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第3話 イナンナの暗黒神殿 Ⅲ

おれはイナンナ神殿に出向いて 美人の聖女サマに会う。

ギルドに勧められた通り神殿に行って良かった。

そこでおれは悪役鉄面ダデルソンを見つけるが、地下に囚われてしまう。

ついでにおれは金ピカに身を飾るイヤな男にも会う。とてもツイてないぜ。


おれは牢屋に閉じ込められた。

曲剣の大男がオレをさんざんぶん殴って誰の指図か吐かせようとしたが、誰の指図も受けていないのだ。

吐きようが無い。

「オレが殺さないと思ってナメてんじゃねーのか」

大男はおれの小指の骨を折る。

灼熱のようなものがおれの左手に生まれる。

どうだ!あと9本有るんだぜ

おれが意識を失うと水をぶっかけて正気に戻す。


大男の次は鉄面だ。

なぁいくら貰ってるんだ? その倍出すぜ

クレイブン侯爵は知ってるだろ

この辺じゃ一番の権力者だ

そいつに恩を売っておけば一生楽しく生きていける

こっちに寝返れよ


いわゆる アメとムチというやつだ。

おれは殴られ過ぎてボンヤリしていたので聞き流した。

頭がシャッキリしていたらアメの方に飛びついていたかもしれない。


鉄面はあきらめて出ていく。

「話す気になったら言え。それまでメシはお預けだ」

どうやら飢えさせる方針に転換したようだ。


おれは一人になった牢屋で自分の手を見つめる。

ところどころの指があり得ない向きを向いていて すでに感覚が無い。

自分の手じゃないみたいだ。

クソッ

誰か剣で刺してくれないかな

そうすればキレイサッパリな体になるんだが

当たり前だが牢屋に凶器になりそうなモノは無い。

おれの腹時計はすでに深夜だと告げている。

今までに何度も痛い目に遭って学習していた。

夜になっても死なない程度の傷は治らない。

傷がキレイに消えるのは死んだ時だけだ。

この仕組みを考えたヤツを呪うぜ。


おれは夜目も聞くが耳も夜になると少し良くなる気がする。

身体能力も上がっているかもしれない。

精密機械で検査したわけじゃない。

たまにそう感じる程度だ。

その耳が誰かが牢屋に近づいてくると告げていた。

やれやれ 深夜まで残業とはご苦労さん ワーカホリックは異世界にもいるね

だが牢屋に現れたのは飛び切りの美貌の持ち主だった。

聖女サマだ。

満身創痍でクッションのないベッドに横たわってるおれに彼女は近づいてきた。


「ひどくやられたのね。大丈夫?」

布でおれの血まみれの顔を拭いてくる。

「あいたた 血が固まってるんだ」

「そうね お湯を持ってこないとダメみたい」

おれに身をよせるフレデリカはやはり美人だった。

「なんのマネだい? 聖女サマにサービスされちゃ緊張して夜も眠れない」

「フフッ ご飯を持ってきてあげたのよ 感謝して欲しいわ」

彼女は ハムや野菜を挟んだパンと水筒を差しだしてくる。

