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第四十七話 「最強魔導ロボ ダイヒョーガ」

「バカな!? こんなモノ報告には……。

 走って! 迷宮の反対側まで突っ切るよ!」


 俺たちの背後に突如出現したスーパーロボット。

 リックの号令に従い、それから離れる為に俺たちは走り出す。

 ロボが一歩前進する度に地面が揺れて足を取られる。

 しかし、その動きは意外と遅い。

 転ばないように気を付ければ、逃げ切るのは難しくないだろう。


「何よ、あれ?

 冒険者ギルドよりも大きい野生動物(モンスター)なんて、聞いたことがないわ!」

「おとぎ話で聞いた事がある。

 魔力で動く土の人形……確か、ゴーレムってやつだ」


 突っ込んだところで、理解してくれそうにないのでスルーするが、惜しい。

 微妙に違う。


「あんなデカイの、隠れる場所なんて無いのに、何処から現れたんだよ」

「召喚されたんじゃない?

 符術士か……さっきの魔術師か」

「符術士はないと思うわ。

 召喚戦闘以外で召喚(コール)できるのは相棒(クンペル)だけよ」

「へぇ、そう言うものなんだ……何か来る!」

「ますたー、止まって!」


 ミスティ展開した闇の障壁が、立ち止まった俺たちを包み込む。

 何かが風を切る音に続いて、爆発音が鳴り響いた。

 辺りで火薬の臭いが充満する。


「マジかよ……ミサイル撃ってきやがった」

「まさか、魔術まで使えるなんて思わなかったわ」

「クソッ! 今の攻撃でかなり近付かれた!」


 ミサイルを凌ぐ事は出来たが、ロボとの距離は詰められていた。

 筋肉痛を我慢しながら、俺たちは再び走り出す。

 途中、リザードマンに不意打ちを仕掛けられたが、リックが一刀のもとに斬り捨てた。

 カッコ良すぎて、普段のロリコンとは別人かと疑ってしまうほどだ。


 移動速度はロボよりもこちらの方が僅かに速い。

 しかし、ミサイル攻撃を繰り返されたら、いずれ追い付かれるだろう。

 下手をすれば、防ぎきれずに直撃も有り得る。

 ……不味いな。


「白の契約者マリア・ヴィーゼの名のもとに。

 魔石に宿る精霊よ! 私の声に答えなさい! 魔力解放(ツァバーベフラウング)

 続いて、大地よ! 貫け! 地刺魔術(シュタッヘルボーデン)!」


 マリアが走りながら詠唱を始めた。

 彼女のはめている指輪のひとつが砕け散り、背後から揺れと轟音が伝わってくる。

 走りながら後ろを振り向くと、地面から突き出した数本の巨大な槍で造られた牢獄がロボを捕らえていた。

 胸の辺りまである長い槍に囲まれて、ロボの移動力は完全に失われている。

 直接ダメージを与える事は出来なかったようだが、この状況を打開するには十分だ。


「サンキュ! マリア」

「喋ってる暇があったら走りなさい!

 魔石を使っても、足止めしか出来ないような相手よ」


 マリアの言うとおりだ。

 召喚戦闘ならともかく、実戦ではこちらに勝ち目はない。

 マリアの足止めのお陰で、ロボとの距離は目算で二百メートルを超えた。

 このまま魔除けの効力が及ぶ場所まで逃げきれば、何とかなるはずだ。

 もしも迷宮の外まで追っかけてきたら……その時になって考えよう。


「ますたー、伏せて!」


 ミスティの声でその場に屈み込む。

 頭上を眩い光が包み込み、何かが崩れる大きな音がした。

 振り返ると、ロボの胸の六芒星が光を放ち、マリアの魔術で造り上げた牢は粉々に砕け散っていた。


「ミサイルの次はビームかよ……」


 生身の人間相手にミサイルだの、ビームだの、やりたい放題だ。

 とても正義のスーパーロボットとは思えない。


「だが、当たらなければ、どうという事はない!」

「そうとも言えないわ……やられたわね」

「え? それってどう言う……」


 先程の攻撃で誰か怪我でもしたのか?

