第8話 生命ある者、生命なき者
リリミヤはぶつかって来た僕の身体が力を失うのを感じて、思わず抱きとめていた。倒れそうになる身体を支えていた。
それは僕の首を敵に差し出すのとほぼ同等の行為だ。
彼女が混乱している間に人形となったクセルは金属製の剣を振るった。鋭い刃が僕の首を切り落とした。
「フォリン様!」
悲痛な叫びが上がった。
僕の目はもう何も見えない。何も聞こえない。
僕は神だ。
だから首を落とされたからといって『滅び』はしない。しかし、だからと言って無傷なわけじゃない。僕は長年使って来た自分の肉体を『殺され』た。それはダル・ダーレ・ダレンがその依代を破壊されるよりもはるかに大きなダメージだ。
僕の神としての存在が変調をきたしている。
僕は周囲を『見る』以外は何も出来なくなっていた。
クセルの人形の口の部分がカチカチと動いていた。
その動きはまるで笑っているかのようだ。僕はクセルにそこまで怨まれるような覚えはないのだけどね。
人形が無意味にカチカチ言っている間に女戦士は少しだけだが精神の再建を果たした。
目の前の人形は間違いなく敵だ。
それも同じ天の下には居られないぐらいの怨敵だ。
彼女は首から上を無くした僕の身体をそっと横たえた。
そこでスイッチが入った。
そう見えた。
リリミヤは一瞬前とは立つ姿勢からして違った。どこか力がぬけていた僕と歓談していたモードから、完全な戦闘機械への変貌。
その瞳に宿るのは殺意のみ。
「カチチ?」
クセル人形が戸惑ったような音を出す。血の滴る剣を構えなおす。
だが、もう遅い。
人形の素人くさい構えなど、女戦士は歯牙にもかけなかった。
この場所はハンマーを振り回すにはやや狭い。だから彼女はハンマーの石突きを槍のように突き出した。
十分な重さののった石突きが人形の胸を突く。
バシリ、メキメキメキ。
胸部を中心にひび割れが広がる。
女戦士は重いブーツによる蹴りで追撃した。クセル人形は木っ端微塵に砕けちる。
「フン!」
リリミヤに喜びは無かった。むしろ、あっけなく壊れた敵に落胆している。怒りをぶつける相手が足りないようだ。
ごめんなさい、リリミヤさん。
僕はまだしばらく復活出来そうにない。と言うか、僕の肉体の再生って可能なのだろうか? フォリン・ユーノクスではない別の身体を持った存在としてしか復活出来ないとか、そういうこともあり得る。僕も死んだのは初めてなのでその辺のルールはよく分からない。
女戦士は別に残心を保っていた訳ではない。単に壊し足りずに敵の残骸を睨みつけていただけだ。
だが、結果としてはそれが良かった。
人形の残骸が動きだす。破片たちがゴチャゴチャと動いて一箇所により集まろうとする。
だからどうした! とでも言いたそうな表情。
彼女はむしろ嬉々として襲いかかった。
原形をとどめていた頭部を蹴り飛ばす。腕や足を拾い上げて壁に叩きつけ、粉々にする。
しかし、残骸はどんなに細かく砕かれても動き続ける。
【マズイよ、アレ。あいつの本体はクセルとかいう人の魂だ。魂まで砕く攻撃が出来なければあのお姉さんに勝ち目はない】
えぇっと、誰?
僕のすぐ近くに居るんだけど。
僕が戸惑っている間にリリミヤの息が上がって来た。
全力全開で攻撃を続けているのだから無理もない。しかもその攻撃はすべて徒労。彼女の動きが鈍る。
それは隙だっただろうか?
陶器の破片の一つが宙を飛んだ。女戦士の左腕の肌が露出した部分に小さな小さな傷をつける。
それは小さな傷だった。
しかし、その傷を起点に呪いが発動する。傷の周囲が硬化する。陶器に変わっていく。
遠くにとばされた為に再生の時間があったクセルの頭部がカチカチと笑う。
女戦士は一瞬も躊躇わなかった。
腰から短剣を抜いて硬化しつつあった傷口周辺をえぐりとる。血がダラダラと流れていく。
カチっと、笑いが止まった。
リリミヤは髪をかきあげた。火傷の痕が残る顔を露わにする。
「私の身体など元より傷だらけ。今さら少しぐらい増えたところてどうと言う事はない!」
【ウワァ〜、あのお姉さんカッコイイ!】
だから誰だよ、お前?
