表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

第2話 イナンナの暗黒神殿 Ⅱ

おれはマヌケな護衛だ。

おれが護衛を受けた商隊は全滅した。

イナンナの街のギルドに正直に報告したら、受付嬢に睨まれた。

もう酒を飲んで寝てしまおう。


酔いから覚めるとすでに夕方近かった。

やはり疲れていたのだろう。

昨日ギルドで寝たにもかかわらず、グッスリ寝てしまった。

長イスじゃ良く眠れなかったのも事実だ。


カニンガムから宿屋に伝言が届いていた。

教えられた飯屋に向かう。

上品過ぎないレストラン。金持ち中心の店だが、おれみたいな身なりでも入れるギリギリのレベルだ。

「好きに食ってくれ 詫びと山賊の情報料だ」

「ありがたい。マヌケな男は護衛の後金をもらえそうにないんだ」

カニンガムの言葉に甘えて、高めのメニューと葡萄酒も注文する。


カニンガムの目的は分かってる。

おれも情報交換したいのだ。

おれは似た手口の事件が連続して起きてるのを知る。


― 女性は子供から年寄りまで連れ去られてる

― 男は皆殺し

― 騎士団が警戒は強めてるのに、見回り部隊には一度も引っかからない

― 見回りが居ない時に商隊が襲われる


おれも返す。


― 襲撃隊は鮮やかな手口だった

― 弓矢部隊まで用意している手練れの集団

― 整った口ヒゲに頬傷


口ヒゲに頬傷の部分でカニンガムが反応する。

「それだけじゃなんとも言えない。だがクレイブン侯爵の配下に一致する特徴の男がいる」


イナンナの街は大都市だ。

周辺は数人の領主がおり、街は貴族、大商人達による評議会で運営されている。

絶対者と言える立場の人物はいない。

中心人物なのが文人のクレイブン侯爵、武人のシェイ伯爵。

クレイブン侯爵の方が立場や血筋は上だが、辺境では武力がモノを言う。

武人が集まり、騎士団を指揮しているシェイ伯爵の方が民衆の人気は高い。


おれは昼間酔っぱらったのも忘れて、葡萄酒をガブ飲みした。

「ツイてない ツイてない」

「山賊に襲われるわ、ちょっとカワイイと思った娘は連れ去られる、後金はもらえない、受付の小娘には睨まれる」

「あの窓口の娘はアリス。山賊に知人が殺されてピリピリしてるんだ」

「睨むのを止めれば美人なのにな。もったいない」

「若く見えるせいで冒険者たちにナメられるが、本人は一歩も引かん」

「どこかで厄払いをしないとやってられないぜ」

「ジェイスン 女神の神殿にでも行ったらどうだ。ここはイナンナ神の神殿が有るのを知ってるだろ」

「ああ 有名な神殿だな この街の名前も神殿があるからだろ」

「今神殿のには人気の聖女が居る。明日ならちょうど聖女が人前で祈りを捧げる日だぜ」

「イナンナ神には拝んだら後金をくれるかな」

「そいつは難しいがな イナンナ神は豊穣と美の女神だ キレイになりたい若い女が神殿には押し寄せる」

「そいつらはオッサンの冒険者なんか目に入らないだろう」

「プレゼントは花束じゃなくて化粧品にしたらいいかもな」

カニンガムは冗談を止めて真顔になる。

「ついでに言うと神殿にはクレイブンも良く出入りしているらしい」




翌日おれはイナンナ神殿に向かう。

武器屋によって装備を新調してからだ。

おれの剣は無くなっていたし、服はマシなのを選んだとはいえ近付いた人間には血のシミがすぐバレる。

身軽な革鎧一式と剣という慣れた装備に身を包む。

ついでに小振りな斧も購入する。

あのタフな大男を参らせるにはこれくらい必要だろう。

神殿はイナンナ神を模した像が建物内部に飾られてる、この街で最大の建築物だ。

女性客が多い。

しかしカニンガムの情報は間違っていた。

女性は着飾った年のいった婦人達で、老婆こそいたが若い娘は数えるほどしかいなかった。

身なりの良い婦人に混じった革鎧のおれは悪目立ちするかと危惧したが、そうでもなかった。ところどころに婦人の護衛や神殿の警備の人間がいたからだ。

おれもそんな一人に見られたのだろう。


神殿の中央舞台で修道女たちが音楽を奏でだす。

祈りの儀式が始まるようだ。

周りにいた人間が膝をつく。

おれも真似て膝立ちスタイルになる。

人々のざわめきが収まると女性が壇上に登場する。

なるほど。

イナンナ神殿の聖女とも言いたくなる。

舞台の上で挨拶する女性を見ておれは納得する。

遠めに見ても、目鼻立ちが整っている。

