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放課後ロマンス

まさか私が秋山くんのことが好きだなんてとんでもない誤解をしているとは。

私は太田くんに「ちょっと待って!それは大いなる誤解!!」と叫んだが、太田くんはサラリと無視して部活に行ってしまった。

学園の王子よ、なぜ無視する。


しかし困ったことになった。

私は脇役だ。

主役の2人を邪魔する役目は私ではない。

今回は櫻田さんの役目である。


これも夢で御神託があって、櫻田さんは秋山くんのことが好きで真山さんのライバルだそうだ。


とにかく、私の役目は2人の絆を深めさせること。それ以外は私の役目ではない。


少し迷ったが、私は部活が終わるのを待つことにした。

太田くんの誤解を解かなくては。


部活が終わる時刻を見計らって下駄箱で待っていると、すぐに太田くんと愉快そうな仲間たちの姿が現れた。

着替え早いんだな。

剣道の防具なんて簡単に脱げなさそうなのに。

私はキラキラ輝く王子様然とした彼に近づいた。


「太田くん、ちょっといいかな?」


「えっ?

どうしたの?」


「えーっと、その、話があって。」


その言葉に、太田くんの愉快そうな仲間たちがヒューヒュー!と煽り始めた。


「よかったなー!太田!!」


「やっぱモテ男はちげーわ!!」


なにやら私が太田くんに告白をすると勘違いしているようだ。

ああ、勘違いを解くために更に勘違いを巻き起こすなんて。

私はなんとかその場から逃げ出そうと太田くんの袖を引く。


「とにかく来てもらっていい?」


「あ、ああ、うん。」


愉快そうな仲間たちに煽られながら私たちは廊下を進み、誰もいない教室に入る。

窓を見ると、外はすっかり暗くなっていた。


「ごめんね、部活終わった後なのに。」


「や、いいよ。

それで話って?」


「うん。

太田くんが勘違いしてるみたいだからただしておこうと思って。」


「……勘違い?」


私は太田くんの目をしっかりと、こんな馬鹿げた誤解はしないように強く見つめる。


「私、秋山くんのこと好きじゃない。」


「……そうなの?」


「当たり前じゃん!

どうしてそう思ったのかサッパリだよ。」


「……だって高山さんって秋山のことばっかり見てるし、秋山にばっかり話しかけるし、秋山のこと詳しいし。」


こうして聞くと誤解されても仕方がない。

傍から見たら私、秋山くん大好き人間じゃないか。


「それは理由があってですね。

実は真山さんが秋山くんのこと好きみたいで、で、秋山くんも真山さんのこと好きみたいだからこう……お見合いババアのごとく見守ってたんだよ。」


「お見合いババアのごとくねえ……。」


「そう!

大体、私は誰かを好きになったりとかそういう色恋沙汰とは無縁な人生を送ってるの。

だから、決して、いい?決して秋山くんのこと好きじゃないから。」


太田くんは難しい顔でどこかを睨んでいた。

納得してもらえていないようだ。


「出過ぎた真似だってわかってるけど、私の趣味でして……。

あ、他の人には出来れば言わないで……。

鬱陶しく思われるし……。」


「高山さんは、好きな人いないんだ?」


「うん!

もう、全然!誰のことも興味ないよ!」


私が力強く否定すると、太田くんは口角だけを上げて笑った。


「そっか。

よかった、かな。」


「よくはないよ。

恋愛したいし。」


彼の言葉に思わず反論してしまう。

私には使命があるが、としても恋愛はしたいのだ。

例えば学校の一匹狼な彼の思わぬ優しさを知ってしまって始まるフォーリンラブとか、誰に対しても人当たりがいい彼が実は腹黒でそれを知った私はうっかり彼に恋をするとか、石油王な彼が転校してきて……


「……ならさ、」


太田くんは妄想をする私の手を取り、流れるような仕草で包み込んだ。


「俺と恋愛しよう。」


「……へ?」


私はぽかんと太田くんを見つめた。

私まだ妄想してる?いや、この手の暖かさは現実……のはず……。


彼は怒っているような、苛立っているような、嘲笑しているような、とにかく余りいい表情をしていない。

それになんだか、私の手を握る力が、強く、なって、る?


あれ、今私告白された?でもこの感じだと怒られてる?


「俺てっきり秋山のこと好きだと思ってたから、今日もあいつと滅茶滅茶やり合ったよ。

本当に嫉妬で気がおかしくなりそうだった。


秋山の部活も、休みも把握してるのに俺のことはなんも知らないし。

部活終わりに話し掛けられたから、まさかとは思ったけど案の定告白とかじゃ全然無いし。


高山さん、俺の下の名前も知らないでしょ。別にいいけど。

ねえ俺は知ってるよ、高山桐花ちゃん。

ずっと見てたんだ。

君のこと、ずっと。一年生の時から。」


太田くんに鋭く見つめられ、私はゆっくり唾を飲み込んだ。


「ど、どうして?」


「可愛かったから。

俺を先生だと勘違いして挨拶して来たり、カバンの中身を池にブチまけて半泣きになったり、体育の時1人だけ借り物の上下ダボダボのジャージで来たり、全部可愛かった。」


太田くんの空いてる方の手が私の頬に添えられた。

仕草は甘いが、その表情は恐ろしい。

私のこと可愛いって本当に思ってる?なんだか今すぐ殺してやりたいと思ってるようにしか見えない。

何が起こってる?