なんとなく僕より年下の少年っぽいけど。
【僕? 誰だっけ? 名前は忘れちゃった】
【名前を忘れた?】
【うん。それが普通なんでしょう? チート、とかが無い限り】
記憶が残っていない非チート。つまりチートの無い普通の転生者。いや、転生していないからただの死者か。
ああそうか、と僕はようやく納得した。どうやら死んで頭がボケているのは僕の方だったようだ。
自分の頭を叩こうとしたが拳が無かった。頭は床に転がっている。
【僕が憶えているのは乗っていた馬車ごと怪物に踏みつぶされた事だけ。あの人形さんは僕を殺した怪物の仲間なんだよね】
【仲間と言うか、怪物が人形の主人だね。君はタケル君に連れられて逃げて来た子供の魂か。昼に君たちを回収したんだっけ】
すっかり忘れていた。
【酷いなぁ、忘れないでよ】
【ごめん、ごめん。それで、どうする? 僕と一緒に戦ってくれるかい?】
【出来るの?】
【僕自身はまだ動けないけれど、君たちに神の力を分け与えるのは出来そうだ】
【そうしたら、僕はどうなるの?】
【天使とか神獣とか、何かそんな物になる。物に宿れば神器にもなれるかな】
【それ、カッコイイな。それにしよう! ちょうだい、その神の力をと言うやつをちょうだい!】
なんだか考えが軽そうだな。でも、僕に代わって戦う者は必要だ。
僕は意外に鈍臭い。先ほど殺されてハッキリと分かった。僕には伝説の英雄とか文芸設定的に負けない事が確定している超戦士になるのは無理だ。道場での立会いならそれなりに強いのだけれど、何でもありの真の実戦には向いていない。
神は後方で祀られているべきものであって最前線で戦うものではない。
そう言う事なんだよ。
そうだと言う事で僕が戦わない事については納得しよう、ね。
【汝、名もなき魂よ。汝は我が眷属となり、我が手足となって戦う事に同意するか?】
【え? なに?】
どうやら言い回しが難しすぎたようだ。
【僕から力をもらってあの怪物と戦いたいか聞いているんだ】
【うん、もちろん!】
【では我が力を授けよう。我が剣となり、女戦士リリミヤを守護して共に戦うがよい】
僕が神力を注ぐと名もなき少年の魂は実体を得ていく。
倒れている僕の身体の胸のあたりに小さな白い蛇が出現した。
よりにもよって、蛇か。
白い蛇ならば神の使いとしてあり得ないレベルではないが、もう少し僕のイメージを大切にして欲しいものだ。かわいい系でもカッコイイ系でも、もう少しイロイロあるだろうに。
白蛇となった少年はスルリと動いた。鎌首をもたげて敵を威嚇する。
リリミヤは今回も躊躇わなかった。
壁に立てかけていたハンマーを持ち上げ、振り下ろす。白蛇をペチャンコにする。
何をやっているんだよ。
戦闘中にいきなり蛇なんかが出て来たら、とりあえず潰すのが当たり前、かな?
女戦士は責められないや。
でも、白蛇は別に死んではいなかった。
自分を潰したはずのハンマーに逆に巻きつく。そのまま柄と一体化する。実用一辺倒だったリリミヤのバトルハンマーが柄に蛇が巻きついた美麗なデザインの物に変化した。
「これは?」
【はじめまして、お姉さん。僕はフォリン・ユーノクス様の遣いだよ。お姉さんを助けて敵をぶち殺すように命じられている】
「何なの?」
リリミヤは混乱する。
幸いなことにクセルの人形もまた戸惑っていた。リリミヤの隙に乗じる様子はない。操っているのがクセル自身の魂なせいか、人形もまた戦いの駆け引きには疎いようだ。
その疎いヤツに首をはねられたのが誰かと言うことは思い出してはいけない。
【僕が宿ったこのハンマーを使えば、あの人形にとどめが刺せる。それ以上の説明はいる?】
「要らない」
あ、思考を放棄した。
リリミヤは僕の死体をちらりと見て間違いなく死んでいる事を確認する。死んでいるのにまだ活動を続けているなんて、ただのホラーだよね。
……今から僕はジャンル『ホラー』に変更になります。
神として祭り上げられる前に一度怨霊になるぐらい、普通でしょう?
