第六十六話 「ドラゴンvsロリコン」
「あの……何もしないから、頭を上げてくれないか?」
「本当に? あの痛い光の魔術とか使わない?」
「あの時は金に困ってたから、仕事を失わないように必死だったんだ。
怖い目に遭わせて悪かった」
俺に土下座しているオッサン。
彼はマリアとの召喚戦闘に負けた元盗賊の符術士だ。
「おや、お知り合いでしたか」
「ちょっとな。
でも、なんでオッサンがここに居るんだ?」
彼は犯罪者として牢獄に打ち込まれ、法の裁きを受けた筈だ。
「彼は罪を犯し収監されました。
半年間に及ぶ贖罪を終え、今は私の研究に協力して頂いてます。
前科があっても、贖罪を終え、心を入れ替えたのなら、過去を問わないのが我が国の方針です」
随分と先進国的な考えだな。
悪即斬よりは、よっぽど理解出来る。
「悪いけど、このオッサンじゃ相手にならない。
他の符術士は居ないのか?」
「素晴らしい自信だ。
英雄たる者、こうでなくてはなりません」
自信とか、そんなのじゃない。
このオッサンのデッキは構築バランスが破綻しているのだ。
五十枚中、四十枚以上がレベル3とレベル4のデッキでは、最初の数ターンの間、何も出来ないまま一方的にやられる事になる。
運良くレベル1のユニットを引いたとしても、サポーターを狙われたらリカバリーが出来ない。
運の要素が絡むとは言っても、俺がそんなデッキに負ける事はあり得ないのだ。
「強気に振る舞っているが、きっと負けるのが怖いんだ」
「怖気付いているのか?」
「やっぱり噂は嘘だったようですな」
オッサンとの対戦をゴネていると外野が騒ぎ出した。
ったく、面倒臭い。
「分かったよ。オッサンと対戦すれば良いんだろ。
ミスティ、デッキに戻れ」
「うん! ますたー、がんばろー!」
「あの……お手柔らかにお願いします」
「一応、聞いておくけど、観客の皆さんはルールは知ってるのか?」
「問題ありません。
召喚戦闘のルールは分からなくても、勝敗は分かります」
「なるほどね。了解した」
召喚戦闘を近くで見ていたラルフやリックも、ルールは知らなくても勝ち負けは把握していた。
なら、大丈夫か。
「オッサン。言っておくけど、俺はマリアより遥かに強いぜ」
「あの小娘……じゃない。
マリアさんより強いだと!?」
「ディートハルト。怯える必要は有りません。
全力で挑めば勝機はあります」
「所長がそう言うのでしたら……英霊解放!」
「模擬戦闘開始! 英霊解放!」
俺とオッサンのデッキが宙に浮き、自動的にシャッフルされる。
二人の間にある事務作業用っぽい机は、小さな戦場へと姿を変えた。
お互いに五枚のカードが手札として配られ、続いて最初のリーダーとなるユニットが戦場に召喚される。
俺のリーダーは黒き斧を構えた戦士、《魔斧使いアクスト》。
ダメージエリアの枚数に応じて、APが上昇する永続能力を持っている。
終盤の攻撃役としては優秀だが、序盤のリーダーとしては正直言って微妙だ。
対するオッサンのリーダーは全身を炎に包まれた巨大なドラゴン、《紅竜王フィアンマ》。
巨大と言っても、模擬戦闘の為、今は人形サイズになっている。
ねん○ろいど程の大きさだ。
ちなみにアクストはねん○ろいどぷち程の大きさになっている。
フィアンマの頭身が召喚戦闘で見た時よりも小さいな。
何かしら調整されるようになっているのだろうか?
あまりデカいヤツに卓上で暴れられても困るので、これはこれで良しとしよう。
「フハハハハハ。
わしのリーダーは紅竜王。
対して、小僧のリーダーはAP2000の雑魚。
どうやらこの勝負、わしに分があるようだな」
「態度がコロコロ変わるオッサンだな」
お互いのリーダーを確認したオッサンが、いきなり大声で笑い出した。
フィアンマがオッサンのエースユニットと見て間違いないだろう。
この様子からオッサンのデッキが、半年前と変わっていないと予測出来る。
あのデッキが相手なら、負けることはない。楽勝だ。
しかし、AP2000のアクストでは、三回の攻撃でフィアンマのHP10000を削り切る事は不可能。
相手のサポーターを潰しつつ、三ターン目に別のユニットをリーダーにするしかない。
序盤の展開を脳内でシミュレートしていると、俺の山札から手札とマナエリアに一枚ずつのカードが加えられた。
「俺の先行だな。
マナコストを①支払い、サポートエリアにハナコを召喚!
ターンエンドだ」
先行一ターン目は一回だけ攻撃することが出来る。
しかし、今回のように攻撃しても相手のユニットを倒せない場合、それは無意味な行動だ。
俺は後半に備えて、《霊騎士ガイスト》の相棒である《七不思議ハナコ》を召喚してターンを終了する。
「わしのターン! ドロー&マナチャージ!
小僧、わしに挑んだ事を後悔するがよい!
マナコストを①支払い、《竜の巫女ロジーナ》をサポートエリアに召喚!
