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新月夜にノスフェラトゥ嗤う  作者: くろ


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第4話 イナンナの暗黒神殿 Ⅳ

神殿の地下に囚われたおれ。

聖女様がおれのところに夜中忍んで来る。なんてツイてるんだ。

ところがそれは演技だった。誰の密偵でも無いと分かったおれはクレイブン侯爵に殺される。頭がツブされたおれ。なんてツイてないんだ。



おれは目を覚ます。

例によって真夜中だ。

血だらけ 穴だらけの服を見て死ぬ直前を思い出す。

チクショウ! チクショウ!

何度か死んできたが、体中穴だらけ、頭も潰されたのは初めてだ。

おれが先端恐怖症になったらどう責任とってくれるんだ。

PSDを治せるヤツがここにいるのかよ。

復讐してやる! 復讐の鬼になってやる。

クレイブン!

ダデルソン!

ついでに大男!

ここに居るクレイブンの手下ども全員だ!


悪態をついて少し正気を取りもどしたおれは周囲をみまわす。

なにかまともな着る物はないかと思ったからだ。

正気を取り戻すとあたりにはスゴイ腐臭が漂っていた。

腐った肉と骨が積み重なっている。

元は服だったもの、鎧らしきものが中に混じる。

肉にはウジが沸き、蠅が群れをなしている。

上の方には形を留めてるものが有り、それは人間の形をなしていた。


おれは声にならない叫びをあげる。口を開けたら蠅が飛び込んで来るからだ。

出口らしきものへ全力で突っ走る。

グチャグチャな元は人間らしきものを何度も踏みつけるが気にしてはいられない。

どうやって脱出したのか考えたくもない。

おれは地下神殿の裏に出ていた。

脇には下に滑る穴が有る。

ここから死んだ人たちの亡骸を捨てていたのだ。

あそこは死体捨て場だ。


そして俺の目は腐った肉と骨の中に《《あるもの》》を見つけていた。

穴が開き、血にまみれ汚れてはいるが間違いようが無い、それは白いブラウスだった。



地下神殿は多数の客が訪れていた。

深夜を迎えている。

おれは一昨日の午前イナンナ神殿に訪れて、夕方拷問を受け、夜聖女の訪問を受け 早朝殺された、そして昨夜生き返った。大忙しだ。

神殿で夜を迎えるのはすでに3回目だ。

昼間は神殿をうろつきまわった。出入口を抑えてあるからだろう、内部には見張りすらいなかった。

山賊たちだってあの死体捨て場や死の儀式を行っている神殿に用もなく近づきたがるはずが無い。

おれは地下神殿を探索し、自分の装備・剣と斧、革鎧を取り返していた。

もちろん鎧を装備する前に腐った肉液にまみれた身体は必至で洗った。だがいまだに腐臭がする気がしてならない。

ついでに顔を覆う鉄面も手に入れていた。ダデルソンとお揃いだ。

牢屋からは女性の声がする所も有った。助けたかったが、鍵を持っていない。神殿を探索してもさすがに鍵は見つけられなかった。

クレイブンは「明日 客が来る」と言っていた。機会を待つことにしてそのままおれは寝てしまった。

今おれは神殿の裏から中の様子を覗いている。


客たちは全員仮面を付けている。顔は分からないが、身なりから見て貴族か金持ちだろう。

フレデリカが壇上から儀式の開始を告げる。

「これからエレシュキガル神に供物を捧げます。」

数人の女性が連れてこられる。牢屋に居た娘たちだろう。

大男やダデルソンが娘たちをタライに縛り付ける。

「選ばれた方々は壇上へ」

壇上には数人の客人が上がっていた。

天井へと上がっていくタライの下だ。

「あなた方はエレシュキガル神に捧げられた供物の中から神の慈悲をいただくのです」

持って回った言い方で良く分からないが、娘たちが供物だろう。

「エレシュキガル神の慈悲によって あなたたちは若さを取り戻すのです」

狂った老人たちの妄執が生み出した幻想だった。

押しつぶした娘たちの生き血を浴びれば若返れる。そんな狂った発想をもっともらしい言葉で語っている。

クレイブンの悪事は山賊と通じているだけじゃなかった!攫ってきた女性を狂気の生贄に捧げていたのだ。

フレデリカが逃げ出したくなるのは当然だ。

巨大タライが天井に向かって上がっていく。

娘たちは何をされるか分かったのだろう、叫びをあげる者、許しを請う者さまざまだ。意識を失う者もいる。

会場が興奮に包まれるなか、壇上へおれは飛び出していった。