「混乱してる?

その顔も可愛いね。」


「か、可愛くないよ!

変だよ太田くん!落ち着いて!」


「変じゃないし、落ち着いてるよ。

桐花ちゃんはすごく可愛い。

夢にずっと見てた……。君のその真っ赤な顔。

君は俺の運命の人なんだ。」


彼は先ほどの冷たい表情から打って変わって私をうっとりと見つめると、そのまま顔を近づけてきた。

まさかキスしようとしてる!?


この男何考えてるのかさっぱりわからない!さっきまであんなに憎々しげに私を睨んでたのに!

焦った私は彼に掴まれていない方の手で思い切りその顔を止めた。バチンと音がした。


「痛いなあ。」


太田くんはくぐもった声で言うと、叩いた私の手首を掴んだ。

そして彼はそのまま私の指先にキスをしてきた。


「ギャア!!!

何するの!!」


手を引き抜こうとするも力が強く全く離してくれない。

それどころか手のひら、指の股、手の甲、手首にまでキスをし始めたのだ。


「へ、変態!!離して!!」


「さっきより赤い顔してる。」


全然離してくれないので、私は腰を落として肩が外れるんじゃないかというくらい手を引いたら、あっさり離してくれて尻餅をついてしまう。


「いたっ、」


「あー痛そう。

本当にドジで可愛いね。」


太田くんは愉快そうに呟くと尻餅をついている私に覆いかぶさってきた。


「ちょ、太田くん!」


「桐花ちゃん、君は俺の夢に現れて、俺にこう言うんだ。

早く愛してって。泣きながら俺に縋り付いてきた。


どこからか彼女を早く見つけろ、彼女はお前の運命の相手だって声が聞こえてくる。

最初は馬鹿馬鹿しい夢だと思った。


けど何回も夢を見るうちに、現実の君を見ているうちに、運命の相手っていうのは本当なんだってわかったんだ。


だってほら、俺の心臓の音聞こえるでしょ?こんなにうるさい。」


息の荒い太田くんは私の手をまた掴んで、自分の胸に当てさせた。


手から彼の鼓動が伝わってくる。

すごい早さだ。不整脈じゃなかろうか。


私がびっくりしていると、太田くんは私の胸に手を当てた。

……セクハラされている。


「桐花ちゃんもすごくうるさい。

……俺が運命の相手だってわかってくれたからドキドキしてるの?」


「違うよ!

お、男の子にこんな迫られたの初めてでびっくりしてるだけ!

ドキドキしてるんじゃない!」


「そうなの?

でもその割には真っ赤な可愛い顔してるし、それに」


太田くんは私の右手を上げた。


「俺の手こんなにしっかり握ってるのに。」


私の右手は、太田くんの右手を恋人繋ぎで握っていた。

いつの間に!?どうして!?

私はその手を離そうとするも、それより早く太田くんが握って離さない。


「逃がさないよ。」


「やっ、違う、待って、」


さっきから私の身に何が起きてる?

私は「なにあれ、感じ悪い」と数多の男女につぶやき、そして2人を結ぶ存在。

それが私の使命で、それ以外の価値なんて私には無いのに。


そんな私にもロマンスが訪れようとしているというのか?

この強引で若干電波が入っている太田くんと?

なんでいきなり。


私は一体。


「桐花ちゃん。

俺の下の名前蓮実って言うんだ。

ねえ、下の名前で呼んで?」


「は、蓮実、くん。」


私は縋るように太田くんの下の名前を呼んだ。


「本当に可愛い。」


蓮実くんの目は鋭く私を見たまま、口角だけを上げた笑顔を見せた。

そして、私の顔に再び近づいてきた。


「ちょっと待ってよ!蓮実くん!」


私は叫んでから、あれ?と違和感を覚える。

なんか今の単語どこかで聞いたような。


蓮実くんは私の制止を一切聞かずに、キスを落としてきた……私のほっぺに。


「あ……」


「……口が良かった?

なら口にするね、こっち向いて。」


「いやいやいやいや。違います。」


首を激しく振って、蓮実くんを軽く睨む。


「蓮実くんっておかしいんじゃない?

さっきからなんなの?すごい強引だし……。」


「桐花ちゃんのことが好き過ぎておかしくなっちゃった。」


彼は私のこめかみにキスをすると、そのまま私の体を抱き寄せた。

もしこれが学級委員の田山くんなら私はとっくに殴っているが、相手は蓮実くんだ。

殴ったら倍返しされそうで殴りづらい。


「やっと俺が捕まえたんだ、他のやつのことなんか気にしないでね。

特に秋山のこととか、全部忘れて。

君は俺の運命の人なんだから。」


蓮実くんのどこか泣きそうな声が耳元で聞こえてきた。


ああそうか。


これは使命なのだ。

そうでなければいきなりこんな風に迫られるなんておかしい。


「そういうことか……。

蓮実くんも御神託を受けたんだね。」


「御神託?」


「夢の中で言われたんでしょ?

