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新月夜にノスフェラトゥ嗤う  作者: くろ


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第6話 貧民街の魔少年 Ⅱ

休暇中だってのにおれはアリスに無理やり仕事させられる。

平和な広場でコーヒーを楽しんでいると、見境ないマント姿のヤツが襲ってきた。

平和な広場は血みどろになった…

なんてツイてないんだ。


おれたちは逃げ出す。

マント姿のヤツが追ってくる。


離れた場所の人間たちはまだ何が起こったかわかっていない。

ケンカくらいに思っているのだ。

おれたちは人ごみを掻き分ける。


マントも人ごみの中突っ込む。


何てこった!


山刀を収めようという気がヤツには一切なかった。

ヤツの前に居た人間がバタバタ倒れる。


「キャーッ!」

「刀! 刀持ってやがる!」

「あーっ 血、血が!」


老人、女、子供 みな切られていた。

さすがに見境が無いだろう。

おれはちょっとばかり頭に来た!

アリスの手をほどいてヤツに向かう。


「ジェイスンさん!」


山刀をかまえるマントの奴。

こいつの動きにも慣れてきた。

こいつは早いがまっすぐ飛び込んでくるだけなのだ。

だからこそ早いとも言える。

おれに向かって飛び込んでくる凶器!

おれはヤツの顔に向かって屋台から貰って来たビンを投げつける。

刀で切り伏せるマント。

ビンの中身がヤツの顔にかかる。


「ガァッーーーーーーーーーー」

「目がっ…  メガァーーーー」


チリソースのビンだ。

ビンのラベルにトウガラシの絵が描いてあるのをおれは見逃さなかったのである。


奴は顔を抑え呻いている。

これでしばらくはまともに目が見えない。


警備隊が奴に近づいていく。今度は慎重にシールドを前に押し出している。

マントの奴がめくらめっぽう刀を振るが、さっきまでの鋭さは何処にもない。

後はまかせていいだろう。


「アリス 行くぞ」

おれはへたり込んでいたアリスを抱え上げて逃げた。


おれは広場から出てかなりの距離を逃げまくった。

まったく安心できなかった。

いつ後ろの人間が真っ二つにされて、マントが現れるかとビクビクしながら走り続けた。


「ジェイスンさん ジェイスンさん もう大丈夫ですよ」

おれは大通りを大分来ていた。

すでに冒険者ギルドも近い。


「降ろしてください…恥ずかしいです」

おれは自分がアリスをいまだに抱え上げてることに気が着いた。

少し残念に思いながら柔らかい身体を下す。


「アハハハハ…助かりましたね…アハハハハ」

「イヒヒヒヒ…助かったぞ!…イヒヒヒヒ」

「ウフフフフ…怖かったです…ウフフフフ」

「クケケケケ…怖かったな!…クケケケケ」

二人ともちょっとばかり頭がおかしくなっていた。

おれたちは顔を見合わせて大笑いした。



「いやとんでもない サメ野郎だったな」

「サメ野郎?」

「サメだよ アリスちゃん知ってるか?」

「人を食べるって言う大型の魚ですよね 聞いたことはありますけど」

「ヤツらは普段泳ぐのが遅いのさ。マンボウと大して変わらない」

「マンボウ?」

「ところが 獲物を見つけた途端速度が跳ね上がる。自動車並みの速度を出す」

「ジドウシャ?」

「種類によっちゃ時速80kmで泳ぐって言うぜ」

「ジェイスンさん 色んな所に行ってるだけあって意外と物知りです」

「よし これからアイツの事はサメ野郎って呼ぼう」

「でもジェイスンさん あれ女でしたよ」

「…誰が?」

「マントの人。女性の身体でした」

「ウソだろ。マント着てて身体なんか見えなかったぜ」

「警備員と争っている時マントから身体が見えました 間違いなく女性の体つきです」

「……」

確かに細身の体格だとは思ったが。

「だから サメ女ですね」



おれは宿屋へ帰った。

せまいけれど、寝具だけは上等の宿屋だ。

アリスは冒険者ギルドへ報告を一緒にしてくれと言っていたが、大事な用があるんだと言って別れた。

大事な用はもちろんこれだ。

おれは宿屋に帰る途中買い込んだものを部屋に並べる。

エールに葡萄酒、蒸留酒もある。

おれはエールをグビグビやって、一息つく。



部屋のドアがノックされた。

おれは酔っぱらいとなっていた。

あのまま宿屋で酔っぱらって寝たあげく、夕方起きたおれはまた飲んでいた。

いいじゃないか。

先日娘が大勢殺されていた悲しい事件に関わったばかりだってのに、今日も死にかけたのだ。

マジメそうな警備隊員は一生片手で暮らさなきゃいけないし、広場にいた家族連れは今日の事がトラウマになったかもしれない。

呑まずにいられるか。

部屋のドアがまたノックされる。


