私の好きな人は。 つづき (完)
以前投稿した「私の好きな人は。」の続きです。そちらを先に読むことをお勧めします!
「泣くくらいなら、嘘なんかつかなきゃいいのに」
突然聞こえた言葉に、真奈美は驚いて振り向いた。教室のドアに寄りかかりながらこちらを見る青年。名前は知らない。
「…誰?」
「田中保志。高校2年生です。そして、あんたは、田中真奈美先輩」
そこまで言って、保志はすっと腕を上げた。人差し指を窓の外に向ける。真奈美は思わず指の先を視線で追った。拓と綾乃が校門を抜ける。その背中が見えた。
「そしてあれは、秋山拓と上田綾乃。あんたの好きな人とその彼女」
耳に入った言葉に真奈美は勢いよく保志の方を見た。楽しそうに笑うその表情にイラつく。けれどそれより、とあたりを見回した。そんな様子に保志はさらに楽しそうに笑う。
「心配しなくても、今、ここには俺と真奈美先輩しかいませんよ」
「…何がしたいの」
低い声が出た。
「あ、認めるんですね」
「……どうせ無理でしょう?誤魔化したって」
「ご名答。やっぱ先輩は頭いいな~」
茶化すような言い方が癪に障る。けれど、悔しいが主導権を持っているのは保志だった。真奈美は睨むように保志を見つめる。
そんな真奈美を保志はやはり楽しそうに見ていた。背をドアから離すと、一歩一歩近づいてくる。
「ねぇ、先輩。先輩ってMなの?」
「…何?」
「だって、好きな人が友だちの彼氏って。それなのに、その友だちと仲良しごっこを続けてるってさ、自分のこといたぶって楽しんでるってことでしょう?」
「……あなたに何がわかるの?」
「何も?何もわかんないよ」
「…」
真奈美は小さく息を吐いた。いらいらしては保志の思うつぼだと、一度目を閉じる。そして再び開けた。逸らしては負けだと言わんばかりに、保志を鋭い視線で見つめる。
「結局何がしたいわけ?」
睨む真奈美の前に保志は立ち、すっと手を伸ばした。制服の赤いリボンを軽く引く。リボンはするりと取れ、床に落ちた。
「頭のいい先輩なら、わかるよね?」
「…」
「ばらされたくないでしょう?」
今度は真奈美の顔に手が伸ばされた。けれどそれは届く前に、真奈美に遮られる。
「ばらしたければ、ばらせば?その方が助かるわ。友だちでいるのもつらかったから」
床に落ちた自分のリボンを拾った。埃を払い、再び自分の胸元につける。
「ごめんね。私、頭がいいから、あなたの脅しに屈しないことが一番だってわかるの」
じゃあね、と真奈美は鞄を持ち、出て行こうとする。
次の瞬間、そこに場にそぐわない笑い声が響いた。
「あはは!先輩、サイコー!!」
先ほどの雰囲気とは違った幼さを持って、保志が腹を抱え笑っている。笑い過ぎて目にはうっすら涙がにじんでいた。
「…は?」
あまりにも突然の変化に、真奈美はただ茫然と笑い続ける保志を見る。
「…なんなの?あなた」
「先輩、格好良すぎるでしょ!なんだよ、これ。俺、ただの雑魚キャラじゃん。さすが、俺の先輩」
「…俺の先輩って、本当に、何なの?」
「だから田中保志だって」
「名前じゃなくって、目的は何!」
あまりのちぐはぐな会話に思わず声を荒げた。保志は浮かんだ涙を拭きながら真奈美を見る。
「先輩、今日から俺と付き合いましょう」
「……はい?」
「俺ね、先輩のこと、好きなんです」
「…………え?」
突然の言葉に思わず反応が遅れた。けれどそんなこと気にしていないように保志は言葉を繋ぐ。
「だから先輩の好きな人も知ってる。だって先輩をずっと見てたからね」
「…」
「…さっきの脅しは、すみませんでした。ちょっと遊びました。それに、あわよくばとも思いました。これでも健全な男子高校生なんで」
「…」
「でも、屈しないところがやっぱり俺の好きな先輩だなって思いました。本当に、好きなんです。だから、俺と付き合ってください」
