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第三十六話 「亀裂」

「あっ! ユーヤお兄ちゃんにミスティちゃん」

「お、おう」

「こんにちは!」


 俺たちに気付いたニコが声を掛けてきたが、隣の着ぐるみが気になって曖昧な返答をしてしまう。

 ニコは気にしていないようだが、ハッキリ言って、めちゃくちゃ怪しい。

 エボルタの件もあるので、無意識に警戒を強めてしまう。


「見て見て! お兄ちゃんが買ってくれたんだよ!」

「そ、そうか。良かったな」


 いや、大っきなで済まされるレベルじゃないだろ。

 どう見てもニコより一回り以上大きいよ。

 それに着ぐるみの癖に腰に剣を携えているし……あっ!


「……何やってんの?」


 着ぐるみの中の人を察して、声を掛けてみる。

 ニコと一緒に居て、剣を携えているとなれば、候補者は一人しか居ない。


「いや……俺は……」

「ハンスだろ?」

「俺はハンスではない。

 俺はニコを護る騎士! ニャンスだ! ……でニャンス」

「……取り敢えず、続きは寮で話そうか」


 町中で着ぐるみと会話をして仲間と思われるのも嫌なので、少し距離を取りつつ、一旦帰宅する事にした。



 ◆◆◆◆



 寮に戻った俺たちは、それぞれの自室には戻らず、話をする為に食堂に集まる。

 提案したのはもちろん俺だ。


「ただいま」

「おかえり……って、何よそれ!?」

「あら、かわいいネコちゃんですね」

「いいでしょー、お兄ちゃんが買ってくれたの」

「それ……ハンスよね?」

「俺の名はニャンス!

 ニコを護る騎士でニャンス!」

「それ、もういーから」


 ニコが誕生日プレゼントを自慢し、そのプレゼントが自己紹介をする。

 いちいち突っ込むのも面倒くさい。

 ハンスは基本無口なくせに、ニコが絡むと時々暴走する所がある。

 流石にぬいぐるみを買うと言って、着ぐるみを買ってくるとは思わなかったが……。


「ごめんなさい。寮はペット禁止なの」

「俺はペットじゃな……ゴフッ」


 アリスの放った拳をまともに受け、ニャンスは意識を失う。

 キレイにみぞおちに入ったな。

 何故だろう? 見ていて清々しい。

 意識を失ったニャンスは、アリスに担がれて外へと姿を消した。


「あっ、お兄……」

「完全に病気ね」

「しかし、ぬいぐるみを買うはずが、どうしてああなった?」

「それはね、こうすればボクと同じ部屋に住めるからって……」


 なるほど、ハンスとニコが同じ部屋には住むのは禁止したが、ニコがぬいぐるみと同棲するのは問題ない。


「……って、んな訳ねーだろ」

「バカなの?」

「この際だからハッキリさせよう」


 正直、ハンスの奇行は目に余る。

 最初の頃は異世界だし、あれが普通なのだろうと納得しようとしていた。

 しかし、一緒に薪拾いに行った辺りから、何かが俺の頭の隅に引っかかっていた。

 彼は冒険者としてそこそこ腕は立つし、あの歳で妹の面倒を見ている点は評価出来る。

 だが、やり方が少々強引なのだ。

 自分の利益の為なら、他人の感情を考慮しない節がある。

 酷い時はミスを俺に擦り付ける事もあったし、それを反省する素振りも見せない。

 そんな付き合いを続ける内に、俺の中での彼の評価は底辺にまで下降していた。


「ニコはハンスの事をどう思ってる?」

「お兄ちゃんは好きだよ。

 ボク物心ついた頃にはお母さんは居なかったし、お父さんが亡くなってからは、お兄ちゃんが育ててくれたようなものだし」

「そう言う理屈じゃなくて、お前の本心が聞きたいんだ。

 一緒に風呂とか、俺から見るとどう見てもおかしいんだが、お前はどう思ってるんだ?」

「う……ん。ちょっと迷惑……かな。

 身体を洗ってくれる時、胸とか股とかばかり念入りに洗うし……」

「ちょっと、何よそれ!?

 どうして今まで相談してくれなかったの!?」

「だって、お兄ちゃんだし……」

「そんなの関係ないわよ!

 嫌なんでしょ?」


 やべ……予想以上にブラックな返答が出てきた。

 珍しくマリアがマジギレしている。

 ハンスの行き過ぎたシスコン行為を、ニコが嫌がっているんじゃないかと危惧したのは確かだが、まさか性犯罪レベルの話に飛躍するとは……。


「あの……話振っといて何だけど、席を外そうか?

 ほら、男が居ると話し辛いだろうし」

「いいえ、これは私達全員の問題よ。

 アリスとハンスを連れ戻してくるわ。

 ……でも、ミスティは席を外した方がいいわね」


 確かにミスティには、まだ早すぎる内容だな。

 カードに戻……ってはくれないだろうから、俺の部屋にでも行ってもらうか。


「ミスティ、俺たちは大事な話があるから、お部屋でお絵描きでもしててくれ」

「ん、わかった。

 はやく帰ってきてね」


 ミスティが食堂を出ていくのを見届けてから、マリアが続いて外に出る。

 さて……修羅場の始まりだ。



 ◆◆◆◆



 マリアとアリスがハンスを連れて戻ってきた。

 ネコの頭部は被っていないが、首から下は着ぐるみのままだ。

 中途半端な格好のまま、被告人は椅子へと座らせられ、その隣の席ににマリア、向かい側の席にアリスが座った。

 マリアの反対側には俺とニコが座っている。

 アリスが裁判官で、マリアが検察官だな。

 あれ? 俺の位置、弁護側じゃね?

