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第八十五話 「国境の町マウル」

『能力はアタックフェイズ中のサポーターの蘇生。

 サポートエリアを再構成させる事で、一ターンに六回の攻撃(アタック)が可能なユニット。

 サードシーズンの後期からフォースシーズンの中期まで環境を支配したデッキだな』


 カードを見つめながら独り言を呟く黒いローブの男。

 姿を見るのは初めてだが、この声には聞き覚えがある。

 エボルタとの召喚戦闘の時に邪魔をした奴だ。


『……む、《闇の魔女ミスティ》が入っているのか。

 珍しいな。このデッキは種族を《霊》で統一するのがセオリーだった筈……。

 いや、確か第六回大会の日本代表も魔女を採用していたな』


 ガイストの次はミスティ……これは間違いない。


「おい、それは俺のデッキだろ! 返せよ!」

『少し借りているだけだ。落ち着け』

「それは俺の命より大切な物なんだ。

 そんな言葉が信じられるかよ!」


 力ずくで奪い返そうと思ったが妙に足が重い。

 まるで地面に縛り付けられているようだ

 さっきの頭痛もこいつの仕業か?


『ヒールトリガーは《七不思議(セブンワンダーズ)ハナコ》か。

 いや、なんだこれは……?

 ガイストが四枚に……ハナコも四枚だと!?』

「何言ってんだ。そんなの当たり前だろ」


 主力のレベル4ユニットと、その相棒(クンペル)を四枚ずつ採用するのは構築の基本だ。

 そして、ガイストの能力と連携攻撃コンビネーションアタックの相性はとても良い。

 これらの採用枚数を減らす意味はないと言える。


『お前はこのデッキを使えるのか?』

「さっきからおかしな事ばっかり言いやがって。

 使えるに決まってるだろ!」

『だが、ガイストとハナコは相棒制限カードに指定されている筈だ』

「相棒制限って何だよ?」

『禁止制限ルールの一種だ。

 ガイストとハナコは合わせて四枚までしかデッキに入れる事が出来ない』

「はぁ?」


 禁止制限ルールは知っているが、相棒制限なんて単語は初めて聞いた。

 しかも、ガイストとハナコが対象だとか馬鹿馬鹿しい。


 仮にこの制限に従うとしよう。

 ガイストは能力のコストとして同名カードを必要とする。

 よってガイストの採用枚数は二枚以上が大前提だ。

 しかし、二枚では条件を満たすのが厳しい。

 最低でも三枚、理想は四枚だな。

 だが、ガイストの枚数が増えるとハナコを採用出来る枚数が減る。

 ガイストを三枚にすればハナコを一枚入れられるが、連携攻撃は出来ないに等しい。

 これではハナコが禁止カードに指定されているのと同じじゃないか。


『なるほど。全盛期のガイストか。

 これならひょっとして……いや、厳しいな』

「もういいだろ。デッキを返せよ」

『心配しなくても返してやる。

 それと忠告だ。今すぐ引き返せ』

「は? なんで引き返さなきゃならないんだ。

 てか、お前。さっきから説明を端折り過ぎなんだよ」

『時間がないのだ。

 運命力場は長く保たないと言っ……ろう。

 そ……今回……喚戦闘で作られた……ではなさ……だ。

 まさ……術士でな……も、実体……たユニ……を倒せ……術を南が……』


 辺りがうっすらと霧に包まれ、男の姿が薄れてゆく。

 何かを話しているが、聞き取り辛い。


 またこのパターンかよ。

 毎度毎度、言いたい事だけ言って消えやがって。

 てか、俺のデッキ!

 あいつが消える前に取り返さなきゃ!

 くそっ……足が動かない。

 それに段々意識が……これもエボルタの時と……同じか。

 ちくしょ……う。



 ◆◆◆◆



「いたいのいたいのとんでけー。

 ますたー、げんきになった? ねぇ、ますたー」

「ん……ミスティ?」

「うん。ミスティだよ」


 気が付くと俺は地べたに寝そべっていた。

 隣には、俺の事を心配そうに覗き込むミスティの姿が見える。

 少し遠くにジャスティスも居るな。


「そうだ! デッキ!」


 腰に付けたデッキホルダーへと手を伸ばす。

 指先に伝わる厚めの紙の束が触れる感触に、ほっと胸を撫で下ろした。

 デッキを取り出して中身を確認する。

 実体化しているミスティを除き、四十九枚全て揃っているな。

 黒いローブの男に奪われたのは夢だったのか?