クセルの人形の破片はパズルのように組み上がり、再び人の姿を取り戻していく。
リリミヤはそれを静観する。
神器となったハンマーでとどめが刺せるのならば、むしろ一箇所に集まってくれた方がやり易い。とすら思っているみたいだ。
【ねぇ、お姉さん】
「なんだい?」
【僕に、名前を付けてくれないかな? 前の名前は死んだ時になくしちゃったみたいで】
「死んだ? 念のために尋ねるが、お前はフォリン様ではないのだな?」
【主人様ならそこで僕たちの事を見物しているよ】
「フォリン様がご覧とあれば無様な戦いは出来ないな。……それにしても名前か。誰か他の者に頼んではダメか? 私は頭があまり良くないのだ」
【ううん、お姉さんがいい】
「なら、ヘビちゃん」
【え?】
「私のセンスの悪さを甘く見るなよ。妹に『絶望的』とまで評された事がある」
なるほど、納得した。
愛称として「ヘビちゃん」と呼ぶのは構わないけど、正式名称までそれはやめて欲しい。アレは僕の眷属なのだからそれなりに威厳のある名前が必要だ。
……厨二病と呼びたければ、別に構わないよ。僕の年齢はもっと下だし。
【あ、フォリン様からダメ出しがきた。もっといい名前を考えろ、って】
「ならばフォリン様に一任する。フォリン様が考えてくれなければヘビちゃんで決定すると伝えてくれ」
リリミヤめ、僕を脅迫するつもりか?
ええっと、蛇だからスネーク、は安直すぎるか。それに彼女たちは隠密行動が得意そうには見えない。
他に蛇の意味がある音は「蛇」、響きが悪役っぽいな。却下。
ならば「巳」は? 蛇のハンマーだから巳槌。……おお、すごく蛇っぽい!
このやり取りの間に、クセルの人形は再生を完了していた。
剣を拾い上げて所在無げに佇んでいる。もしかして、呆れられている?
真面目に解釈するなら時間を稼いでリリミヤの出血が増えるのを待っているのだろうが、あいつがそこまで考えているようには見えない。
【フォリン様から返事が来たよ。僕の名前はミヅチ。ミヅチだって!】
「そうか、では行くぞ、ミヅチ!」
【うん!】
突進するリリミヤに人形が剣を構える。
女戦士は再びハンマーの石突きを操作して切っ先をそらした。
ミヅチで一撃、と思いきや肩から背中にかけての部分で体当たりする。
陶器でできたクセルの身体を吹き飛ばした。
それは明らかに狙いすました攻撃だった。吹き飛んだクセルは窓から外へ転がり落ちる。
リリミヤも別の窓から庭へ出る。
ここならのびのび戦えると言わんばかりにミヅチを軽々と旋回させる。
【魂を刈りとる。一撃で決められるよ】
「おう!」
ミヅチの蛇の頭がハンマーヘッドに噛みつく。
するとハンマーヘッドが変形した。薄く長く伸びる。巨大なバトルハンマーは死神の大鎌へと変貌した。
魂を刈る武器としては正しい姿かも知れないが、ミヅチよ僕が付けた名前の由来を早速否定するな。
不穏な気配にクセルが逃げ腰になる。
「クセル・ニードフォート様。尊き貴族の方よ。あなたの事はあまり深くは知りませんが、そのような姿で領民を苦しめる事は本意ではないとお察し申し上げます。不肖わたくしめがそこから解き放って差し上げましょう」
リリミヤの言葉に逃げ出しかけていたクセルの足が止まった。
それでも完全に抵抗をやめるつもりはないようで、ぎこちなく剣を構える
大鎌となったミヅチが振り抜かれる。
クセルは剣で受け止めようとしたが、パワー負け・重量負けする。受け止めた剣を持つその腕が砕けた。
