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第七十七話 「バーンデッキの謎」

「フフフフ……ハーハッハッハッハ。

 私とした事が外壁に耐魔術装甲を使うのを忘れていました。

 なるほど、こういう結果になりますか!」


 ジャスティスは半壊した第三演習場を見て大声で笑い出した。

 ヤバイ……なんだか怖い。


「す、すみません。ミスティ、あれ直せるか?」

「んー……ムリだよぉ」

「……だよな」


 今までミスティの回復魔法は時間を巻き戻していると思っていた。

 だが、最近はどうやら微妙に違うようだと考えるようになった。

 その理由は回復魔法の対象となるのは基本的に動物だけと言う点だ。

 つまり、今回のような無機物は直せないらしい。

 でも、俺の怪我を治すと衣類も一緒に修復される。

 ……やっぱり、よく分からない。


「どなたか、巻き込まれた人が居ないか、確認して来てくれませんか?」

「では、我が行きましょう」

「私も同行します」

「俺もだ!」

「ひ、ひいぃっ……」


 後ろで見学をしていた騎士と賢者たちが、我先にと瓦礫の山へと走って行く。

 いや……オッサンだけは、その場にうずくまって震えているな。


 しかし、まずい事になった。

 入社初日にして建造物破損……さらに過失傷害、もしくは過失致死まで加わる可能性がある。

 どう考えても人生積んだな。

 英雄から犯罪者に急転落だ。


「はぁ……俺たちも行くか」

「いえ、イズミさんは残って下さい」

「えっ?」

「あちらは彼らに任せておけば大丈夫でしょう」

「でも、俺のせいですし、怪我人が居たら……」

「気持ちは分かりますが、あなたには立場と言うものがあります。

 こういう時こそ、堂々として頂きたい」

「で、でも、あれ……」


 無茶苦茶な事を言う人だ。

 この状況で堂々としろと言われても無理です。

 正直、頭の中が混乱してます。


「あぁ、そうそう。壁の事なら大丈夫ですよ。

 あれは演習中の事故として処理します。

 怪我人が居たら回復魔術で治しましょう」

「回復魔術で治らない場合は……?」

「その時は……手遅れにならない事を祈りましょう」

「いぃっ!?」


 ジャスティスの脅し文句にドキドキしながら待つ事数分、瓦礫の山の調査に行った騎士たちが戻って来た。


「おかえりなさい。どうでした?」

「大丈夫だ。怪我人どころか、犬猫すら居なかったぜ」

「よ……良かった」


 その報告に俺は安堵した。

 あれだけの被害を出したのに怪我人は居ないようだ。

 建造物破損と言う大罪については、ジャスティスの権力に頼る事にしよう。


「しかし、あのような魔術は初めて見ました。

 魔石を使ったとは言え、あの威力は普通ではない。

 集団合唱魔術に匹敵すると思われますな」

「あの瓦礫の山ですが、近くで見ると砂のようでした。

 あれがつい先程まで壁であったとは思えません。

 この青年は一体何者ですか?」


 剣を使っていた方の騎士が、俺を指さして声を張り上げる。

 何者とか言われても返答に困るな。

 俺は何処にでも居る普通のカードゲーマーですよ。


「そうですね。あなた達には特別にお教えしましょう。

 こちらの方はユーヤ・イズミさん。

 最近、街で話題の英雄様です」

「は、はじめまして」

「なんと! あの呪われし雪風を倒したと言う!?」

「それならば、あのとてつもない魔術も納得だわい」


 ジャスティスが俺を紹介すると、騎士たちの目つきが変わった。

 先程まで鋭かった目が、今はキラキラしている。


「英雄様! サイン下さい!」

「えっ? サイン!?」

「紙と鉛筆ならありますよ」


 こっちでもそういう文化があるのか……。

 用意の良さに疑問を抱きつつ、ジャスティスから紙と鉛筆を受け取った。

 しかし、サインなんて書いた事がないぞ……漢字で名前を書けばいいか。


「おおっ! 何て書いてあるのか読めないけど、カッコいいぜ!」

「すごい! まるで古代文字のようだ!」

「わ、我にもサインを頂けないでしょうか?」

「はぁ……こんなので良ければ」

「ありがたい。帰ったら、孫に自慢出来るわい」


 その場に居た数名に『和泉裕也』と書いた紙を渡した。

 一々、漢字に対する反応が大袈裟な気もするが、外国人の反応と似たようなものだろう。

 外国の文字って、意味は分からなくてもカッコよく見えるからな。


「では、そろそろターゲットの確認に行きましょうか」


 サイン会が終わり、俺たちは仕事に戻る。

 事故に気を取られて忘れていたが、今回の目的は訳の分からない金属板を破壊する事だ。

 もっとも、あの爆発では確認の必要など無さそうに思えるが……。


 火の玉(ファイアボール)によって更地と化した演習場をゆっくりと歩く。

 これでも最強魔導ロボを倒した時に比べると幾分かマシだと言える。

 あの時はクレーターになってて、迂回するしかなかったからな。


「ん? 今、何か光ったような」

「どうやら、あそこのようですね」


 金属板はあっさりと見つかった。

 さすがに無傷とは言えないような状態であったが、外壁が吹き飛ぶ程の魔術を喰らっても形が残っていた事に驚きを隠せない。


「これはもう使い物になりませんね」

「いや、残ってるだけでも異常ですよ。

 何なんですか? それ」

「耐魔術装甲の試作品です。

 これが完成させて、最強の防具を作らなければならないのですよ」


 あー、思い出したぞ。

