表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

木枯らしの運ぶ未来

ホームに着いたと同時に、電車が出発した。

加奈子と僕は、それを呆然と見送った。

学校帰り。次の電車はおよそ30分後。

幼なじみの僕らは、最寄駅から学校まで、乗り継ぎを経て2時間かけて学校へ通っているのだが、こういう風に電車を一本逃したときはそれが2時間半になる。

とはいえ、中学も2年の秋となると、それにもなれっこだった。


「また行っちゃった、ごめんね」

「うん、まあしょうがないよ」


この日は、加奈子の所属する生徒会の会議が長引いていた。僕は自習をしながら終わるのを待っていたのだ。


こういうときは、特にやることもないのでホームに座って他愛もない話をして過ごす。


「この前行った水族館、楽しかったねー」

「あの新しい魚…なんだったっけ?すごい綺麗だった」

「あー、いたね。私も忘れちゃった」


水族館へは先週行った。加奈子とは長い付き合いだし気も合うから、よく2人で遊びに行く。趣味も大体同じで、2人とも生き物が好きだから、水族館や動物園へは何かイベントがあるたびに通っていた。


「そういえば今動物園でトラの赤ちゃん見れるらしいよ」

「うっそ、絶対かわいいじゃん。今度見に行こうよ」

「あー…うん」


僕はいつものように何の気なしに誘ったが、加奈子の反応はいつもとちょっと違った。そのことに少し胸騒ぎを覚えたが、気にしないようにして、電車を待った。


そうしているうちに、電車がきた。

田舎の単線、3両編成。乗客も、この車両には僕らだけだった。

不思議と、電車が走っている間は会話がなかった。

ただ、薄暗くなっていく車窓と、そこに写る加奈子をぼんやりと見つめていた。


終点。僕らの家の最寄駅。この時間、ここで降りるのは僕らだけだ。

車掌に定期券を見せて、ホームに降りた。


「あのさ」


別れ際、あまりに不意に言葉が出たので自分でも驚いた。

前を歩いていた加奈子が振り向く。


「動物園。今週の土曜日はどうかな」


電車に乗る前の胸騒ぎ。きっと何もないはずだ。何もない。加奈子はいつも通り承諾してくれる―――。


「うーん…」


数秒の沈黙があった。


「私、おととい生徒会の先輩に告白されたんだ」


加奈子が何を言っているのか、理解できなかった。

ただ、熱いような冷たいような、わけの分からない感覚が全身を襲った。


ナニヲイッテルンダ―――。


「そうなん、だ」


再びの沈黙の後、それだけが言葉になった。


「OK、したの?」

「まだだけど…私、どうしようか迷ってて。どうしたらいいと思う?」


断れよ。僕は加奈子と動物園に行きたいし、また水族館にも行きたい。また加奈子の家で一緒にお菓子を作るし、高校だっていっぱい勉強して同じところに行くんだ―――。


「……加奈子が…したいようにすれば…いいんじゃないかな」


言えなかった。言えなかった。言えなかった。

手が震えている。声も。くそ、止まれよ。何だよこれ。


加奈子は、そんな僕をじっと見つめていたが、しばらくして、一言だけ呟いた。


「そっか」


僕らは駅舎を出た。

ここからは僕と加奈子の家は反対方向だ。


「じゃあね」


軽く微笑み、手を振りながら加奈子が言った。

じゃあ、と声を絞り出して、僕は加奈子に背を向け、家路を歩き始めた。

沈みかけた太陽が、段々輪郭を失って、ついには頬を伝って落ちた。

風が冷たい。冬はもう近いらしかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公がヘタレなのはまあ仕方ないとしてどんな結論が待っているんでしょうね… ハッピーエンドが待っててほしいものです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