大鎌は勢いをほとんど減らさないまま人形の胴体に突き刺さる。人形の口がパカっと開きっぱなしになった。
「ハァッ」
気合いとともに大鎌を手前に引っ張る。
普通の人間の目には人形が崩れ落ちただけにしか見えなかったはずだ。リリミヤにはどう見えているのか少し不思議に思う。僕の目には陶器人形の中からクセルの形をした物がもう一つ引っ張り出されたのが見えた。
クセルの形をした物、彼の魂魄は夢から覚めたように目を瞬かせた。
不思議そうに辺りを見まわし、そして自分が死んでいる事に納得したようだった。
今の僕には生あるものに直接話しかけるのは無理だ。だけど死者同士ならそれができる。
【クセルさん】
【フォリンか。……参ったなぁ】
父の配下だった男は僕を見た。
普通の人間の魂に何が見えるのかはわからない。が、生きていた間よりは見えるものが増えているようだった。
【どうしました?】
【いや、お前が異常に優秀だとは知っていたんだ。だが、まさか人の範疇にも入らない存在だとは思わなかった。こんな代物と張り合おうとしていたとは】
【僕と張り合う?】
【不思議そうに言うな! 俺が欲しくて堪らなかった緑のマントを、ちょっとだけ裏技を使ってまで手に入れたマントをその歳で獲得した癖に!】
【こう見えても神ですから】
クセルの魂魄は肉体など無いのに深々とため息を吐いた。
【俺の愚かさは命を落とすまで治らなかった、それだけの事か】
【これから、どうなさるおつもりですか? 父に従い続けますか?】
【アレはもうバッカス様ご本人とは言えまい。それに、俺には死後まで使え続けるほどの忠誠心は無いぞ】
【では、僕のところに来ますか?】
【それもゴメンだ。お前の風下になど立ちたくない】
【そうすると?】
【この世に神はお前とあの怪物の二柱だけではない。心配は要らん。俺はレンライル様に従う】
レンライル。
このレンド王国の守り神だ。主に魔法貴族の神であり、仮でも一応でも緑のマントを授かったクセルはその特別な守護を受けているはずだ。僕も王都にいた間はあの神のことは警戒していた。
ただし、このクルセルク領にはその威光は届いていない。でなければこの町に『無』が接近するなどあり得なかったはずだ。
【あのお方への供物を絶やさなかったのは正しかった。今、俺はあのお方の呼び声をはっきりと聞いている】
【いくら供物を捧げても、ここまでやって来て助けてくれるほどに気にかけてもらった訳ではないようですが】
【人にはどうにも出来ない死後の安寧さえ保証してくれるなら、それで十分だ。それに、あの悪神を倒すのはお前がやるべき事だろう、神フォリンよ】
ま、そうだね。
ここにいる神は僕なんだから僕がやるべきだ。
などと思っている間にクセルの魂魄が薄れていく。レンライルの貴族用の楽園『歓びの園』に招かれているらしい。
彼は能力不足で不正にそこに侵入する形になるのだが、大丈夫だろうか?
それこそ僕が心配する事ではないか。
気がつくと僕も同じ所へ引っ張られているような気がする。意識的に抵抗するほどでもない小さな力なので無視していたが、確かに引っ張られている。
僕も緑のマントを獲得した身なのでレンライル神の歓びの園へ招かれるのは当然か。
そんな所へ行っている暇はない、とも思うが……
僕は思案する。
ここはレンド王国の一部でありレンライル神の領土の端っこと呼べなくもない。ダル・ダーレ・ダレンはそこを侵略している訳で、それへの防衛戦を行うとなると……
やっぱりレンライル神にも挨拶して来た方が良いだろうか?