タライのハンドルを回す大男の頭に斧を叩きつける。

あたまから血と脳漿を吹き出しながら大男は倒れた。

大男の曲剣が転がっていたのを拾い上げる。

壇上に居る者たちが慌てふためく。

おれは立て続けに警備らしき武装した山賊たちを巨大な曲剣で切り裂き、斧を叩きつける。

曲剣と斧の二刀流だ。

状況が理解できない貴族が なんだキサマは と指を突き付ける。

返事をするコトも無く曲剣をおれに向かった腕先に振るう。

曲剣は片刃の造りで切れ味が良い業物だった。重さを利用し振るうだけで人の肉体を切り裂く。

貴族の腕先はアッサリ 胴体から切り離されていた。

叫び声を上げて、壇上から下へ転がり落ちる男。

さきほどまで何かの余興かと見物していた観客たちがパニックになる。揃って逃げ出そうとしている。

その間もおれは武装した連中と戦っている。

警備に配置された賊はそれなりの実力者なのだろう。慌てていた賊どもだったが、すぐに徒党を組んでおれに反撃してきた。

おれは自分に対して突き出される剣を、槍を、あらゆる武器を全く無視して、曲剣と斧の二刀流で周り中を切り裂いていた。

そのたびに頭が舞い飛び、腕が落ちる。壇上は血の海になっていた。

賊の男たちもパニックに陥るのに時間はかからなかった。

「剣が刺さってる! 刺さってるのになんで死なねーんだ!」

「オレの槍が 槍が心臓を貫いたのに!」

真夜中おれが殺されるとどうなるか。答えはすでに出ていた。

刺された瞬間いたみは有るのだ。

だが怒りのアドレナリンがおれの身体中を駆けめぐり、痛みを無視する。

最初は身体に刺さった剣は抜いていた。抜いてその剣を相手の身体めがけて投げてやった。そのたびにおれの身体から傷はウソのように無くなる。

途中から面倒くさくなり、剣や槍を身体に突き立てたままおれは暴れた。

曲剣を振るい、体に刺さった槍を前に突き出す。

目の前のヒゲ面が胸に槍を生やしたまま倒れる。

横の筋肉オトコの顔半分が宙を飛び、血がシャワーのように舞う。

「こいつバケモノだ。暗黒神の使いだ!!」

誰かが叫ぶ。

確かに顔を面で隠し、血まみれで殺しても死なないおれはバケモノのようだっただろう。悪夢から這い出てきた男だ。

見覚えのある若い男が震えながら膝まづいていた。

「お許しください。暗黒神の使い様。」

数日前 ダデルソンたちと一緒におれを襲った男だ。


「おれには病気の母がいるんです!おれが薬を届けなかったら母も死んでしまう。助けてください!」

ガタガタ震えながら許しを請うてくる。

すでに股間からは小便を洩らしている。

おれは頭に思い浮かべる。


腐った死体の中に落ちていた白いブラウス

― うまくすれば 売り場の一角をまかせてもらえるかも

明るい若い娘の笑顔


おれは身体に刺さった槍を抜いて、若い男に向ける。

「許して…許してください 暗黒神さま…」

おれの腕は口を開けた男の喉元に槍を突き出していた。


いったい何人と闘い、何人を切り伏せたのか 数えられる人数では無かった。

神殿は血と死体、切り落とされた肉片であふれていた。


おれは出口付近でクレイブンとダデルソンを見つける。

「ダデルソン!キサマ わしの護衛だろう! 職務をまっとうしろ」

「ふざけるな! あのバケモノを呼び出したのはあんただろう。これ以上付き合っていられるか」

ダデルソンが侯爵を引きずり倒して逃げようとする。

おれは力の限り斧を投げた。

侯爵はダデルソンの胸元がハジけ斧が突き出るのを間近で見たはずだ。

腰を抜かしたクレイブン侯爵におれは近づく。


「ああ 暗黒神様の使いでしょう…ワシが生贄を捧げてきたのです あなた様の信者です…暗黒神様」

ガクガク振るえるクレイブンは続ける。

すでに金ピカの仮面は外れ、老人の顔があらわになっている。

「ワシが、ワタシがあなたを呼び出したのです。どうかどうか私の願いを…」

おれは身体中血まみれ、身体に剣がまだ刺さっている姿だ。

鉄面をつけたおれが誰だか クレイブンはまだ気づいていない。

そのままクレイブンに歩み寄る。

「いいだろう。クレイブン お前を暗黒神の元へ連れて行こう」

「私の願い…永遠の若さを…」

クレイブンにすべてを言わさず、曲剣をヤツの体に斬り下ろす。

「地獄へだ」

クレイブンは左右に両断された。頭から脳があふれ、身体中から内臓がこぼれ、その場に崩れた。

見回すとすでに地下神殿に生きている存在はいなかった。

おれは誓った復讐をやり遂げたのである。


