第八十六話 「見知らぬカード」
「マジかよ……」
ジャスティスの奴も使えねーな。
「あれを倒すのは私です」などと言っておきながら、肝心の時に居ないのかよ。
あいつが不死の静寂なら勝負を挑んでも……どうする?
「ますたー、あれ」
ミスティが黒ローブを指さす。
いつの間にか、奴の右手にはカードの束が握られていた。
「あれは……デッキか!」
自分のデッキホルダーにデッキが収まっている事を確認する。
今回は盗まれた訳ではないようだ。
って事は、あれはあいつのデッキか。
まともに戦ったら勝てる気はしないが、召喚戦闘なら話は別だ。
こうなったら腹をくくるか。
「あいつに召喚戦闘を挑む。
ミスティ、もしもの時はいつものように守ってくれ」
「うん、わかった」
「俺に勝負を挑んだ事を後悔させてやるぜ! のっぺらぼう
英霊召喚!」
お互いのデッキが宙に浮き、シャッフルが始まった。
顔なしは無言のままだが、俺との対戦を受け入れたという事だ。
やがて、手札の配布が終わり、山札の上のカードがリーダーエリアに召喚される。
俺のリーダーは霊医アルツ。
能力無効化か……出来れば手札に引きたかったが仕方がない。
顔なしのリーダーは……なんだこいつ?
ライオンっぽい姿だが全身が白く、プレイヤーと同じく目と鼻がない。
俺は二千種以上のカードを暗記しているが、こんなユニットは初めて見た。
だが大丈夫だ、
召喚戦闘中はフィールド上のユニットの情報が頭上に表示される。
????/レベル1/AP4000/HP3000 / 3000。
「ユニット名が……読めない」
戸惑っていると俺の手札とマナエリアに一枚ずつのカードが補充された。
先行は俺のようだ。
得体の知れないユニットだが、ステータスから予測してトリガーの一種だろう。
だったら恐れる事はない。
「マナコストを①支払い、サポートエリアにハナコを召喚!
リーダーに攻撃!」
アルツが注射器をぶっ刺し、顔なしのライオンはダメージエリアへと送られた。
続いて山札から顔のない鳥のようなユニットがリーダーエリアに召喚される。
こいつも見知らぬユニットだが、今の攻撃で普通に倒せる事が分かった。
なら、いつものように正々堂々とカードバトルをするだけだ。
◆◆◆◆
四ターン目後攻。
顔なしのターン。
ダメージは六対四で俺が先行している。
そして俺の手札にはガイストが二枚。
この時点で俺は勝利を確信する。
奴はマナコストを④支払い、リーダーエリアに真っ黒なマントを羽織った人型のユニットを召喚した。
レベル4/AP7000/HP11000。
おそらくこいつが切り札だろう。
例に漏れず、目と鼻はない。
人型なだけあってプレイヤーにそっくりだ。
「マナコストを②支払い、シルトを守護召喚」
アタックフェイズ。
奴は一回目の攻撃で連携攻撃を仕掛けてきた。
守護天使を召喚してこれを防ぐ。
名称は分からないが、奴のサポーターの見た目はバラバラだ。
十中八九、残りは通常攻撃になる筈。
これでこのターンのダメージは一点に抑えられる。
次のターンでの勝利は確実だが、これは念の為だ。
連携攻撃を防げる機会はそう多くはないからな。
続く二回の通常攻撃により、俺に五点目のダメージが与えられた。
山札からリーダーエリアへ紫色の手鏡が召喚される。
あれはバーストトリガーだ。
どうやら運は俺に味方しているようだな。
『必殺技能力 消去』
顔なしが何かを呟いた。
それと同時に奴のダメージエリアにある六枚の内、三枚のカードが裏向きに変わる。
そして何故か……俺のバーストトリガーは発動しない。
「今のは……RCか?
てか、お前……喋れたんだな」
よく分からないが、ユニットの能力でバーストトリガーを無効化されたようだ。
マナコストじゃなくRCで発動できる能力無効化だろうか?
まぁ、いいさ。
サポーターを全滅させられなかったのは残念だが、戦況は変わらない。
「俺のターン! ドロー&マナチャー……ジ」
五ターン目先行。
俺のターンの開始時に異変に気づいた。
リーダーエリアのムラサキカガミが居ない。
いや……よく見ると、リーダーエリアに裏向きのカードが一枚伏せられている。
その上にはステータスも表示されているのだが……。
《七不思議ムラサキカガミ》/レベル1/AP0/HP4000 / 4000。
「AP0!?
なんだこれ……どうなってるんだ?」
おそらく先ほど使用された能力の影響だろう。
APを0にされたら相手にダメージを与える事が出来ない。
初めて見るが、中々に強力な能力だな。
「だが、ユニットを上書きすれば!