僕を滅ぼして神力を奪おうとするぐらいガツガツした神ならこの戦いにとっくに介入して来ているだろうし、上手くいけば援軍をもらえるかも知れない。
よし、決めた。
【ミヅチ、ライア。僕はしばらく留守にする。後は任せるよ】
【お任せだニャン】
【ミヅチはそのまま。ライアはブレンに着いてあげて】
【外からの敵もそろそろ射程に入るニャ】
そちらも心配だが、肉体を失った今の僕にはどうにも出来ない。
なのにミヅチは言う。
【ちょっと待って。行く前に何か奇跡をひとつ残せないかな?】
だから今の僕には他者に影響を与えるのがほとんど無理なんだって。
【でもさ、お姉さんがフォリン様を守れなかった事を気に病んでいるからさ。このままだと無茶をしそうで怖いんだ。フォリン様が無事だって少しで良いから見せられない?】
いや、肉体を殺されたのは決して『無事』ではないぞ。
僕が殺されたのは僕が先に立って勝手な動きをしたからで、護衛役の所為ではないとは思うけど。
僕はちょっとだけ考えて、今の僕にも出来そうな奇跡を選定する。
どっちにしろ後始末はしておいた方が良いよね。
リリミヤはクセル人形が崩れ落ちた後、しばらく待って復活してくる気配がないのを確認した。
愛用のバトルハンマーが変化した大鎌は自分で言っただけの戦果を上げてくれたようだ。
彼女が構えをとくと大鎌もシュルシュルと変形する。元のハンマーへ戻っていく。ただし元に戻ったのはヘッドだけだ。柄の部分には蛇が絡みついた意匠がそのまま残り、今の戦いが夢ではなかった事を実感させてくれる。
女戦士は自分でえぐりとった傷口を押さえた。
出血が深刻なレベルになる前に手当てしておかなければ。
【お姉さん、ちょっといいかな?】
「ミヅチか。話しかけてくるお前はやっぱり私のハンマーなのか?」
【そうだよ。これからは僕がお姉さんの力になる。怪物とも戦える力を僕が提供するよ】
「そうか。夢ではなかったのだな」
【頼みがあるのだけれど。お姉さん、屋敷の中を覗いてくれるかな?】
「!」
リリミヤはたじろいだ。
屋敷の中、そこには彼女が見たくない物がある。首を落とされたフォリン様の遺体が。
【お願い。今すぐでなければダメなんだ】
「……わかった」
元々、勇敢・無謀で知られるリリミヤだ。
意を決して彼女の失敗と後悔の象徴をのぞき込む。
そこに見えた物は光となって消えていこうとするフォリン様の遺体だった。
「どうなっているの?」
【フォリン様はレンライル神の所へ行くんだ】
「そう。安らかにお眠りを……」
【違う! あの方の戦いはまだ終わっていない! フォリン様はこの地の神として立つためにレンライル神に直談判しに行くんだ】
「……私の常識があまりにも狭い範囲のものだったと理解できたよ。我々の周りで行われているのは神々の戦いなのだな」
【僕たちが戦っているのは、だよ】
「そうだな」
リリミヤもブレン同様に応急処置の道具は持ち歩いていた。それを使って手早く止血する。
「ミヅチはこれから先の事は何か指示されているのか?」
【僕はお姉さんのサポート】
「私は?」
【何も言ってなかったな。とりあえず、外のブレンたちの戦いに合流すればいいんじゃない?】
「それも道理だが、ミヅチはフォリン様が私に何をさせようとしていたか知っているか? 何か明確な目的があって私をそそのかそうとしている様だったが」
【知ってるけど、本気でやる気? フォリン様ぬきで?】
「無謀だろうか?」
【絶対に無理、とは言わないけど】
応急処置を終えたリリミヤはミヅチを軽く旋回させ、身体がどの程度動くか確かめる。
「ならばそれをやりに行こう。私はこの土地の、この町の生まれだ。他所から来たフォリン様がまだ戦っているのに私が手を止める訳にはいかない」
これがこの神々の戦いに対しての純粋な人間によるはじめての参戦宣言。
今まで人間は襲ってくる怪物に対応していたに過ぎない。ダル・ダーレ・ダレンに最大のダメージを与えたバッカスにしても、彼を差し置いてフォリンを上に置いた事に激昂しただけだ。
【そっか。生前の僕もこの土地の生まれだったみたいだし、気持ちは分かるよ。……フォリン様が望んでいた事はここのご領主様の殺害だ】
「え?」
【さあ、張り切っていこうか】
女戦士は硬直した。