セシャトのWeb小説文庫X魔法使になるためにっ!
私は知らない町に居た。何時の間に来たのだろう、服装も何時もの布の服。でも外出時に付けている魔法の杖は持っていない。何処かに置き忘れたのか、置き忘れ紛失すると師匠に怒られる。
思わず空を見ると今にも降り出しそうな空模様だ。
ほら、そう思っていたら、私の顔に雨粒が落ち始める。
急いで近くのお店に入った。得に用事はある訳ではなく何の店なのかもわかっていない。
「いらっしゃいませ。古書店『ふしぎのくに』の店長セシャトです。何をお探しでしょうか?」
優しい声が私の耳に届く。銀色の長い髪、薄い緑色の綺麗な瞳、少しだけ褐色した肌。エルフに似ているけど耳は長くない。
「あっ。すみませんっ。私。カレンと言いますっ。あの外が雨が降ってきて、それで得に用事は無かったんですけど……」
ああ。私は馬鹿だつい思った事を言ってしまう癖がある。用事が無いのに店に入るなど怒られても仕方がない。
「そうでしたか。カレンさん、良ければ雨がやむまでゆっくりとしていて下さい」
セシャトさんは私にそう言うと、綺麗に微笑む。
うぐぅ。『神は二物を与えず』あれは嘘だ。と私は思う。
店内には本がビッシリと本が並んでいる。すごい……一般的なメモは羊半紙で書くのにどれもこれも凄く立派に作られている。
「宜しければどうぞ。カレンさんが楽しめられる作品が幾つもあると思います」
「い、いえ。こんな高そうなの触れませんっ」
「高いかどうかと言われると、高価な本は余り無いのですけど」
「でも、一冊数千ゴールドはしそうな物がいっぱいですし」
「ごーるど……? 申し訳ありませんがカレンさんはどちらから」
「あっ。そうなんですよね。カーメルの町で師匠と魔法の訓練をして、部屋で寝ていたと思ったら其処に居た」
扉の外を指差す私。なんだろう、セシャトさんがちょっと引いている気がする。
何かを察したようなセシャトさんは、再び私に微笑んだ。
「そういう事もある物なんですね。カレンさん良ければ、お茶にしませんか。今日は北海道のわか――」
「ヘックシュン」
私は話の途中で壮大くしゃみをした。鼻に埃でも入ったのだろうか。セシェトさんが直ぐに白い布をくれる。薄いレースよりも更に薄い布で鼻をかめと申しますかっ。なんて貴族。
勿体無い事は出来ないと、袖で鼻を拭こうとしたら怒られた。
大丈夫でしたか? と聞かれたので大丈夫と答える。先ほどのティッシュと呼ばれる布はゴミだと言わえセシャトさんに回収されてしまった。持って帰ろうと思ったのに。
途中で中断されたお菓子の説明をするセシャトさん。
「これはですね。芋の形をしていますけど、芋ではないんです。練った白餡を砂糖醤油で転がしながら焼いたお菓子なんですよ。皮は非常にもろく、食べる時に剥がれ落ちてしまうので気をつけて食べて下さいね」
私の分も用意してくれた。
手の平に乗る小さなお菓子、見た目は茶色で確かに焼いた形跡がある。
私の前でセシェトさんが半分に切ったお菓子を口の中にいれ食べていた。その味に微笑み私にもどうぞと伝えてくる。
食べやすいように、小さな木の棒が付けられたお菓子を、一口で食べる。
口の中に甘い味が広がり、周りの皮が香ばしい。初めて食べる味に感動するとセシャトさんは、此方もどうぞと自分の分を半分けてくれた。やはり彼女は女神だった。
いつの間にか外は土砂降りになっている。窓の外では雨粒が激しくなっていた。
暇になった私は椅子の上から再び本棚を眺める。
セシャトさんは黒い板の上で指を動かしていた。
「宜しかったら読んでみませんか?」
「えっ。あーえっと。ごめん、字が読めない」
そうなのだ。どれもこれも私の知っている字ではない。
「申し訳ありません。ではどんな話が好きでしょうか?」
