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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

始まりの翼

作者: TERU


切っ先は曲がり捻じれひどく錆びている。


曲がりくねったものは鏡のよう歪み、ひどく饐えた匂いを辺りに、まき散らしている。


虚像は、ただただそこにそびえたち、屹立している。


夜露に濡れ、目じりに浮かぶ涙のように。


さらさらと、雨は降り、滴る音を聞かせながら。


ああ、私は悔いています。


静けさと闇に向かって、呟いてみる。


反響もせずに、その言葉は、飲み込まれてしまう。


べっとりと肌に張り付いたワンピースが、体のラインを強調している。


雨は嫌い。でも人を傷つけるのはもっと嫌い。


そう思いながらふと、今まで傷つけてしまった人のことを想う。


一睡の夢か・・・。ポツリと呟く。


何が正しくて、何がどうやってどうすれば、優しくなれるのだろうか。


頭がぐるぐるなって、狂いたくなる。


狂ってしまえばいい、そう思うのだけど、人を傷つけてまで狂いたくない。


本音を言うと、この世界は一度終わり始まりの時を迎えて欲しいと思う。


聖人のようにもなれなければ、この世で、価値を生み出すことが見いだせない気もする。


自分自身に言えることは、ひどく極端で、稚拙な精神性だということ。


でも・・・。


ふと、振り返ると、見つめる男がいた。


そこに佇んでいた。


私が私であることを知っているかのように。


かなり、歪んだ考えが浮かびだす。


静かに消えてゆく男の幻影。


いまだ、雨は私を包み、しとしとと、音を響かせながら、私を打っている。


そこに、膝をつき、月を眺めながら。


私という者は、そこにありますか?


私という者は、そこに生きていますか?