「…どこまでが本当かわからないわ」
そう言う真奈美の手を保志は握った。突然の行動に肩が上がる。そんな真奈美に保志は首を横に振った。
「大丈夫です。ちょっとだけ、貸してください」
そう言って、自分の胸に真奈美の手を当てる。
真奈美は保志の顔を見た。嬉しそうに笑うその顔は、けれどどこか赤くなっていて、額にはうっすら汗をかいていた。心臓がバクバク音を立てているのが自分の右手から伝わってくる。信用できるなどと一ミリも思えないが、けれど自分を好きだという言葉は本当なのだとわかった。
「…でも、私、あいつのことが好きなの」
「誰かのものでも?」
「…」
「俺は、先輩を泣かせたりしないよ」
「……」
俯く真奈美は無意識に唇を力強く噛んでいた。その様子を見た保志は小さくため息を吐く。人差し指を真奈美の唇に当てた。
「血が出ちゃうよ」
「…うん」
「じゃあ、先輩。俺を利用しませんか?」
「え?」
「付き合ってるふりをしてください。そうすれば、先輩はあの人たちをいる時間を減らせますよ。一緒にいる二人を見なくて済みます」
「…」
「それで俺は先輩と一緒にいられる。一石二鳥でしょう?」
「……そうね。いいわ。その話、乗ってあげる」
「んじゃ、交渉成立ですね」
そう言って保志が腕を伸ばした。その手を見て、今度は保志の顔を見る。楽しそうな笑みに思わず真奈美も笑みをこぼした。
「これからよろしくお願いします」
「こちらこそ」
真奈美は頷き握手を交わす。強く握りしめられ、そのまま腕を引かれた。予想外の行動に勢いのまま前に倒れる。それを待っていたかのように保志が抱きしめた。
「ちょ、ちょっと」
「いいじゃないですか。抱きしめるくらい。手を繋ぐのと抱きしめるの以外はしませんから。これくらい許してください」
「…」
「先輩」
「何?」
「大好きです」
「…」
まっすぐな言葉が胸に響く。抱きしめられていることもあってか、体温が上がるのが分かった。
「もう終わり!」
保志の胸を押し、無理やり腕の中から抜け出す。
「あ~あ、残念。でも、いいや。先輩、明日、お昼一緒に食べましょうね」
「…わかった」
「俺いつもパンなんですよ。だから、お弁当作ってきてくださいね」
首を傾げておねだりをする保志の頭をパシリと叩く。
「調子に乗るな」
「え~」
「…帰るわよ」
「…え?」
「一緒に帰らないならいいけど」
「…帰るに決まってるじゃないですか!」
保志は自然と真奈美の手を握った。その行為に文句を言おうと顔を真奈美は顔を上げ、しかしすぐに俯く。
見上げた先の保志の顔があまりにも嬉しそうだったから、何も言えなかった。
どうして自分なんかを好きだと言ってくれるのだろうと真奈美は思う。こんな風に幸せそうな表情を浮かべてもらう権利などないのだ。だって、自分は甘い誘惑に乗っただけ。もう、幸せそうな拓と綾乃を間近で見なくていいという逃げの作戦に乗っただけ。それなのにどうして、そんな風に嬉しそうに笑うのだろう。
ちらりと保志の顔を盗み見た。真奈美は女子の中では背が高い方だった。けれどそんな真奈美も見上げるほど、保志の身長は高い。顔立ちも整っている。こんな人、きっと周りが放っておかない。なのに、どうして、今、自分の隣にいて、好きだなんて言うのだろうか。
「先輩」
「…な、何?」
「先輩は、ただ、俺の気持ちに甘えてればいいですよ。なんも考えなくていい」
「…」
ずるいなと思った。ひどく子どもっぽいのに、どうして急にこんな大人のような表情を浮かべるんだろう。
「ありがとう」
「どういたしまして」
握った手に力が込められた。少しだけ痛かったけれど、真奈美は何も言わなかった。
空を見上げれば、太陽は一番遠いところにいた。太陽の光に照らされ、陽気は暖かい。
