第七十九話 「豊穣の女神エステル」
『マティアスが政権を取り戻してから十年後。
帝国時代の侵略戦争によりカトリアの植民地となっていた、ヴァルクス、ネフノス、プロセンが脱植民地化。
三国は統一され、北カトリア共和国として生まれ変わった。
北カトリアと言う名前からも伺えるが、脱植民地化しても、実質的にはカトリア王国の属国であったようだ。
共和国の初代大統領に選ばれたモーリッツ・リュートミュラーの手腕により、共和国は目覚ましい発展を遂げるり
国民からの支持も厚く優秀な人物であった。
独立から五年後。
共和国では二回目となる大統領選挙が行われた。
候補者は初代大統領モーリッツと、新人であるヴァルター・エルメンライヒの二人。
モーリッツの支持率は九割を超えており、続投は確実と思われた。
しかし、投票日前日に事件が起こる。
モーリッツは演説中に賊の襲撃を受けた。
賊は護衛の騎士によってその場で捕らえられたが、モーリッツは帰らぬ人となる。
候補者が一人になった事で、二代目の大統領にはヴァルターが就任する事となった。
ヴァルターはモーリッツとは正反対の思想を持つ男で、カトリア王国からの真の独立を掲げ、共和国は軍国主義の道を歩む事となる』
これさぁ……どう考えても暗殺だし、ヴァルターが犯人だよな。
昔の異世界人はアホばっかりなのか?
何か理由が……書いてないな。
『それから二年後。
逃亡生活を続けていたヴィクトール・カトリアが再び歴史上に姿を現す。
ヴィクトールは自分こそが真のカトリア国王であり、現国王マティアスは王家の血を継いでいない偽物であると弾圧した。
それから僅か半年で共和国はヴィクトールを皇帝とする帝政へと移行。
この時の議会での投票は満場一致であったと言う。
北カトリア共和国は北カトリア帝国へと名を変え、南カトリア王国へ宣戦布告。
魔符と符術士に関する情報と引き換えに、諸外国からの援助を得る事に成功した帝国は瞬く間に王国の土地を奪っていった。
これをきっかけに、カトリア地区でしか使われていなかった魔術が世界中に伝わる事になる。
しかし、現在に至るまで、外国に符術士が現れた事はない。
カトリア地区以外に符術士が現れない理由については、現在も専門家が研究を続けており、数々の仮説が提唱されている』
外国に符術士が現れた事はない……か。
なら、俺はどうなるんだ?
俺はカトリア生まれじゃないのに符術士になれたぞ。
外国じゃなく、異世界から来たからなのか?
『戦争は長引き、開戦から四十年後には国境線は現在とほぼ同じ位置まで南下していた。
このまま帝国がカトリアを統一するかと思われた。
しかし、両国を脅かす第三勢力が出現。
これに対抗する為、あっさりと休戦協定が結ばれる
この第三勢力に関しては資料が残っていない為、ハッキリとしていない。
魔王の復活、一人の符術士が英霊の力を使った等の伝承が各地に伝えられているが、これらはフィクションであると考えられている。
南北カトリア両国だけでなく、周辺諸国にも記録がない為、休戦の理由は現在も謎のままである』
随分と不明瞭な点が多いな。
六百五十年も前とは言え、意図的に情報を伏せられてるような気がする。
「あっ! ロッテちゃんだ!」
「ミスティ、こんにちはなのじゃ。
ユーシャよ、久しいな」
「ん? おう、学校は終わったのか?」
本を閉じ、ノックもせずに入ってきた金髪の少女に手を振る。
授業を終えたロッテが戻って来た。
この国の小学校の時間割は知らないが、読書をしている間に随分と時間が経っていたようだ。
「うむ。だからユーシャにリバーシしに来たのじゃ!」
「リベンジな。いや、朝の勝負は中断させられたから、それもちょっと違うか」
「二人はこんな所で何をしておったのじゃ?」
「ミスティはね、絵本みてたのー」
「おぉっ。でんせつのゆうしゃアレフではないか。
このお話はわらわも大好きなのじゃ」
「大好き……なんだ」
あの大人向けなお話が大好きとは変わってるな。
これが国民性の違いと言う奴か。
「それで、ユーシャは何をしておったのじゃ?」
「あぁ、俺は魔石の使い方を練習してたんだけど、どうにも上手く出来なくてさ。
それで息抜きに読書をしてた所だ」
「なんじゃ、ユーシャはそんな事もできぬのか。
マセキはセントーマジュツのキホンじゃぞ」
知らなかった。
魔石は戦闘魔術の基本だったのか。
待てよ。
ロッテがそれを知っていると言う事は……。
「良かったらコツを教えてくれないか?
いや、教えて下さい!
シャルロッテ先生!」
「何を言っておる?
わらわがマセキを使えるワケなかろう。
セントーマジュツは兵に任せておけば良いのじゃ」
「期待した俺がバカだった」
「そんな事より、わらわとショーブするのじゃ」
「そうだな。
退屈してたし、その勝負受けて立つぜ!