腰までまっすぐ伸びた髪、飾りは少ないが上等な品だとすぐわかる服がバランスの良い肢体を包む。胸元には青い宝石が光る。

美貌なのはもちろんだが、似ているのだ。

舞台の後ろに有る巨大なイナンナ女神。

長い髪と凛とした顔立ち。

胸元のペンダント。

周囲は女神像の前に立つ良く似た女性に興奮の声を上げている。

「ああっなんて美しいのかしら」

「ウワサ通りね。イナンナ神様にそっくり。来てよかったわ」

「ウワサ以上よ! 聖女様 ワタシに若さと美貌を…」

「フレデリカ様 ワタシ若い頃の美しさをお返しください」

フレデリカという名前らしい聖女サマは祈りの儀式を続けてる。

神殿に響く声で意味の分からない聖句を唱え続ける。

アンチョコも見ずに堂々としたモノだ。

ところどころで周りの人間も唱和する。

おれはやり方を知らないから見様見真似でごまかす。


ようやく儀式が終わったらしい。聖女サマが舞台から引っ込む。神殿がまたザワつきだす。

他の神父や修道女が何か説明を始めるが、大半の人間は帰り支度をしている。


おれは適当な修道女を捕まえる。

「実は先日知人を多数亡くしたんだ。禊は出来るかい」

「まぁ それは大変でしたね こちらへどうぞ」

大神殿以外にも小さな建物が複数あり、個人的な儀式はそちらで受け付けるらしい。

小神殿に案内されるおれは忘れられない顔を見つける。

大神殿の裏へ入っていく男、遠目にすれ違っただけだが間違いない。

鉄面の男だ!鉄面を今は付けていないが、口ヒゲと頬の傷!

カニンガム。

お前は一つも間違っちゃいなかったぜ。


おれは小神殿に通される。

「亡くなった方の名前をお書きください」

「あなたの周りに残っている彼らの想いが イナンナ神の御許へ召されるようお祈りします」

う~ん。

矢で死んだ男はネッド。即席の相棒の名は?ビルだったか?

護衛全員で一度顔合わせしたが、男の名前を覚える趣味は無い。うろおぼえで適当に書いていく。

おれの担当になったらしい儀式を行う女性を見て おれはポカンと口を開けた。

「フレデリカさま?」

おれの前に現れたのは数分前に壇上で見た聖女だった。


「驚きました。まさか聖女様が担当してくださるとは…」

おれは珍しく丁寧語を使った。

神殿で聖女サマ相手に気軽に話せるほどおれも図太く出来ていない。

「ここに努める修道女が交代で勤めております 私もその一人ですから」

「ではおれは幸運だったという事ですね」

「ここに勤めているものは等しくイナンナ神の使いです。そこに上下は有りません」

彼女は壇上で見た通り神秘な雰囲気を纏わせていた。

近くで見ると美貌が際立っており、その美貌がそう思わせたのかもしれない。

「なるほど 『イナンナ神の元人は皆平等』 とさすがフレデリカ様 達見です」


「では 亡くなった方たちのための祈りを捧げます」

聖女サマはおれに背を向け、祭壇を振り返る。

身体のラインが出ない服装だが、プロポーションは相当に良い。足が長く、腰の位置が高い。

意味の分からない聖句を聴き流しながら おれは聖女サマのお尻の形を観察していた。


「ありがとうございます」

儀式が終わり、おれは図々しく聖女サマの手を握った。

聖女サマは表情一つ変えなかった。

イヤな顔はしないが、愛想笑いも浮かべない。

「友人は山賊にやられたのです。護衛をしてたんですが…みんな親しい友人でした。」

「山賊の襲撃が増えているようですね。騎士団は何をしているのか」

今度は聖女サマの眉が動いた。

「そうですか…それは痛ましいことです。犠牲者の方にイナンナの慈悲が有らんことを」

「ありがとうございます。聖女様の所にも犠牲者の遺族たちが訪れていらっしゃるでしょう。何か聞いてたりいたしませんか?」

「いえ そのような話は初めて伺いました」

次の方がいらっしゃいますので とおれは追い出された。

神殿の周りをうろついてみる。鉄面の男にをもう一度会えはしなかったが、気づいた事がある。警備の人数が多く、さらに彼らは神殿警備というには物騒な雰囲気を持つ者が多かった。飾り物の剣ではない武具を持ち、鎧にも闘いの跡がある。

大神殿の裏手に行く。

あの辺の扉から入っていった気がするんだが。

おれがみつめる扉の周りには警備の人間が貼りついている。

ようするに鉄面の男は警備が通してよい存在ということだ。


「そこの革鎧を着ていらっしゃる方」

修道女が近づいてくる。

おれの事かな?

