悲しいくらい暗い広場に人の足跡だけが残った
悲しいくらい暗い広場に人の足跡だけが残った
見上げた空には、誰も見たことがないほど大きな鬼が
こちらに目をギョロ付かせて、にらんでいる
僕は一人そのことについて考えながら一人
道のことだけを考えていた
ゆっくりとのぞく陰を酒に浸しながら
明日の足音を、緩やかな坂道に転がした
それを見ながら変わりに沈んでいく夕焼けが
危ないまなざしを、向けてこちらを睨む出もなく思う
ゆっくりとゆっくりと進んでいく人形は
口から指をボロボロと落とし
長い長い道は血と膿と悲しさのぬかるみが
見たこともないような地平線の奥まで続き
僕はそれに付いて、あまり考えないようにしながら
下山を決意した
ゆっくりとゆっくりと揺れる首は明日を向いて
昨日を二度とみないように
ボンドとセメントで固められた亀の甲羅はひび割れる
長い長い後ろの影は、昨日みた夢の続きを踏んづける
瓶に詰められた長い髪の色を染め
夜の闇に紛れた頃に
私の脳は、地面で潰れる
ころころ回る悲しさを、昨日に揺らして散ってゆく
遠い遠い遠吠えの
悲しいお面の覗く瞳は
ゆっくり進む紙の船を
揺らす風呂場で沈む赤
長い長い夜中の風呂場
続く悲しみの中で揺れ
誰の心も水で揺れ
涙のスプーンが汚れ行く
悲しい悲しい夜の中
ミジンコほどの話し声
揺れる揺れるゆりかご落ちた
見える洞穴縦に揺れ
見える暗闇 穴で光り
燃える人形吠える人形
悲しい夜中の緩い夢
記憶の夜は揺れ動く
しがない夜に見えない夜中
悲しい夜の見えない顔を
探しさまよう夢の中
揺れる川底 静かな時間
見えない記憶が揺れ動く
悲しい記憶 うれしい思い
沈む顔に目はもう無い
くるくると回る夢は転倒し
驚く思いでくじいて倒れ
目の前転がる意識の心
くるりと回る悲しい時間
見える夢は夢の中
静かな夢の恐ろしい
感情揺れて見えない夜に
悲しい悲しい見えない時計
コチコチ鳴っては目に見えない
ぎこちない思い出は
針に通され道向こう
誰も知らない夢の中
記憶の中で揺れ動く
隠れた人形探しだし
思い出だけがまた隠れ
知らず無朝におびえて眠る
白い瞳は川を見る
脳に刻んだしみは薄れ
心に落ちる腕時計
悲しい時刻に揺れ動く
見えない狭間で揺れ動く
時間が、ゆっくりと落ちていく
目を見開いても雨の音が、目に落ちる
誰もいない枯れた井戸の中で僕は、地面の落ち葉を
手のひらに乗せた
目の前も見えない場所で椅子に座ったまま
目の前を、見据えていた
学ランの詰め襟を、手で揉みほぐし
見据える前方には、桜色の花弁が風に落ちている
ゆっくりと前に踏み出した足がコンクリートを濡らした
歩き出した集団は、道が黒ずむことを知らない
黒くもない空は、白い穴を開け
誰も来ない住人を探す
前の見えないサングラスをした猫に
砂の数を数えることを推奨した
数えることを忘れた生物の列が
死に向かい着実な静寂をもたらす
目に見えない真実が瓶の底に見えては隠れる
夜の分子に触れながら、忘れた道に踏み出した