「いや。セシャトさんが謝る事じゃなくて、学のない私のせいなんだし……ん。お話かぁ」
小さい頃ママに聞かせてもらった話を思い出す。
冒険者としてクエストを受け魔物を倒したり。姫様が実は男だったとか。町長に騙されて鼠の穴に落とされたなど。
ろくな話が無いのを思い出す。
少し考えた後に私はセシャトさんに好きな話を語った。
「なるほど、魔法の才能が無い少女が、天才魔法使いに弟子入りする話ですが」
「はい……」
私は消え去りそうな声で答える、だって。その話って私と師匠の間柄なんだもん。それを知らないセシャトさんは私を本棚の前に連れて行ってくれた。
「此処から全てそうですね。カレンさんの眼から見ていい名と思った本をお読み聞かせしますよ」
「此処からって。多すぎでしょっ!」
私が指をさした場所からセシャトさんが教えてくれた場所まで軽く数千冊はある。どれもこれも分厚く、壮大な物語なのは直ぐにわかった。
「いえ、これでも数千分の一と思います」
どんだけよ。一冊読み聞かせてくれるとなると数日は掛かりそうだ。
断るのは忍びないし。私はその中でも薄い本を一冊指を差す。
「これ。これでいいかな。薄そうだし、私でもわかりそう」
セシャトさんは私の顔と本棚の薄い本を交互に見て微笑む。
何処からか金色の鍵を取り出すと本棚へと差し込んだ。
金色の鍵を取り出すと本棚の中にそれを差し込む。
「хуxотоxунихуxакутоxуноберу」
本棚から光り輝く本を一冊取り出した。
「魔法……」
「カレンさんの知っている魔法とは違う気がしますが、そのような物です」
そういうと私に、本の中身を読み聞かせてくれる。
冒険者の娘である少女。彼女は体内に眠る魔力のせいで大きな事故を起こしてしまった。両親は心配し、少女を昔の仲間である魔法使いの下へ弟子入りさせた。
魔法使いは、少し背が低いが割りとイケメンで少女の事を面倒と言いながらも修行を付けてくれた。
そんな共同生活で芽生える、淡い気持ち。しってかしらずが、のらりくらり回避する魔法使い。歳の差と言うのが邪魔して魔法使いは中々振り向かない。それならば世界一の魔法使いになってやると意気込む少女であった。
セシャトさんは光輝く本を閉じると私に向き直る。
「え。それで終わり? 少女は。師匠との恋の行方はっ」
「あの、そんな詰め寄られましても」
「だって……」
「まだ五話だけですので。もちろん直ぐ終わってしまったり未完になったりもしますが、それは私にもわかりません」
窓から日の光が差し込んできていた。
「あ、雨やんでる。師匠一人じゃ心配だから帰るっ」
「あら、では先ほどのお菓子をお土産にどうぞ。頑張って下さいね」
何を。と思ったけど何も聞かなかった。私は先ほど食べた、なんちゃらいもをポケットに詰め込む。なんちゃらなのは私がクシャミをし話を聞いていないからだ。わか……なんだっけ。まぁいいか師匠ならなら知ってるかもだし。
「あのっ、そんな急いで外に出られますとっ――」
日の光が眩しい外で一歩踏み出した。後ろでセシャトさんの声が聞こえた気がした。
そのとたんに私の足がすべり、視線が空へと真っ直ぐに伸びた。
お尻を打った。
気が付けば見慣れた天井が見えている。家だ、横を見ると私が寝ていたベッドがあり毛布が見えた。
先ほどまで何処か違う場所に居たような気がしたのに思い出せない。
何か女神様にあって美味しい物を食べていた気がするのだけど……。
打ったお尻に手をつけると、ねちょっとした物が指に付く。
「うわ。なんだこれ。白餡……? なんでお尻に付いてるのよっ」
私は周りに誰も居ない事を確認してそれを口に入れた。何処かで食べた甘い味が口の中へ広がったのだった。