 半年前に少し揉めた酔っ払いの傭兵が着けていた鎧か。

 魔法カードが効かなくて少しビビったっけな。


「先生の魔術に耐えられるのなら、十分じゃないかのぉ?」

「いいえ。それを超える相手を想定して作らなければなりません。

 それに新たな課題が出来ました」

「課題?」

「はい。どれだけ耐久性能を上げても、あの魔術を喰らえば着用者は無事ではすまないでしょう」


 なるほど。頑丈な鎧だけ残っても、やられちゃったら無意味だな。

 甲冑にすれば全身を守れるが、それでも中の人は蒸し焼きにされるだろう。


「これでも十分に思えますけどね。

 皆さんの反応を見る限り、同じ威力を出すには集団合唱魔術ってやつじゃないと無理なんでしょ?」

「いいえ、まだまだです。

 上を目指すのに理由は必要ありません」


 おっ、少し良い事言ったな。

 上を目指すのに理由は要らない……か。

 強いデッキを完成させて大会で勝ち続けていても、新しいブースターパックが発売されたら更なる強さを求めて箱買いするのと同じだな。

 あー……パック剥きてぇ。


「英雄様」

「ん? あっ、俺の事か」

「英雄様があの魔術を放つ時、魔符(カード)のような物を使われたましたが」

「あぁ。これは【ウィザード アンド クリーチャーズ】のデッキだ。

 【フェアトラーク】、召喚戦闘に使うカードとは別だよ。

 試しに使ってみます?」

「しかし魔符には呪いが……」

「それなら大丈夫。

 これは触っても呪われないんだ。

 骨董品屋の婆さんが触っても平気だったよ」


 賢者と呼ばれていた爺さんにデッキを貸し出し、使い方を説明する。

 これはマリアに貸しても使えなかったのだが、軍に所属している魔術士なら簡単に使いこなすかも知れない。


「起動の詠唱はこうでしたな。インターネット!」

「違う! イントゥネイト!」

「むむむ……我には発音が難しいですぞ」


 皆が見守る中、十分近く挑戦を続けたが結果は失敗に終わった。

 起動に成功するとデッキがシャッフルされるのだが、それすら出来ないようだ。


「くっ……三年に一人の逸材と呼ばれた我に使えない魔法道具(マジックアイテム)が存在するとは」


 落ち込んでいる所に悪いけど、三年に一人って微妙にショボいよな。

 なんつーか、一発屋で三年後には消える芸人みたいな感じ。


「私も試してみて良いですか?」

「はい、どうぞ」


 次はジャスティスが挑戦する事になった。

 賢者の爺さんには無理だったが、この国で最強の符術士と呼ばれる彼ならば……。


「では参ります。イントゥネイト!」

「おおっ!」


 ジャスティスが詠唱するとデッキが宙に浮いた。

 やはりこれも符術士専用アイテムだったのか。

 あれ……? なら、マリアが使えなかったのは何故だろう?

 彼女が白属性のカードしか使えないのと同じような条件があるのだろうか。


「ダメですね」

「えっ?」

「使用感は魔符に似ていますが、激しい抵抗を感じました。

 まるで魔法道具(マジックアイテム)が意思を持っているような……」

「カードが……意思を持っている?」


 ミスティを始めとするのユニットたちが意思を持っているのは分かる。

 しかし、このデッキは《火の玉》や《波動砲》など、対戦相手に直接ダメージを与える魔法カードが中心だ。

 人型どころか生き物ですらない、これらが意思を持っていると言われてもピンと来ない。


「何か使い方にコツが有るのでしょうか?」

「いや、初めて触った日から普通に使ってますけど」

「何の苦労もなく感覚的に使えているのですか?」

「ええ、まぁ……」

「私はこの魔法道具(マジックアイテム)に符術士の新たな可能性を感じ取りました。 差し支えなければ、どこで手に入れたのか教えて頂けますか?」

「アグウェルの骨董品屋さんです」

「ミスティがみつけたんだよ」

「そうだったな。あの時はありがとうな」

「えへん。どういたしましてー」


 今では俺のメインウェポンとなっているこのデッキだが、ミスティが勧めてくれなかったら見向きもしなかっただろう。


「そのような場所に……。

 スケッチをとっても良ろしいでしょうか?」

「いいですよ」


 ジャスティスは紙を取り出し、カードの模写を始めた。

 もし、新たにウィザクリのカードが見つかれば、俺の戦闘のバリエーションが増える。 魔法カード以外が使えるのかは不明だが、少し期待したい。


「ありがとうございます。お返し致します」

「どうも」


 ジャスティスからデッキを返して貰った。

 これで実験はひと通り終わりかな。


「それでは皆さん。あの瓦礫の山の片付けを始めましょうか」

「うぇっ!?」

「マジですか!?」

「わ、わしは魔符より重い物は持った事がないぞ」


 ジャスティスから恐ろしい言葉が発せられた。

 でも、普通そう言う流れになるよな……。

 皆さん、俺のせいで重労働をさせる事になってごめんなさい。


「救援を呼びましたから大丈夫ですよ。

 ただし、イズミさんは休憩室に戻って下さい」

「いやいや、俺だけサボる訳にはいかないだろ」

「あなたには別の仕事があります。

 まずは魔石の使い方をマスターして頂かないといけません。

 後であなた専用の休憩室に運ばせますので、頑張って下さい。

 それから、あなたの為になる本を何冊か用意してますので、それも目を通しておいて下さいね」


 あの変な絵本を用意したのは、あなただったんですか!?

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