 と辺りを見回した時、言葉の意味を理解する。

 いつの間にか、俺たちの周囲に瓦礫の山が築かれていた。

 先程のビームは俺たちを狙ったものではなく、周囲の建物を破壊する事が目的だったのだ。

 出口はロボの居る後ろ側のみ。

 瓦礫を乗り越える事は出来なくはないだろうが、確実に追い付かれるだろう。


「万事休すだね……」

「ロボの足の隙間を縫って逃げる……のは無理だよな。

 ミスティ、あと何発ミサイルを防げる?」

「んーとね、分かんない!」

「分かんない……か。いい答えだ」


 具体的な答えなど求めていなかった。

 ミスティにまだまだ余裕がある事が分かれば十分だ。


「何か案があるのかい?」

「正面から強行突破する!」

「それ、本気で言ってんの!?」

「面白いわね。協力するわ。

 リックは雑魚をお願い」


 スーパーロボットと人間では勝負になる筈もない。

 素手で巨大ロボを倒せるのは古武術の使い手だけだ。

 だが、相手はカードのユニット。

 そこに攻略の鍵はある……と思いたい。


「機械には高圧電流が効く筈だ!

 呪文詠唱 稲妻(ライトニング)!」

「白の契約者マリア・ヴィーゼの名のもとに━━」


 俺とマリアによる攻撃が立て続けにロボを襲う。

 続いて、ミサイルによる反撃をミスティが無効化する。

 幾度となく攻防が繰り返され、徐々に俺たちとの距離が詰められて行く。


「効いてないのかしら?」

「わかんねぇ……でも、やるしかないだろ!」


 俺の手札は残り二枚。

 マリアの魔石も半分にまで減っていた。

 そろそろトドメを刺さないと不味い。


「ジャッジメントブレード!」


 ロボが右腕を天に掲げ、叫び声をあげた。

 一瞬、空が光り輝き、そこから刃渡り十メートルほどの巨大な剣が地上へと舞い降りる。

 ロボはその剣を両手でしっかりと握り、やや斜め上に構えた。

 アニメで昔から使い古された、必殺技のポーズである。

 こうして現実に目の当たりにしてもカッコイイ……などと見惚れている暇はない。

 狙われているのは俺たちなのだから……。


「ミスティ! あの剣を出来るだけ押さえ込んでくれ!」

「うん! ミスティがんばる!」

「ファイナル━━」


 ロボが剣を頭上に掲げ、必殺技の名前を口にする。

 しかし、ミスティの重力操作がその後の動きを封じた。

 ファイナルなんとかを使われたら俺たちは終わりだ。

 何としてでも食い止める!


「呪文詠唱 波動砲!」


 俺の右手から放たれた最大威力の波動砲が、ロボの握る剣ジャッジメントブレードに直撃する。

 だが、威力が足りない……このままでは押し負ける!


