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第五十七話 「新規開拓」

 翌朝。

 いつもと変わらぬミスティのぬいぐるみ攻撃で目を覚ます。

 男女相部屋だったが、疲れていた事もあり、一言の会話もなく朝を迎えた。

 その後、着替えと食事を済ませ、リック一家に礼を述べる。

 後は報酬を貰ってアグウェルに帰るだけなのだが、洗濯に預けている服が乾いていない。

 服が乾くまで暫く待機だ。


「退屈そうだね。良かったら少し付き合ってよ」

「何だ? 昨夜みたいなのはゴメンだぞ」

「いやいや、僕が誘ってるのはコレに関してだよ」

「……っ!?」


 リックがチラッと見せたそれは、俺の良く知る物だった。

 昨日のゴタゴタですっかり失念していたが、俺にとって人生で何番目かに重要な物だ。


「マリアちゃんは朝風呂の用意が出来てるから楽しんできなよ」

「何よ? その露骨な人払い」

「泡のお風呂好きー! 行こ?」

「……まぁいいわ。

 せっかくだから、ミスティと一緒に行ってくる」

「行ってらっしゃい。

 じゃあ、僕たちも行こうか。こっちだよ」


 リックに連れられて屋敷のとある部屋へと入る。

 一言で言うと他に比べて地味な部屋だ。

 その地味な部屋の片隅に白い機械が設置されていた。

 初めて見る物なのに既視感がある。

 コンビニなどに設置されているアレにそっくりだ。


「なぁ、アレってもしかして……」

「察しがいいね。流石と言うべきかな」


 リックのこの反応からして間違いない。

 あの機械は俺の夢を叶えるのに役立つ……いや、必須と言えるものだ。


「あれで迷宮の依頼書を刷ったんだな?」

「御名答。あれは絵や文字を複製する魔法道具(マジックアイテム)だ。

 この町では我が家にしかない貴重品でもある。

 例の物は持っているかい?」

「勿論だ。デッキホルダーに入っている。

 お前から貰ったイラストもあるぞ」

「では計画の第二段階に取り掛かろうじゃないか。

 まず使い方を説明するよ」


 プロキシを量産して、こちらの世界に符術士以外のカードゲーマーを増やす。

 その為にはコピー機は欠かせない。

 リックの説明を聞く限りでは、使い方は日本のコピー機とほぼ同じだ。

 違うのは動力源が電気じゃなく魔力という点くらいだろう。

 リックの描いたイラストに俺の書いたテキストと能力値の欄を重ねて、コピー機にセットする。

 一度にコピー出来るのはカード九枚分と言った所か。

 大体A4サイズだな。

 同じモノを八枚ずつコピーして、二人分のデッキを完成させるのにそう時間は掛からなかった。

 不思議な事に紙を重ねてコピーしても段差の部分に影が出来ない。

 魔法道具(マジックアイテム)の自動補正機能らしい。

 予想以上に本物っぽい見た目のプロキシに思わずニヤけてしまう。


「これで完成?」

「あぁ。ルールを教えるから一戦やってみるか?」

「お願いするよ」

「まずはカードをシャッフル……無作為に並べ直すんだ。

 こうやって……あれ?」


 日本でいつもやってきたように、カードをシャッフルしようと思ったのだが上手く出来ない。

 その原因は紙の厚みにある。

 アジア版よりも薄い紙に印刷されたプロキシを、一般的な方法で無作為化(シャッフル)するのは困難だ。


「うーん……ヒンズーシャッフルは無理そうだな。

 仕方がない。別の方法を使うか。

 まずはカードをレベル……左上の数字の順に重ねてくれ。

 同じレベル帯の順番は適当で構わない」

「順番に並べる? 無作為化するんじゃなかったの?」

「ちょっとした小技だよ」

「ふむ……これでいい?」

「オッケーだ。

 次にそれを裏向きにして一枚ずつ、三つの山に分ける」

「こう?」

「十七枚、十六枚、十六枚の三つの山が出来たら、それをひとつに重ねる。

 そして今度は同じように七つの山に分けるんだ」

「キミの意図が良く分からないけど……」

「もうすぐ分かるからさ。

 八枚の山が一つに七枚の山が六つ出来たら、これをまた一つにするんだ。

 重ねる順番は適当でいい」

「……次は?」

「それで終わりだ。裏返して並びを見てくれ」

「これは!? 凄いよ! バラバラだ!

 同じ数字が並んでる所が全くない!」


 このように三つの山に分割(スリーカット)七つの山に分割(セブンカット)を組み合わせてディールシャッフルする事で、偏りなくカードの並びをバラせる。

 一般的とは言えないが、カードゲーマーの中では有名なシャッフル方法だ。

 この状態ならどこを取ってもバランスの良い初手になる。

 新しいデッキを構築した直後によくやっているシャッフル方法だ。

 この後でヒンズーシャッフルやカットをさせても、影響は少ないので公認大会ではイカサマ扱いされる事もある。

 そこそこグレーなテクニックと言えよう。

 尤も、七つの山に分割(セブンカット)三つの山に分割(スリーカット)の順番でディールシャッフルされると元の状態に戻るので、分かっている人が相手だと確実に詰むと言う弱点もある。


「よし、次はデッキを交換してカット……適当に幾つかの山に分けて並べ直す。

 それを相手に返したら準備完了だ」

「これは何の意味があるの?」

「最後に相手に並び替えをさせる事で、お互いに不正をしていない証明になる。

 正々堂々と戦いましょう、と言う意思表示だな」

「へぇー。意外と紳士的な競技なんだね」

「準備ができたら、お互いに山札の上から五枚を手札に加え、六枚目を伏せたままリーダーエリアにセットする」

「はーい、先生に質問があります!