年配の修道女はおれに体を寄せ小声で言う。

「あなたと話がしたいと仰っている方がいます」

「誰だい?神殿に知り合いはいないんだが」

「先ほどあなたの禊を担当した方です」


修道女におれはアッサリ着いていった。

もちろん怪しいと思わなかったワケじゃないが、女性の誘いは断れない。

修道女は大神殿から複雑な道を歩いていく。シロウトのおれにはもうどう来たのか分らない。

階段は使っていないが地下に降りているんじゃないだろうか。


おれは武装した男たちに囲まれていた。

複数の凶器を向けられ 両手をバンザイさせられている。

修道女はというとおれを男たちの真ん中に置き去りにして出て行ってしまった。


金色の仮面を付けた身なりの良い男と、同じく仮面で顔を隠した女が入ってくる。

見た事のある鉄面の男と大男も一緒だ。今回はおなじみの鉄面を付けている。

「今日は仮面舞踏会かな?招待状は貰ってないぜ」

ついつい軽口をたたいてしまう。

仮面を付けた男はおれの嫌いなタイプだった。

金ピカの宝飾品で飾った腹をデップリ突き出した男だ。

こういう偉そうな輩は見ただけでいら立ってくる。

おまけに声まで偉そうだった。

「この男か?」

「お待ちください 閣下」

鉄面の男が大男に指図する。

「どうだ?こいつと向き合っていたのはお前だ。間違いないか?」

「こいつだ!こいつに刀傷を付けられたせいで一昨日は眠れなかったんだ。間違いないぜ」


「どういうことだ?ダデルソン 居合わせた者は全員殺したと報告しただろう」

鉄面の男がダデルソンだろう。

ダデルソンが慌てる。

「いや 全員殺しました。その男なら腹を切られたんです。腹ワタまで切れていた。あの傷で助かるはずがない」

「良く似た別人じゃないのか?」

「でもアニキ この生意気そうなツラは間違いないぜ。黒髪に黒い瞳もこの辺じゃそうそういない」

鉄面の男がこちらを睨む。

「おい。お前! 服を脱いでみせろ」

「おいおい 男のハダカを眺める趣味があるのか?ダデルソン」

「周りのヤツ、確かめろ! こいつが本人なら腹にキズが残っているハズだ」

おれがバンザイスタイルなので横の男が上着をたくし上げる。

「ほら見ろ! 傷一つない。黒髪に黒目で似ているように思うだけの別人だ」

「う~ん。しかし良く似てるぜ」

「おい。もう服を下げてくれないか? ヘソの形には自信がないんだ」

おれを変態でも眺める目つきで見る鉄面の男。

脱がしたのはそっちだろうに。


「ダデルソン。お前たちが殺した護衛と別人だとしてもだ」

「そっくりの男が事件直後にこの神殿に来て山賊にについて嗅ぎまわってる」

「単なる偶然とは思えんな」

意外とまともな事を言うクレイブンにおれは返す。

「偶然ですよ。おれは単なる冒険者! 閣下。隣街におれに似た男が居るって前から聞いてたんですよ」

「俺はジェイスンって言うんですが、そいつはジェイソンって名で髪も黒髪、なんて紛らわしい偽物ヤロウだって前から言ってたんですよ」

おれはペラペラ語ってみせるが、デタラメを覆面の女がさえぎる


「嘘ね!」


覆面の女がおれに指を突き付ける。

その冴えわたる声は少し前に聞いたものだった。

「あなたが書いた亡くなった人たちの名前にジェイソンなんていない。あなた。みんな親しい友人だと言ってたわ」

その声はフレデリカ 聖女サマのものだった!

「聖女サマか? 驚かされるぜ。顔を隠して地下で山賊と密会か?」


金ピカ仮面の男がおれを見て嘲笑う。

「尻尾を出したな。ネズミめ」

「ダデルソン。どこのネズミか吐かせろ。密偵かもしれん。」

金ピカ男が出て行こうとする。

小癪な事にフレデリカの肩を抱いていやがる。

「密偵なんかじゃないよ。信じてくれよ。なあ クレイブン。話せば分かるって」

おれはクレイブン閣下の気を引くのに成功したらしかった。

出て行こうとした男は足を止める。

「こ奴 今ワシの名を…」

「どこでその名を知った。言え!ネズミ」

おれは計画なく男を挑発する。

「クレイブン侯爵閣下 御高名は存じておりますとも この街に住む者なら誰でも」

ホントに計画は無い。

フレデリカの肩に馴れ馴れしく手を回したのに苛立っただけなのだ。

クレイブン本人だと確認できたのはそのついでだ。

「ねぇ 解放してください。悪いようにはしません」

「ダデルソン!どこの密偵か分かるまで殺すな!誰が裏に居るのか吐くまで徹底的に痛めつけろ!」

クレイブンは怒りながら出ていった。

今度はフレデリカの肩を抱いてはいない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