マナコストを④支払い、ガイストをリーダーエリアに召喚!」
裏向きのカードは墓地へ送られ、漆黒の鎧に身を包んだ騎士が姿を現す。
「元々、俺はこのターンにガイストを召喚する予定だった。
強力な能力だが、使うタイミングを誤っ……う……そだろ?」
一瞬、姿を現したガイストも裏向きとなり、APは0にされていた。
リーダーを別のユニットに変えれば元に戻るだろう、と言う俺の予測は見事に裏切られる。
これではリーダーを倒す事は出来ない。
仕方なく、今回はサポーターを二体倒してターンを終了する。
すると、リーダーエリアの裏向きのカードがガイストへと姿を変えた。
「なるほど……持ち主のエンドフェイズに元に戻るのか」
五ターン目後攻。
顔なしはサポーターを二体召喚して、俺のリーダーを集中攻撃して来た。
俺に攻撃を防ぐ為のマナコストはない。
ガイストはダメージエリアに送られ、山札から新たなユニットが召喚される。
「ドロートリガーだ。一枚引くぜ」
ファントム オブ マウスの特殊登場時能力が発動し、山札から一枚が俺の手札に加わる。
引いたカードは《霊騎士ガイスト》。
コンボパーツとなる二枚のガイストが再び手札に揃った。
まだ運に見放されてはいないようだ。
三回目の攻撃を受け、ネズミもダメージエリアに送られた。
八体目のリーダーとして、山札から《魔斧使いアクスト》が召喚される。
これで七点目。
俺の敗北にリーチがかかった。
もう後はない。
次のターンに勝負を決める!
『消去』
「なっ……また!?」
だが、俺の決意は脆くも崩れ去る。
奴が再びあの能力を使用したのだ。
前ターンと同じく、俺のリーダーエリアには裏向きのカードが一枚。
リーダーのAPは0になる。
本来なら、アクストの永続能力でAPが7000上昇する筈だが、それも反映されていないようだ。
しかも、これは召喚による上書きでは元に戻らない。
俺は相手リーダーにダメージを与える事が出来ず、次のターンに敗北する。
「何だよ……これ。
俺は……こんな能力は知らない」
これは事実上の追加ターンだ。
しかもガイストと異なり、発動条件は手札に左右されない。
どうすればいい……?
何をすれば、このターンで奴を倒せる?
『わからん殺しをされたか。
少しは期待したのだがな……こんなモノか』
突如、聞こえてきた第三者の声が俺の思考を遮る。
わからん殺しとは、対戦相手が能力を知らないカードを使って圧勝する事だ。
今の俺の状況は、わからん殺しをされかかっていると言っても差し支えない。
気が付くと、フィールド上のユニットが全て居なくなっていた。
そして俺の正面には黒いローブを纏ったバケモ……違う。
そっくりだが━━こいつには顔がある。
『だから引き返せと警告したのだ』
黒いローブの男は言葉を紡ぐ。
こいつの事は記憶に新しい。
エボルタとの召喚戦闘で邪魔をして、この地域の入り口で俺のデッキを奪って文句をつけた奴だ。
「どうなってる?
俺は顔のないバケモノと召喚戦闘をしていた筈だ」
『虚無の魔王』
「ダークロード・オブ・ヴァニタス?」
『【フェアトラーク】フィフスシーズン。
ブースターパック第二十弾に収録されたSRカード。
【フェアトラーク】六番目の属性━━無属性の主軸として環境を荒らしたユニット。
それが奴の正体だ』
何言ってんだ、こいつ?
「フィフスシーズン? 無属性?
意味分かんねーし……」
霊騎士ガイストが収録されているのが第十二弾。
それの発売からまだ七ヶ月しか経っていない。
時期的には第十四弾が発売されるかどうかと言った所だ。
だが……奴の使用するカードは俺の知らない物ばかりだった。
信じ難い話ではあるが、あれらが未来のカードだと言うのなら、とりあえず説明がつく。
『この世界には千年も前からカードが存在する。
それらの出現時期に地球との時間軸上の共通点はない。
その中には、お前の知らないものもあるだろう』
「俺の……知らないカード。
じゃあ、ガイストとハナコの制限の話も本当なのか?
そして、俺は……実体化したカードのユニットとカードゲームで対戦してたって事か?」
『そうだ。そして、このままだとお前は負ける。
無属性特有の能力である消去。
これは、相手ターンの終了までの間、指定したエリア上のユニットの能力を無効化させ、APを0にする。
無効化される能力は特殊登場時能力を含む自動能力、永続能力、起動能力全て。
文字通り、相手を消去する強力無比な能力だ』
おいおい、ぶっ壊れじゃねーかよ。
おおよそ推測通りの能力ではあるが、どう対処法すれば良いのか……。
「ここから逆転する方法を考えてたんだよ」
『そうか、まだ諦めていないのか。
なんとか間に合ったようだな……なら、デッキを借りるぞ』
まただ。
気が付けば、俺のデッキは奴の左手に握られていた。
「何度も何度も他人のデッキを勝手に……。
そもそも、お前は一体何なんだよ!」
デッキに手を伸ばそうとするが、やはり身体が動かない。
段々と意識が遠くなる。
『俺は……ローラント・ハルトマン』
そいつは俺たちの倒すべき敵と同じ名前を口にした。
「それって……不死の静寂」
『転せ……いや、未来人とでも言っておこう』
「お前は……敵なのか?」
『少しだけ時間を稼いでやる。
お前が元の生活……り戻し……のなら戻……来い。
……期待……いるぞ』
言われなくても、また会いに来てやるさ。
未来のカードだか、虚無の魔王だか知らねーが、俺がブチのめしてやる。
いわゆるRPGにおけるイベント戦闘ってやつです。
ここでエタれば立派なテンプレなろう小説になりますね!
※次話予約投稿済みです。