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あっという間というにはあまりに複雑な感情が凝縮した一週間は、まるで定規も使わずに引いた歪な直線のようだった。お世辞にも見栄えの良いとは言えない毎日の結末は、やはり不格好な答えになるのだろう。
再び訪れた熊に囲まれた部屋で、香澄は久慈丸と向かい合っていた。
「では、過去の記憶を思い出すと?」
「はい。たとえ苦しみを背負うことになっても、今の記憶は失いたくないので」
「いいんですか?」
本当は良いかなんて分からない。自分が選んだ未来に自信なんてこれっぽっちもなく、良いと言い切ってしまうことの方が余程不安だ。
不安で恐くて出来るなら逃げ出したいけど、そうしてしまうと今以上に最悪な毎日を積み重ねてしまう。悲観的で消極的、それが今の香澄が抱く正直な気持ちだった。
「助けてくれる人もいるので」
「分かりました」
もしかしたら今の高校生活もこれからの毎日もすべて忘れてしまって、何も知らない幸せな頃の記憶とだけ過ごしていく方が賢明なのかもしれない。それに医学の進歩で忘れたいエピソードだけを消し去ったり、反対に思い出したいエピソードだけを思い出すことだってできるようになるかもしれない。それまでの間は記憶を消して束の間の平和を保ちつづければ、絵に描いたような幸せな人生を歩めるだろう。
それでも過去と一緒に生きて行こうとするのは、どうしようもなく今の生活を愛しているからだ。香澄はつらい毎日も憂鬱な夜もみんな連れて行って、今が幸せだと信じ続けたかった。
「では、記憶を戻す治療を始めてもいいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
「浅間さん」
「はい」
「絶対に、生き続けてください」
人間は息を吸うように道を誤る。凡庸な人間の人生を一本の映画にしたなら、エンドロールまで恥ずかしい失敗のハイライトで埋め尽くされるだろう。評価サイトにはあの子の好意に気付かないなんてありえないと書かれ、SNSには人生に向いてなさすぎると感想を述べられる。他人にとって、大抵の人生は美しくない。
ここで選んだ道は正しくはないかもしれない。それでも今の浅間香澄の生き方に照らし合わせるならば、それは決して間違ってはいなかった。




