せてくれた。


     『 一緒に桶りましょ。

              みさえより』

 っ!!みさえ!

 貴樹の知っている名前がそこに記載されていた。


「このみさえって人心当たりありますね?」

 この時初めて、目の前の刑事が刑事の顔になった。


「はい、、この手紙、タチの悪い悪戯ですね。文義がこんなの持ってたなんて、、」

 貴樹は驚きを殺しながら言った。


「悪戯ねぇ。櫻井さんはどうしてそう思ったんですか?」

 刑事は丁寧な言葉でそう言ったが、目は鋭かった。


「それは、、文義君の元彼女でしたから。それにその子、もういないですし。亡くなった彼女の名前を使って手紙を書くなんて、誰でもそう思いますよ。」

 貴樹がそう言うと、刑事は、「そうですよね、嫌な思いをさせてしまい申し訳ありません、つい職業病で。」と申し訳なさそうに謝ってきた。

 貴樹も年上に謝らせたのが申し訳なく、「お気になさらないでください」と皮肉一割の気持ちで言った。

 その後、二人は最近の文義についての話を長々とした。彼とは何時に連絡をとっているか。彼は食事をどこでいつも摂っているか。彼はバイトをしているのか。と本当に細かいところまで聞いてきたので、貴樹はすっかり疲れてしまった。


「櫻井さん長々とお付き合わせてしまい申し訳ありません。次が最後の質問となりますので、どうぞ気楽に話してください。」

 貴樹はその言葉に不思議と安堵を感じていた。


「櫻井さん、七夕事件についてご存知ですか?」

 

 その言葉によって先程の安堵は全て嘘寒さに変わった。


「え、、刑事さんもしかして、それって五年前に起きたあの事ですか?」

 貴樹は机の下で、硬く拳を作りながら言った。


「はい。そうです。まあ有名ですもんね。知ってても不思議ではありません。あまり気にしないでくださいね。」

 そう言いながら、刑事はメモ帳に何かをメモした。


「質問は以上となります。本日はご協力頂きありがとうございました。お気をつけてお帰りください。」

 刑事はトカゲの尻尾を切ったかのように言った。

 貴樹はその感じが少し嫌だった。


 刑事は出口まで、貴樹を案内した。


「あ、そう言えば刑事さん。僕の姉のこと知ってますか?腹違いの姉で『赤坂 薫』って言うんですけど。」

 貴樹は大事な事を忘れていた。


「え、ああ。君があの子の弟さんだったんですね。もちろん知ってますよ。私共も調査に加わってるんですけど、未だにまだ彼女の居場所が分からなくて。。。ご期待に応えれなく申し訳ないです。」

 刑事は丁寧な言葉で謝罪した。


 そっか、お姉ちゃんまだ見つかってないんだ。。


「貴樹さん今日はありがとうございました。お姉さんの事は必ず見つけます。」

 今度は心から言ってるようだ。刑事のその姿勢に、貴樹は少し安心感を覚えた。



 貴樹は帰り道、七夕事件の事について思い出しながら帰った。


 七夕事件。今頃の歳だったら殆どが耳にした事がある事件だろう。あれは俺がまだ中二の頃に起こった事件だった。それも未成年の犯行による殺害事件。犯人、被害者どちらもまだ十四歳だった。七月七日に起きた、七夕事件はあまりの残虐さに、当時の新聞やニュースは七夕事件で独占していた。被害者である少女(坂田みさえ)の遺体は、全身の肌が焼け剥がれ、体には鯉の餌が塗りたくられていた。終いには池に捨てられた。池はあまり大きくなく、少女の出血で赤く染まっていた。

 そして警察が来た頃には、少女の周りには夥しい鯉が群がったていた。鯉の牙は鋭く少女の身体には無数の傷を残し、箇所によっては腸のような物もとび出していた。遺体はもう、遺体と言えるようなものでは無かった。

 そして犯人である少年は、罪の重さに耐えきれず九月四日に刑務所内で、舌を噛んで自殺した。俺はニュースでその事を知った時思った、こんなサイコパス野郎が、自殺なんてするはずがないだろと。

 そして、みさえの彼氏である荒木文義は将来を期待される神童で、史上最年少の数学オリンピックの銀メダリストだった。だが彼も、人の子だった。事件の翌日、彼の知能指数は七十と大きく下がり、前とは全く別の人格者となってしまった。記憶も朧気で殆どのこと忘れてしまったらしい。


 俺はあの時事件の当日、プレゼントでもらった双眼鏡で全て見ていた。だが、止めることも出来ずただ遠くから、ずっと見ていた。携帯もなく通報も出来なかったから、俺はただ見ていた。傍観者と言われても仕方が無いだろう。だが、俺は瞬きも忘れるくらい集中して見ていた、ずっと見ていた。途中で吐きそうにもなったが、堪えてずっと見ていた。燃やす姿も、少女の泣く顔も、犯人の笑う顔も見ていた。俺はずっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、犯人の顔を覚えるために。













 そして、一度も忘れた事はない。それが、俺にとっての『贖罪』なんだから。忘れはしないよ。「うん、大丈夫。」

 貴樹は微笑みながら、そう独り言をした。

 

 

 

 

 

 

 第六章「運命」

 

 七月九日午前九時。

 貴樹は、深い眠りから目が覚めた。昨日のことを思い出し、決意した。あの二人と関わるのはもうやめようと。貴樹は携帯をとり、『さよなら』とうち、文義に送信した。そして携帯を捨て、引っ越しをした。貴樹は、八王子市から離れた、文京区に住む事になった。