「方針を毒殺に切り替えた訳じゃないだろうな」

「失礼ね いやなら食べなくてもいいのよ」

むくれてみせるフレデリカは昼間見た聖女の顔とは大分雰囲気が違う。

美人なのは変わらないが、話しやすい下町の娘のようだった。

「ゴメン 悪かった いただくよ」

サンドイッチを一口食べたおれは自分が腹ペコだったことに気付く。

あっという間に平らげ、水筒を飲み干す。

水筒の中身はお茶だった。もしかしたら上等なモノだったかもしれないが今のおれには香りを楽しむ余裕は無かった。

「すまないがもう少しないか?」

「あきれた 口もきけないほど痛めつけたって聞いたのにずいぶん元気なのね」

「誰でもとりえがあるだろう。おれはタフなだけがとりえなんだ」

フレデリカはコロコロ笑う。

「後はデザートくらいよ」

彼女は肩にかけた包みから果物を取り出してくる。

おれはバナナに似たそれも一瞬で胃の中に放り込む。

「ああ 生き返った。思い返してみると今朝から何も食べてなかったんだ。本当に感謝するぜ」

「いいのよ 気にしないで」

「いや 聖女さまの慈悲は忘れない。毎月イナンナ神に寄付すると誓うよ」

「やめてちょうだい 聖女って呼ばれるの好きじゃないわ」


「ねぇ あなたシェイ伯爵と連絡が取れるんでしょう」

「わたし グレイブンの悪事の証人になるわ でもシェイ伯爵が私の身の安全を保障して欲しいの」

フレデリカの形の良い眉の下から翠の瞳がおれを見つめる。

「ふーむ。聖女サマはクレイブンの仲間だったんだろう なぜ裏切る?」

「仲間じゃない!」

「わたし聖女なんかじゃない!」

「身の安全もだけど わたしお金も必要だわ」

フレデリカはおれに身を寄せ語りだした。


わたしホントは普通の村娘だったの

顔も今みたいにキレイじゃない ちょっとだけ他の娘より目立つ顔をしていた程度よ

クレイブンが金に飽かして引き取ったわたしを改造したの

顔を手術したのよ


おれはフレデリカの顔を見つめる。

傷一つない。

左右対称の顔、キレイに伸びた鼻、くっきりした目元 確かに整い過ぎているかもしれない。


どうやったかなんて知らないわ

でも あの医者よ

黒衣の医者

色んな事情で自分の顔を変えたい人間はたくさんいる

金さえ出せば、顔を改造できる医者もたくさんいるの

でも必ず跡が残るの

見る人がみれば判ってしまう

それに手術がうまくいかなくて後遺症が出る事もあるの

最初はよくても 時間が経つうちに顔中が膿んでしまう

でも黒衣の医者なら完璧にできる

誰がみても分からないように顔を変えられる


手術をうけた後ビックリしたわ

だって鏡の中に知らない人が映っているんですもの

両親が今のわたしを見ても自分の娘だと気付かないわ


わたし元の顔を取り戻したいの

それにはあの医者しかいない

黒衣の医者

彼だけが私の元の顔を知っているわ


この世界で完璧な整形手術?