ミスティ、模擬戦闘の準備だ!」
「うん! ロッテちゃん、ミスティまけないよ!」
「望むところなのじゃ」
「模擬戦闘開始。英霊解放!」
「りべれーしょんなのじゃ!」
こうしてロッテとの再戦が始まった。
今朝は良い所で中断させらせたからな。
今度こそ、思う存分楽しむぜ!
◆◆◆◆
四ターン目後攻。ロッテのターン。
ダメージはお互いに五点。
「マナコストを②しはらい、大地の精霊イナバを召喚するのじゃ!」
「げっ! あのクソうさぎ、手札にもってやがったのか」
「ますたー、うさぎさんの悪口言っちゃダメだよ」
「ミスティ……お前どっちの味方なの?」
イナバは厄介なユニットなので、前のターンにサポーターで攻撃して倒したのだ。
だが、まさか手札にもう一枚持っていたとは……。
これならリーダーに攻撃しておけば良かったぜ。
だが、こう言う非公開領域の読み合いもカードゲームの醍醐味だ。
「RCを①しはらい、手札を一枚墓地へ送り、イナバの起動能力発動なのじゃ!
山札の上から五枚を見て……良い子がいたのじゃ」
何が来る?
ロッテはプレイングだけじゃなく、引きも強いからな。
下手をすればこのターンで勝敗が決する可能性がある。
警戒しなくては……。
「イナバの能力で、豊穣の女神エステルをリーダーエリアに召喚するのじゃ!」
「なっ! そのユニットは!?」
《豊穣の女神エステル》は《霊騎士ガイスト》と同じく、ブースターパック第十二弾に収録された最新のカードだ。
カトリアの言語に翻訳してプロキシを作ったっけな。
リックのイラストではパンツを穿いていない幼女になっているが、実物は美人のお姉さんだ。
ガイスト程ではないが、最新弾のSRに相応しい能力を持っている。
「RCを③しはらい、エステルの必殺技能力を発動するのじゃ!」
「来たな! 運ゲーのように思えて、その実、汎用性の高いインチキ能力が!」
「ユーシャにインチキ呼ばわりされるとは心外なのじゃ!」
「あっ……ごめん。それもそうだな」
俺も同じブースターパックに収録されているカードを使ってるのに、インチキは言い過ぎだった。
しかもシングルカードのレートはガイストの方が上だ。
反省しよう。
エステルの必殺技能力は、山札の上から十枚を確認し、その中からレベルの合計が3以下になるようにサポートエリアに召喚出来ると言うものだ。
レベル1を三体でも良いし、レベル3を一体でも良い。
状況に応じて必要なユニットを、ほぼ確実に召喚出来る優秀な能力だ。
手札からの召喚ではない為、マナコストは必要としない。
この状況でロッテが選ぶユニットは……。
「決めたのじゃ!
エステルの能力でサポートエリアに新緑の妖精コノハを三体召喚するのじゃ!」
「はぁっ!? どんな引きだよ!」
《新緑の妖精コノハ》はエステルの相棒だ。
つまり、ロッテはこのターンに三回の連携攻撃を仕掛けてくる事になる。
「わらわの勝ちなのじゃ!
リーダーに連携攻撃なのじゃ!」
「ちっ……」
ロッテの猛攻を受け、俺のダメージは七点になる。
あと一体倒されれば俺の負けだ。
「トドメなのじゃ! 連携攻撃なのじゃ!」
「ムラサキカガミを守護召喚!」
「むぅ……防がれたのじゃ。
ターンエンドなのじゃ」
「あっぶねぇ……俺のターン」
運良くムスターがリーダーになったから、手札のムラサキカガミを守護召喚する事が出来た。
これが他のユニットなら、あのまま負けていただろう。
首の皮一枚繋がったが、ムスターがリーダーのままでは勝つ事は出来ない。
「俺も切り札を使わせてもらうぜ。
マナコストを④支払い、霊騎士ガイストをリーダーエリアに召喚!
リーダーに攻撃!」
「あまいのじゃ!
わらわも守護召喚をするのじゃ!」
一撃目は防がれたか。
だが、ロッテのマナコストは残り①になった。
これでは守護天使も能力無効化も使えない。
俺はリーダーへ狙いを絞り、攻撃を繰り返す。
「三回目の攻撃が終了。
そしてガイストの必殺技能力を発動!」
こうして、いつもの必勝パターンで俺は勝利を収める。
このギリギリで勝利する感覚は何物にも変え難い。
最高の気分だ。
「す、すごいのじゃ!
最後のアレは何なのじゃ!?
あんなの初めて見たのじゃ!」
「あぁ、ガイストの必殺技能力は━━」
「おぉ、そうじゃ!
わらわは負けたから、ユーシャのドレイになるのじゃ!」
「いやいや……奴隷はなしって約束だろ」
お姫様を奴隷にしたとか噂が広まったら、命がいくつあっても足りない。
冗談でも勘弁してくれ。
「そうじゃった……では、ユーシャとセーリャクケッコンするのじゃ。
これならモンダイなかろう」
「だから、それ……意味分かってる?」
「よく分からんのじゃ!」
この後、エボルタに夕食を運び、魔導研究所での初仕事は終わる。
ほとんど休憩だったような気もするが、不思議と充実した一日だった。