続いて連携攻撃じゃ!」
オッサンのフィールドに白装束を纏ったリザードマンが召喚された。
オッサンの攻撃宣言により、ロジーナがアクストへと駆け出し、フィアンマの炎が白装束へ纏わりつく。
自らの身を炎の塊へと変えた、ロジーナの体当たりがアクストへと襲い掛かる。
フィアンマとロジーナの連携攻撃による合計APは10000。
それはアクストのHP8000を一撃で奪い去り、ダメージエリアへと送り出す。
「へぇ……こいつは驚いた」
「フハハハハハ。
わしの引きの強さに驚愕しておるな。
だが、わしの強さはこんなものではないぞ」
フィアンマとロジーナが、それぞれ四枚ずつデッキに入っていると仮定して、フィアンマが初期リーダーになる確率が八パーセント。
初期手札五枚に一ターン目に引ける一枚を合わせた、六枚中にロジーナを引ける確率が、およそ四十パーセント。
一ターン目にこの連携攻撃が出来る組み合わせは三パーセント強しかない。
中々に低い確率だが、カードゲームを長くプレイしていれば珍しくはない。
割とある、くらいの確率だ。
俺が驚いたのは、そこではない。
この状況で連携攻撃を仕掛けてきた事に驚いたのだ。
アクストを残しておけば、次のターンもノーダメージが確定している。
ここは攻撃せずに、中盤に備えて場を整えるのが正解だ。
にも関わらず、オッサンはアクストを撃退した。
これによって、俺に反撃の機会を与える事となる。
リーダーが倒された時、山札の一番上のカードが新たなリーダーとして自動的に召喚される。
現れたのは漆黒の鎧に身を包んだ、俺のエースユニット《霊騎士ガイスト》。
必殺技能力の使えない序盤に登場するのは少し勿体無いが、ハナコとの連携攻撃を考えると悪くはない。
「AP7000!?
しまっ……タ、ターンエンドじゃ」
「俺のターン! ドロー&マナチャージ!
マナコストを②支払い、《闇の魔女ミスティ》をサポートエリアに召喚!」
「こんにちはーっ。
ますたーのお嫁さん。ミスティだよー。
わぁっ! おっきいトカゲさん!」
レベル1のユニットを二体召喚するのが理想だが、手札になかった為、レベル2のミスティを召喚した。
彼女は初めて見るドラゴンに目を輝かせている。
色々とツッコミたい台詞ではあったが、無視してアタックフェイズに移行する事にした。
「ミスティ! サポーターに攻撃だ!」
「うん! ますたー!
いっけぇーっ! ダイフク!」
ミスティがうさぎのようなぬいぐるみをロジーナへ投げつけた。
白装束にぶつかったぬいぐるみは、あまり痛くなさそうな音を立て、反動でミスティの足元へと転がる。
ミスティの攻撃でHPのなくなったロジーナは、墓地へと送られた。
しかし、毎晩抱っこして寝るほど、大切にしているぬいぐるみを武器にするとは……。
もう少し物を大切に扱うよう教育が必要だな。
「続いて、ハナコとガイストで連携攻撃!」
女子小学生の声援で本気を出した漆黒の騎士が、巨大なドラゴンを一刀のもとに斬り伏せる。
「わ、わしの紅竜王が一撃で!?」
「おおっ! あれが!」
「なるほど。確かにロリコンですな」
それを見た外野が騒ぎ出す。
彼らに実力を見せるのが目的なので我慢するが、対戦中は静かにして欲しい。
しかも、ロリコンって聞こえたぞ?
「バーストトリガー発動!
ちびドラゴンちゃんの特殊登場時能力でガキ共を墓地へ送ってやろう!」
「ちっ……RCを①支払い、ミスティの自動能力を発動!」
余所見をしている間にオッサンのリーダーエリアに、二頭身のドラゴンが召喚されていた。
バーストトリガーの能力により、ハナコとミスティが墓地へと送られる。
だが、これは想定内だ。
俺がサポーターを先に攻撃したのも、バーストトリガーを警戒しての事。
そして、ミスティにはフィールドから墓地へ送られた時に、同名カードを山札から特殊召喚する能力がある。
誰も居なくなったサポートエリアに、山札から二人目のミスティが降り立った。
「ふぅー。ますたー、ただいま」
「おかえり。
早速だけど、頼むぜ。リーダーに攻撃!」
自動能力によって新たに特殊召喚されたミスティは、活動状態で召喚される。
今回のようにミスティが休息状態の時に能力を発動させると、攻撃回数が一回増えるのだ。
狙って発動させる事は出来ないが、上手く使えば戦況を大きく変える事が出来る。
「ひいっ……逆転された!?」
ミスティの支援を受けたガイストの攻撃で、オッサンのダメージは二点となった。
オッサンの山札から三体目のリーダーが召喚される。
それは最初に見たモノと同じ、全身を炎に包まれたドラゴンだった。
「またフィアンマかよ。
引きの強いオッサンだな。ターンエンド」
「わ、わしのターン。ドロー&マナチャージ。
こ、これは!
小僧。わしと相対した不運を呪うんだな」
「なんだ? 良いカードでも引いたのか?」
さっきまで凹んでいたオッサンが、また強気になった。
この状況でオッサンが引きたいカードと言えば、フィアンマと連携攻撃の出来るロジーナ辺りか?
「コストとて手札を一枚墓地へ送り、《紅竜皇ヘル・フィアンマ》をリーダーエリアに召喚じゃ!」
「なっ! まさかっ! 進化ユニット!?」
オッサンのフィールドに現れたのは、全身を炎に包まれ、両手に巨大な剣を構えたドラゴン。
頭上に表示されている数値は、自動能力でAP9000/HP13000となっている。
それは俺が異世界に飛ばされる日より、僅か半年前に収録された最近のカードだった。




