第九十話 「交渉決裂」
俺がカードのユニットだって!?
んな訳ねーだろ。
「ユーヤが……英霊」
「いくら何でも、その話は無理がありませんか?」
「突拍子もない話だと思われても仕方がありません。
ですが、幻想の姫君は何か心当たりがあるご様子ですね」
「へ? な、何を言ってるのかしら。
あまりにも滅茶苦茶な話に唖然としてただけよ」
マリアもアリスも、この話は信じていないようだ。
そりゃ、そうだよな。
あなたの家族は人間じゃありませんと言われて、信じられるわけがない。
「私も最初は不死の静寂とは無関係だと考えていました。
しかし、彼は呪われた雪風エドヴァルト・ヴォルフを召喚戦闘で倒したのです。
あれを倒せる程の符術士が、私の他に居た事に驚きを隠せませんでした」
いや……沢山居ると思うぞ。
まともな構築のデッキを使わせれば、そこのオッサンでも倒せるんじゃないかな?
ロッテなら余裕で圧勝してくれるだろう。
「それでユーヤを王都に呼び寄せたのね」
「はい。彼が単に優秀な符術士であるなら、それはそれで良し。
万が一、不死の静寂であった場合は、すぐに対処出来るように近くに置きたかったのです。
私は彼にいくつかのアプローチを施しました。
神の依代に関する資料を読ませ、呪われし雪風に再会させました。
彼独特の奇妙な魔術も目の前で実践して頂きましたね。
あれには正直驚かされました」
「あぁ、あのヘンな魔符ね」
「彼にしか扱えない魔術も、彼が英霊であると考えた理由の一つです」
確かにウィザクリのカードは俺にしか使えないみたいだけどさ。
だからって人間じゃない扱いは酷くないか。
「ですが、決定的な証拠は掴めないまま、一ヶ月の時が流れました。
そこで私は最後の賭けに出る事にしました。
丁度、長年研究を続けていた新兵器も完成しましたからね」
「最後の掛け……ですか」
「彼をマウルへ連れて行ったのです。
もし、彼が不死の静寂なら、何らかの反応があると思いましてね。
不死の静寂と遭遇した場合でも、それを倒せるだけの兵力を投入しました。
もちろん、彼の魔術も優秀な戦力の一つです。
無事に討伐が終われば、そのまま彼を英雄として迎え入れるつもりでした。
ですが、残念ながら悪い予感の方が当たってしまいました」
おいおい、話が違うじゃないか。
俺は士気を上げるために同行させるだけって聞いたぞ。
「悪い予感って、何があったのよ」
「先行していた兵士からゴーレムが出現したとの報告を受けましてね。
そこで、対ゴーレム戦の経験者である彼を向かわせる事にしました。
私が追いついた時には既にゴーレムの姿はありませんでした。
おそらく彼に倒されたのでしょう。
それだけではなく、彼とその相棒も見当たらなかったのです。
その後、軍人手帳の位置情報を元に彼を探している時、興味深いモノに出会いました」
ん? 軍人手帳の位置情報って何だ?
アレにはGPSみたいな機能が内蔵されていたのか?
こっそり部下を監視するとか趣味が悪いな。
「興味深いモノって何よ?」
「彼が召喚戦闘で使っていた英霊……何と言いましたっけ?
真っ黒な鎧の」
「霊騎士ガイストね」
「そう、それです。
ガイストが実体化して私たちの前に現れたのです」
「それがどうしたって言うのよ」
「通常、相棒以外の英霊は、召喚戦闘以外でこの世に現れる事はありません。
例外はエレイア古代迷宮などに出没した亡霊と神の依代のみ。
彼の所有する魔符の英霊が現れたと言う事は神の依代の能力によるものでしょう。
そして我が軍は彼により壊滅的な被害を負ったのです」
「ユーヤはどうなったの? まさか……」
「申し上げた筈ですよ。彼は神の依代だと。
あの状況から判断して、彼が霊騎士ガイストになったに違いありません」
ちょっと待て! 何故そうなる!?
俺はガイストとジャスティスが戦おうといる所をこの目で見たんだぞ。
「あなたがユーヤを不死の静寂と決めつけてるのは理解したわ」
「では、先ほどの話を考えて頂けますか?」
「論外ね。
私が不死の静寂の討伐に承諾していたら、あなたはその話をしたのかしら?
きっと、あなたは敵がユーヤである事を隠したまま、私と彼を戦わせようとした筈よ。
そもそも、あなたの話は憶測だらけで根拠がないじゃない」
「いえ、これは長年の研究を元に━━」
「あなたにユーヤの何が分かるッて言うのよ!
あなたが彼と一緒に居たのは、たったの一ヶ月じゃない。
私は半年以上も一緒に暮らしてるのよ!」
マリアが叫ぶと同時に、地面が大きく上下に揺れた。
地震かと思ったが、どうやらマリアが机を思いっきり叩いたのが原因のようだ。
彼女が本気で怒っているのが伝わってくる。
「彼は魔符と女の子のパンツにしか興味のないろくでなしよ。
特に魔符の事となると、他の全てをほっぽり出すようなバカね。
でも、罪のない人に危害を加えるような事は絶対にしないわ」
「マリアさん、落ち着いて」
俺の為に怒ってくれるのはありがたいが、カードとパンツにしか興味ないって酷くね?
