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邪神の生まれ変わり  作者: つーふー
第一章 ヴァールハイト領編
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プロローグ 『邪神のいなくなった日』


「ようやく終われる……」



 俺の名前は不動ふどう あきら


 この魔法と剣が飛び交う世界『イルズィ』には、35年だったか40年前にやって来た異世界人だ。

 その当時の俺は三十路の工場勤務で独身。更には素人童貞のオッサンと色々と救いようがない奴である。

 そして、地球であった出来事に心を折られ、半分死んでいたようなものだった。


 しかし、とある女性がそんな俺を支えてくれた。

 師匠となった6本腕の男が生きる術を教えてくれた。

 欲望の魔王たちと親しくなった。

 竜の頂点と意気込んだ。

 自然の権化をからかった。


 それから様々な人々と関わることで、その心は癒されていったのだ。



「あの頃は楽しかったのになぁ…」



 そして、この世界に転移した最初期に貰った“とある本”によって、何故か手に入れていた『無限解放むげんかいほう』と呼ぶチート過ぎる力に気付くことが出来た。

 この世界の言葉を知ることが出来た。

 魔術を扱い、闘気を扱うことが出来た。


 その本の著者は同じ日本人の『マキ』と言う人物らしく、更には生きていたみたいなので、探したりしたのだが、結局会うことは叶わなかったのが心残りである。

 とにかく、そのお陰で【救世神】と言うマザー・テレサもビックリな称号を授かったりもしたのだ。

 どうしてそんな力が宿ったのかは【冥界神】ゼーレと言う、この世界の神様に尋ねてみたりしたが、結局分からないままだった。

 まぁ、もう一柱の神である【三創神】と【始神】やらには会えなかったが。



「なのに、どうしてこうなってしまったんだろうな…」



 かつてこの地は、豊かな緑を育み、透き通る川が流れ、自然溢れる神秘的な場所であった。

 なのに、今の俺の眼前に広がるは、何もない更地のみ。どこまで進んでも決して変わることのない灰色の世界。

 生命を感じる広大な森も、透明な川も、歴史に名を残すような巨大な国も、等しく平等に消え去った。


 こうなってしまったのは、大体30年くらい前だったかに、俺が破壊し尽くしたからだ。



 …そうだよ。俺がこの光景を作り出し、世界を、イルズィを滅ぼしてしまったんだよ。



 当時の俺は、甘さを優しさと履き違えていた。

 その結果、俺は“とある出来事”を切っ掛けに豹変し、全てを滅ぼす【邪神】と呼び恐れられることになったのだ。

 【冥界神】ゼーレの奴からは、そんなありがたくもない称号を授かったりもした。


 その過程で【英雄神】セイン・クロウリウスとかいう人物が封印していた『古の魔物』なんてのも世に解き放たれ、放って置いても世界が荒廃していく始末だ。

 その内の1体と戦ったことはあるのだが、追い詰めたところで逃げられてしまい、それ以降は遭遇することはなかった。


 笑えもしない。うんざりだ。もう何もかも全てがうんざりだよ。



「どこで間違えたんだ俺は…」



 ただ、皆が笑って過ごせる幸せな世界を願っていたのに、あの日からずっと同じ問答を繰り返してしまう。



「俺が弱かっただけか…」



 そして、行き着く答えもずっと同じだった。


 俺が弱かっただけなんだ。

 俺の力が足りなかっただけなんだ。

 もっと周りに気を配っていれば…。

 誰も失わずに済んだ筈なのに…。


 俺はあの全てが終わってしまった日を境に、狂ってしまった。


 無限の怒りが治まらず、心を殴り続けてくるんだ。

 もっと殺せと、もっと壊せと、全てを許すな、全てを滅ぼせと。

 気が狂いそうになるほどの憤怒が、身を焦がすんだ。


 脳裏にこびりついて離れやしない。


 俺を支えてくれた愛する彼女が、幸せになれる筈だった誓いの日が、最悪に変わったあの日の絶望が、離れないんだよ。



「あーあ…怒りに任せた結果がこれだよ…」



 そして全てを失い、全てを破壊して、俺は孤独となった。

 お前が滅ぼしといて何言ってんだって思うかもしれないが、ひとりで過ごすのはとても辛く、寂しかった。

 温もりもなく、温かさもなく、ずっと冷たい世界に、癒されていた筈の心は、再びボロボロになっていった。


 けど、その苦しみも、もう少しで終わる。


 多分、恐らく、きっと、この世界のどこかでひっそりと魔物とか、俺から隠れ続けている人もいるだろうけど、もう二度と会うことはないだろう。


 だって、俺は死にそうなんだから。


 生憎【邪神】を打ち倒してくれる勇者は居らず、向かってきたもの全てを冥界へと送り届けた。

 虚しいことに、ただ老いと病気によって死にかけているだけなのだ。

 誰かが俺を討ち取って平和が訪れる、とかだったら良かったんだけどな。

 この世界は物語のように、美しくも甘くもないんだ。



「謝らなきゃならない奴がいっぱいいるな…」



 俺を止めようと立ち向かってきた師匠はまだ生きてるだろうし、友人となった3体の魔王の言葉には耳を貸さなかったし、自然の権化はちょっと苛め過ぎたし、竜の頂点はお手製の漫画を読ませてしまったせいで性格を改変させてしまったし、ゼーレとは喧嘩別れをしてしまった。

 それに、この世界の人々を、滅ぼしてしまった。


 一体どれほどの償いをすればいいのだろうか。

 流石は【邪神】だ。

 全てを滅ぼすなんて真似、他の者には中々出来やしないよ。



「眠たくなってきたな…」



 もう俺がこの世から去る原因なんて、どうでもいい。

 大切なのはもうすぐで死ぬことだ。

 治そうと思えば治せるが、そんなことはしない。するわけがない。


 それに、既に手遅れだと思っているが、こうして俺が死ねば少しでも救われる人はいるだろう。



「やっぱり、甘いよなぁ、俺って」



 世界を滅ぼした【邪神】の癖に、こうして罪滅ぼしをしようと悩んでさ。

 でも、それが俺らしくていい気もするな。

 そして、


 願わくば、皆が笑って過ごせますように――。










 ――こうして、世界を滅ぼした【邪神】は死んだ。


 だが、それを喜ぶ人々はもういない。

 けれど、それでも世界は廻り続け、ゆっくり、ゆっくりと再生していく。


 そんな中、冥界へと彷徨う不動 明の魂を見付けたとある存在は、微笑む。

 創造と破壊を繰り返すこの世界に終止符を打つために、微笑む。



 これは、かつて世界を滅ぼした優しくも甘い男が、世界の奔流に巻き込まれながらも、一筋の希望に縋り付く物語である。

 絶望に抗い、大切な人の為に足掻き、幸せな未来を手繰り寄せようと藻掻くお話だ。


 さぁ、見届けようじゃないか。

 彼の生き様を。

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