表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/111

第八十話 「はじめてのしょうがっこう」

『拝啓マリア様━━(中略)楽しい毎日を過ごしています』


「これなら、どうですか?」


 王都に越してきてから五日目。

 初めての休暇を貰った俺はマリア宛の手紙を出しに支所へ来ている。

 すぐに終わると思ったら、中身をチェックされ、そのまま突き返された。

 理由を尋ねると、機密に関わる内容が含まれているとの事だ。

 三度目の書き直しにより、ようやく審査を通過した頃には、時計の針は正午を指していた。


「ますたー、おわったの?」

「あぁ、おまたせ。何処かで飯でも食ってブラブラするか」


 近所のレストランで食事を摂った後は、特に目的もなく王都をぶらぶらと散歩する。

 強いて言うなら、近所の地理を把握するのが目的だ。

 いろんな施設があり、見ているだけでも楽しい。


「ますたー、アレなぁに?」

「ん?」


 ミスティに呼び止められ足を止める。

 彼女の視線の先には大きな建物があった。


「サッカー……かな?」

「へぇー」


 建物の隣には大きな広場があり、そこで十数人の子供たちがひとつのボールを巡って遊んでいる。

 まだ少し肌寒い季節なのにも、全員が半袖に短パン姿だ。

 どうやら男の子と女の子で別れてチーム戦をしているらしい。

 男子が優勢かな……と思ったら、綺麗な金髪をポニーテールに纏めている女の子が、男子からボールを奪った。

 そのまま華麗なドリブルでディフェンスを突破し、シュートを決める。

 少し遅れて、女子チームから歓声が上がった。


「あのポニーテールの娘すごいな」

「おおっ! 君も分かるのか!」

「うん。この中では一番だな」


 どうやら俺たち以外にも見学者が居たらしい。

 声を掛けてきた男に同調すると、彼は興奮気味に言葉を重ねる。


「だよねー! あの白くて綺麗な脚!

 スレンダーでありながら、太腿の辺りはむちむちとしていて男を魅了する」

「へ? あの、何を言って……」

「そして、ボールを蹴る時にチラッと見える純白の天使(パンツ)


 何言ってんだこいつ……何かがおかしいぞ。

 少女の技術に見入ってたんじゃないのか?

 それにこの声、どこかで聞いたような……。


「って、リックじゃねーか!」

「えっ? ユーヤくん? それにミスティちゃんも!

 わざわざ僕に会いに来てくれたの?」

「んな訳ねーだろ。たまたまだ。

 リックこそ、こんな所で何してんだよ?」

「今日は非番だから、趣味の幼女観察を嗜んでいるだけだよ」

「その趣味、一歩間違えたら犯罪だぞ。

 ほら、ミスティもドン引きし……」


 ミスティは食い入るようにサッカーを観ている。

 あまりにも静かなので、リックを避けているのかと思ったが、どうやら違ったようだ。

「どうした? えらく真剣に観てるじゃないか」

「ん……なんでもない」

「ひょっとして、やってみたいのか?」

「んー……ちょっと気になるの」


 思えば、ミスティとボール遊びなんてした事がないな。

 後で買って帰るか。


 などと考えている内に、試合が終わったのか、子供たちは中央に集まって何かを話し合っている。

 しばらくすると、ポニーテールの娘がこちらへ向かって駆けだした。


「おい、こっちに来るぞ」

「幼女の方から会いに来てくれるなんて最高じゃないか」

「お前と一緒にされるのはゴメンだからな」


 俺は純粋に試合に興味を持っただけなのに、リックのせいで幼女の生足を覗き見してたと思われるのは心外だ。

 試合も終わったみたいだし、立ち去ろうかと思ったが、一足早くポニーテールの娘が俺たちの元に辿り付く。

 そこには俺のよく知っている顔があった。


「誰かと思ったら、ユーシャとショーイではないか」

「やぁ。ちなみに先月昇進したから、今は中尉だよ」

「細かい事を気にする男はモテないのじゃ」

「ロッテちゃん、こんにちは」

「あの活躍してる娘がロッテだとは思わなかったよ。

 そうだ! 邪魔じゃなかったら、ミスティも混ぜてやってくれないか?」

「ふぇ? ますたー?」

「もちろんダイカンゲーなのじゃ!

 ……と言いたいところじゃが、先生に訊いてくるのじゃ」


 髪型が普段と違うから気付かなかったが、ポニーテールの少女はロッテだった。

 知り合いの(つて)を利用して、ミスティを仲間に入れてくれるようお願いする。

 要求はあっさりと受け入れられ、俺たちは運動場の中へと案内された。


「その服じゃ、動きにくくないか?」

「じゃあ、着替えるね。えいっ」


 ゴシックドレスでサッカーは無理があると指摘すると、ミスティは魔法を使い、一瞬で体操服へと着替えた。

 体操服には『2-3 いずみ』と書かれている。

 下は短パンじゃなくてブルマだ。

 早着替えを見た周りの子供たちが騒ぎ出したが、ロッテが上手く説明してくれた。

 流石は王女様だな。民を纏める力がある。


「ほう……めずらしい服じゃの。

 しかし、動きやすそうなのじゃ」

「体操服ってやつだよ。

 ますたーの頭の中にあるのを再現したの」

「こ、これは!

 なんて素晴らしい服装なんだ!

 機能性と美を兼ね備えている!