言っておくがおれはもちろん暗黒神の遣いじゃない。

じゃないと思う。

エレシュキガルの神殿に何も感じられはしなかった。

おれの死から帰ってくるのはこの世界の神とは関係ないと感じるのだ。

おれのはアレだ。

アクションゲームをした事が有るだろう。

主役が死んだハズなのになんの説明もなく生き返って戦い始めるアレだ。

そういう類のモノなのだ。

だから画面の向こう側にいる誰かさんがコンティニューを選ばなかった時、それがおれが本当に死ぬ時なのだ。


その後おれは自力で地上へと脱出した。

その足でギルドへ向かう。

受付のアリスちゃんは血まみれのおれの姿を見て気絶した。

剣が一本背中に刺さっているのに気が付かなかったおれが悪かった。

おれだって動転していたのだ。

呼び出されたカニンガムが神殿地下へと向かった。

後はカニンガムがなんとか始末をつけるだろう。



数日後 おれはまたカニンガムのおごりでメシを食べていた。

アリスちゃんも誘ったが、彼女はまだおれの顔を見ると怯える。

「とにかく神殿はひどい有様だったぞ。血の匂いがしばらく身体から取れなかった」

「おいおいメシ時の話題じゃないぞ」

クレイブンが裏で何をしていたか、すべて判明していた。

地下神殿にイナンナ街の評議会、騎士団、冒険者ギルドが合同で大規模調査を行ったのだ。

捕らえたクレイブンの手下や神殿関係者から丁重に聴きだしたらしい。

あの晩儀式に参加していた貴族のなかには冒険者ギルドに逃げ込み、全て話すから助けてくれと泣きついた者もいたそうだ。

カニンガムはそんな泣きついた貴族の相手をしている最中に呼び出されたワケだ。


「だがあそこで大量殺人を犯した犯人は捕まっていない」

「うん?クレイブンが間違えて呼び出した暗黒神の遣いが暴れたんだろう。そうウワサで聞いてるぜ」

「あんたがエレシュキガル神を信じてるとは思えないな」

「おれは意外と信心深いんだ。こないだもイナンナ神に寄付したばかりだぜ」

「死んだ人間は刀や斧でやられてる。神様の遣いが凶器を使うか?」

「とすると仲間割れかな、しょせん盗賊だろう」

「考えにくいが、そうとしか説明がつかないな」


「問題はまだあってな あれからイナンナ神殿の聖女が行方不明だ」


「何だって? 巻き込まれて亡くなったのか?」

フレデリカ…あの時おれは良く相手も見ずに殺しまくった。まさかおれが殺したとは思いたくないが…

「イヤ死体はキチンと調べた。聖女と疑わしい死体はないね。まだ残党がいて連れ去ったのかもしれない」

おれは少し安心して果実酒を飲み始めた。


「どうにもうさんくさい話も有る」

カニンガムがおれの方を見る。

疑いの表情だ。

「クレイブンの財産が少なすぎる。ヤツは神殿に金目の物を隠してた」

「山賊まがいの事をして手に入れたお宝、儀式に参加した貴族どもから巻き上げた金貨、半端な額じゃない」

「神殿から見つかった金と明らかに計算が合わない、金貨や宝石はほとんど無かったんだ」

「使っちまったんじゃないのか 護衛や手下を大勢雇っていたんだろう 雇い賃だって安くない」

おれはとぼける。

神殿をうろつきまわった時、少しばかりの金貨を拝借したのだ。

寝るだけで丸一日費やすほどおれもマヌケじゃない。

おれは拷問された挙句全身穴だらけにされて殺されたのだ。その慰謝料と考えれば当然のことだ。

しかし今カニンガムは何と言った?

― 金貨や宝石がほとんど残っていなかった

宝石?

おれがうろついた時宝石は確かに有ったが手は付けなかった。

価値の高い宝石をおれみたいな冒険者が換金するのは目立つ行為だ。

おれが頂戴したのは現金だけである。

誰かが事件の後、カニンガムが調べるまでの間に神殿から持ち去ったのだ。

おれの頭に電撃のように閃きが訪れる。


フレデリカ!


― 黒衣の医者を連れてきて顔をもとに戻すためのお金が必要なの

そう言っていた彼女

地下神殿の構造にも詳しい


次会うときはおれの知らない顔の彼女かもしれないな。


カニンガムはまだ怪しむ視線をおれに送っていたが、おれは笑いながら果実酒を飲み干した。

第一章は終わりです。

第二章も書く予定ですが、どうしよう。

カクヨムさんで☆3貰ったからやっぱり書こうかな。

もうちょっと読んでやってもいいぜという人は下で評価お願いします。 



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