「先輩!ごはん、屋上で食べましょう!」
昼休みの始まりを告げるチャイムと同時にそんな声がクラスに響いた。
クラスメイトが一斉にそちらを見るのがわかる。真奈美はため息をつき、けれどお弁当の入った袋を手に持ち立ち上がった。すたすたと歩き、忠犬のようにご主人様を待つ保志の頭を軽く叩く。
「…もう少し静かに来られないわけ」
「ダメでしたか?」
「私、そう言うキャラじゃないの」
「…本当ですね、クラスメイトみんな固まってる」
「ほら、行くわよ」
「はい!」
なんだか高速に揺れるしっぽが見えた気がした。真奈美は小さく笑う。
「あ、先輩。その笑顔、可愛い」
「な、何、急に」
「ガンガン攻めようかなって」
「心臓持たないからやめて」
首を垂れる真奈美の様子に保志は笑った。真奈美もつられて笑う。
ふと、本気で笑ったのはいつ振りだろうかと思った。拓を好きなことを誰にも打ち明けられなかった。気がつけば綾乃が彼女になっていて、ますます誰にも言えなかった。言葉にできない想いはただただ募っていく一方で、けれど募ったところで何もならないのだ。だからこそ、つらかった。拓と綾乃と一緒にいるのは楽しいのに、いつもどこかつらくて。泣き出さないようにしているのが精一杯だった。
「…ありがとう」
「え?」
「何でもない」
「そうですか。…ねぇ、先輩、屋上は寒いかな?」
「風も吹いてないし、太陽も出てるし、大丈夫じゃない?」
「え~寒かったら先輩に引っ付こうと思ってたのに」
「あったかいから結構です」
「そう言わずに」
「大きなお世話です」
「先輩、冷たい」
「うるさい」
「やっぱり、冷たい」
わざとらしくいじけて見せる保志を無視して、真奈美は先に屋上のドアを開けた。少し空気は冷たいが、風がなく、太陽がある分、やはり暖かい。
「先輩~、俺の心が寒いよ」
「何、バカなこと言ってるの?ほら、早く来なさいよ」
「は~い。って、あ、やばい。先輩、ちょっと待ってて」
屋上に片足だけ足を踏み入れたまま、立ち止まる保志に真奈美は首を傾げた。
「どうしたの?」
「先輩とのお昼、楽しみにし過ぎてパン買うの忘れた」
「え?」
「う~。そんな呆れた顔しないでくださいよ。速攻で購買行ってくるからちょっと待っててください」
そう言って駆け出しそうになる保志の腕を真奈美が掴んだ。
「…先輩?」
「おいしいかわかんないけど」
すっと差し出したのは水色の弁当箱。袋の中にはそれより一回り小さなピンクの弁当箱がもう一つ。その瞬間、保志の目がわかりやすく輝いた。
「先輩、これ、俺の?」
「まずくても知らないからね」
「先輩のが、まずいわけないじゃん!」
「何、その変な自信」
「いいの!俺の先輩のお弁当がまずいわけないんだから。ほら、早く食べようよ」
嬉しそうに手を引かれた。またもやしっぽが見えた気がして、真奈美は小さく笑う。屋上のフェンスに寄りかかり2人で弁当をひろげた。
嬉しそうに箸を動かす保志を見て、真奈美が口を開く。
「…ねぇ、聞いてもいい?」
「何?なんでも聞いてよ」
「…なんで私の事、好きなわけ?」
「え?」
「だって、接点ないでしょう?そんなに好きだって言ってもらえる理由がわかんない」
真奈美の言葉に保志は小さく苦笑を浮かべた。
「本当に憶えてないんですね」
「…何?」
「何でもないよ。…先輩と俺は半年だったけど、同じ委員会だったんですよ」
「え?」
「ま、総会みたいのが3回くらい。それしか顔を合わせてないから憶えてないのかもしれないけど、でも、俺はよく覚えてます。高校入って初めての委員会で、初めて声をかけてくれた人だったから」
「…」
真奈美は自分の記憶を探ったが、けれど、保志のことは憶えていなかった。それが様子からわかったのか、保志はもう一度苦笑を浮かべる。