 元気にやれるだろうか。まあ、彼女が居れば大丈夫だろう。

 

 九月四日、新しい土地にも慣れた頃だった。貴樹は、テレビに注視していた。真新しい事は何もなかった。香りの良い紅茶を飲みながら一服をし、だらだらと時間を潰していた。

 今日は何も起きなかった。平和な日々。刺激はないが、これでいいんだ。

 九月五日。今日も貴樹はテレビに注視していた。すると、画面の女性が落ち着いた声で「午後のニュースの時間です」と告げた。


「昨夜午後十時ごろ、東京都八王子市池田公園の池で二十歳くらいの成人男性が死亡している事がわかりました。目撃者は四十三歳主婦。散歩の時に通報した様です。また遺体の損傷が激しく身元はまだ分かられていません。警察等は殺人事件と見て、調査を進めてる様です。以上午後のニュースでした。」

 アナウンサーはそう言ってカメラに向かって一礼をした。

 貴樹は、胸の高鳴りを感じていた。すると画面の上の方に速報と字幕が出ていた。

 

 


 

 

 

 

 『被害者は十九歳男性。荒木文義』

 

 時が止まったと感じたのは、生まれて初めてのことだった。

 そして暫くしてから、貴樹は涙を流した。



 あれから、貴樹は沢山勉強をし大学を卒業した。卒業後二十二歳の櫻井貴樹は刑事警察に就職をした。少しでも犠牲者を出さない為にと。

 




 十九歳だった貴樹はもう、二十六歳を迎えていた。刑事警察を務めていても、貴樹の心の穴はぽっかりと空いていた。

 そーいえば、九月五日の犯人まだ捕まってないんだっけ。案外捕まえれないもんなんだな。片木みさきと名乗る彼女は、元気にしているだろうか。久しぶりに会いたいな。蝉が鳴く季節になるといつも思ってしまう。今年で七度目の夏となるが、彼女とは一度も会えていない。

 七月七日朝、郵便ポストに手を入れるとチラシが入っていた。だが、イラストは何もなく、そこにあったのは明朝体の文字だった。それと、お店の住所が記載されていた。チラシにしては随分寂しかった。



 『薄赤い紅茶は良いかおり どこか昔を思い出す、落ち着いた場所で飲んでみるのはいかが?』

 

 

 貴樹は気付けば涙を流していた。スマホに住所を打ち、すぐに準備を終わらた。

 貴樹は向かう途中、懐かしさを感じていた。

 この電車に乗るのも久しぶりだな。

 貴樹は長い事、電車に揺られた。目的地に着いた頃には、もう午後十五時を迎えていた。

 ここであってるよな?

 貴樹の目の前には、田んぼだけが、広がっていた。

 それから、一時間そこに立たんずだ。それでも何も起きなかった。

 貴樹は我慢して、もう二時間待った。それでも、何も起きなかった。これ以上待てなくなって、離れようとした時だった。

 遠くから、聞き覚えのある曲が聞こえ始めた。

 七夕の童謡曲だ。。

 

「やっほー!たっくん!久しぶりだね!」

 元気溌溂な声の主は、みさきだった。

 

「みさき。久しぶりだね。ずっと、こうして会いたかったよ。」

 やっとこうして、会えたことが貴樹は素直に嬉しかった。

 

「あたしも会いたかったよ」

 少し元気が落ちたかの様に彼女はそう言った。

「ねえ、たっくん。もう、その呼び方しなくていいんだよ。もう終わったから。仕掛けも御呪いも。」


 彼女は泣きそうな顔でそう言って、抱擁をしてきた。いい匂いだった。

 俺も彼女を抱擁した。

「うん。薫姉ちゃん。」

 何年ぶりだろうか。この呼び方は。

 そんな事を考えてたら、自然と目が緩んできた。

 

「ねえ、あたしの仕掛けどうだった?あたしなりに頑張ったんだよ」

 薫は俺の肩に顔を押し付け、泣きながらそう言った。

 

「立派だったよ。かっこよかった。好きな女の子の墓の前でも計画をこなせたのは、きっと薫姉ちゃんじゃなきゃ、出来っこないよ。だから、かっこよかった。」

 俺は薫を、沢山褒めた。

「最後は泣いちゃったけどね」

 泣き止んだ後に、涙を拭いながら、暖かい声でそう言った。

 

「それは、仕方ないよ。だから、大丈夫。薫姉ちゃんのお陰であいつは、きっと思い出しながら死んだはずだ。」

 これにて、『心臓止まっちゃうくらい、驚いちゃうでしょうドッキリ』は幕を閉じた。



 その後。俺らは、天の川の下。昔よく三人で歌っていた。七夕の童謡を一番だけ歌った。みさえちゃんのいない、この童謡曲は、一番しか歌えない。

 

 

 






 ごめんね、みさえちゃん。俺あん時見てたんだ。君が文義に殺される、あの時を。

 



 エピローグ

 

 薫が言った、あの計画は荒木文義のなくなった記憶を、取り戻してから、殺すと言うものだった。あの二日間の出来事は全て荒木文義の記憶の為。

 記憶喪失とは、本当に喪失した訳ではない。脳が、その記憶を奥底にしまっただけ。人格が変わったのもそうだ。それを出すのは意外に簡単だった。強い刺激を目鼻耳から加えることで、成功した。

 今なら言える。文義。君は彼女に逆ナンされたあの日。

 あの日から君は、『死遭わせ』だったんだよ。

やっぱり簡単じゃなかった。

ありがとうございました。

次は真面目につくります。

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