「ジェイスンだな」

「ピザ屋かい。デリバリーは頼んじゃいないぜ」


「腕利きの冒険者ジェイスン様だろう 開けてくれよ」

今度は女の声が聞こえる。

先ほどとは別人・別声だ。少なくとも二人はいる事が分かる。


「人違いだな。おれはマヌケな冒険者で有名なんだ」

「いいから 開けてくれよ。女に恥をかかせるもんじゃないぜ」


放っておくと ドアがスゴイ音を立てて叩かれ始めた。

木で出来たドアがあっという間に壊れて、中へ倒れてくる。


「女嫌いなのか? ジェイソン 冷たいぜ」


入ってきたのはワンダーウーマンみたいな女だった。

全身が筋肉で出来てるのだ。

バストもスゴイ迫力だが、背筋もシャレにならない。

顔立ちは整っているのだが、そこにはサッパリ目が行かない。

黒いTシャツから腹筋を覗かせ、下はホットパンツに網タイツだ。

服から筋肉のうねりが見えている。

露出度の高い格好だが、エロい目で見る男はいないだろう。

太ももがおれのウエストより太いのだ。

これで興奮する男がいたらよほどの勇者だ。


黒づくめの男も入ってくる。

こっちもマッチョマンだ。女ほど露出の高い服装じゃないから目立たないが、肩幅がおれとはケタ違いだ。


「ジェイスン。 ゴッドマザーがお呼びだ。来てもらう」

「筋トレの大会でもあるのか? おれは棄権するぜ」

「ずいぶんと酔ってるようだな」

「ああ酔ってるさ。ゴッドマザーとやらも酔っぱらいを招待はしてないだろう」

「飲み過ぎは毒だぞ」

「大きなお世話だ。おれは今日の昼間死にかけたばかりなんだ。酔っぱらったところでアンタに文句を言われる筋合いは無い」

「その件だ」

「?」

「お前を襲った連中 その件でマザーが力になるだろう」



俺たちは夜の街を歩いている。

おれのまわりは5,6人の男と筋肉女が囲んでいる。

全員黒い服に身を包んでいる。

さすがに夜の街は人通りが少ない。

まだ営業してる飲食店も有り、通りにはカンテラが灯されてる。

通り過ぎる人々はおれたちを見て、怯えながら避けて行く。

正確には黒服の男たちに怯えている。


「街の人たちはみんなあんたらを知ってるようだな」

「この街でコナー・ファミリーを見て分からないのはお前くらいだ」

マッチョ男が答える。


「有名人とは知らなかった。後でサインしてくれよ」


「アーニー 誰かつけてくるぞ」

筋肉女が言う。


「なんだと」

マッチョ男がアーニーだろう。

アーニーが辺りを見回す。


「そこの脇道に入れ! 迎え撃つぞ」

意外と判断が早い。脳味噌まで筋肉で出来ていそうな外見だが荒事には慣れているのだろう。


おれを中心に囲んで黒服が立つ。

リーダー格の筋肉二人組が前後に分かれる。

後ろはアーニーと呼ばれたマッチョ男だ。

先頭は筋肉女だ。


「ジェイスン あんたはマザーの客人だ。手は出させん」

「ああ 事情がサッパリだからな。おれは高見の見物させてもらう」


通りに悠然と姿を現したのは 僧侶姿の大男だった。

手に身長を越えるような長い鉄棒を持っている。


「坊さん。夜道で女をつけてくるとはいただけないねぇ」

「いやいや あんたのカッコがあまりにセクシーなんでな。ついつい足が勝手に動いてしまった」

勇者がいたみたいだ。


女が楽しそうに笑う。

拳を握り、ファイティングポーズを決める。

「あたしをケイト・コナーと知って 口説いてるんだろうね?」

セリフと同時に殴りかかる。

普通の人間なら一発喰らっただけで頭蓋骨陥没を起こしそうなパンチだ。

普通の人間なら。


僧侶は拳の先にいなかった。


「ケイトさんか。 わしの名はコーザン。 覚えてくれ」


コーザンの躰は路地裏の闇に溶け込んでいた

闇の中から、鉄棒だけが舞う。

ケイトの後ろにいた黒服が打撃を受けて倒れる。


「わしが用事があるのは その男なんだよな」

コーザンはハゲ頭に手を当て、笑いながら言う。


「素直に渡してくれんかのう」

むろんおれの事だろう。


「彼は ゴッドマザーの客人だ。コナー・ファミリーの誇りにかけて手をださせん」

マッチョ男がおれの前に出る。


ケイトが再度コーザンに殴りかかる。


「チッ どうした かかってきな」

「美人は攻撃したくないなぁ」


僧侶はデカイ図体で器用だった。するすると避けるのである。

他の黒服も襲い掛かるが、僧侶はそれを躱して男に反撃を加える。

鉄棒で腹を突かれ、脳天を撃たれ倒れる男たち。

女は攻撃しないが、男には容赦しないらしい。


「困ったのう おヌシ達と遊んでいる間に標的に逃げられたではないか」


ケイトとアーニーが顔を見合わす。


そうおれはとっくにその場から逃げ出していた。


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