ぐにゃりと映像が曲がり、倒れるさまを俯瞰し見つめる自分。


ただこの一瞬だけは。


沸き上がる熱。


こだまする音。


地底から湧くマグマが、血のようにさえ思える。


ごごごごごご。


熱は、いまだ錆びてはいない。


爆ぜた体は、巡る波に翻弄されながら、爛れ火照っている。


燃えさかり、隆起した岩石をも飲み込み、喰らうかのようにじわりじわりと主張している。


緋色の瞳が、凝視しながら、何かを訴えようとしてガラスのように砕け散ってゆく。


散った欠片も冷え切り、何かへ昇華しきれなかった無残な残り香となっている。


橙色に染まった夕日、そして、砕けた残骸。


もう熱というには乏しき、砕けた欠片たちよ、天へと昇れ。


そして、夜空を照らせ。


その手のひらには、希望を乗せて。


暗き漆黒の闇夜を照らす光となれ。


軸は、裂かれ、苦しみ、もだえている。


傍にて、惑い、はるかかなたで待っている。


こまねいているそれは、私を慈しむ。


すべてを同期し、共有し、あたかも自分の痛みへとシンクロさせるかのように。


境界線を失い、飽和し、崩れ、歪み、何かが生まれようとしている。


音は壊れ、凪いで、鼓動は止まり、新たな再生を呼ぶ。


包み込んでいた光は反転し飲み込むかのように漆黒の闇が現れる。


塵がぶつかり幾重にも重なって一つの世界が動き始める、


内に向かえば向かうほど、暗さが映えてゆく。


渇ききった命の欠片、熱を帯び、澱みうねり始める。


球状の闇は、表面が光り、揺らいでいる。


朧げに。微笑みかけている。


はにかみながら近づき、手を取ろうとしている。


放射状に伸び、そして螺旋上に飛び上がり続ける。


自分の位置さえ分からなくなってしまった。


旅をつづけ、たゆたうそれ。


たどり着けたのだろうか。


兄弟よ、私の目となっておくれ。


兄弟よ、私の懸け橋となってくれるか。


光が粘りつくように、私に纏い、語り掛けてくる。


蒼き葉は、宿り、根をはり、伸び続けてゆく。


種を残しながら風に乗せて。


黒き塊の中に、澱みなく流れたぎるものよ。


美しい。さらに美しくあれ。


生み、育み、託し希望であれ。


白い白い、透き通った翼が一つ。


羽根も散り。


遠い彼方の階段で待ち望む者たちよ。


祈り、求め、渇望し、ひたすらに待つ尊い意思よ。


裂かれた物は戻れない。


それでも、待つのであろう。


優しく、美しく、そして、儚い熱よ。


枯れ地に花が咲くように。


叶うこともないのは知っていても、まだ待っている。


語られることもないのだろう。


扉は開き、新天地へと。


終焉は、近い。だが備えることはできる、と。


痛みはすり替えられてしまった。


憤怒の形相で星が落ちてゆく。


静かに冷えてしまっている。


呼吸すらしていないその無機質な何か。


音像は、ぼやけ、滲みながら声にならずに、穴が開いている。


穿たれた空洞から、かなりの勢いで風が吹いている。


壊れてしまった。壊れ捨て去られ、置き去りにされ、芽吹くことも叶わず。


ただそこに立ちつくしている。


ひどく錆びつき、鍵として機能していないもの。


とうの昔に、どこかへ捨て去ってしまっていたもの。


声を出すことも忘れてしまったよ。


懐かしい香りがしている。


ああ、ありがとう。


ようやく出会えた。


自分の血肉を糧にして動くもの。


細胞単位で旅をして、繋がり、紡ぐ唄。


遥か銀河のそらの元。


源へといざなわれてゆく。


ああ、恋しい、恋しい、愛しいあなた様。


杞憂せず、想います。


この身が朽ち果てようとも。


喰らい、犯し、知って、惑い、堕ちたとしても。


私の想いは、いまだに尽きません。


その罪をもって、享受し、受け止めて、さらに前へと。


私は悔いています。悔いています。


ひたすらに美しいあなた様。


焼けただれた大木のもとに、集う忘れ去られた者たちが踊っています。


夜空を見上げると、今日もまっすぐに光り輝いています。


変わりなくいつもと同じ。一人一人に向けられる光の重さすらも同じなのでしょう。


いなくなった者たちも、冷えた熱すら受け入れ、さぞかし喜んでいるのでしょう。


皆が、笑い、未来たちは駆け回り、巡り、託されているのだろう。


踏みしだくたびに音が鳴る。


それでも前に、道はない。


真っ白でいて溶けそうなほど淡い。


キラキラと優しく光り微笑むそれは。


役に立たぬものなどないではないかと朗々と語りかけてくれる。


ひっそり佇む少年よ。


夢の中。夢の内。


唄われているのだろう。


謳歌し、一つの答えを求めた旅だった。


懐かしい日々からの逃避を終え。


答えは見いだせたのだろうか。


礎となった日々は、さぞ、痛かったろう。さぞ、辛かったろう。


無駄はない。無駄はない。


戻れる場所のあることがなんとありがたい事か。


ひどく歩調のあったブーツの音がこだまする。


ガシャッガシャッっと、踏まれ、泣いている。


こまねく獣も、吠えている。


月明かりの元、銀色に輝き、淡く黄色に、白に、揺らぐそれ。


ひとすじ涙も涸れ果てて、色も失い、消えてゆく。


たしかにそれは生きていた。


温かく、そして冷え切った熱をもって存在していた。


凍ることも拒んだそれは。


溶けてゆく。溶けてゆく。


香りを残し。


まーわれ、まわれ、内なる方へ。


叶えもできず泣いてる坊主。


いずれは叶うこちらの方へ。


突然の光がぶつかり合い、屈折し、鮮やかな淡い姿を表している。


それは澱むこともなく流れ、小さな爆発を起こしながら、回り、パチパチと光り輝いている。


一つは二つに、二つは四つに、次第に膨れ上がりながら膨張してゆく。


光と熱が絡み合いながら互いを慈しむように混ざりながら。


新たな熱を生み育んでいる。


静かに、静かに、優しくそっと触れてくれている。


ほのかな淡い温かさ。


そして、これからを担う未来たちへと託される。


展望ははるか遠く、険しい道なのだろう。


だが、たしかにそこに、あるべきものはすべてそろっている。


淡い熱は託されて光となりて。


希望という懸け橋は礎となりてゆく。


始まりの翼は今そこに。今そこに。


(終)


 

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