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邪神の生まれ変わり  作者: つーふー
第一章 ヴァールハイト領編
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7話    『あやしあやされ』



「無理、か…」


 本日もドウェルクとアーディは来ず、課せられた特訓も終わらせるだけであった。

 それからシェヴァは、何時ものようにリーネとどこかへ、俺は庭であることを試していた。


「やっぱり魔術と闘気を同時に扱うのは出来ないのかな…」


 地球には存在せず『イルズィ』に存在するこの力。

 先程言ったように、2つを同時に操ることは出来ないのだ。


 魔術を放とうと魔力を込め、闘気を纏おうと全身に魔力を巡らせようとすれば、魔術への魔力が霧散する。

 闘気を纏ってから、魔術を放とうと魔力を集めても、闘気への魔力が霧散する。


 どうしてもどちらか片方しか扱えない。とは言え、なんとなくその原因は分かっている。

 技術的なことが問題ではない。

 扱う魔力は同じなのだ。繋がっている魔力の片方を引っ張れば、もう片方も同じ方向に引っ張られる。

 説明が難しいが、そんな感じだろうか。


「ハァ…」


 強くなるのに手っ取り早い方法の1つは、やはり必殺技だろう。

 勿論、そう簡単に編み出せるものではないし、それが必殺技になるかも分からない。

 しかし、一応現代知識はあるし、科学的な観点から色々見ていけば、出来ると思うのだ。


(そう言えば…よくあんな昔のことをハッキリと覚えているな…)


 現代知識と言っても、約40年以上前の知識だと言うのに、どういう訳だかイルズィに迷い込むまでの思い出も、しっかり記憶している。

 なのに、イルズィに来てからの記憶は朧気な部分もあるのだ。


 よく分からん。


(まぁ、現代知識を覚えているのはありがたいしいいか…)


