バレンタインの聖戦3
ヤツは俺たちの所、正確にはアルファの方へまっすぐ向かってくる。途中にある机や椅子は避けるのではなく、ずかずかと乗り越えていく。そしてそんなヤツは教室中に注目されている。ある者はヤツを指差し、ある者はヤツを羨望の眼差しでみる。教室のドア付近で佐野が肩をすくめるのが見えた。そしてヤツは、そういった反応に対して無自覚だ。ヤツはしゃがんだままの俺を踏みつけた。
「痛っ!なんだなんだ?!」
痛みに声を上げる俺を無視して、ヤツは楽しそうにアルファさんに話しかけるー俺を踏みつけたままだ。
「おはよう、アルファ殿。」
そして腹立たしいことに、アルファさんも楽しそうに笑って返事をするのだ。
「おはよう、ところでマコト、ドルカ君がかわいそうだよ?踏んでるよ?」
さすがアルファさん救世主か。
「おおそうだったか、すまんな、ドルカ。」
言いつつヤツは俺を蹴り飛ばす。お前は悪魔か?かといって悪気があるのではない。アルファさんと話していたいだけだろう。つまりヤツには罪しかない訳だ。
俺は腕に力を込めて立ち上がった。後ろを見るとヤツが楽しそうにアルファさんと談笑している。心なしかアルファさんも楽しそうだ。だが俺はヤツを許せない。思わず声が漏れる。
「そこは」
そして俺は振り向く勢いに体を任せ、ヤツの背中に蹴りを放った。気合を入れるための絶叫も忘れない。
「そこは俺の席だぁあぁあ!」
体の中の何かが起動して俺の脚をありえない速度で動かす。楽しそうに話しているヤツは俺に気付かない。アルファさんが気付き口を手で覆う。だが、
「もう遅いッ!」
俺の蹴りはヤツの背中を完璧に捉えていた。だがヤツの拳もまた、俺の背中を正確に捉えていた。
「なッ…?!」
「吾輩に攻撃を当てようなど…甘いな。」
慌てて脚を抜こうとするが、それよりはるかに速くヤツが俺の脚を掴んだ。
「力の差…、見せてやろう」
いつの間にか俺たちの周りを他の生徒達が取り囲んでいた。観戦を決めたらしい。そしてアルファさんはというと。
「がんばれー」
と冷たく言いながら掃除用具箱の上へと跳び上がり、そこへ座った。
「うむ、頑張るとしよう。」
ヤツはそう言いつつ、俺の脚を捻るようにして俺の体を浮かせ、そして両拳を合わせて宙にいる俺を叩き落とした。
「かっ!」
息ができない。周囲の机や椅子が倒れた。ヤツは俺を見下ろし、とどめを刺そうと拳を振り上げた。けどそんなことで焦りはしない。俺は思い通りの展開にほくそ笑みながら脚を振り上げた。ヤツの腹を全力で蹴り、そこを支点にして逆上がりの要領でヤツのアゴを蹴り上げ、そして、空中で一回転して着地。同時にヤツがどうなったか確認したが、
「やるではないか。」
声しか聞こえない。不思議なこともあるなぁ怪奇現象かぁと一瞬思ったがそんなはずはない。
「でも、吾輩の方が強いのだよ。」
後ろだ。多分次の瞬間俺の背中に打撃が飛んでくるのだろう。それで、俺の負けが決まる。でもそんなことは分かりきっていた。なんせヤツは俺のクラスで最強の二文字を背負う男、「拳戟」マコトだからだ。
ボクシング、空手、その他拳で闘うあらゆる格闘技の動きを統合し、純化させたかのような力。それが「拳戟」だ。ちなみに俺が使っていたのは脚の能力を上昇させる「蹴撃」なので、図らずも俺とヤツの能力は対になっている。
とにかく負けは負けだ。俺は素直にホールドアップしつつー後ろに蹴りを放った。放たれた卑怯極まりない蹴りは相手を正確に捉え
そして空振りした。同時に耳元で経の如し漢字の羅列を囁く声が聞こえた。
「覇国龍双掌」
景色がゆらりと傾く。
忙しくてなかなか書けずすみませんでした。