 特におしりの肉が少しだけはみ出ている辺りが……。

 こんな服装を思い付くなんて、君は変態か!」

「変態はお前だ!」


 俺の脳内にあるデータベースから、この服装を選んだのはミスティだ。

 それに俺だって、ブルマはグラビアとイラストでしか見た事がない。


「男子チームのゴール……あの二本の柱の間じゃな。

 そこにボールを入れると一点なのじゃ」

「うん」

「ただし、ボールを手でさわるのはダメなのじゃ」

「わかった」

「そして、この線より遠くからボールをけって、ゴールに入れると三点なのじゃ!」

「三点! すごーい」


 ん? サッカーかと思っていたが、少し違うスポーツが混ざっているな。


「よーし、がんばるぞー」

「では、ミスティの代わりにわらわが抜けるのじゃ」

「女子が一人ふえても変わらねーよ。いいハンデだ」

「言ったのぉ。コーカイさせてやるのじゃ」


 こうしてミスティを新メンバーに加えて、サッカーのようなスポーツの試合が始まった。


「ミスティ! パスなのじゃ!」

「うん! わわっ……せーふ」

「そのままシュートするのじゃ!」

「わかった。いくよー。

 ひっさつ……ダイフクシューット!」


 ミスティが蹴ったボールは天高く舞い上がり、あっと言う間に見えなくなった。

 あー……ボール、弁償しなきゃな。


「わはははは。へったくそー」

「むー、ミスティ下手くそじゃないもん。えーいっ!」


 ミスティが右手をあげて天を指す。

 その方向を見ると空で何かが光った。

 右手を振り下ろすと、空から何かが弾丸のように風を切りながらゴールへ突き刺さる。

 そこには天高く飛んで行ったはずのボールがあった。


「ひっ……う、うわああぁん。

 こわいよー、おかあさーん」


 やっべ、キーパーの子が大泣きしだした。

 幸い、怪我はなさそうだが、あんなのが隣に降って来たら怖いよな。


「ミスティ、魔法は使っちゃダメだ。

 スポーツは正々堂々とやらなきゃ楽しくないだろ。

 さぁ、キーパーの子に謝って来なさい」


 試合を中断させて、ミスティに注意する。

 あとは本人同士に任せる事にした。

 少年が許してくれると良いのだが……。


「あの……ごめんなさい」

「べ、別にお前のシュートがこわかったワケじゃないからな。

 ちょっと目に砂ぼこりが入っただけだ」

「ミスティそれ知ってるよ。ツンデレって言うの」

「俺はツンデレじゃねー!

 ……とにかく、次は止めてみせる。

 女子になんか負けないからな!」

「こっちも負けないもん!」


 仲直りも出来たところで試合再開。

 その後は特にトラブルもなくフェアな試合が行われた。

 残念ながら、結果は男子チームの勝利に終わったが、勝ち負けなど関係なく、みんな幸せそうな表情をしている。

 俺の隣にも幸せそうな顔をしている変態が居るのが玉にキズだな。


「たのしかったー。ミスティ、汗かいちゃったから着替えるね。えいっ!」

「ユーヤくん! あれも君が考えた服装なのか!?」

「俺の祖国で女学生が着ている制服だな」

「なんて服装だ! 露出が少ないのに興奮する。

 特に胸元のリボンがとても可愛らしい!

 でも、スカートはもっと短い方が良いかな!」

「いやぁー」


 ミスティが着替えたのは構わないのだが、それが冬仕様のセーラー服だった為、リックがまた興奮しはじめた。

 大声で騒ぐものだから、ミスティだけじゃなく他の子供たちも若干引いているように見える。


「ショーイは何を言っているのじゃ?」

「いつもの発作だろ。気にするな」

「ふむ。次は教室で国語のジュギョーなのじゃ。

 わらわについてくるのじゃ」

「国語は流石に無理じゃないか?

 ミスティとロッテじゃ学年が違うだろ」

「なら、先生におねがいしてくるのじゃ!」


 ロッテの無理なお願いを学校の先生は快く承諾してくれた。

 しかも、ミスティでも楽しめるよう、特別に授業内容を変更してくれるとの事だ。

 ちなみにリックは騒ぎ過ぎた為、追い出されてしまった。

 セーラー服をじっくり見れなくて残念だったな。


「今日はみんなが大好きな『伝説の勇者アレフ』のお話を読みましょう。

 じゃあ、最初はミスティちゃんに読んでもらおうかしら」

「ふぇっ……え、えーっと」

「ごめん、先生。ミスティはこの国の文字を読めないんだ」


 ミスティが文字を読めない事を伝えると、子供たちがざわざわと騒ぎ出した。

 まずいな……このままだとミスティがハブられるかも知れない。


「ミスティ、ひらがなとカタカナなら読めるもん」

「なんなのじゃ、それは?」

「俺のカードに使われてる文字だ」

「ユーシャよ。なんでもいいから魔符(カード)をかすのじゃ」

「あっ、おい。気を付けろよ。それには呪いが━━」

「分かっておるのじゃ」

「えっと、このカードがフィールドから……に……られた━━」


 ロッテが俺のデッキケースからカードを一枚奪い取り、ミスティがそれを読み上げた。

「すげぇ! 古代文字を読めるのか!?」

「ミスティちゃん。ほかの魔符も読めるの?」


 これがきっかけでミスティは子供たちの人気者となった。

 その後、子供たちが順番でアレフのお話を朗読する。

 先日読んだ絵本と異なり、ポチの自己犠牲や魔王の正体が想い人だったりするシーンはカットされており、普通の英雄譚になっていた。

 これなら子供たちに人気なのも分からなくはない。


「今日はありがとうございました」

「いいえ。いつでも遊びに来て下さいね」

「みんな、ばいばーい。またねー」


 こうして、ミスティの初めての学校体験は終了した。

 久しぶりに充実した一日だったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