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新月夜にノスフェラトゥ嗤う  作者: くろ


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第10話 貧民街の魔少年 Ⅵ

おれは最大のピンチを抜け出した。

薬にぼーっとして犬と交尾する姿を銀髪少年に見られるところだったのだ。

良かった。おれ ツイテるじゃん。

そんなおれをマフィアの女ボスが訪ねてくる。



サラ子爵を見る。

この老婆を嫌いになる事は難しそうだ。


「サラ子爵 話は分かった。でもおれに何の関係がある?」

「『赤いレジスタンス』捜索に力を貸せってんなら見当違いだ。おれはこの街に来て10日と経ってない。チンピラの居場所なんて分からない」


「まず一個 礼を言っておきたかったのさ」

「この間の侯爵の件 あれはアタシも気にしてたんだ。証拠もなしに神殿や侯爵を敵に回せないからね」

「アンタが動いてくれて助かった。この街の顔役の一人として礼を言うよ」


彼女はおれに頭を下げる。


「ゴッド・マザー!」

アーニー、ケイトが仰天した声を出す。


「あんたたちも礼を言いな!」

サラが鋭い声で言う。


筋肉二人組と他の黒服の連中がおれに頭を下げてくる。


「おいおい あれは偶然だ。礼を言われるほどの事じゃない」


「そういう所が気に入ったのさ。アンタに勲章を出そうとしたら、とっとと断ったってね」

「大きな声じゃ言えないが あの儀式に参加したバカの中には娘婿もいたのさ」

「コナー・ファミリーも大きく成り過ぎちまった。アタシの娘も息子もクソばかりだ」

「見どころが有るのはコイツラくらいだ」

アーニーとケイトを指して言う。


「頭は足りないけどね。自分を鍛えようって意識が有るだけマシさ」

「アンタ うちの身内にならないか? ケイトの婿なんてどうだ。アタシ直系の孫だ。うまくすりゃファミリーのトップになれるよ」


サラはとんでもないことを言い出す。

おれは思わず食べていた料理を吹き出した。


「ジェイスンさん! あの! サラ子爵は立派な方だと思います…けど…マフィアの一員になるというのはですね…オススメ出来ないと言いますか…」

「アリス 慌てるな。サラ子爵も冗談は止めてくれ」


「冗談でもないけどね まぁ本題は別さ」



「アンタに護衛を付ける」

「もちろん コナー・ファミリーがだ」

「『赤いレジスタンス』は厄介でね。決まったアジトがない。公園や毎回違う店で集会もしてる。リーダーもいないんだ」

「どうも年のいかないガキが入れ知恵をしてるってウワサだが、マユツバもんだね」

「アンタを捕まえるのに高い報酬をヤツらは要求してる」

「必ずアンタを捕まえに来るはずさ」


「要するにおれを囮にするつもりか」


「ふふん ケイト! ジェイスンにピッタリ貼りつきな! 未来のムコだよ 大事にしな」

その冗談は止めろってのに。


「いいか。『赤いレジスタンス』はアタシが絶対禁止にした奴隷売買をやっている」

「相手は子供を売って稼いでるクソ野郎だ。後悔させてやんな!」

「ハッ ゴッド・マザー」

「必ず後悔させます」

サラが黒服たちにハッパをかける。


「奴隷売買なんてしていない!」

割って入った者がいる。

銀髪の少年・デミアンだった。


「嘘をつくな 『赤いレジスタンス』は子供を売ったりしてない」

デミアンは立ち並ぶ黒服に囲まれて 怯えの表情を見せながらもキッパリ言う。


「このガキは誰だい」

「ああ ただの親戚の子供さ。気にしないでくれ」


「コナー・ファミリーこそ奴隷狩りに手を貸している!」

「貴様! サラ様に向かって」


アーニーがデミアンを突き飛ばす。

黒服どもがさらに少年に詰め寄ろうとする。

その前を山刀が切り裂く。

サマラが少年の前に立っていた。

刀を抜き前傾姿勢!

戦闘態勢である。


「デミアンに近づくな!」

「アンタ 聞いた覚えがあるよ。マントを着た刀を振り回す素早いヤツ」

「『赤いレジスタンス』の用心棒だ」

「イヤ 違うって。合致してるのはマントだけだろ」



ケイトがナックルを取り出し手に嵌める。


「面白い アタシが相手になってやる」

「いや 落ち着け。 話し合おうじゃないか」


サマラが刀を振るう。

鉄のナックルで受け止めて見せるケイト。

彼女もただの筋トレ女じゃない。

サマラは一度下がって体勢を立て直す

デミアンを庇いながら、近付く黒服を威嚇する。



ことごとく無視されるおれ。

チクショウ!

頭に来たぞ。


…ガッシャーン! ドンガラガッチャーン! 


