食堂前線後編
世の中の人間は二つに分けられる。持つ(恋人を)者と持たない(恋人を)者だ。そしてどこの世界でもリア充というものは爆破対象だ。すなわち後者は町中や学校その他公共施設に多数出没する前者を見るとほぼ100%こう言う。
「リア充爆発しろ。」
だがそんな人体発火、いや人体爆破現象が起こるはずもなく前者は余裕と憐み、そして嘲りの色をたたえた目で後者を一瞥。こうして世界平和が保たれる。一年前、俺は後者だった。そして今年のバレンタイン、俺は前者になった。忘れもしない次の日、教室に入った俺を出迎えたのは爆発とまではいかずとも死の危険を感じずにはいられない猛攻だった。
つまり、何が言いたいかというと我が校で下手にリア充アピールをしてしまうと、手厚い歓迎になるということだ。からかわれるのではなく、中二病フルパワーな全力の魔術と戦闘術攻撃を受けるということだ。
そういうことを考慮すると、今回のデートコース(?)には不備がある。というか不備しかない。例えば食堂にたどり着くまでに誰かとすれ違うなんてことになるとまずい。確実に戦闘開始だからだ。そしてそうなってしまうとアルファがキレて恐ろしいことになる。
戦闘術「鎌鼬」それがアルファの能力。説明はできればしたくない。また、あわよくば食堂についたとしてもそこにあるのは八人掛けの長机が十と、カウンター八席だけ。誰かと相席になると気まずいことになる。だが今までの先輩たちの慣習で最も後ろの最も端のテーブルは、一番乗りカップル様限定の席となっている。まあよくあることだ。この近くの席は水曜日以外は大概すいていて、カップル席の威力を思い知らされることが多い。今日は水曜日なので近くの席も埋まるだろうが仕方ない。
最大の問題はやはり教室の位置だろう。ここは食堂からかなり遠い。教室の窓から飛び降りれば別だがそんなことは人間には不可能、うん?あれ?次の瞬間、俺は椅子を蹴り、ガタンと立ち上がって叫んだ。
「エウレカ!」
しんとする教室。
「なんですかドルカ君、今は英語の時間ですよ。」
高貴な老婦人を思わせる教師にたしなめられ思い出す。そして思わず叫ぶ。
「なー!授業中だったー!」
そして巻き起こる爆笑の渦。アルファをちらりと見るとおなかを抱えて大爆笑している。この光景前にも見たぞ。
なんだかんだで授業が終わり、昼休みが始まる。ポケットに食券が入っているのを確認し、同時に俺はアルファを呼び、走ってきたアルファの脚を軽く蹴り上げ、
「へ?なにしてるの?」
お姫様抱っこの要領で抱え上げる。クラスメイトの目が点になる中俺は自分の机に飛び乗ると、窓へと助走を開始した。
「何するつもりなの?まさかドルカ・・・。」
そのまさかだ。俺が思い付いた策はシンプルだ、窓から飛び降りる。それだけなのだから。
「いいからつかまってろ!いくぞ!」
いっぱいに開いた窓の外に広がる初夏の青空、俺はためらいなくサッシに足をかけ、全力で空へと飛びだした。落ちているのは一瞬だったはずなのに永遠にさえ思えた。白い雲、植えられた木、ほかの校舎がゆっくりと下から上に流れていく。そして下を見ると、そこにあるのは食堂前のアスファルトと、はためく制服、不安げにこっちを見る目、広がる赤髪、肩にかかる手のきゅっとした力加減、そして口から洩れる「ドルカのアホぉ!」という声。極限まで死に近い状況で、いや、そんな状況だからこそ、俺は彼女の、アルファのそんなところ、アルファの全てをこれ以上ないほど愛しく思った。もうすぐ着地なのに、ずっとこうしていたいとさえ思えた。いっそこのまま落ちて一緒に死ぬならそれでもいい。覚悟は決まった。アルファをぎゅっと抱きしめると俺は心の中で叫んだ。
「アルファ、好きだぞ!」
思いはしっかり通じたようで彼女はコクリとうなずいた。そして俺は両脚に全力を込めた。
そう、俺が蹴るのは他でもない、地球だ。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
叫び声とともに大地を蹴り、もう一度三メートルほどの高さに上がる。脚を今までにない痛みが襲ったが、そんなものはもう関係ない。俺は食堂の前にすとんと着地した。ゆっくりとアルファをおろすと、俺は恭しく彼女に言う。
「到着いたしました。お嬢様。」
するとお嬢様は、いやアルファは俺の手を取り、食堂のドアへと走り出した。
もくろみ通り俺たちは食堂に一番乗りした。ゴールドチケットの商品は豪華オムライス定食だ。奥の席に二人並んでつき、オムライスにスプーンをつっこむ。アルファに話したいことがたくさんあった。今日、何があったのか、そして、
そこまで考えたところで、後ろから不穏な声が聞こえた。
「全く、窓から飛び出すなんて。前代未聞だ。愛の力ってやつかい?」
そこに立っていたのはインフォマー佐野。だが今度は壁の方から声が聞こえた。
「ふん、君が今楽しんでいるのも吾輩のおかげだぞ。」
おそるおそる壁を見やると、そこに腕を組んでもたれているのはやはりマコトだった。これにはアルファも凍り付いている、かと思いきやけらけら笑っていた。天使だ。すると今度は隣の席でゴン、という音が鳴った。まるで大刀を立て掛けたような音だ。俺が振り向く前に凛とした声が響く。
「隣、いいでしょうか?」
この声は間違いなくあの人だ。
「席が空いていなくてね。」
うそだ。振り向かなくてもわかる。あんたの威光をもってすれば、席の一つや二つかんたんにあくだろう。そう思いながら振り向くと、やはりそこにいたのは七支刀を立て掛けたオメガだった。彼女は続ける。
「それに、私のアルファに変なことしてないでしょうね?」
こっちが本音に違いない。アルファを見やると、顔を真っ赤にしている。どうしたんだろうなどと悠長に考えていると、次の瞬間、オメガが吹っ飛んだ。壁に叩き付けられた彼女は、俺にウインクを飛ばすと、ほかのテーブルに移った。生徒会長をも吹き飛ばす。それが彼女の鎌鼬。そして、苦笑いする佐野とマコトを睨む赤髪の彼女こそ、現生徒会会長オメガの妹にして次期生徒会会長候補、レッドクリムゾンの二つ名を持つ俺の彼女。
アルファだ。
一章終わりです。二章もよろしくです。