「ファイナル……ジャ━━」

「させるかよっ!」

「白の契約者マリア・ヴィーゼの名のもとに。 魔力解放(ツァバーベフラウング)!」


 俺の隣でマリアが魔石を使用する。

 詠唱を終えた時、波動砲は辺り一面を覆い尽くす程に大きさを増し、ロボを完全にその中に包み込んだ。

 反動で思わず尻餅をついてしまう。


「ますたー、大丈夫?」

「あぁ、何が起こったんだ?」

「魔石であなたの魔術の威力を上げてみたの」

「そんな事も出来るのか?」


 魔石がウィザクリの魔法カードにも対応しているとは予想外だ。

 これなら、どんな敵が相手でも勝てそうな気がする。

 問題は俺が魔石を使えない事と、魔石が高額なうえに使い捨てである事だ。


 やがて、波動砲の衝撃により発生した砂埃がおさまり、辺りの様子がはっきりとしてくる。

 そこには瓦礫のソファにもたれ掛かるスーパーロボットの姿があった。

 先程まで俺たちを狙っていた巨大な剣はない。

 剣を握っていたはずの右腕も、肘から先が消滅していた。


「すごいね……あれを倒しちゃうなんて」

「いえ、まだよ」


 そう……まだ終わってはいない。

 この迷宮の野生動物(モンスター)は倒されると霧となって消滅する。

 通常と異なり、死体が残ることはない。

 つまりそれは、このロボがまだ行動可能である事を示している。

 その証拠にロボは左腕をゆっくりと上げ、拳をこちらへと向けた。


「来るわよ!

 あなた、火の魔術が使えたわよね?

 それを唱えなさい!」

火の玉(ファイアボール)か?

 今は無理だ。手札にない」

「何よそれ、使えないわね!」

「仕方がないだろ……少し待てば補充されるけど、火の玉を引けるとは限らないし」


 俺の手札は一枚。

 しかも攻撃能力のない《突風》のカード。

 折角のチャンスだが、これでは動きようがない。


「仕方がないわね。

 私が時間を稼ぐから、その間に火の玉のカードを引きなさい!」

「え? ……はい」

「白の契約者マリア・ヴィーゼの名のもとに。魔力解放(ツァバーベフラウング)

 炎よ! 舞え! 火柱魔術(フェルドタンツェン)!」


 マリアの魔術により、地面から噴き出した巨大な炎の柱が、片腕で立ち上がれないロボを襲う。

 続いて火柱の中で小さな爆発が巻き起こる。

 ミサイルにでも引火したのだろう。


「すげぇ……このまま倒せるんじゃないか?」

「手応えはあるみたいだけど……ダメね。

 それよりカードは引けたの?」

「待ってくれ。そろそろ……」


 爆発が収まり、火柱の中からロボの左腕が突き出される。

 俺の左手に新たな手札が補充された。

 この手札の内容が勝敗を分ける。

 奴が攻撃を仕掛けてくる前に先手を打ちたい。


「一応聞いておくけど、波動砲や稲妻じゃダメか?」

「私の手を見なさい。

 残ってる魔石は火属性の物だけよ」

「なるほど……なら、俺の運命力に感謝しろよ!

 呪文詠唱 火の玉(ファイアボール)!」

「さすがよ、ユーヤ!

 私が見込んだだけの事はあるわ!

 白の契約者マリア・ヴィーゼの名のもとに。 魔力解放(ツァバーベフラウング)!」


 火柱から突き出たロボの左腕がこちらへ向かって発射される。

 ロケットパンチ━━巨大ロボの定番とも言える必殺技のひとつ。

 だが、遅い!

 俺の放った火の玉は、マリアの補助により巨大化。

 それは例えるなら、小さな太陽。

 それと比べれば、ロケットパンチなど、ビー玉程度の玩具でしかない。

 太陽はロボをその身に包み込み、迷宮に大きなクレーターを作り消滅した。


「やったぞ、マリア! 俺たちの勝ちだ!」

「え? ちょっ、どこ触ってるのよ!」


 歓喜のあまり、思わずマリアに抱きつく。

 すぐに突き飛ばされて、地面に仰向けになった。

 何故だか清々しい。


「アグウェルで最強の符術士が組んだのよ。

 勝つのは当たり前でしょ」

「ますたー、えっちなのはダメだよ」

「そんなんじゃねーよ。

 ミスティもありがとな。

 帰ったらプリンを奢ってやろう」

「ほんと? ますたー大好き!」


 プリンに反応したミスティが俺に抱きついてくる。

 おいおい、えっちなのはダメじゃなかったのかよ?


「まさか、あれを倒しちゃうとはね。

 こりゃ、上に報告する内容が増えたかな……。

 あと、ユーヤくん。爆発しろ!」


 マリアとの協力で強敵は倒した。

 後は雑魚を片付けて、お宝(カード)を持ち帰ればミッションコンプリートだ。

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