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第三十五話 「謎の依頼書」

 古代迷宮内での野生動物(モンスター)の討伐依頼。

 それは俺とマリアが半年間探し続けても、見つける事ができなかった古代迷宮への入場券。

 しかも報酬は迷宮内の魔法道具(マジックアイテム)と書かれている。

 マリアはカードの事を古代迷宮で発見される魔法道具(マジックアイテム)と言っていた。

 と言う事は、この依頼を達成すれば新しいカードが手に入り、デッキの強化が出来るはずだ。

 この世界でのカードの価値を考えると、随分と太っ腹な報酬だが、それほど切羽詰まった状況なのか……。

 それとも、報酬としてカードを回収される可能性を、全く考慮していないのかも知れない。

 基本的に符術士以外は触れる事すら叶わないからな。

 だが、一つ問題がある。

 これがギルドを通した正式な依頼書ではなく、エボルタが気まぐれでくれたビラでしかない事だ。

 言っちゃあ何だが、あいつはマトモじゃない。

 初対面の俺に命を賭けた召喚戦闘を挑んでくるような奴を、信じていいものか……。

 いっそ、このビラを今すぐ破いて捨ててしまいたい衝動に駆られるが、マリアとの約束が俺を踏み止ませる。

 新たなカードを手に入れる為、古代迷宮に入れる機会が有れば、マリアと一緒に行く。

 これは俺が符術士になったばかりの頃、彼女と初めて模擬戦闘を行った日からの夢である。

 何も宛のない状態が半年近くも続いていたが、意外な所からもたらされた貴重な機会を、俺の独断で棒に振っていいものか……。


「ますたー、元気ない?

 もう、怖いおじちゃんいないから大丈夫だよ」

「え? ……ごめん。

 ちょっと考え事してた」


 ビラを見つめながら思いを馳せる俺を、ミスティの声が現実へと引き戻す。

 一人で悩んでいても仕方がないな。

 俺はビラを八つに折ってローブの内ポケットへと仕舞った。

 この件は一旦保留にしよう。

 かと言って、仕事を探す気にもなれない。

 エボルタとのやり取りで精神的に疲れてしまったようだ。

 気分転換に昼食でも摂って、ニコの誕生日プレゼントでも買いに行くか。



 ◆◆◆◆



「おや、今日はお早いですニャ。

 ご注文はいつものやつでよろしいですかニャ?」


 一階で暫くぼーっと過ごした後、俺たちは三階の食堂へとやって来た。

 一番の目的は食事だが、今日はそれ以外にも用がある。


「いつもので。

 それと、少し話し相手になってくれないか?

 どうせ暇なんだろ?」

「構いませんが、私の指名料はお高いですニャ」

「金取んのかよっ!」

「冗談ですニャ。

 借金背負ってるイズミさんに、チップを要求するほど、私は鬼では有りませんニャ」

「そりゃ、お気遣いどーも」

「まずはご注文の品をお持ちしますので、暫しお待ち下さいですニャ」


 ネコミミの店員は、注文を伝えにカウンターの奥へと去っていった。

 どうでもいいけど、借金を背負っていない人が相手なら、チップを要求するのだろうか?


「お待たせ致しました。

 いつものやつですニャ」

「おっ、早いな」


 シンディがいつものメニューを運んで来る。

 俺にはカツサンドと紅茶、ミスティにはプリンだ。

 正確にはウリブーサンドなど、現地での名称があるのだが、見た目も味もほとんど一緒なので割愛する。

 ちゃっかり、自分の分の紅茶も用意してある所が彼女らしい。

 それにしても今日は料理が運ばれてくるのが早いな。

 まだ一分くらいしか経ってないぞ。

 いつからここはマク○ナルドになったんだろう?


「ふふん。今朝イズミさんが二階を訪れた時から準備してたのニャ」

「なるほど、気が利いてるな」

「どういたしましてニャ」

「やったぁ! プリンッ! いただきまーす!」


 ちなみにプリンは、数ヶ月前からこの食堂に追加された新メニューだ。

 ミスティがあまりにも欲しがるので、俺がダメ元でお願いしてみたところ、一週間後には試作品が出てきた。

 作り方などは伝えていないのにも関わらず、その試作品は俺の知るプリンそのものだった。

 ここのシェフは侮れない。

 ただし、お値段は少々高めだ。

 プリン一個分の代金で、俺のカツサンドと紅茶が二人前は食べられる。


「それで、私にどんな御用ですかニャ?

