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第九十四話 「開戦! マリアvsガイスト」

 山のように積まれた遺体を足場にしてこちらを見つめている黒い騎士。

 それを俺たちが間違えるはずがない。


「あれはユーヤくんの!」

「霊騎士……ガイスト」

「あれが親玉……仕掛けますか?」

「全裸になる準備は出来ていますわ」

「待って! 様子がおかしいわ」


 不思議な事に、ガイストはその場から動こうとしない。

 何故だ? 何故、襲いかかってこない?

 目の前に積まれた百体以上の遺体は、彼らの手によって築き上げられたモノだろうに。

 もしかしてマリアやリックの事が分かるのか?


「分かったぞ!

 あの騎士はおかっぱの幼女を愛するロリコン!

 そして、ここに居るのは合法ロリと幼女だ!」

「なるほど! だから、あの場から動かないのですね」

「流石ですわ! 若様!」


 確かにガイストはハナコの相棒(クンペル)だし、幼女が相手なら敵であっても紳士的に対応する。

 そして、俺たちは、一見すると女子小中学生の団体にしか見えない。

 襲って来ない理由はそれなのか?

 それに、ガイスト以外のユニットが見当たらない事も少し引っかかる。


「んな訳ないでしょ!

 そんな理由だったら、リックを狙うわよ!」

「えーっ……それは困るよ」


 あぁ、そっか。

 例外が一人居たわ。

 マリアが突っ込んでくれなければ、納得するところだったぜ。


「ご安心下さいませ」

「若様は私たちが処女膜に変えても護りますわ!」

「ありがとう。二人とも愛してるよ」


 どーでもいいけど、お前ら処女じゃないだろ。

 それに、助けに来てくれた人たちに失礼かも知れないが、少しウザい。


「ますたーは、ミスティがショジョマクにかえても、まもってあげるね」

「お、おう。ありがとよ」

「ミスティ、あのお姉さんの言葉を真似するのは止めなさい」

「ん? どうして?」

「変態になるからよ」

「マリアの言うとおりだ。

 あの二人の真似だけはしないでくれ」

「ん。わかった」

「それより、気づいた事があるの。

 みんな、ガイストの腰を見て」


 マリアに言われてガイストを見る。

 腰と言われても、鎧で覆われていてよく見えないが……。


「よく分かりませんわね」

「いや、右側に何か茶色いものがありますわ」

「よく見えないけど革かな?

 鋼の鎧の下に革製の服を着ているのは別に珍しくない」

「あれはデッキホルダーよ」


 デッキホルダーだと!?

 もう一度、目を凝らしてよく見てみる。

 隙間からこぶし大ほどの茶色い箱が見えた。

 あれは俺やマリアが使っているのと同じタイプのデッキホルダーだな。

 ベルトに装着する事が可能で、底のスイッチを押せば中のカードが飛び出す仕組みだ。

 実用性は皆無だが、ギミックがカッコいいので気に入っている。


「デッキホルダー……聞いた事がありますわ。

 符術士が魔符(カード)を封印しておく魔法道具(マジックアイテム)ですわね」

「あの騎士は符術士でも有るという事でしょうか?」


 いや、ただの箱だよ。

 別に封印してる訳じゃないからね。


 しかし、俺は半年間ガイストを使用し続けてきたが、彼の腰にはデッキホルダーなんて着いていなかった筈だ。

 攻撃方法も大きな剣が主力で、カードを使用した事など一度もない。

 たまに飴をあげたりの謎の攻撃をする事はあったが……。


「リック。王女様をお願い」

「えっ、分かった。

 柔らかい……これが幼女の肌。

 そしていい匂い! くんかくんか……」

「言っとくけど、ヘンな事すると首が飛ぶわよ」

「うっ……紳士的に接しよう」


 気を失っているロッテをリックに託し、マリアは一歩前に出た。

 そのままゆっくりと前に歩き、遺体の山の手前で立ち止まり、ガイストをじっと見つめる。

 一方、ガイストは立ったまま、その場から一ミリも動かない。

 まるで立ったまま死んでいるかのようだ。


「マリア! 近づきすぎだ!」

「おねえちゃん、あぶないよぉ」


 動かないからと言って危険がないとは限らない。

 ミスティはマリアのもとへと駆け寄り、いつでもバリアを貼れるように身構える。


「ミスティはあいつを見てどう思う?」

「んー……ほんの少しだけど、黒いおじちゃんから、ますたーの魔力を感じる」

「そう、やっぱり。ありがとう」

「でも、ダイフクからもますたーの魔力を感じるよ」

「バカユーヤ!

 あなた、こんな所で変なコスプレして何やってんのよ!」


 一瞬、俺が呼ばれたのかと思ったが違うようだ。

 マリアは右手でガイストを指さしながら、声を張り詰めている。

 つまり、ガイストに向かって俺の名前を呼んでいる事になる……?

 ん? どう言う事だ?


「あれがユーヤくんだと言うのかい?」

「ええ、間違いないわ。

 あのデッキホルダーはユーヤの物よ」


 確かにこの姿になった時に、デッキホルダーをはじめとする私物は全てなくしてしまった。

 まさか、本当にあれは俺の身体なのか?