その言い方じゃ、まるで変態みたいじゃないか。
カードの方は認めるけどさ。
「分かりました。今日はこれで失礼します。
先ほどのお話は他言無用でお願い致しますね」
「あんな話、誰も信じないわよ」
「それもそうですね……うっ」
「所長、宿で少し休んだ方がいいんじゃないかのう?」
「大丈夫です。それに時間がありません。
ディートハルト、荷物をお願いします」
「玄関までお送りします」
「ふん……もう来なくていいわよ」
ジャスティスはマリアを味方につけるのを諦めて帰って行ったか。
しかし言ってる事が滅茶苦茶だったな。
なんとしてでも元の身体に戻って、彼の誤解を解かなきゃ。
「まったく、何なのよあいつ。
南カトリア最強の符術士って聞いていたけど、最低だったわ」
マリアはジャスティスの態度が相当気に食わなかったのか、未だに愚痴っている。
イライラするのは仕方がないかも知れないが、貧乏ゆすりはやめて欲しい。
さっきから身体が上下に揺れて、少し気持ち悪いんだけど……。
しばらく揺れに耐えていると、愚痴に混じってドアをノックする音が聞こえた。
「おーい、マリア。誰か来たぞ」
……と言っても聞こえないか。
「誰よ!?」
「ふぇっ!? め、メガネのおじちゃん、もう帰ったよね?」
「ミスティだったのね。怒鳴ってごめんなさい。
あのクソ野郎が戻って来たのかと思って……」
やって来たのはミスティだった。
何らかの方法でジャスティスが帰ったのを察知して来たようだ。
それにしても、クソ野郎って……こんなに口が悪いマリアを見るのは久しぶりだな。
一方、ミスティはそんな彼女を気にする事なく、ソファの下から俺を引きずり出す。
「よいしょ。うわっ……ますたーがホコリだらけ」
「そんな所にぬいぐるみを置いてたの?
ほら、掃除してあげるから貸しなさい」
マリアは風の魔術で俺の身体についたホコリを吹き飛ばしてくれた。
これドライヤーみたいで、ちょっと気持ちいいな。
「はい。これでいいわ」
「すごい! キレイになった! ありがとう」
「いいのよ。それよりもミスティに訊きたい事があるの。
ユーヤは本当に今日帰ってくるの?」
「ん。それは、えっと……どうしよう?」
「ミスティ、もう誤魔化すのは無理だ。
正直に話……しても信じてもらえないんだよな」
「そっか……私たちに心配を掛けないよう、気を使ってくれたのね」
あれ? マリアのやつ、何か勘違いしてるな。
「んとね。ますたーが」
「ミスティ、余計な事は言うな」
「ユーヤはマウルに居るのね。ミスティ、私と一緒に来て」
「どこにいくの?」
マリアはミスティの手を引き、外へ出ようとした。
その時、戻って来たアリスと鉢合わせる。
「マリアさん、お出かけは朝ご飯を食べてからにしませんか?」
「アリス。悪いけど、そんな余裕は━━」
「分かりました。じゃあ、ひとつだけ教えて。
イズミさんが英霊だと聞いた時、すぐに否定しなかったのはどうしてかしら?」
「それは……初めて会った日、あいつは言ったの。
自分は別の世界から来たって。
もちろん、最初は信じていなかったわ。
でも、彼にはそうじゃないとおかしな所が沢山あるのよ。
だからって、あいつが不死の静寂だなんて思ってないけど。
でも、行かなきゃ……行かなきゃ、ユーヤが殺されちゃう!」
「落ち着いて下さい。
今のあなたが行って、どうにかなるのですか?」
「そんな事、わかんないわよ!」
「そうよね。だから、これを持って行って下さい」
アリスは小さな箱をマリアに手渡す。
マリアが箱を開けると、中には十数枚のカードが入っていた。
「これは……魔符?」
「あなたのお母さんが結婚する前に使っていた魔符よ。
現役を退いた時に、もう必要ないと言われて預かっていたの。
強力な魔符だから他の人の手に渡らないように、とも言われたわ。
私は符術士じゃないので、役に立つかどうかは分かりませんが」
「お母さんの……現役時代の魔符」
まさかアリスがカードを持っているとは思わなかった。
よく見えないが、全て白属性のカードのようだ。
強力なカードか。
こんな時なのに詳細が気になるぜ。
「あと、これはお弁当です。
朝食用のパンに肉と野菜を挟んだだけですけどね。
三日後には新しい人たちが入寮するから、それまでには戻って来て下さいね。
マリアさんと、ミスティちゃんと、そしてイズミさんの三人で、ね」
「っ! ありがとう!
ミスティ、行くわよ! ユーヤを助けに!」




