第11話 貧民街の魔少年 Ⅶ
マフィアの女ボスに襲われるおれ。
なんとか話をまとめ、みんな帰っていった。
おれも酒を飲んで寝よう。
独身男なのだ。たまには女を買うのもいいじゃないか。
良いところで坊主が娼館に飛び込んでくる
ツイてないぜ
「ジェイスン ずいぶん酔っているな」
「娘 その客は連れていくぞ 大人しく見ておれ」
コーザンはまだ気づいていない。
娼婦はコーザンの後ろに廻り、窓からの退路を断つ。
「ずいぶんじゃないか 昨日抱いた女の顔を忘れるなんて」
「むっ」
娘は筋肉女・ケイトだった。
隣の部屋から壁を蹴破り、アーニーが入ってくる。
入り口からは黒服軍団だ。
おれたちはサラの囮計画を実行に移したのである。
目立つように路地裏の店を何件も廻り、人気の少ない娼館へと誘いこんだ。
気付かれないようコナー・ファミリーの護衛はつけていない。娼館以外は。
護衛をつけないで娼館に誘い込むのはのはおれのアレンジだ
この娼館だけは全てコナー・ファミリーの人間で固めている。
「ジェイスン コナーと手を組んだか」
「コーザン ずいぶん姑息な男だな」
「おれを捕まえる仕事を受けたのも『赤いレジスタンス』に来た依頼じゃない。お前が勝手に受けたんだな」
「その後はどうするつもりだった?」
「コナー・ファミリーが本気になったら『赤いレジスタンス』に罪をかぶせて逃げ出す気だったんじゃないか」
「ずいぶんとわしを見くびってるようだな」
コーザンは窓から逃げようとする。
「ここはアタシが通さない」
「コーザン ケイト・コナーを辱めたな。その借りは返す」
ケイトの拳にナックルが光る。
すでにケイトは本気モードだ。
ステップを踏みコーザンとの距離を測る。
ジャブから軽いフックを放つ。
コーザンも鉄棒で受け止めるが、昨夜の余裕は無い。
ケイトの拳を避けながら 懐からしきりに何かを取り出すコーザン。
「ムダだよ コーザン。中和薬が有るんだ。おれたちはそれを飲んでる」
デミアンだった。
銀髪の美少年は 中和薬も作っていたのだ。
コーザンは彼自身の体術もあるだろう、しかしそれ以上に 薬を周囲にばらまきその効果で動きの鈍った者を圧倒していたのだ。
「子供から危険な薬のレシピを盗んで利用か」
「子供が使ってよい薬ではなかろう。ワシは実用実験をしただけのことだ」
「それが女を無理やり抱いたイイワケになるか!」
ケイトがジャブからのストレートを放つ。
今回は力の籠っている打撃だ。
女を怒らせるとコワイ。
鉄棒を折り、コーザンのボディに決まる。
肋骨が折れたはずだ。
コーザンはケイトを避け扉から逃げようとするが、黒服軍団がいる。
アーニーの指揮下で闘う彼らはそこまでザコじゃなかった。
コ-ザンの鉄棒をくらいながらも逃げ道を塞ぐ。
後ろからはケイトの一撃がヒットする。
コーザンも咄嗟に致命傷をよけ右腕でカバーしていたが、あの当りは腕の骨が折れたはずだ。
「グッ」
異様な方向へ垂れ下がった右手。
「待て!待て待て!」
コーザンが大声を張り上げる。
「待て、この街はおかしいと思わないか。大通りにいる者はみな幸せそうだ」
「しかし 少し離れた貧民街はどうだ。幼い子たちが飢えて死にそうになっているのだぞ」
「神は全てに平等なハズだ わしは金を手に入れ子たちに幸せを分けようとしたのだ」
何を言いだすかと思えば。
「コーザン お前が本当に子供に幸せを分けていたのなららあんなに飢えているハズが無い」
「幼い兄妹が変態に躰を売っているハズが無い」
「そのセリフ ゴッド・マザーに対する侮辱と知れ!」
アーニーがコーザンに襲い掛かる。
ボフッ
コーザンの手から何か落ちる。
周囲に煙が立ち込め、何も見えなくなる。
「どこだ コーザン」
「カカカッ まだ甘いわ。この借りは返すぞ。 ジェイスン」
部屋は何も見えないが窓らしき方から音がする。
コーザンが窓から飛び降りたのだ。
「クッ あの坊主。どこまでも卑怯な」
「スグ追え! ヤツはケガをしてる。コナー・ファミリーのメンツにかけて逃がすな」
「アーニー 大丈夫だ。心配するな」
「ジェイスン 何故落ち着いてる」
コーザンは走っていたが、速度は出ない。
二階から降りた衝撃で足も痛めたのだ。
体が万全なら二階くらいはなんて事は無い。
しかし右腕の骨を折られ、肋骨もおそらく折れている。
すぐにコナー・ファミリーの追手がかかるハズだ。
イナンナの複雑な路地裏を利用してなんとか逃げて見せる。
あの死に損ないのジェイスンを殺す。
ケイトはぶち犯す。今度は手加減しない。全身いたぶって身動き取れないまま一生自分の玩具にしてやるのだ。
「サマラ あの男だ。」
「分かった」
コーザンの前に銀髪の少年が立っていた。
マントの女も一緒だ。