一瞬おれは 自分と同じ異世界から来た存在 を思い浮かべる。

でも違う。

例え日本の整形外科医を連れてきたとしても、手術台も無い シリコンだって無い。

日本のような整形手術なんて不可能だ。

何かのスキル もしくは本当に天才なのかもしれない。

美容クリニックの宣伝で読んだ覚えがある。

古代インドでは人口の鼻を作って形成手術を行っていたらしい。

この世界でもそのくらいの技術は有るのかもしれない。

そして凡百の医者の中に一握りの天才が混じっていた。

おれが思考を巡らせている間もフレデリカの話は続く。


クレイブンは私に神殿の服を着せて犯していたわ

人々が拝んでいる聖女サマが自分のものだという喜びに酔っていたの

そこまではガマンできたわ

彼は年寄りだし近いうちに亡くなるわ

それまでの辛抱だって


でもクレイブンは変わったわ

自分が老人だって、老い先短いんだって気づいたのね

イナンナ神殿の地下にさらに神殿を作ったの


知ってる? 暗黒神エレシュキガルはイナンナの姉妹だって

あの地下神殿はエレシュキガルの物よ

そこでわたしは暗黒神のための儀式をさせられているの

おぞましい儀式よ


フレデリカは訪ねても儀式の中身については語らなかった。

「どう 黒衣の医者を連れてきて顔をもとに戻すためのお金 私の身の安全 二つをシェイ伯爵は用意してくれる?」

「すまない フレデリカ 力にはなってやりたいが シェイ伯爵なんておれは会ったこともないんだ」

だけど君の命くらいはおれが守るよ

ここから抜け出そう

冒険者としておれだったベテランだ

身を隠す術くらいは有る

「クレイブンの悪事はおれだって予想がついてる」

連続して起きてる山賊事件は奴の仕業だ

自分の手駒に商隊を襲わせて、警備に当たってる騎士団の信用を落とす

ライバル・シェイ伯爵は騎士団が活躍してこその人気だ

それが無くなれば当然シェイ伯爵の発言力は落ち、その分クレイブンの力が増すって寸法だ

しかしこれだけ死人が出て、ウワサにもなってる

いずれどこかでバレてクレイブンは身の破滅さ

現におれのようなマヌケにだって気付かれてるんだ

「クレイブンが自滅したら キミは自由の身だ。黒衣の医者もそれだけの実力者なら冒険者ギルドが探し出せるだろう。金は問題だが…何とかするさ」

「そう…本当にあなた どの貴族の密偵でも無いのね…」

「そうさ 一匹狼の冒険者だ。でも心配は要らない。こう見えても腕は確かなんだぜ」

「あれは…ダデルソンが言っていた。あなたは死んでいるはずだって」

「ちょっとした仕掛けだよ 服の下に血糊を隠しとく。服を切っただけなのに血がドバドバ出る。やった側は致命傷を与えたもんだと思い込む」

「小細工も冒険者として生きていくのには必要ってワケさ」

「そう…そうなの…」

おれに身を寄せていたフレデリカが立ち上がる。

「残念…本当に残念だわ」

牢屋の扉から抜け出していく。

「おいフレデリカ」

追いかけようとしたおれの前に彼女と入れ替わりに入ってきた男が立ちふさがる。

ダデルソンと大男だった。

後ろには金仮面のクレイブン侯爵まで居る。

「よう色男!オマエは本当にマヌケだよ」

ダデルソンがニヤニヤ笑う。

「知ってるよ 今もイヤになるくらい思い知った」」

「ムダな時間をかけさせおって 本当にただのドブネズミだったとはな」

金ピカの仮面を外してクレイブンがおれを睨む。

「こいつを神殿に連れていけ あれにかける」

「閣下 あれは修理したばかりですぜ」

「だから 試運転だよ。明日の夜には大勢の客が来る。客の居る前で失敗は出来ん」

大男とダデルソンがおれを引っ張り出す。

「お前 クレイブン侯爵を怒らせちまったな そうでなきゃおれたちの仲間入りしてうまい汁を吸えたかもしれなかったのにな」

「別に就職活動はしていないぜ」

驚いたことにダデルソンは本気でおれを気の毒がっていた。

どうも猛烈にイヤな予感がしてきた。



おれは地下神殿に連れてこられ、手足を拘束されていた。

もう朝のようだ。大男がおまえのせいで徹夜じゃねーかとグチる。

「奇遇だな。おれも寝てないんだ。どうだ みんなひと眠りして元気になってからやりなおさないか? 睡眠不足はお肌によくない」

「クククッ 終わらせたら俺たちは寝るさ。お前は肌の心配する必要は無くなるよ」

おれは謎の装置に縛り付けられる。

金属製の巨大なタライといった見た目で下には複数の穴が空いている。

人間数人は横に眠れるサイズだ。

大男が壁のハンドルを廻すと、おれは巨大タライごと天上に上昇していく。

天上には金属製のトゲが付いていた。

アドベンチャー映画で一度は観たことがある下に居る人間を押しつぶそうと落ちてくる天上の逆バージョンだった。

横倒しに縛られたおれの身体は天井に向かっていく。

「待ってくれ!話し合おう!人間に一番大事なのは対話だ!」

おれは声の限り叫んだ。

上がっていくスピードは落ちない。

対話の重要性は理解されなかったらしい。

「クレイブン!ダデルソン!必ず復讐するぞ!覚えていろ」

おれの胸元に金属トゲが刺さる。

服を貫き、胸の肉がハジけ、痛みと暖かい物が流れ出すのを感じる。

下を見たら真っ赤になっているだろうが おれは下を見る余裕が無い。

トゲが鼻に当たりそうになり、顔を横倒しに逃げるが側頭部にすでにトゲがせまってくる。

腹に、足に 肩にイタミと暖かい物が溢れ出す。

頭が押しつぶされる。

これ以上押しても引っ込まないよ

ムリだよ

グシャという何かが壊れる音が聞こえた…。


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