 長時間の歩き旅で少し疲れが出てきたのかも知れない。


「いきなり塞ぎこんだので驚きましたよ」

「ますたー、もういたくない? げんき?」

「悪い。心配を掛けた。もう大丈夫だ」


 ミスティの治癒魔法が効いたのか、頭痛は嘘のように引いていた。

 夢の中では動けなかったが、足も全く問題ない。


「では、先に進みましょう。

 少し遅れを取りました」

「了解……あっ」


 ジャスティスの後に続こうとした時、夢の中で忠告された事を思い出す。

 今すぐ引き返せ……か。

 いや、あれは夢だ。

 この作戦が終われば大量のカードが貰えるんだ。

 ここで引き返すなんて馬鹿な事が出来るかよ。

 そもそも、あんな胡散臭い奴の忠告に従う必要はない。



 雑草の生い茂る道を奥へと進む。

 途中で幾度か亡霊(ゲシュペンスト)に襲われた。

 それらは全てエレイア古代迷宮に居たのと同じ、実体化したカードのユニットだ。

 ただし、青属性のユニットしか居なかった古代迷宮と異なり、こちらでは多種多様なユニットが実体化している。

 小動物や爬虫類のような動物型から文房具をモチーフにした物まで様々だ。

 だが、いずれも俺たちの敵ではない。

 俺たちはかすり傷ひとつ負うことなく、これらを撃退する。

 兵士たちも与えられた装備のお陰で有利に戦えているようだ。



 およそ一時間程進むと、人工物らしき物が見えてきた。

 木で出来た柵を迂回し、出入口らしき門をくぐる。


「ここは……?」


 門の近くには何もないが、少し離れた場所には建物が見えた。

 それらの建物の全てが巨大なスプーンでえぐられたかのように一部が欠けている。

 偶然だろうか……いつか夢で見た景色にそっくりだ。


「ここが目的地のマウルです」

「じゃあ、ここに……」


 マウル━━マリアの故郷であり、十年前に大量虐殺が行われた場所。

 俺たちが倒すべき敵はここに潜んでいる可能性が高い。

 召喚戦闘もなしに符術士を殺す手段を持ったバケモノ。

 正面から相手をするのは危険だろう。

 もっとも、ジャスティスには何か秘策があるようだ。

 更に俺とミスティがサポートにつく。

 これで勝てない相手は居ない筈だ。


「大将! た、大変です!」


 俺たちよりも先に奥へ進んでいた兵士が、息を切らせながら戻って来る。

 明らかに様子がおかしい。

 何か緊急事態だろうか?


「どうしました?」

「不死の静寂でも見つけたのかな?」

「い、いえ……それはまだ。

 ですが、ゴーレムが出現しました」

「あの伝承に出てくるゴーレムですか?」

「はい。ゴーレムの皮膚は固く、神の武器も効果が薄いようです。

 既に味方が……五人もやられました」


 ゴーレムと言うのは巨大ロボットの事だろう。

 古代迷宮では、三人で協力して倒した強敵だ。

 ジャスティスが用意した特殊な鎧もロボが相手じゃ分が悪いか。


「ゴーレムですか……。

 噂には聞いていましたが、ここにも居ましたか。

 イズミさん。やれますか?」

「やれますか、じゃなくて、俺にしか倒せないんだろ?

 だったら、やるしかないな。

 行くぞ! ミスティ!」


 俺は戦わなくても良いと言われていたが、この状況では、そうも言っていられない。

 こういう時の為に、魔石の使い方を覚えたんだからな。



 ◆◆◆◆



 兵士が来た方向へと駆けて行くと、敵はすぐに見つかった。

 以前戦ったやつよりは小型なタイプのロボットだ。

 最強魔導ロボがスーパー系なら、こっちはリアル系か。

 そのスマートなデザインは、有名アニメーターに依頼しただけあって惚れ惚れする。

 だが、見とれている暇はない。

 ロボの足元には兵士たちの死体が瓦礫と一緒に転がっているのだ。


「《防衛機C-ARD試作型》か」

「ばりあーっ!」


 右手に持ったライフルから発射された極太のビームを闇の障壁が遮断する。

 弾けるような轟音が辺りに響き渡った。

 流石ミスティばりあだ。なんともないぜ。


「呪文詠唱……くそっ、動きが早いっ!

 ミスティ、あいつの移動を止められるか?」

「やってみるね!」


 魔石と《火の玉(ファイアボール)》の準備は出来た。

 あとは当てるだけなのだが、狙いが定まらない。

 ある程度は自動追尾されるのは分かっているが、出来れば一撃で仕留めたい。

 デカい癖に背中のバーニアで空中を自在に動き回るのが厄介だ。


「せーの、おっちろーっ!」


 ミスティの重力魔法により自重を支えきれなくなった試作型がバランスを崩す。

 バーニアの機能は失われ、尻もちをつくように大地に崩れ落ちた。


「よし今だ! 呪文詠唱 火の玉!

 続いて魔石! 魔力解放(ツァバーベフラウング)!」


 直径数十メートルにまで巨大化した火の玉が、試作型を真上から押し潰す。

 一緒に押しつぶされた瓦礫が、砂埃となって視界を曇らせる。

 マリアと協力した時に比べれば小さいが、ぶっつけ本番にしては上出来だ。


「やったね、ますたー」

「あぁ、意外と楽勝だったな」

「ミスティとますたーの、あいのちからだね!」

「えっ? そ、そうだな」


 相手のサイズも幸いしたと言える。

 これが以前と同じスーパーロボット系だったら一撃では仕留められなかっただろう。


 砂埃が収まるのを待って、試作型を仕留めた場所へと慎重に歩み寄る。

 他と同じく、こいつも倒されると実体化が解けるようだ。

 嘘のように影も形も……いや、誰か居る。

 ロボットではない。人間だ。


 黒いローブに身を包んだ金髪の━━あいつだ。

 いつもいつも唐突に現れやがって……。

 だが丁度いい。

 あいつには貸しがある。

 文句のひとつでも言ってやろうと思い、奴の近くへと駆け寄った。


「てめぇ、さっきは俺のデッキを勝手に……なっ!」


 胸ぐらを掴む為に伸ばした手を慌てて引っ込める。

 何故なら、そこに居る人物には……。


「か、顔が……ないっ!」


 あまりの不気味さに一歩後ずさる。


 顔がないと言ってものっぺらぼうではない。

 口と耳はあるし、髪の毛も生えている。

 ただ……鼻から上のパーツは何もなかった。

 半端さ故にのっぺらぼうよりも気味が悪い。


「まさか、こいつが……。

 ミスティ、ジャスティスを呼んでくれ!」

「メガネのおじちゃん?

 この近くにはいないみたいだよ」

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