「やあ デミアンさんじゃないか。ワシだ。コーザンだ」
「うん 僕の薬のレシピを持って行かなかったか尋ねて以来、連絡の取れなかったコーザンさんだね」
「なんの話だったかな。『赤いレジスタンス』の仕事で忙しかったんだよ」
「冒険者のジェイスンを捕まえるんだよね。僕はその話聞いていないし、依頼料についても知らないな」
「待て待て 子供には分からない事情も有るんだ」
「あのジェイスンという男はくわせ者だ」
「冒険者と言ってるが あいつが関わった仕事では関係者がみな死んでるんだぞ」
「ウワサの山賊事件にしてもだ。犠牲者が皆死んでいるのに あいつだけ無傷とは明らかに怪しいではないか」
コーザンは適当な言葉を並べて誤魔化そうとする。
相手は賢いが子供だ。
口先で何とかなる。
しかしマントの女が前傾姿勢を取る。
「?」
コーザンは知らない。
それが女の戦闘態勢だと。
次の瞬間 コーザンの頭は胴体から離れていた。
自分の胴体から血が噴き出すのをコーザンは見た。
それが彼の最後に見た光景だった。
サマラはもちろん 彼のいう事をまったく聞いていなかったのだ。
さておれは数日後またマフィアの女ボスとメシを食っていた。
今回もギルドの特別室。アリスも一緒だ。
カニンガムの奴は逃げた。
デミアンは来ていない。
「ふん ジャネルは粛清したよ」
「あの子にも謝っておいておくれ」
「今度 貧民街に狩りしようなんてヤツが現れたら今度はコナー・ファミリーが相手になるよ」
料理が美味い。
「来ましたよ。この間はジェイスンさんのせいで途中までしか食べられませんでした。今日はフルコースいただきますよ」
アリスもご機嫌だ。
「アンタ 本当にコナー・ファミリーに入る気は無いかい?」
「これからファミリー内の粛清に本気でかかあるのさ。アタシと血が繋がってるヤツだろうが、処断できるヤツが必要なんだよ」
「いや あの それはですね…ジェイスンさんには実は決まった人がいまして…」
アリスが適当なことを言っている。
「おれはそろそろ別の街に行くつもりなんだ」
「マヌケな冒険者にはコナー・ファミリーの幹部は荷が重いさ」
「えっ! ジェイスンさん…」
「そうかい。ケイトはタイプじゃないかい。ちょっとばかり筋肉がついてるが美人だと思うんだがね」
いやちょっとばかりじゃないだろう。
孫娘のどこを見てるんだ。
「なんでですか? サラ子爵の誤解も解けたし、狙われることもなくなるじゃないですか。」
「イナンナの街嫌いになりましたか? でもサラ子爵が造った街です。私だってこれからこの街をもっと良くしていきます」
「困った事が有ったらカニンガムさんだっているし、…ワタシだっているじゃないですか…」
アリスは目に涙を浮かべていた。
「止めときな 冒険者ってのはね ひとところに留まれないヤツの事を言うのさ」
サラ子爵が年の功だ、いいことを言う。
だが、アリスは顔を下に向けて嗚咽を洩らし始める。
この街ではおれの特技を見せすぎた。
デミアンや子供たちにはバッチリ見られてる。
神殿の時だって見て生き延びてるヤツがいるかもしれない。
どこかで不審に思うヤツが出てくる。
一端 この場は離れるに限るのだ。
しばらくすればみんな 見間違いか、トリックだと思い込む。
人間はそういう風に出来ているのだ。
「おい アリス!そんな盛り上がらないでくれ。二度と来ないなんて言ってないぜ」
「ここは街道の要所だろ。またすぐに来ることがあるさ」
「そうか そうですね。ジェイスンさん。旅の護衛が中心の仕事ですものね」
「じゃあ 稼いで戻ってきてください。 今度はこのレストラン ジェイスンさんが奢ってくれますね」
アリスが顔を上げる。
良かった。
この娘はまっすぐ前を見てる顔がいい。
「ふーん こりゃケイトの婿は望み薄だね 頭が良くて度胸もあるヤツがどうしても欲しいんだけどね」
「ああ。コナー・ファミリーの幹部にはおれからひとり推薦するぜ」
「ちょっとばかり年齢は若いが、頭のよさはおれが保証する」
「サラやコナー・ファミリー幹部の前で コナーを糾弾できる度胸の持ち主なんだ」
おれはアリスとサラに親指を立ててみせた。
読んでいただいた方 ありがとうございました。
どうにか第二章終わりです。三章も構想は有るのですが、文章力が追い付かない。
新作始めました。
「クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。」
https://ncode.syosetu.com/n4463gp/
これ書きながら文章の修行します。
もうちょっと読んでやってもいいぜという方は下で評価お願いします。
作者がなんとか書こうかなと思い始めるかもしれません。