 こんなクズを弁護する気は全くないんだけどな。


「さて、ハンス。

 何故ここに連れて来られたか、分かるかしら?」

「……ニコのバースデーパーティーか?」

「そう……あなたにはこれがパーティーに見えるのね」


 流石だ……こんな状況でも全く空気が読めていない。

 マリアの顔が引きつるのが見えた。

 あんな表情は見た事がないぞ。

 くわばら、くわばら……。


「一応、訊いてあげるけど、あなたがニコちゃんに何をしたのか、分かってる?」

「誕生日プレゼントを買ってあげた。

 ニコは喜んでいたぞ」

「へぇ……本気でそう思ってるのね。

 着ぐるみに紛れて、ニコちゃんの部屋に侵入して、性欲の履け口にしたいだけの癖に!?」

「何の事だ?」

「マリアさん、落ち着いて」


 今にも殴り掛かりそうな勢いのマリアをアリスが制する。

 それにしてもハンスのやつ自覚ないのかよ。

 ニコが嫌がっている事を伝えて、妹断ちされなければならないな。


「十二歳以下の子は保護者と一緒に生活してもらう。

 これはこの寮の規則です。

 両親の居ない兄弟姉妹で、年長者が保護者代わりを務めるのも認められています。

 しかし、この様な事は私が寮長になってから初めてです。

 私の認識不足も原因でしょう」

「アリスは悪くないわ。

 悪いのはこのド変態よ!」


 お、変態からド変態にクラスチェンジした。

 これは中々に不名誉な事だぞ。

 俺やリックでも変態止まりだったからな。


「マリアさん」

「分かったわよ……続けて」

「ニコちゃん。

 あなたはハンスくんがお風呂やベッドで求めてくる行為が嫌だった。

 けれど、今までの恩があるから、それを嫌だと誰にも言えなかった。

 あってますか?」

「え……えと、十三歳になるまでだし、その……」

「何を言ってるんだ?

 兄妹なら普通の求愛行為だろ?」

「普通じゃねーよ!」

「普通じゃないわよ!」

「普通じゃありません!」


 ハンスの天然発言に三人が同時にツッコミを入れる。

 そもそも求愛行為って何だよ。

 血縁者相手にそんな事しねーから。


「とにかく、ニコちゃんの為にも、ハンスくんの為にも、このままにしておく訳には行きません。

 ニコちゃんには別室に移って貰った上で、あなたには五日間の自室謹慎を命じます」

「は? ふざけてるのか?」

「ふざけてなど居ません!

 これは寮長命令です」


 アリスから下された命令。

 それはニコを守ると同時に、ハンスの頭を冷やし正常な関係に戻す為の措置だろう。

 しかし、当人は不服そうだ。


「っ! ……そうか、分かったぞ。

 イズミの陰謀だな。

 知ってるんだぞ。

 お前が最近ニコを誑かしているのを」

「何で俺のせいになるんだよっ!」


 確かに最近はニコと共同作業を行う時間が増えた。

 それはプロキシを作成するにあたって、彼女が善意で手伝ってくれているのであり、決して俺が誑かしている訳ではない。


「ハンス、ミスティがあなたの事を無視してるのに気付いてる?」

「ミスティちゃんが来てから五ヶ月になりますが、私もハンスくんと彼女が会話をしているのを一度も見た事がありませんね」


 言われて見れば、俺も見た事がない。

 食事などで近くに居る機会は少なくないのだが、ミスティにとってのハンスは、まるで存在しないかのような扱いを受けている。

 もっとも、ミスティがハンスを避ける理由には心当たりがある。

 第一印象が最悪だったからな。


「良い機会なのでハッキリと言うわ。

 ハンス、あなた嫌われてるわよ」

「嫌われている? 意味が分からない」

「そう? 少なくとも、私はあなたが嫌いよ」


 今日のマリアさんマジこえー……。

 ストレートに嫌い宣言したよ。


「私はね、寮生のみんなに仲良くして頂きたいと思っています。

 けれど、それが難しいという事も理解しているつもりです」

「何で俺ばかり……部屋に籠もっていれば良いんだろ!」

「ちょっと、話はまだ終わってないわよ!」


 声を荒らげるマリアを無視して、ハンスは食堂を出ていった。

 反省している様子は微塵も感じられない。

 叩かれるのが嫌だから去ったように見えた。


「ごめんなさい。ボクのせいで……。

 ほら、お兄ちゃんって、いつも自分が絶対に正しいって考えてるから……」

「だから、ニコちゃんは悪くないのよ」

「悪かったな。

 ここまで大事に発展するとは思ってなかったんだ。

 えと、こんな状況で渡す物じゃないかも知れないけどさ、誕生日プレゼントだ」


 気まずい雰囲気を少しでも和らげようと、商店街で買ってきた紙包をニコに渡す。

 俺から紙包を受け取って中身を確認したニコは、顔を真っ赤にして俺から目をそらした。


「えと……こ、これは……」

「最近、発売された魔法道具(マジックアイテム)、寄せて上げるブラだ。

 それを付ければ、誰でも谷間が作れると評判の品らしいぞ」

「最っ低……デリカシーの欠片もないわね」

「言っとくけど、マリアみたいなAAカップには効果がないそうだ」

「悪かったわね!」

「ありがとう。

 ボク、これで魅力的な女性になって、カッコいいボーイフレンドつくるよ」


 これはシンディの助言で買った物で、そこまで深い考えがあって渡した訳ではない。

 けれど、ニコに彼氏が出来ればハンスも諦めるだろう。

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