 あ、一応言っておきますが、私は貧乏人には興味がないので、ナンパなら諦めて下さいニャ」

「いや、そんなんじゃないから。

 てか、借金返済したらナンパしてもいいの?」

「いやあ、例えイズミさんが大金持ちになられても、私の趣味では有りませんニャ。

 その……顔とかが」

「悪かったな」


 俺たちの向かいの席に座ったシンディが要件を訊いてくる……のは良いのだが、いきなり立てる気もないフラグを折られた。

 まぁ、仮にそう言う雰囲気になったとしても、俺がシンディを口説く事はないだろう。

 彼女は顔は悪くないし、スタイルも良いのだが、色々と軽そうな雰囲気が足を引っ張っている。

 友達としては良いけど、恋人には程遠いタイプだな。

 そして何より、語尾が気に食わない。


「まふはーはミフティのほのなの!」

「ミスティ、ちゃんと飲み込んでから喋りなさい」


 プリンを食べていたミスティが俺の左腕に抱きついてくる。

 てか、咀嚼されたプリンが俺の服に向かって、毒霧攻撃の如く降り注いだのだが……洗濯したばかりなのに勘弁してくれ。


「相変わらず仲がよろしいですニャ」

「本題に移っていいか?」

「お話し相手でしたニャ。

 では、話題作りに私のスリーサイズなど、上から八十八……」

「それは先日も聞いた。

 俺が訊きたいのはギルドの事なんだが」

「ほう。私に分かることならお答えしましょう」


 今まで考えもしなかった事だが、今朝のエボルタとの出会いで、ギルドに対して幾つか気になる事が出来た。

 一階の真面目そうな職員が相手だと答えてくれそうもないので、このギルドで一番口が軽そうなネコミミ娘を指名したのだ。


「一階にある仕事の依頼書だけどさ、あれで全部なのか?」

「どう言う意味ですかニャ?」

「例えば古代迷宮の調査とか、俺はもう何ヶ月もここの依頼書に目を通しているけど、その手の依頼は一度も見た事がない」

「そりゃ、そうでしょうニャ。

 古代迷宮の調査なんて、私も就職してから一度も見た事がありませんからニャ」

「そうなのか?

 本当は依頼を受けたけど、ギルドの判断で拒否したとかは有り得ないのか?」

「一部、危険な仕事は表に出さないと聞いた事はありますニャ。

 ギルドにとって冒険者は大切な商売道具ですからニャ。

 人員が減る事はなるべく避けたいのですニャ」

「俺たちは商売道具かよ」

「申し訳ありませんニャ。

 そう言うつもりでは……」

「いいよ、気にしてない」


 言葉は悪いが、ブラック派遣業者にとって派遣社員が商売道具と言うのは間違ってないか。

 ともあれ、これでエボルタのくれたビラが、本物である可能性が少し高まったと思う。

 古代迷宮で未知の野生動物(モンスター)の討伐だなんて、いかにも危険そうな内容だ。

 冒険者を守る為、ギルドが依頼を断っていてもおかしくはない。


「話は変わるけどさ」

「何ですかニャ?」

「賞金首って居るだろ。

 依頼書の巻末に十数人くらい載ってるやつ」

「そう言えば、そんなモノも有りましたニャ」

「仮にその賞金首が、ギルドを襲撃して来たらどうする?」

「全力で逃げます!」


 即答された。

 だが、考えるまでもなく普通の反応だ。

 俺だって命懸けの召喚戦闘を挑まれた時は逃げたかったからな。

 小一時間程前まで、すぐ下に大物が居たのだが、知らぬは仏と言うやつだろう。


「そりゃ、シンディはそれでいいだろうけど、もしもの時にギルドで何とか出来るのか気になってさ」

「おかしな質問ですニャ。

 一階に居る先輩達は、そこらの冒険者よりも腕が立ちますので、多少は対処出来るかと思いますが……」

「凶悪な符術士が襲って来たら?」

「相手が符術士だと話は別ですニャ。

 我々では歯が立ちませんので、イズミさんやマリアさんにお願いする事になりますニャ」

「やっぱ、そうなるか」

「しかし、どうしてそんな疑問を持たれたのですかニャ?」


 シンディにエボルタの事を伝えて良いものか?

 伝えれば要らぬ不安を煽る事になるだろう。

 だからと言って、伝えなければ、万が一ギルドが襲われた時に対応出来ない可能性がある。

 ……伝えておくべきだな。


「実は今朝、会ったんだ。符術士の賞金首に。

 明日まではこの町に滞在するらしいから、気をつけた方がいい」

「またまた御冗談を。

 賞金首ってだけでも珍しいのに、更に符術士とか有り得ないニャ」

「ますたーは嘘ついてないよ。

 ミスティも会ったもん。

 んとね、こーんな顔のおじちゃん」


 ミスティは両手の親指と人差し指で輪っかを作り、自分の目の周りを囲む。

 おそらく仮面を表現しているのだろうが、俺にはメガネザルの真似っ子にしか見えなかった。


「はいはい、分かりましたニャ。

 一応、上にも伝えておきましょう」


 シンディはそう言って、紅茶を飲み干した後、席を立とうとする。

 あれは完全に信じていないな。


「それでは、そろそろ忙しくなる時間なのでお暇致しますニャ」

「あっ、最後にひとつだけ」

「何ですかニャ?」

「ニコに誕生日プレゼントを買いたいんだけどさ。

 ぬいぐるみはハンスが買うらしいからそれ以外で、安くて良い物ないかな?」

「何だ、そんな事ですかニャ。

 でしたら、あの位の年頃の女の子に良い物がありますニャ」



 ◆◆◆◆



 昼食を終えた俺たちは、シンディに勧められたプレゼントを購入する為に、商店街の衣服屋へとやって来た。

 ちなみにエボルタの件は諦めて、俺も彼の存在を忘れる事にした。

 警戒を促しても、信じてもらえない物を気にしても仕方がない。

 それにあの様子だと、再び俺に絡んでくる事はないだろう。


「お待たせ。じゃあ帰るか」

「うん。ねぇ、ますたー。これカワイイ」

「また今度な」

「はーい」


 ニコへの誕生日プレゼントを購入した後、アクセサリーに興味を示すミスティを宥めて店を出る。


 寮に向かって帰っている途中で、二組のネコミミが視界に映った。

 この町でネコミミをファッションに取り入れているのは二人しかいない。

 あの白いネコミミはニコだ。

 なら、もう一方はシンディ……ではないな。

 彼女は仕事中のはずだ。

 ニコと一緒に歩いているネコミミは何だ?

 近づくに連れ、正体がハッキリとしてくる。


 は? 何だあれ!?


 その姿を確認した俺は言葉を失う。

 ニコと一緒に歩いているのは、身長百八十センチ程のネコの着ぐるみだった。

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