おれはテーブルをひっくり返してみせた。

上に載っていた食器がひっくり返ってとんでもない大音をたてる。


「ひどい あたしの料理…まだ食べてる途中だったのに」

アリスが何か言ってるが聞こえないふりをする。


「みんな 落ち着け!」

「サラ おれは昨日奴隷狩りをしてる連中を見た!『赤いレジスタンス』じゃない」

「この子のいう事は本当だ。 狩りをしてる奴はコナー・ファミリーが俺たちにはついてる と言ってた」


聞いた途端 サラ子爵の頭の血管が膨れ上がる。


「ジェイスン 冗談じゃすまないよ!」

「冗談じゃない! おれはこの耳で聞いた。おれはコナーにもレジスタンスにも義理は無い。事実だけ言ってるんだ!」


「アーニー! ケイト! 奴隷狩りをしてる連中をアタシの前に連れてきな!」

「手勢を何人使ってもいいよ。今日中に必ずだ!」

頭から湯気を吹きそうな勢いで言う老婆。

血管は大丈夫だろうか。

だけどちょっと待ってくれ。


「もう捕まえてある」


「何だって」

「何だと」


「奴隷狩りの連中だ。もう全員捕まえてある。ついでにこの建物にいるぜ」

おれはマフィアの女ボスに向かって 親指を立てて見せた。



「知った顔はいるかい」

「ジャネル叔母さんの飼ってる連中ね」

「ジャネル叔母は持ってる店は全て上手くいっていないはずなのに 一時期金回りが良かった」


「ジャネル叔母はサラ様の5番目の娘さんだ」

アーニーがおれに教えてくれる。

ちなみに長男の娘がケイト、4女の息子がアーニーらしい。

いったい何人子供がいるんだ。

「自分が知る限り息子が5人 娘が8人だ」

ホントか。バスケチームどころかサッカーチームが作れる。


「ジャネル! あの娘ただじゃすまさないよ。アタシに恥をかかせてくれたね」


サラと黒服は怒りながら去っていった。

また礼をしに来ると言っていた。

嫌いな女じゃないが、あまり会いたくは無い。

どっと疲れる。

カニンガムは酒を付き合わせようとしたが、心労が激しいと言って帰って行った。

お前は何もしてないじゃないか。


デミアンとサマラも帰った。

報奨金は一時金でも人数が居た分それなりの額になった。

子供たちの食料を買うのに不足は無いだろう。


元々デミアンの家は街の薬屋だった。

ファミリーに金を払わずにいたため、店を潰され貧民街へ追い出されたのだ

デミアンは薬の知識を受け継ぎ、子供たちの治療をし治療薬の一部を闇ルートで販売した。

売買役は貧民街上がりの若いのだ。

その売買役が『赤いレジスタンス』の始まりとなっている。

デミアンによるとあの薬は自衛のために作ったもので、売ってはいないと言う。


「コーザンは? ヤツも貧民上がりか?」


「違うよ 用心棒として売り込んできたんだ。 実際強い人は必要だったから」

「でも『赤いレジスタンス』の名前を勝手に使ってるフシが有るし…」

「あの薬のレシピが行方不明になったんだ。その後しばらくしたら戻ってきた」

「誰か盗んで書き写して返したんだ」


言外にコーザンが犯人だと言っている。


「デミアン これを持っていけ」

「これ 金貨じゃないか。こんなに貰えない。さっきも報奨金を貰ったばかりだ」

「どうせ 拾い物さ。良いか。隠しておいてイザというとき使え! 子供が金貨を見せびらかしてたらトラブルの元だ」

「分かった。大事にする」

金貨1枚稼ぐには普通の商売なら3カ月は懸かるだろう。

子供に持たせるには危ない額だが、デミアンならへまはしないだろう。


おれは宿屋に帰らず、寄り道した。

昨日今日と良く働いたのだ。

自分にご褒美したってバチは当たらない。

大通りからは外れてるが、それなりに上等な店屋に行く。


おれは良い酒と良い料理をジャンジャン頼んだ。

報奨金の前渡し分は全部デミアンに渡したが、調査次第で後金が出るはずだ。

馬車や武具の金も入る。半分はデミアンに渡すとしても余裕は有る。

店の女を横に座らせる。

豪遊するおれに女は愛想が良かった。


「キミも飲むかい」

「お客さん 景気がいいのね」

「ああ 臨時収入が有ったんだ」

「すごーい。冒険者でしょう。どこかでお宝でも手に入れたの」

「盗賊を退治したのさ。最近山賊が出るってウワサだったろう。あれを退治したのがこのおれさ」

「うっそー そんな強そうに見えないわ」

「いや 人は見かけによらないっていうだろう 今夜試してみるかい」

良い感じに酔っぱらって店を出る。


路地裏をウロウロした後、また別の店に入るおれ。

そこでも上等の酒を注文する。

前の店で食べ過ぎたから、今度は飲む専門だ。

葡萄酒を飲んで、エールで乾杯し、カクテルを注文して、蒸留酒を胃に流し込む。

ベロベロだった。


そのまま道をウロウロしていたおれは客引きの男に捕まる。

「お客さん いい娘いるよ」

「この辺で一番安い娼館はどこだ?」

「おいおい 安いとこは値段の分、女もバケモノしかいないよ。そんなとこよりオススメの店があるんだ」

「良いんだよ。おれはゲテモノ趣味なんだ」


そのまま客引きと娼館に行く。

街はずれに近い場所だ。

パッと見普通の飯屋のようだったが、中はそれなりにムーディーな飾りつけがされていた。

女が何人かおれのテーブルに来る。

その中から選ぶ仕組みだとボーイがおれに説明する。

選んだ女と上の階に行き、朝まで過ごすのだ。

おれは身体が少しばかり大きいが、顔立ちの整った娘と二階へ行く。

ホットパンツにタイツ、色っぽい服装だ。

階段を上がる時 後ろから下着が見える。


「ついてきてるわ」

「気が早いヤツだ 初日からか」

「何軒も店を廻った甲斐があったじゃない」

「2.3日そっち持ちで豪遊しても良かったんだがな」


おれの前の客が部屋に入っていく。

体格の良い男に女がしなだれかかっている。

扉を閉めたら即始めそうな雰囲気だ。


俺たちもその隣の部屋に入る。

おれは部屋に入ると水を飲みベッドに寝そべる。

なんせおれは酔っぱらっている。

娼婦がおれにくっつく。


「どうせだからホントにやるかい」

「光栄だがね そんな時間は無さそうだ」


窓ガラスが割れ、誰か入ってくる。


「ジェイスン ずいぶん楽しそうだな」


コーザンだった。


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