 今朝、ジャスティスが語っていた神の依代(アルタール)に関する話とも一応一致するが……。

 だとしても、何故ガイストになっているんだ!?


「ユーヤ! 私と召喚戦闘をしなさい!

 これは私のお母さんが現役時代に使っていた魔符を入れた新しいデッキよ。

 今までのデッキよりも格段に強くなっているわ」


 マリアはデッキを取り出し、ガイストに見せつける。

 相手が俺なら、これに反応しない訳がない。

 こんな身体(ぬいぐるみ)じゃなかったら、こちらから対戦をお願いしたいところだ。

 彼女は俺の事を熟知しているな。


 だが、それでもガイストは動かない。

 当たり前か。

 仮に身体が俺のものだとしても、中身は俺ではないのだから。


「どうしたの? 興味がないのかしら?

 きっと、あなたの知らない魔符も入っているわよ。

 それとも━━」

「おねえちゃん、あぶないっ!」


 マリアの煽りに反応したのか、ついにガイストが動いた。

 と言っても、大剣を振りかざした訳ではない。

 彼の身体から黒い霧が吹き出し、こちらへと流れてくる。

 霧は瞬く間に俺たちの身体を包み込み、マリアの足が見えなくなった。

 彼女の様子を観る限り、痛みはなさそうだが、嫌な予感がする。


「ミスティ! マリアを守れ! 多分、この霧はヤバい」

「うん! ミスティばり……きゃーっ」


 だが、少し遅かったか。

 霧は俺たちの身体を包み込み、視界が完全に闇に覆われた。

 身体全体に強い圧力がかかる。

 おそらく、ミスティが俺を離さないように、強く抱きしめているのだろう。


「ミスティ、大丈夫か?」

「うん。ちょっと、ころんじゃったけど、だいじょぶ」

「良かった。他のみんなは?」

「んー、まっくらでわかんない」

「そっか……みんな無事だと良いが」


 幸い、この霧自体は無害のようだ。

 だが、この闇の中を襲われたら、ひとたまりもない。


「ユーヤ!? そこに居るの!?」

「マリア! 良かった。無事だったか」

「おねえちゃんも、ますたーの声がきこえるの?」

「ええ、聞こえるわ。

 でも、どうして後ろから声がするのかしら?」

「どうしてって、お前の後ろに居るミスティに抱っこされてるからな」


 徐々に霧が晴れ、マリアの姿がうっすらと視界に映る。

 それに、何故か分からないが、話も出来るようになった。

 根拠はないが、元の身体を取り戻すのに一歩近づいた気がする。


「驚いた。本当にそのブサ……ぬいぐるみになっていたのね」

「あぁ、今までミスティ以外に声が届かなくて困っていたんだ」

「そう……なんだ。

 それじゃあ、昨日は着替えを覗いたり、私のベッドに潜り込んだり、随分とお楽しみだったのね」

「うっ……それは不可抗力だ」


 そうだよな……ぬいぐるみ状態でも会話出来るって事は、昨日の行動がバレるって事だよな。

 でも、今の俺は自力では動けない訳だし、とりあえず弁明をさせて欲しい。


「着替えはミスティのパ……目隠しされて見えなかったし、ベッドではずっと枕にされてた」

「別に言い訳なんてしなくてもいいわ。

 過ぎた事だもの。

 その代わり、後でお願いを聞いて貰うわよ」

「あっ、はい! 俺に出来る事ならなんでもします!」

「良い返事ね。

 じゃあ、その為にも、もう一人のユーヤをぶっ倒さなきゃいけないわね!」


 もう一人の俺と言うのはガイストの事か。

 だが、奴は変な霧を出しただけで攻撃を仕掛けてくる様子は……。


「いや……マジかよ!?」


 いつの間にか、辺りを包んでいた黒い霧は完全に晴れていた。

 俺の目の前にはマリアと対峙するガイスト。

 そして彼らの間には宙に浮いたふたつのデッキ。


「あっちのユーヤは私との召喚戦闘を受けるつもりみたいよ」

「ガイストがカードゲームをやるって言うのか!?」


 まさか、ガイストが剣を使っての戦闘ではなく、カードバトルでの対戦を選ぶとは思いもしなかった。

 だが、異常なのはそれだけではない。


「ロリコンのおにいちゃんがいないよ?」

「あぁ……それに、ここにあった傭兵たちの遺体もない!」


 ガイストの足もとにあった大量の遺体は消え、リックたちの姿も見当たらない。

 まるで俺たちだけがパラレルワールドに転移させられたかのような錯覚を受ける。


「私にも何が起こっているのか、さっぱり分からないわ。

 でも、今出来る事はひとつよ!」


 宙に浮いていたデッキから、それぞれに五枚のカードが配られた。

 続いて、二人の間に最初のリーダーとなるユニットが召喚(コール)される。

 マリアの側には小さな男の子《犬好きの少年アレフ》。

 ガイストの側には薪を背負った青年の石像《七不思議(セブンワンダーズ)キンジロー》。

 そして最初にカードを配られた方が先行となる。


「私の先行ね!

 見てなさい、ユーヤ!

 これが私の新しい切り札よ!」

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