 手札って何?」

「そこから説明するのかよ!

 てか、このパターン何度目だよ!」


 トランプすら存在しない世界だから仕方がない……と諦め混じりで基本的な用語から説明をする。

 今までカードゲームを一度もやった事のない相手に教える事は多い。

 しかし、リックも真剣に聞いてくれるので、教える側としても楽しかった。

 プロキシ用に多数のイラストを提供してくれるだけあって、元々興味があったのだろう。


「続いてリーダーに攻撃(アタック)

 サポーターに書かれている相棒の名称がリーダーと一致しているから、連携攻撃コンビネーションアタックになる」

「APは3000+7000で10000か。

 なら僕はマナコストを②支払い、手札からこの娘を守護召喚(ガーディアンコール)!」

「やるじゃないか。ターンエンドだ」

「じゃあ、僕のターン。

 まず活動状態(スタンド)にしてドロー。そしてマナチャージ。

 メインフェイズ。

 手札からパンツ穿いてない娘ちゃんをリーダーエリアに召喚(コール)!」

「そこはユニット名で呼んでやれよ!」

「えっと……豊穣の女神エステルちゃんを召喚(コール)

 これでいい?」

「そうそう……ってヤバっ!」

「アタックフェイズ。リーダーに連携攻撃」

「まだだ! 特殊登場時能力(エントリースペル)でヒールを……参りました」

「え? 僕の勝ち?」

「完敗だ。やるじゃないか」


 こうして異世界に新人カードゲーマーが生まれる。

 おそらく符術士以外では史上初だろう。


「英霊を()びだして戦わせているのかと思っていたけど、まさかこんな頭脳戦をしていたとは驚きだよ」

「どうだ? 面白いだろ?」


 テンションも上がってきた所で、カードゲームの魅力について熱く語ろうとしたが、ドアをノックする音に遮られる。

 振り向くと二人のメイドが部屋の入り口に立っていた。

 風呂に侵入してきたロリビッチメイド達だ。

 昨夜の出来事を思い出して、思わず緊張してしまう。


「若様、こちらにいらしたんですね」

「お客様もご一緒とは手間が省けますわ」

「どうしたんだい?」

「ご報告致します。

 エドヴァルト・ヴォルフが王都へと送られました」

「随分と早くないか?」

「夜中に王都まで使いの者を走らせたそうです」

「護衛には符術士が二人と騎士が一人……変わった装飾の施された馬車に乗せられて行ったそうです」

「ふむ……魔導研究所が動いたか。

 これでエドヴァルトに関しては安心できる」

「なんとか研究所?」

「主に符術士と魔符(カード)について研究している機関だよ。

 一応、軍の一部だけど良くは知らないや」

「何だそれ? すっげー楽しそうな職場だな!」


 毎日カードの研究をするとか天国じゃないか。

 日雇いに近い底辺冒険者なんかやめて、そこで働きたいぜ。


「ところで二人とも手は空いてるかな?」

「はい」

「なんなりとお申し付けください」

「では二人で召喚戦闘をやってみないか?」

「はい?」

「あの……私たちは符術士では有りませんので」

「大丈夫。こっち来て」


 こうして、リック先生によるルール説明会が始まった。

 こうやって少しずつ新規プレイヤーが増えれば、誰もが遊ぶ人気ゲームになる日もそう遠くはない。

 うん。良い流れだ。

 一通りルールを教わった後、二人で対戦を始める。


「二人とも飲み込みが早いな」

「知的遊戯も完璧に熟さなければメイドは務まりません」

「若様の描かれた美幼女たちが競い合う姿が見えますわ」

「本来は幼女だけじゃないんだけど……。

 てか美幼女って単語、初めて聞いたぞ」


 幼女が戦うゲームと思われてる事を除けば、中々の好感触だ。

 この数十分で三人もプレイヤーが増えた。

 この調子で対戦相手を増やせれば、充実したカードゲームライフが送れる日も近い。


「でも、少々刺激が足りませんわね」

「なら、こう言うのはいかがでしょう?

 ダメージが一枚増える度に、着ている衣類を一着脱ぐと言う追加ルールを━━」

「却下だ!」


 メイドの提案した不健全ルールを慌てて否定した。

 しかもこの淫乱メイド、既にニーソを片方だけ脱いでいやがる。

 そもそも、フェアトラークは子供から大人まで皆が楽しく遊べるカードゲームなんだ。

 それを脱衣TCGにするんじゃねーよ!


「ユーヤくん。僕はあと半年で兵役を終え、自立する事になる」

「何だよ? 急に」

「しかし僕は剣術は人並みだし、趣味で描いている絵も本職に出来る程ではない」

「俺にはどっちも十分過ぎる程、才能に満ち溢れているように思えるんだけど……」

「いやいや……そこで僕は商売を始めようと思うんだ。

 具体的に言うと、このペドロリータと言うゲームを国中に普及させたいと思っている」

「フェアトラークな!

 ペドでもロリでもないから!」

「ん? そうだっけ? 失礼。

 ともかく、それにはキミの協力が必要不可欠なんだ」

「今更、何言ってんだよ。

 対戦相手を増やすのは俺の夢なんだ。

 だから、この申し出は願ったり叶ったりだよ」

「そう言ってくれて助かるよ。

 ただし、これを今のまま普及させるには、他にもいくつか問題点があるんだ」

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