私を愛するようにって。それは多分神様からの御神託なんだ。

私も恋する2人の絆を深める手伝いをするように言われたの。それが私の宿命。

私と蓮実くんが結ばれるのもきっと使命なんだよ。」


私が彼を見上げると、彼はゆっくり首を振った。


「確かに夢で君を愛するように言われた。

でもそれは御神託なんかじゃない。俺の意思だ。

俺が君を愛したいからそういう夢を見ただけの話だよ。」


そう言って蓮実くんは優しく微笑んで、私の頭を撫で始めた。


「俺たちは自由なんだ。

御神託や宿命なんか関係ない。

俺は俺の意思で君を愛してるし、君も君の意思で生きるべきだ。

他のやつらなんかどうだっていいじゃん。

もうお見合いババアの真似事は終わり。

桐花ちゃんの好きなように生きればいい。」


私の好きなように。


その言葉に私は目が醒める思いだった。


私は自由なんだ。


「私は自由……。」


「そうだよ。」


「もう男の子と女の子をくっ付けなくてもいい。」


「そうだよ。もうしないでね。」


「なら、蓮実くんと恋に落ちるのも落ちないのも自由。」


「……ん?」


「てっきり蓮実くんも御神託を受けたから、ああきっと蓮実くんと結ばれる使命なんだなって思ったけどそうじゃなかったんだね!

よし、蓮実くん、ちょっと離れて。」


「いやいやいや、ちょっと待ってよ。」


蓮実くんは私を離さず、というかより密着してきた。


「おかしくない?今の流れは完璧に俺の恋人になる流れだったよね?」


「私ちょっと流されやすいみたいだ。

今度から気をつけなくちゃ。」


「なんでそこは流されてくれないの!?

ああ、クソ!迂闊だった……!」


蓮実くんは悔しそうに、焦ったように頭を搔く。


「桐花ちゃん、やっぱり俺と結ばれるのは宿命だよ。だから恋人になって。結婚して。」


まさかのプロポーズ。

なんか蓮実くんってやっぱりおかしい。

というか、ヤバいやつだ。

私は逃げ出そうともがくも、それに気付いた蓮実くんは私の腕をしっかり掴んで逃さないようにしてくる。


「離して!言ってることめちゃくちゃだよ!

蓮実くんちょっと怖いよ!さっきから睨んできたり、キ、キスしてきたり、強引じゃない!?

今までただのクラスメイトだったじゃん!」


「怖くないから!

睨んだのは、ほら、可愛さ余って憎さ百倍ってやつ。

君が秋山のこと好きなんだって思ってたからすごい焦っちゃってさ。」


「なるほどなるほど。とにかく離してもらっていいかな?」


こんな風に密着した状態じゃ考えられるものも考えられない。

ちょっと落ち着いて考えたいのだ。今後の私の人生を。

それから蓮実くんとのことも。

というのに蓮実くんは私の気持ちなど露ほども汲み取ってくれずに抱きしめたままだ。


「嫌だ!逃げる気だろ!

俺の何がいけない!?顔?声?足の指が巻き爪だから?全部手術して直すよ?

それともやっぱり好きな奴がいるの?どいつ?2度と君の目の前現れないようにしてやるから教えて?」


「巻き爪は直した方がいいね……。

でも一番直した方がいいのはその愛情の重さかな。」


私が指摘すると、蓮実くんはフルフル震えだした。

その間も私を抱き締めて離さないので、振動がよく伝わってくる。

携帯のバイブレーションか、ゲームのコントローラー並みの震えだ。


「わかった。軽くする。

だから同じ墓に入って。」


「そういうところが重いんだよなあ……。

まあとにかく離して。」


「嫌だ。」


「離してくれたら今私を無理矢理捕縛してることは警察に言わないでおいてあげるから。」


「嫌だ。」


警察に言うぞ!

という最終兵器が効かないとは困った。

私は暫く考え、名案を思いつく。


「なら離してくれたらキスしよう。」


蓮実くんの筋肉が硬直したのが伝わってきた。

彼はギギギ、と首を動かしこちらを見つめる。


「本当に?いいの?」


「うんうん、ほら、動けないから私を離して、目つぶって。」


蓮実くんは恐る恐る私を抱いていた腕の力を緩め、手を離した。

私はゆっくり彼から離れる。

ラプトルから離れる時のように慎重に。


「蓮実くん、ごめん。

こんなにチョロいなんて思わなかったんだ。」


私は謝ってから、蓮実くんの股間を思い切り踏みつけた。

蓮実くんの声にならない悲鳴が聞こえる。

ごめん、でも埒があかない。


「ごめんね、蓮実くん。本当にごめん。

もし不能になったら治療費は持つから。ごめん。」


蓮実くんは悶絶している。

私はもう一度ごめんと謝って教室から走り去った。

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