 この知識は、必ず武器になるだろう。

 魔術が広まってるこの世界では、科学なんてものは存在しないのだから。

 昔は必死こいて勉強しまくっていたので、現代知識チートとして使う場面はいずれある筈だ。

 とは言え、地球とは法則が同じとは思えないので、もしかしたら使わないかもしれないが。


 取り合えず、その事は置いておこう。

 今は魔力と闘気だ。


「クトゥにいさま、あそぼー」


 なんて集中して考察を開始しようとしたタイミングで、家の中からセシリアが現れる。

 む、仕方無いか…強くなるのは大事だが、可愛い妹を無視する訳にもいかない。

 根詰めても進展するとは限らない。息抜きも大切だって言うしな。


 考察はまた今度にしよう。



――――



 思い返せば、セシリアと2人で何かをしようというのは、今までなかった。

 大抵は傍に家族かマダルやらが居たりしたものだ。


 チラリとセシリアを見ると、積木で1人遊びをしている。

 ほっといて考察の続きでもしようか、なんて考えも過ったりするが、その度にセシリアがくっついてきた。

 それを何度も繰り返されてしまい、思考が読まれてるのではないかと思ってしまう。


「クトゥにいさま、これ」


「お、おう」


 セシリアは積木をポンと置く。

 そして積木を渡される。


 何だ、一体何をすればいいんだ。

 既に精神がお爺ちゃんな俺に、幼児の遊びに付き合うのは難易度が高すぎたか。


「クトゥにいさま!!」


「え? 何?」


「はやく!」


「え? 何を?」


「おいて!」


 置いて言われたのでセシリアと同じように、床にポンと置いてみた。


「ちがう!!」


「え?」


「はやく!!」


「何をすれば…」


「はやぐじでっでいっでるのにぃぃぃ!!」


 泣き出してしまった。


 え、ちょ、意味分からん。

 なにこれ、どうすればいいんだ。


 なんて思ったところで、セシリアが泣き止む訳がない。

 どうすればいいのか分からず、オロオロしていると、その騒ぎを察知したのか、マダルが駆け付けて来た。


「ヘルクトゥール様! 何事で御座いますか!?」


「いや、ちょっと分かんないです、はい」


 マダルは俺とセシリアを交互に見た後、落ちている積木を手に取り、セシリアの目の前に置いてある積木の上に置く。


「セシリア様、どうぞ」


 すると先程まで泣き喚いていたのが嘘かのように、ピタリと涙を止める。

 マジかよ。ただ組み立てたかっただけとか、分かるわけないだろ。


「では、私は失礼します」


「マダルもいっしょ!」


「いえ…たまには兄妹だけで遊ばれるのがよろしいかと」


 彼なりの気遣いなのだろうが、俺個人としてはいてくれると有難い。

 考え事があるのもそうだが、また泣き出された時に対処出来る自信がないからだ。


「やだ!」


「…セシリア様、こうしてヘルクトゥール様と遊べるときはしっかりと遊んでおいた方がよろしいのですよ」


 マダルが唐突に真面目な声でそんなことを言い始める。

 何だろう、もしかしてマダルって実は兄弟がいて、既に亡くしてるとかそんな感じなのかな?

 まぁ、3歳の幼児にそんなこと言っても伝わる訳がないんだけど。


 案の定、駄々を捏ねて再び泣き始めるセシリア。


「では、後は御願いしますヘルクトゥール様」


「え?」


「やだぁ!! マダルやだぁ!!」


 そして、部屋から出ていくマダル。

 …え? いや、あの、マジで何しに来たんだあの執事?

 意味が分からないんだけど?

 もっとも、彼は既に去っているのでどうしようもない。


 ハァ…仕方無い、頑張って泣き止ませないとな。


「セシリア、これ」


 俺は積木を手渡す。

 しばらく泣き続けていたが、やがて積木を先程のように目の前にポンと置いたので、俺はマダルがやったのと同じように、その上に積木を置いた。


「つぎわたし!」


 元気な声で返事を返し、楽しそうに積み木を積み立てていく。

 どうやら泣き止んでくれたようだ。

 ふぅ…意外と疲れるな、子供の相手は。


(子供、か…)


 思えば、不動 明であった頃には、子供なんていなかった。『イルズィ』に来る前は恥ずかしながら素人童貞だし、子供とは無縁だったのだ。

 …しかし、イルズィに来てからは、大切な人が出来た。


 俺の脳裏に、とある記憶がチラつく。

 今はもう失ってしまった大切な人との記憶が。



 お腹が大きくなってきた愛しい恋人。

 純白のドレスに身を包み、幸せそうに笑っていた愛するあの人。

 そして、血塗れとなり、血の海となった―――……。



(もし生まれていたら、こんな感じだったのかな…)


 どうすればいいのか分からず、泣かせてしまい、それを見た嫁が子供をあやす。

 訪れることのなかったそんな光景。



 見たかったなぁ…そんな幸せを。



「クトゥにいさま、ないてるの?」


「え?」


 気付けば、俺の頬を涙が伝っていた。


「あ、あれ…?」


 そのことに気付いて止めようとするが、俺の意思に反して涙は溢れ続ける。

 とめどなく溢れ、俺の心もグチャグチャに掻き乱れていく。


「にいさま、ぎゅっとする」


 セリシアは宥めようとしてくれているのか、そんな俺に抱き着く。

 小さな子供か抱き付いただけであり、それ以外のことは何もない。なのに、どうしてだろうか…?


 暖かくて、気持ちいい。


「よしよし、にいさま」


「………ぅ」


 頭を撫でられる。

 それでも、涙は止まらないままだ。


「ぁ…ぅ……」


 あーあ、妹にこんな慰められて、ホント、情けないなぁ…。

 なのに、満更でもないんだぜ?

 情けない。ホント情けないよ。


 俺はこんなに弱かっただろうか?

 こうして温もりを感じることで、心底安心してしまっている。

 セシリアには悪いが、暫くこうしていたいな…。





 俺は、弱い。

 甘さを優しさと勘違いしていた。

 強大な力を持っていたのに、大切なものを失ってしまった。

 そして、今生では大した力はない。

 けど、だけど、今度こそ必ず、守りきってみせる。


 ―――たとえこの身が果てようとも。

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