「憶えてなくて当たり前かもしれませんよ。だって、先輩は、拓さんしか見てなかったから」
その言葉でいつの事かをようやく思い出した。拓と一緒の委員会になったのは、2年の時だ。美化の活動をする委員会で確か、他学年との交流はほとんどなかったはずだ。
「一番初めの顔合わせの時に、集まらなきゃいけない教室がどこかわからなくて、迷っていたところを先輩が教えてくれた」
「…それだけ?」
真奈美の言葉に保志は大きく頷いた。
「たったそれだけで、好きになったんです。けれど、先輩の視線の先には拓さんしかいなかった。それがつらくて、苦しくて、でも拓さんを見ている先輩があまりにきれいだから、それでいいかななんて思ってた」
言葉とは裏腹に表情を歪める保志に真奈美は思わず胸を押さえた。つらくて、苦しいのに、どうして人は誰かを好きになるのだろう。
「でも、昨日、泣いている先輩を見て、無理だって思ったんです。泣かせることしかできないあの人なんか見ないで、俺を見てほしいって」
まっすぐな視線は昨日とは変わらず、だからこそ、胸が苦しくなった。
俯く真奈美の頭に大きな手が乗せられる。ぽんぽんと軽く、2、3回触られた。
「大丈夫です。俺の気持ちを押し付けるつもりはないんです。すみません。昨日も言ったように、先輩はただ、俺の気持ちに甘えててくれればいいんですよ」
そう笑う保志に、真奈美は泣きそうになりながら小さく頷いた。
「あれ?真奈美?」
聞き覚えのある声に真奈美は顔を上げ、振り向いた。
「…拓と綾乃」
「真奈美も屋上組か~。…ん?それ、誰?」
拓が真奈美の隣にいる保志を見て言う。
「あ!昨日言ってた人?やっぱ、彼氏だったんだ!も~隠さないで言ってよ!」
「そうなのか?なんで隠すんだよ、俺ら親友だろう?」
そう笑う2人に真奈美は何と答えていいかわからなかった。だからあいまいに笑みを浮かべるだけだった。
「あ、自己紹介しないとな。俺、秋山拓」
「私は上田綾乃です!」
「俺ら、真奈美の親友なんだ」
「そうなんです」
「真奈美、俺らにも紹介してくれよ」
「え?あ、…えっと…」
戸惑いながら真奈美は保志に視線を向けた。保志は一度下を向き、そしてすぐに真奈美に笑みを浮かべる。すっと立ち上がり、2人を見た。
「2年の田中保志です。少し前から真奈美先輩とはお付き合いさせてもらってます」
「少し前から?…もう!真奈美、すぐに教えてよね!」
頬を膨らまし、綾乃が真奈美を見る。そんな様子に保志がくすりと笑った。
「どうかした?」
「あ、いえ、俺が言うなって言ったんです」
「え?」
拓と綾乃の声が重なった。真奈美も声には出さなかったものの、2人と同じように保志を見る。
「ほら、真奈美ってそんなに綺麗ってわけでもないじゃないですか。だから恥ずかしいから黙ってるように言ったんですよ。すみませんでした」
笑みを浮かべながら軽く頭を下げる保志。そんな保志に綾乃が声を上げる前に、拓の右手が保志の頬を殴っていた。静かな屋上に音が響く。勢いで保志が倒れるのが視界に入った。真奈美と綾乃は驚き、目を丸くする。
「てめぇ、ふざけんなよ!」
拳を握りしめ、怒鳴る拓の声が響いた。そんな拓の様子に、保志は小さく笑う。それが余計に気に障ったのか、拓の声がさらに大きくなった。
「真奈美のどこが綺麗じゃないんだ!こんなにいいやつ他にいない。真奈美の良さもわからず、真奈美と一緒にいるんじゃねぇ!」
「…」
「真奈美も真奈美だ。なんでこんなやつと付き合ってんだよ。お前はすげぇいいやつなんだから、こんなやつと付き合うなよ。もっとお前に合う人がいるだろ?」
「ふざけてるのはあんたじゃねぇか」
「あ?」
「…あんたにそんなこと言う資格ねぇんだよ!」
「俺は真奈美のことが大切なんだよ!」
