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邪神の生まれ変わり  作者: つーふー
第一章 ヴァールハイト領編
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2話    『不安定な領地』


「…………」


 俺は現在、両親と兄妹、メイドや執事の目を盗んで、家から抜け出していた。街中の街道をあてもなくさ迷い、まるで浮浪者のようにおぼつかない足取りで歩いていく。

 正直、あの家にはあまり居たくないのだ。

 だって、俺は家族からの愛を受ける資格なんて、ないのだから。本来の子供を奪った、紛い物なんだ。

 だから、こうして我が儘を繰り返すことで、少しでも嫌ってくれれば、気が楽になる。


「………ヴァールハイト領、か…」


 この時代があれからどれほど経ったのか調べて見たが、残念ながら詳しく分からなかった。けれど、他に知るべきことは把握出来たからよしとしよう。

 どうやら、この時代には大まかにわけて、5つの大陸名があるようで、どれも知らない名前であった。



 1つ目は、宗教国家とされ、巨大な信仰国を築いた『アルバ聖国』のある西方大陸。

 2つ目は、この世界最大の武力国家である『プリュンデル帝国』のある北方大陸。

 3つ目は、中立を保ち、全ての大陸と交易している『ハプル貿易国』のある中央大陸。

 4つ目は、その大部分が『ハイラント大森林』と呼ばれる広大な森で埋め尽くされており、そこで獣族達がひっそりと集落を築いている東方大陸。

 5つ目は、邪神の時代を生き抜いた、欲望を司し魔王達が治める南方大陸。通称『魔大陸』。



 ヴァールハイト領は西方大陸に属しており、アルバ聖国の領土である。そして、魔大陸に隣接した国境の地。

 魔族や隣国への防波堤の役割がある、重要な地だ。

 そして、国境なので森や山が比較的近くにあり、魔物の襲撃が定期的に起きるそうだ。

 街としては出来たばかりなのか、ちょっとした高台から見渡せる程に小さく、騎士や冒険者ギルドと言った存在はあるものの、やはりこれも小さく、街中は閑散としている。

 これも全て“とある魔物”がここの近くを縄張りにしているせいで、人々がこの地に近寄らないし、離れて行くのだ。



 ―――『鬼王』。



 そいつはかつて【英雄神】セイン・クロウリウスという男によって封印され、俺の手によって復活した『古の魔物』の一匹である。


 強さの簡単な説明をしよう。


 この異世界『イルズィ』には、その者を表す二つ名の他に、“王”と“神”が含まれる称号が存在する。

 王とは国で、大陸で、世界で一番強い。と言う意味ではなく、個人の力で“国に匹敵する者”のことを指す。


 神の称号者は“世界を滅ぼせる者”に与えられる。


 いつの日か話したであろうゼーレは【冥界神】、昔の俺は【救世神】と【邪神】と呼ばれ、実際に世界を滅ぼした。


 そして、個の力で国を滅ぼせる鬼王の称号を持つ魔物が、このヴァールハイト領の近くに存在している。

 『古の魔物』は、何故か縄張りの範囲から出てこようとしないので、運の良いことに今まで鬼王による“直接的な”被害はない。

 しかし、いつ出てきても可笑しくないのだ。


「……………」


 俺のせいで、この場所はいつも危機に晒されている。俺が封印を解いてしまったせいで。

 …あぁ、因果応報ってことだろう。

 世界を滅ぼしてしまったツケが、早くも返ってきている。


 今の俺に、昔の力はない。


 かつて手にしていた『無限解放』を失い、魔力も平均程度で、体力もない。ただ前世の知識を持つだけの餓鬼だ。


 今はまだ無理だろう。

 だが、いずれ鬼王は俺の手で始末する。

 いや、そいつだけじゃない。

 『古の魔物』も全て葬らなければ、また俺のせいで人々が死んでしまう。


 それだけはゴメンだ。


 転生した俺の望みは、このまま消え去ることだ。

 しかし、そんなことをすれば、やはり紛い物とは言え、家族は悲しむだろう。それに、俺が解いてしまった魔物達によって、人々の被害もあるまま。


 それでは駄目だ。


 例え、俺が惨めに過ごすことになったとしても、それだけは許せない。

 このままでは駄目なんだ。

 また繰り返すことになってしまう。


「………向き合わないと…」


 俺は影でもいい。

 喜べなくてもいい。

 報われなくてもいい。


 ただ周りの者達が、笑って過ごせたら、それでいいんだ。


 でも、今の俺なんかに出来るのだろうか。

 曲がりなりにも前世の俺は、【救世神】とも【邪神】とも呼ばれた存在だ。

 王の称号を持つ存在が、どれほどの力を持っているのか、想像は出来る。


 俺には力が足りない。

 力を持たなければ、また全てを失ってしまう。

 弱者はいつだって奪われる側だ。

 ―――弱者に正義を語ることは出来ない。


「クトゥ!!」


「…………?」


 うじうじと悩んでいた俺の背後から、不意に声を掛けられ振り返る。

 そこには、兄であるシェヴァスターが、小さなからだでトテトテと此方に駆け付けていた。


「どうしてここに?」


「クトゥがでていくのみたから、おいかけたんだ!」


 …やはり、鈍ったもんだなぁ。

 誰にも気付かれずに出てきたつもりだったけど、5歳の子供に見付かっていたなんて。

 しかも、途中で人混みの中を通っているのに。ここは流石は我が兄、と思うべきなのだろうか。

 やはり、今の俺は弱すぎる。


「このあたりはあぶないから、はやくかえるぞ!」


「あ…うん」


 シェヴァはそんな思考をしていた俺の手を引っ張り、元来た道を戻っていく。

 しかし、この辺りは危ないのか…いや、普通に考えて危ないか。


 現代でも小さな子が1人でうろうろしているのは危険なのに、人拐いや暴力が飛び交うこの世界で、危険がないわけがない。


 ましてや親が領主。


 優しい父親だと信じているが、クレイだって人間なんだ。恨みの1つや2つあるだろう。

 その矛先が息子に向かっても、何ら不思議はないのだから。


「クトゥ、てをはなすなよ!」


 帰り道の途中にあった、人混みの中を進んで行く。

 それでも、全くはぐれる気がしなかった。シェヴァの握るその手によって、とても離れることは出来なさそうだ。


 …あぁ、こんなにも小さな手なのに、俺よりもとても大きく感じられる。

 いや、物理的な意味ではなく、心と言えばいいのだろうか。とても暖かく感じられるんだ…。


 ―――頭の中にとある女性の姿がちらついた。





『―――ほら明! しっかり手を握って!』


 その日も確か、今のように俺の手を離さぬよう力強く握り締め、暖かさを、安心感を与えてくれた。

 あてもなく、金もなく、心折られ、幽鬼のように不安定だった俺に親切にし、癒してくれたあの日のことを。 


『…どうして、こんなにしてくれるんだ…?』


『人を助けるのに、理由なんて必要?』


 俺の疑問に、曇りのない太陽のような笑みを見せて、答えてくれたあの時のことを。


 壊れ掛けていた俺を救ってくれた、素敵な女性だった。


 一生を掛けて守りたいと願った、今は亡き俺の恋人―――。





「…………」


 俺は頭をブンブンと振り、儚い過去の思い出を奥底へと仕舞い込む。

 イカンイカン、まさか兄に手を握られ、昔の恋人のことを思い出してしまうなんて。

 こんなことで一々感傷に浸っていては、強くなんかなれない。


「クトゥ?」


「何でもない」


 キョトンとした様子を見せ、シェヴァスターは俺を見つめてくる。

 昔の恋人のことを思い出していた、なんてことを言ったところで通じないだろうし、そもそも意味が通じたところで、訳が分からないだろう。


 が、そんな俺の思考は、すぐに壊されることとなる。


「大変だぁぁぁぁぁぁ!!」


 しばらく進んだところで、突然辺りを見渡す為の見張り台から、警鐘が鳴らされたのだ。


「また魔物が出たぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 つい先程、鬼王による直接的な被害はないと説明したと思うが、あくまでも直接的な被害は、である。


 鬼王はとても強大な魔物だ。


 故にその縄張りから追い出される魔物は、後を絶たない。そして、追い出された魔物たちが向かう先が、ここだ。



 不和な魔大陸と隣接し、尚且つ頻繁に魔物の襲撃が起こる地。


 それがヴァールハイト領の現状だった。

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