「そんなこと言うなら、あんたが真奈美と付き合えばよかったじゃねぇか!」
「俺は真奈美と親友なんだ。そういうんじゃねぇ」
「あんたがそんな風だから、真奈美が泣くんだろ!」
「泣かしてんのは、お前だろ!」
そう言って拓が指さした先には呆然と涙を流す真奈美がいた。
「え?」
「…もう、いいから。わかったから。もうやめて」
「…先輩」
保志は立ち上がり、ゆっくりと真奈美に近づいていく。
「お前!」
それを止めようとする拓の腕を綾乃は静かに掴んだ。
「…綾乃?」
綾乃は小さく首を振る。そして、両頬を持ち上げ、真奈美を見た。
「たぶん、大丈夫。でも、悔しいな」
「え?」
「あんな風に、真奈美の感情を動かせるのは、田中君だけってことみたい」
「…わかんねぇ」
「難しい乙女心が拓にわかるはずないでしょ?ほら、行こう。またゆっくり話してくれるから」
「…わかった」
拓は小さく頷き、綾乃の手をそっと握った。強く殴ったためか、拓の手は怪我をしていた。保健室に行かなくちゃと、綾乃は小さく笑った。
座り込んで泣いている真奈美の前に行き、保志は同じように座った。そっと腕を広げ、真奈美を抱きしめる。
「ごめん。俺、余計なことしたよね」
「…」
「ごめんね。あの人が殴ってくれば、それだけ大事にされてるんだって先輩に教えてあげられるような気がしたんだ。…ごめん」
何度も謝る保志に真奈美は首を横に振った。
「バカじゃないの?」
涙で濡れた目で真奈美は保志を見る。頬が赤くなり、唇は切れて血が出ていた。
「私のために殴られるなんて、バカでしょう?」
「…バカでもいいんだって。だって、俺、先輩が好きだから」
「じゃあ、もっと自分を大切にしてよ」
「え?」
「私のために殴られたりしないで。…怖かったんだから」
「ごめん」
「…保志が消えちゃいそうで怖かった」
「え?」
「バカじゃないの。血まで出して」
真奈美はポケットからハンカチを取り出し、血を拭いた。傷に触れたのか一瞬保志の表情が歪む。その顔を見て、真奈美はさらに涙を流した。
「…先輩、泣かないで」
そう言って頬に流れる涙を指で拭き取る。
「無理。本当に、私のためなんかで殴られたりしないで」
「ねぇ、拓さんが親友って言いきったからじゃなくて、俺が殴られたから泣いてるの?」
「そうに決まってるでしょう!」
叫ぶように言った真奈美を保志は再び、力強く抱きしめた。そして小さく声を出して笑う。
「ねぇ、俺のこと、好き?」
「…」
「俺は、好きだよ」
「……昨日の今日でって、幻滅する?」
真奈美の言葉に保志は首を横に振る。
「恋なんて一瞬で落ちるんだよ」
「バカでしょう?」
「バカだよ。知らなかった?」
「…知ってたよ」
「ねぇ、バカだから、ちゃんと言葉で聞かないと俺、わかんないよ」
「……耳貸して」
そう言う真奈美に保志は右耳を近づけた。その様子があまりにも嬉しそうだったので真奈美は言葉を言う代わりに、赤くなっている頬に顔を近づけた。
顔を放すと同時にこちらを見た保志の目が驚きに丸くなってたので、嬉しくなって秘密を告げるようにそっと囁いた。
「好きだよ」
「俺も」
そう言って保志は嬉しそうに笑い、真奈美の唇に自分のそれを重ねた。
「いって~」
「バカでしょ?」
「あ、そうだ。先輩、これからも一生同じ名字でいましょうね」
「本当にバカなんじゃないの?…でも、いいよ。その話乗ってあげる」
そう笑う真奈美があまりにも綺麗だったので、保志はもう一度真奈美に口づけた。
ここまで読んでいただいてありがとうございました!
思っていたのとまったく違う展開になりましたが(笑)
保志を書くのが楽しすぎました!!
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